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二、三日前から増えだした気の早い蜻蛉の群れが、いっせいに空へ飛び立った。夕暮れ時を迎えた山々を彩る夏虫の声も随分と弱々しくなった。秋がもう手を伸ばせば届くところにまで近づいている。
もてなしの宴と挨拶を終えれば、あとはその場に居続ける義理もない。早々に城を抜け出た沙紀を、次郎――元春は追いかけてきた。最近はいつもこの辺りに出没していたとはいえ、さほど土地勘はないはずなのに、沙紀が誰も知らないような裏道を使っても、臆することなく着いてくる。山道を抜け、街道に降り立った瞬間に腕を掴まれ、先に回って行く手を遮られた。
「沙紀殿、待ってくれ、話を聞いてくれ」
「……さぞ、楽しかったでしょうね」
「沙紀殿……?」
どうして気がつかなかったのだろう。どこか近隣の武将の家の子息だとは思っていたが、まさか毛利の息子とは露も思っていなかった。熊谷の家族構成を知っていたことも、毛利の家の内情に詳しかったのも、彼が毛利家の次男ならば何の不思議もなかったというのに。
「何も知らない女をからかって、それほどおもしろかったですか!」
父親に天下の醜女との縁談を押し付けられて、お忍びでその顔を眺めにやって来たのか。何も知らずに縁談相手に縁組の相談をする沙紀を見て、腹の底ではさぞかし笑っていたに違いない。
「違う!正体を明かさなかったことは謝る。だから俺の話を聞いてくれ!」
大柄な沙紀と元春の身の丈は同じくらい、だが振り解こうにも、男の力で掴まれた二の腕はびくともしない。掴まれていない左手が何度かむなしく空を掴んで、しまいには全身が男の腕に捕らわれた。
跳ね除けたいのに、跳ね除けられない。荒い息遣いが、耳ではなく肌を通じて伝わってくる。
「俺が熊谷の姫を妻に欲しいと思ったのは、醜女の噂を聞いたからではない」
「……」
「親父に熊谷の姫は醜いと評判だが、それでもよいのかと問われて、真偽の程を確かめに来たのは事実だ。だが俺は誓って、それでそなたの父上に恩を売ろうなどと考えたことはない」
彼は彼なりに余裕を失くしているのか、声音からいつもの快活さが消えてしまっている。ほんの少し冷静さを取り戻し、沙紀は男に向き直った。
「ならば、なぜ……?」
醜女と評判の娘を娶ろうと思ったのは、その風評故ではないと若者は言った。会って見て、気性が気に入ったなどという答を望むほど己惚れてはいない。この男も言っていたではないか。熊谷の姫を欲しいと父に告げたのは、実際に沙紀と会う前のことだと。
「俺は……」
若者が何かを答えようとした寸前、かすかに頭上の木が揺れた。どこか非常に近いところで、何かがうごめく気配がある。まだ状況を把握しきれていない沙紀を背後に、元春は腰の刀を抜いた。
現れたのは、それぞれに馬を引き連れた、どこかの家人と思われる男の集団だった。ここはまだ熊谷の領内だが、熊谷の手のものではないし、沙紀の父の配下である香川や三須のものでもない。元春の険しい眼差しから察するに、毛利の縁の者でもないようだ。
「――毛利少輔次郎元春殿とお見受けする」
「……吉川の手のものか」
低く呻くような問いかけに、集団で最も年嵩の男が進み出た。落ち着いた身のこなし、よく通る声、彼らが本当に吉川の手のものであるのなら、城内でも重んじられ、家令と呼ばれるに近い立場にあるに違いない。
「さよう。毛利に逃げ帰ったのならば、そのままそこで大人しくしておられればよいものを。熊谷と結ぼうなどと考えるから、お命を失うことになる」
「従兄殿もなりふり構わなくなったものだな。ならず者に襲わせたり、荒縄を切るだけでは飽き足りず、とうとう家人を差し向けてきたか」
以前元春が、着物の下に浅からぬ傷を隠していた訳をようやく知る。この男は、養子に行った先の家の人間に命を狙われていたのか。
「吉川の家督は、吉川の家の者継ぐのが道理。他家の者の干渉を受けはしない――」
「その考えには全面的に賛成なんだがな。願わくば、俺ではなく親父に言ってくれ」
取り囲んだ距離を一歩狭めて、男達がいっせいに刀を引き抜く。元春は刀を構えたまま、沙紀の身体を背後の茂みに押しやった。
「……沙紀殿は城に知らせを。道はわかるな?」
この辺りは沙紀にとっては庭のようなもので、余所者に気取られず、城に戻る自信はあった。だが吉川も熊谷同様、武勇で知られた家だ。この男達が本当に吉川の者ならば、皆、それなりの――否、かなりの腕前だろう。いかに元春が使い手でも、たった一人でこれだけの数の相手は荷が重いはずだ。
案の定、一人目を斬り、二人目を倒したところで形勢が変わった。三人目の男の刀が若者の腕をはらい、赤い飛沫が周囲に飛び散る。隙を狙って斬りかかった四人目の刀はかろうじて振り払ったが、その時には五人目の男がかざした刃が、既に元春の頭上近くにあった。
下界の異変を察知したのか、鴉の群れが山の木を飛び立つ。ほんの少し意識を削がれた五人目の男の頭上に、沙紀は鞘のままの大刀を振り下ろした。
「沙紀殿?」
何かが潰れる鈍い音がして、男の一人が足許に倒れる。頭の骨が潰れただろうか。それならそれでも構わない。ここは熊谷の領内だ。
まさか元春に援軍があるとは思わなかったのだろう。倒れ付した男を見て、吉川の手勢がほんの少し包囲を緩める。とはいえ、助太刀が沙紀一人であると知れば、すぐにでも挑みかかってくるはずだ。不意打ちが効くのはここまで。そんなことは、戦場に出たことのない沙紀でもわかる。
背中ごしに感じる元春の体温が熱い。先ほどの傷は痛むのだろうか。それほど深手には見えなかったが、飛び散った血の量は少なくなかった。
「どうして……」
ささやき声で問いかけられる。懐から取り出した布切れで腕の傷を縛りながら、若者は血が滲むほど強く、唇をかみ締めていた。
「元春様?」
「……どうして戻ってきたりしたんだ。城に戻れと言ったろう」
「城には戻ります。でもそこに、貴方がいなければ意味がない……!」
切れ長の瞳がまたたいた。身体は正面に、首だけをひねって、まるで今、はじめてそこに彼女がいることに気づいたかのように沙紀を見る。
「必ず城に戻りましょう。わたしと貴方様の二人で」
しばしまじまじと沙紀を見つめて、元春はほんのわずかに笑った。目の縁を緩ませて、沙紀の耳元に唇を寄せる。
「……連中を、あの小道に誘い込む。わかるな」
「――はい」
視線の先には、先程二人が追いつ追われずしながら通ってきた山道がある。
少数で多人数の相手をしなければならない場合の常套手段の一つに、相手を狭いところに誘い込んで、多勢の利をそいでしまうというものがある。あの小道は二人並んでは進めない。一対一の戦いに持ち込んでしまえば勝機はあるし、うまく山中に誘い込めば地の利は確実にこちらにある。
かちりと鍔が鳴る。唇をかみ締めたまま、元春は敢えて小道とは逆の方角に斬りかかった。駆け出した元春の後を追って、包囲が崩れ去る。その隙をついて、沙紀は山道に飛び込もうとした。
「なるほど、これが噂の熊谷の姫か」
飛び込もうとした、目的の場所の数歩手前で脚が止まる。沙紀の行く手を遮った年長の男は既に刀を抜いていた。
吉川の家督は吉川の家のものに。確かに、この男はそう言った。気持ちはわかるが、元春とて自ら望んで吉川の家に入ったわけではない。
「天下の醜女とは聞いていたが……これは確かに醜いな」
「――沙紀殿!」
名を呼ぶ声に、沙紀は思わず背後を振り返った。刺客を討ち払った若者がこちらに駆けて来る光景が見える。常に前だけを見ているようでいて、人間の視界は案外と広い。この時、沙紀は確かに、駆けて来る元春と、そこに挑みかかる吉川の手勢と、自分に向かって振り下ろされる刃の切っ先とを同時に見ていた。
視界がぐるりと反転し、気づいた時には、背中が地面に、顔はまっすぐ上を向いていた。瞼の裏まで赤くなったかのような、毒々しい色合いの空。血の空の彼方を、鴉の群れが飛んで行く。
身体の上に何かが覆いかぶさっていて重たい。若者の片腕は沙紀の肩を抱いていて、刀を握っていたはずの利き腕は、地面に力なく投げ出されていた。
「元春……様?」
目の高さまで持ち上げた掌が、生臭いものでべっとりと濡れている。広い背中がみるみるうちに赤く染まる。闇雲に押さえつけた沙紀の指と指の合間から、赤いものが留まることなく溢れ続けた。
「醜女をかばって彼岸に行かれるか。これも他家の家督をかすめとろうとした報いだ」
大量の血を撒き散らして、動くことのできない若者に向け、非情な声が振って来る。今この場で、とどめを刺すつもりなのか。淡々と何の感情も感じられない眼差しに、沙紀は声を張り上げた。
「――やめて!どうしてそこまでしなくちゃならないの!」
刃を振り下ろそうとした、その手が何かに弾かれた。腕を押さえた男が背後に飛びすさる。木の幹に突き刺さった鏑矢の先が、ぐらりと揺れた。
街道の上手から馬の嘶く声がする。弓を射たのは馬上の男、堂々の体躯、いかつい風貌に、低く、それでいてよく通る声が、今のこの場では他のどんなものより心強い。
「――沙紀、元春殿、無事か!」
「父様!」
父の信直と熊谷の手勢達だった。
もてなしの宴と挨拶を終えれば、あとはその場に居続ける義理もない。早々に城を抜け出た沙紀を、次郎――元春は追いかけてきた。最近はいつもこの辺りに出没していたとはいえ、さほど土地勘はないはずなのに、沙紀が誰も知らないような裏道を使っても、臆することなく着いてくる。山道を抜け、街道に降り立った瞬間に腕を掴まれ、先に回って行く手を遮られた。
「沙紀殿、待ってくれ、話を聞いてくれ」
「……さぞ、楽しかったでしょうね」
「沙紀殿……?」
どうして気がつかなかったのだろう。どこか近隣の武将の家の子息だとは思っていたが、まさか毛利の息子とは露も思っていなかった。熊谷の家族構成を知っていたことも、毛利の家の内情に詳しかったのも、彼が毛利家の次男ならば何の不思議もなかったというのに。
「何も知らない女をからかって、それほどおもしろかったですか!」
父親に天下の醜女との縁談を押し付けられて、お忍びでその顔を眺めにやって来たのか。何も知らずに縁談相手に縁組の相談をする沙紀を見て、腹の底ではさぞかし笑っていたに違いない。
「違う!正体を明かさなかったことは謝る。だから俺の話を聞いてくれ!」
大柄な沙紀と元春の身の丈は同じくらい、だが振り解こうにも、男の力で掴まれた二の腕はびくともしない。掴まれていない左手が何度かむなしく空を掴んで、しまいには全身が男の腕に捕らわれた。
跳ね除けたいのに、跳ね除けられない。荒い息遣いが、耳ではなく肌を通じて伝わってくる。
「俺が熊谷の姫を妻に欲しいと思ったのは、醜女の噂を聞いたからではない」
「……」
「親父に熊谷の姫は醜いと評判だが、それでもよいのかと問われて、真偽の程を確かめに来たのは事実だ。だが俺は誓って、それでそなたの父上に恩を売ろうなどと考えたことはない」
彼は彼なりに余裕を失くしているのか、声音からいつもの快活さが消えてしまっている。ほんの少し冷静さを取り戻し、沙紀は男に向き直った。
「ならば、なぜ……?」
醜女と評判の娘を娶ろうと思ったのは、その風評故ではないと若者は言った。会って見て、気性が気に入ったなどという答を望むほど己惚れてはいない。この男も言っていたではないか。熊谷の姫を欲しいと父に告げたのは、実際に沙紀と会う前のことだと。
「俺は……」
若者が何かを答えようとした寸前、かすかに頭上の木が揺れた。どこか非常に近いところで、何かがうごめく気配がある。まだ状況を把握しきれていない沙紀を背後に、元春は腰の刀を抜いた。
現れたのは、それぞれに馬を引き連れた、どこかの家人と思われる男の集団だった。ここはまだ熊谷の領内だが、熊谷の手のものではないし、沙紀の父の配下である香川や三須のものでもない。元春の険しい眼差しから察するに、毛利の縁の者でもないようだ。
「――毛利少輔次郎元春殿とお見受けする」
「……吉川の手のものか」
低く呻くような問いかけに、集団で最も年嵩の男が進み出た。落ち着いた身のこなし、よく通る声、彼らが本当に吉川の手のものであるのなら、城内でも重んじられ、家令と呼ばれるに近い立場にあるに違いない。
「さよう。毛利に逃げ帰ったのならば、そのままそこで大人しくしておられればよいものを。熊谷と結ぼうなどと考えるから、お命を失うことになる」
「従兄殿もなりふり構わなくなったものだな。ならず者に襲わせたり、荒縄を切るだけでは飽き足りず、とうとう家人を差し向けてきたか」
以前元春が、着物の下に浅からぬ傷を隠していた訳をようやく知る。この男は、養子に行った先の家の人間に命を狙われていたのか。
「吉川の家督は、吉川の家の者継ぐのが道理。他家の者の干渉を受けはしない――」
「その考えには全面的に賛成なんだがな。願わくば、俺ではなく親父に言ってくれ」
取り囲んだ距離を一歩狭めて、男達がいっせいに刀を引き抜く。元春は刀を構えたまま、沙紀の身体を背後の茂みに押しやった。
「……沙紀殿は城に知らせを。道はわかるな?」
この辺りは沙紀にとっては庭のようなもので、余所者に気取られず、城に戻る自信はあった。だが吉川も熊谷同様、武勇で知られた家だ。この男達が本当に吉川の者ならば、皆、それなりの――否、かなりの腕前だろう。いかに元春が使い手でも、たった一人でこれだけの数の相手は荷が重いはずだ。
案の定、一人目を斬り、二人目を倒したところで形勢が変わった。三人目の男の刀が若者の腕をはらい、赤い飛沫が周囲に飛び散る。隙を狙って斬りかかった四人目の刀はかろうじて振り払ったが、その時には五人目の男がかざした刃が、既に元春の頭上近くにあった。
下界の異変を察知したのか、鴉の群れが山の木を飛び立つ。ほんの少し意識を削がれた五人目の男の頭上に、沙紀は鞘のままの大刀を振り下ろした。
「沙紀殿?」
何かが潰れる鈍い音がして、男の一人が足許に倒れる。頭の骨が潰れただろうか。それならそれでも構わない。ここは熊谷の領内だ。
まさか元春に援軍があるとは思わなかったのだろう。倒れ付した男を見て、吉川の手勢がほんの少し包囲を緩める。とはいえ、助太刀が沙紀一人であると知れば、すぐにでも挑みかかってくるはずだ。不意打ちが効くのはここまで。そんなことは、戦場に出たことのない沙紀でもわかる。
背中ごしに感じる元春の体温が熱い。先ほどの傷は痛むのだろうか。それほど深手には見えなかったが、飛び散った血の量は少なくなかった。
「どうして……」
ささやき声で問いかけられる。懐から取り出した布切れで腕の傷を縛りながら、若者は血が滲むほど強く、唇をかみ締めていた。
「元春様?」
「……どうして戻ってきたりしたんだ。城に戻れと言ったろう」
「城には戻ります。でもそこに、貴方がいなければ意味がない……!」
切れ長の瞳がまたたいた。身体は正面に、首だけをひねって、まるで今、はじめてそこに彼女がいることに気づいたかのように沙紀を見る。
「必ず城に戻りましょう。わたしと貴方様の二人で」
しばしまじまじと沙紀を見つめて、元春はほんのわずかに笑った。目の縁を緩ませて、沙紀の耳元に唇を寄せる。
「……連中を、あの小道に誘い込む。わかるな」
「――はい」
視線の先には、先程二人が追いつ追われずしながら通ってきた山道がある。
少数で多人数の相手をしなければならない場合の常套手段の一つに、相手を狭いところに誘い込んで、多勢の利をそいでしまうというものがある。あの小道は二人並んでは進めない。一対一の戦いに持ち込んでしまえば勝機はあるし、うまく山中に誘い込めば地の利は確実にこちらにある。
かちりと鍔が鳴る。唇をかみ締めたまま、元春は敢えて小道とは逆の方角に斬りかかった。駆け出した元春の後を追って、包囲が崩れ去る。その隙をついて、沙紀は山道に飛び込もうとした。
「なるほど、これが噂の熊谷の姫か」
飛び込もうとした、目的の場所の数歩手前で脚が止まる。沙紀の行く手を遮った年長の男は既に刀を抜いていた。
吉川の家督は吉川の家のものに。確かに、この男はそう言った。気持ちはわかるが、元春とて自ら望んで吉川の家に入ったわけではない。
「天下の醜女とは聞いていたが……これは確かに醜いな」
「――沙紀殿!」
名を呼ぶ声に、沙紀は思わず背後を振り返った。刺客を討ち払った若者がこちらに駆けて来る光景が見える。常に前だけを見ているようでいて、人間の視界は案外と広い。この時、沙紀は確かに、駆けて来る元春と、そこに挑みかかる吉川の手勢と、自分に向かって振り下ろされる刃の切っ先とを同時に見ていた。
視界がぐるりと反転し、気づいた時には、背中が地面に、顔はまっすぐ上を向いていた。瞼の裏まで赤くなったかのような、毒々しい色合いの空。血の空の彼方を、鴉の群れが飛んで行く。
身体の上に何かが覆いかぶさっていて重たい。若者の片腕は沙紀の肩を抱いていて、刀を握っていたはずの利き腕は、地面に力なく投げ出されていた。
「元春……様?」
目の高さまで持ち上げた掌が、生臭いものでべっとりと濡れている。広い背中がみるみるうちに赤く染まる。闇雲に押さえつけた沙紀の指と指の合間から、赤いものが留まることなく溢れ続けた。
「醜女をかばって彼岸に行かれるか。これも他家の家督をかすめとろうとした報いだ」
大量の血を撒き散らして、動くことのできない若者に向け、非情な声が振って来る。今この場で、とどめを刺すつもりなのか。淡々と何の感情も感じられない眼差しに、沙紀は声を張り上げた。
「――やめて!どうしてそこまでしなくちゃならないの!」
刃を振り下ろそうとした、その手が何かに弾かれた。腕を押さえた男が背後に飛びすさる。木の幹に突き刺さった鏑矢の先が、ぐらりと揺れた。
街道の上手から馬の嘶く声がする。弓を射たのは馬上の男、堂々の体躯、いかつい風貌に、低く、それでいてよく通る声が、今のこの場では他のどんなものより心強い。
「――沙紀、元春殿、無事か!」
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