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本来なら通るだけだったはずの水谷の街に二日も滞在し、その前の加賀谷では妓楼の部屋を借りるのに余分に金を使ってしまっているので、路銀はもう本当にぎりぎりしか残っていなかった。
もう一晩宿を借りる余裕はない。それに到着予定が大分遅れているので里の父もさぞかし心配しているだろう。雅勝が街外れの農家にかけあって、離れの小屋を借りてくれたので、一晩ここで過ごして夜明けと同時に街を発つことになった。
建物自体は板張りの粗末なものではあるものの小屋の中は綺麗に片付いていて、板の間に古びた行李が積んである。他に古びた箪笥や土間には農機具があるので、どうやら使っていない家財をしまっている小屋らしい。畳は敷いていないが農家の主人が莚と夜具を貸してくれたので、野宿するよりははるかにましだろう。
「悪かったな。随分、余計な時間を使わせた」
刀を外した雅勝が板の間の上がり口に腰を下ろしたので、るいもまた彼の隣に座った。小屋の入口から見える空は茜色で、暮れなずむ空の向こうに烏の群れが飛んでいるのが見える。
「おい、お前がそんな顔をするな。せっかく来たのだから、家に寄ってみたいと言い出したのは俺だ」
「でも!」
正直に言うなら後悔している。武家長屋で消息がわからなかった時点で、意地を張らずにこの街を発てばよかったのだ。るいがあそこで意地を張っていなければ、今頃には二人とも水谷にはいなかった。
いくら世間知らずだといっても、この世に知らない方がよい現実があることくらいは理解ができる。そして多分この現実は、きっと知らないままでいた方が、まだしも心穏やかにいられた。
「さすがに、今津屋というのは想像もしていなかったからな。一応、平和に暮らしているかどうかだけでも確認しておきたかったんだ。……正直、途中で二人とももう死んでいるのかと思ったからな。幸せなようでよかったよ」
当の本人が当然のようにそう言うので、一瞬、ちっともよくないと思ってしまうこちらの思考がおかしいのかと考えて、思わず首を振る。
――よいはずない。こんな現実を「よいこと」にしていいはずがない。
もうずっと、うっかり口を開くと涙が零れてしまいそうで、ほとんど何も言うことができなかった。彼の言うそんな顔とはどんな顔だろう。かろうじて堪えてはいるけれど、自分でもきっと、今にも泣き出しそうな顔をしているのだと思う。
るいが何も言わないので、雅勝の言葉は、ただ、薄暗い小屋の中をちらちらと舞っている埃と一緒に宙に浮いた。目に見えないはずの言の葉の断片が、浮力を失くし、床の上に舞い降りては消えて行く光景が、幻のように瞳の奥に浮かび上がった。
やがてすべての断片が消えてしまって、ぽっかりと空いた空白に向けて、男がぽつりと呟いた。
「ただ……知らなかった」
「……」
「俺はもう、本当はとうの昔に死んでいたんだな」
格段、悲愴でもなければ悲痛でもない。ただ本当はそこになかったものをこれまであると信じていたことに、今ようやく気が付いたという口調だった。
るいは以前、彼と話をした時に、生きる為に子ども売る、そんな選択肢が存在するこの世の仕組みそのものが哀しいと感じたことを、今も明確に覚えている。今もその思いに変わりはない。ただ、あれから少し時間がたって、もう少しだけ色々なことを知って、今、そのすべてをこの男が是として受け入れてしまっていることが、どうしようもないくらいに哀しい。
受け入れなくていい。受け入れる必要なんてない。受け入れるな、そんなものは。誰でもいい。どんな言葉でもいい。これまで、彼にそう伝えてやる人間はいなかったのか。
ふと血の匂いを感じて、隣り合って座った男の右手が、腱が浮き、震えるほどに握りしめられていることに気が付いた。あまりに強く握り過ぎた所為で爪が手の平に食い込んで、血がにじんでしまっている。るいの目にはその中で握りつぶされた何かが、血を流してもがき苦しんでいるかのように見えた。
るいの視線をたどってはじめて、自分の手が震えていることに気づいたらしい。雅勝は握ったままの右手の拳を、解くのでなく左手で隠そうとした。彼が隠してしまうより先に、るいは両手で、きつく握りこめられた拳を包み込んだ。必死で伸ばした手の下に、男の小刻みな震えを感じ、滲んだ血の熱がるいの手にも伝わってきた。
彼が隠そうとしたものをるいが先に覆い隠してしまったので、雅勝の左手は、行き場をなくして宙に浮いた。浮いた手がそのままるいの頬に伸びる。そっと引き寄せられて瞼を押伏せた時、互いの吐息が重なった。めまいの発作に由来する、いつかのような偶然の事故ではない。明確な意思を持った行為をるいもまた己の意思で受け止めた。
「……今度は、ぶたないんだな」
唇が離れた時、間近の男の目は綺麗に澄んでいた。目にかかる髪をかき分ける指の感触が優しい。だけどこの目は、その奥にあるものを誰かに気取られることのないよう、もしかすると彼自身にさえもわからぬよう、必死の思いで凍らせてきた氷室の中にあるのかもしれなかった。
どれくらいそうして暗い目の底を覗き込んでいただろう。雅勝が外した刀に手を伸ばして立ち上がろうとしたので、るいは思わず彼の腕にしがみついた。改めてこちらを見た男の表情は、水谷の甘味やで見た時と同じくらい優しかった。
「雅勝殿?」
「俺は外にいるから、何かあったら呼んでくれ」
「え?」
「明日は早いからな。さっさと休んだ方がいい。いくらなんでもまずいだろう。――ここで一緒に休むのは」
もちろんここまで過ごしてきた数日間、宿の部屋は別々だったし、これまでにも常に雅勝はるいから慎重に一定の距離を置いていたように思う。そう考えれば、先ほどの接触行為など、彼の振る舞いとしてはほとんど異常だ。
油はもちろん蝋燭もないので、こんな時は日が暮れると同時に寝てしまうに限る。今は日が昇るのが早いので、眠って目が覚めて別れて、多分、それで何もなかったことになる。――この人は、今日この街であったことのすべてを何もなかったことにしようとしている。
思わずしがみついた手に力をこめる。なかったことにしたければすればいい。それであなたが生きていけるというのならば、構いはしない。だけど今、暮れて行く闇の中に、この男を一人で取り残すのだけは嫌だ。
「るい、離してくれ」
「……」
「離せって言ってるだろうが!」
荒げた声が、悲鳴に聞こえた。
雅勝がるいに向けて怒鳴り声を上げるなど、これまで一度もなかったことだ。やはり本当は見た目ほど平静ではないのだと、るいはこの瞬間、改めて悟った。何しろ、この人は今、自分がどれほどおかしなことを言っているのかさえわかってないのだから。――本気で振り払ったなら、力でかなうはずもないのに。
「……悪い」
声を荒げたことをバツが悪そうに謝って、雅勝はるいの手に自分の手を重ねて引き剥がそうとした。その手は乾いて荒れていて、爪の中が血まみれだった。節くれだった長い指がるいの指に絡んだ瞬間、男の表情が変わった。具体的にどこがどう変わったのかわからないけれど、彼の中の何かが確かに変わったのだということが、気配で感じられた。
「雅勝殿……?」
さきほど離せとわめいた手を、逆に掴んで引き寄せられた。彼の懐に身体ごと引き込まれる一瞬、視界の隅にかすめた横顔が、ひどく歪んでいたように見えた。気の所為かもしれない。るいがそう思いたかったから、そう見えただけかもしれない。
あまりにも強い力で抱きしめられて、体の奥で骨が鳴る。すべてを受け入れようと広い背に腕をまわして目を閉じて――その後のことは、覚えていない。
もう一晩宿を借りる余裕はない。それに到着予定が大分遅れているので里の父もさぞかし心配しているだろう。雅勝が街外れの農家にかけあって、離れの小屋を借りてくれたので、一晩ここで過ごして夜明けと同時に街を発つことになった。
建物自体は板張りの粗末なものではあるものの小屋の中は綺麗に片付いていて、板の間に古びた行李が積んである。他に古びた箪笥や土間には農機具があるので、どうやら使っていない家財をしまっている小屋らしい。畳は敷いていないが農家の主人が莚と夜具を貸してくれたので、野宿するよりははるかにましだろう。
「悪かったな。随分、余計な時間を使わせた」
刀を外した雅勝が板の間の上がり口に腰を下ろしたので、るいもまた彼の隣に座った。小屋の入口から見える空は茜色で、暮れなずむ空の向こうに烏の群れが飛んでいるのが見える。
「おい、お前がそんな顔をするな。せっかく来たのだから、家に寄ってみたいと言い出したのは俺だ」
「でも!」
正直に言うなら後悔している。武家長屋で消息がわからなかった時点で、意地を張らずにこの街を発てばよかったのだ。るいがあそこで意地を張っていなければ、今頃には二人とも水谷にはいなかった。
いくら世間知らずだといっても、この世に知らない方がよい現実があることくらいは理解ができる。そして多分この現実は、きっと知らないままでいた方が、まだしも心穏やかにいられた。
「さすがに、今津屋というのは想像もしていなかったからな。一応、平和に暮らしているかどうかだけでも確認しておきたかったんだ。……正直、途中で二人とももう死んでいるのかと思ったからな。幸せなようでよかったよ」
当の本人が当然のようにそう言うので、一瞬、ちっともよくないと思ってしまうこちらの思考がおかしいのかと考えて、思わず首を振る。
――よいはずない。こんな現実を「よいこと」にしていいはずがない。
もうずっと、うっかり口を開くと涙が零れてしまいそうで、ほとんど何も言うことができなかった。彼の言うそんな顔とはどんな顔だろう。かろうじて堪えてはいるけれど、自分でもきっと、今にも泣き出しそうな顔をしているのだと思う。
るいが何も言わないので、雅勝の言葉は、ただ、薄暗い小屋の中をちらちらと舞っている埃と一緒に宙に浮いた。目に見えないはずの言の葉の断片が、浮力を失くし、床の上に舞い降りては消えて行く光景が、幻のように瞳の奥に浮かび上がった。
やがてすべての断片が消えてしまって、ぽっかりと空いた空白に向けて、男がぽつりと呟いた。
「ただ……知らなかった」
「……」
「俺はもう、本当はとうの昔に死んでいたんだな」
格段、悲愴でもなければ悲痛でもない。ただ本当はそこになかったものをこれまであると信じていたことに、今ようやく気が付いたという口調だった。
るいは以前、彼と話をした時に、生きる為に子ども売る、そんな選択肢が存在するこの世の仕組みそのものが哀しいと感じたことを、今も明確に覚えている。今もその思いに変わりはない。ただ、あれから少し時間がたって、もう少しだけ色々なことを知って、今、そのすべてをこの男が是として受け入れてしまっていることが、どうしようもないくらいに哀しい。
受け入れなくていい。受け入れる必要なんてない。受け入れるな、そんなものは。誰でもいい。どんな言葉でもいい。これまで、彼にそう伝えてやる人間はいなかったのか。
ふと血の匂いを感じて、隣り合って座った男の右手が、腱が浮き、震えるほどに握りしめられていることに気が付いた。あまりに強く握り過ぎた所為で爪が手の平に食い込んで、血がにじんでしまっている。るいの目にはその中で握りつぶされた何かが、血を流してもがき苦しんでいるかのように見えた。
るいの視線をたどってはじめて、自分の手が震えていることに気づいたらしい。雅勝は握ったままの右手の拳を、解くのでなく左手で隠そうとした。彼が隠してしまうより先に、るいは両手で、きつく握りこめられた拳を包み込んだ。必死で伸ばした手の下に、男の小刻みな震えを感じ、滲んだ血の熱がるいの手にも伝わってきた。
彼が隠そうとしたものをるいが先に覆い隠してしまったので、雅勝の左手は、行き場をなくして宙に浮いた。浮いた手がそのままるいの頬に伸びる。そっと引き寄せられて瞼を押伏せた時、互いの吐息が重なった。めまいの発作に由来する、いつかのような偶然の事故ではない。明確な意思を持った行為をるいもまた己の意思で受け止めた。
「……今度は、ぶたないんだな」
唇が離れた時、間近の男の目は綺麗に澄んでいた。目にかかる髪をかき分ける指の感触が優しい。だけどこの目は、その奥にあるものを誰かに気取られることのないよう、もしかすると彼自身にさえもわからぬよう、必死の思いで凍らせてきた氷室の中にあるのかもしれなかった。
どれくらいそうして暗い目の底を覗き込んでいただろう。雅勝が外した刀に手を伸ばして立ち上がろうとしたので、るいは思わず彼の腕にしがみついた。改めてこちらを見た男の表情は、水谷の甘味やで見た時と同じくらい優しかった。
「雅勝殿?」
「俺は外にいるから、何かあったら呼んでくれ」
「え?」
「明日は早いからな。さっさと休んだ方がいい。いくらなんでもまずいだろう。――ここで一緒に休むのは」
もちろんここまで過ごしてきた数日間、宿の部屋は別々だったし、これまでにも常に雅勝はるいから慎重に一定の距離を置いていたように思う。そう考えれば、先ほどの接触行為など、彼の振る舞いとしてはほとんど異常だ。
油はもちろん蝋燭もないので、こんな時は日が暮れると同時に寝てしまうに限る。今は日が昇るのが早いので、眠って目が覚めて別れて、多分、それで何もなかったことになる。――この人は、今日この街であったことのすべてを何もなかったことにしようとしている。
思わずしがみついた手に力をこめる。なかったことにしたければすればいい。それであなたが生きていけるというのならば、構いはしない。だけど今、暮れて行く闇の中に、この男を一人で取り残すのだけは嫌だ。
「るい、離してくれ」
「……」
「離せって言ってるだろうが!」
荒げた声が、悲鳴に聞こえた。
雅勝がるいに向けて怒鳴り声を上げるなど、これまで一度もなかったことだ。やはり本当は見た目ほど平静ではないのだと、るいはこの瞬間、改めて悟った。何しろ、この人は今、自分がどれほどおかしなことを言っているのかさえわかってないのだから。――本気で振り払ったなら、力でかなうはずもないのに。
「……悪い」
声を荒げたことをバツが悪そうに謝って、雅勝はるいの手に自分の手を重ねて引き剥がそうとした。その手は乾いて荒れていて、爪の中が血まみれだった。節くれだった長い指がるいの指に絡んだ瞬間、男の表情が変わった。具体的にどこがどう変わったのかわからないけれど、彼の中の何かが確かに変わったのだということが、気配で感じられた。
「雅勝殿……?」
さきほど離せとわめいた手を、逆に掴んで引き寄せられた。彼の懐に身体ごと引き込まれる一瞬、視界の隅にかすめた横顔が、ひどく歪んでいたように見えた。気の所為かもしれない。るいがそう思いたかったから、そう見えただけかもしれない。
あまりにも強い力で抱きしめられて、体の奥で骨が鳴る。すべてを受け入れようと広い背に腕をまわして目を閉じて――その後のことは、覚えていない。
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