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ガラリと玄関を開けて中に入る。
シンとした暗い廊下に、“影”がいる。
俺の帰りを待っていたようだった。
今日は疲れた。廉の買い物に付き合って降りたことのない駅で降りて歩いた。目新しさで楽しさはあったけど、普段歩くことが少ないから疲労が溜まりやすいんだろう。マジで疲れた。
「……ただいま」
じっとこちらを見てきている(推定)影に声を掛ける。満足したように、影はうごうごと揺れて隅に避けた。
別に挨拶をする必要はないのかもしれないけど、習慣となったこれを今更やめられなかった。毎日の習慣としてきていることを崩すことが俺は怖い。
影はただそこに居るだけで、家事やらをしてくれることはなかった。探しものがあれば、ここにあるよと教えてくれたり、○時に起こしてと言えば起こしてくれる。なんだか人(?)型のAIみたいだ。
だけどなぜか俺は影に対して家族のような親近感を覚えている。ずっと家に一緒にいるからか、は分からないけど。この広い家屋にひとりで住んでいたら、化け物みたいな存在でも受け入れてしまうのだろうか。
ポーンポーン
壊れかけのチャイムが鳴った。こんな時間に来訪者なんて珍しい。配達ではないだろう。より珍しい。セールスだろうか。もしそうなら夜に来るなんて非常識だ。
玄関の“影”が、上半分を横に激しく振っている。まるでメトロノームでちょっと笑った。
ガラリと引き戸を開けて外を見る。
「ごめんくだせぇ。ちーと食べ物を分けてくれんかの」
酔っ払いだと思った。異常なくらい酒臭い。こんなあからさまに酒臭いことがあるのかと、まだ飲酒年齢に達していない俺は驚いた。
シワのたるみで垂れ目に見えるおじいさん寄りのおじさん。俺がご近所付き合いをあまりしてないにしても、ここらで見たことがない人間だった。
思わず、後ろのメトロノームになっていた“影”を見る。
まだメトロノームだった。こころなしかさっきより必死なような。
「聞こえとんのかぁ。飯をォクレ! 言うとるんが」
目の前のおじさんに急かされるが、生憎うちにはまともに食べ物なんて置いていない。訪ねる家を間違えている。
そもそもこれが人からご飯をもらう態度かと少し眉を顰めた。
「うちにまともな飯は置いてません」
「嘘ォ吐くなァ!!」
血走った目。怒り食いしばって見えた黄色い歯。顔に点在するシミ。少し大きめの膨らんだホクロ。ザンギリな深爪。ささくれ立った茶色い指先。口の中で糸を引く唾液。
伸ばされる骨と皮だけの腕。
すると、肩を引かれた。
バシィンッ!
大音量を響かせて、玄関の戸が閉められた。途端に視界が暗くなる。玄関の“影”に前を覆われていた。
あのおじさんも、この状況もよく分からない。でも“影”に守られていると安心できるのは分かる。
「恐かった」
シンとした暗い廊下に、“影”がいる。
俺の帰りを待っていたようだった。
今日は疲れた。廉の買い物に付き合って降りたことのない駅で降りて歩いた。目新しさで楽しさはあったけど、普段歩くことが少ないから疲労が溜まりやすいんだろう。マジで疲れた。
「……ただいま」
じっとこちらを見てきている(推定)影に声を掛ける。満足したように、影はうごうごと揺れて隅に避けた。
別に挨拶をする必要はないのかもしれないけど、習慣となったこれを今更やめられなかった。毎日の習慣としてきていることを崩すことが俺は怖い。
影はただそこに居るだけで、家事やらをしてくれることはなかった。探しものがあれば、ここにあるよと教えてくれたり、○時に起こしてと言えば起こしてくれる。なんだか人(?)型のAIみたいだ。
だけどなぜか俺は影に対して家族のような親近感を覚えている。ずっと家に一緒にいるからか、は分からないけど。この広い家屋にひとりで住んでいたら、化け物みたいな存在でも受け入れてしまうのだろうか。
ポーンポーン
壊れかけのチャイムが鳴った。こんな時間に来訪者なんて珍しい。配達ではないだろう。より珍しい。セールスだろうか。もしそうなら夜に来るなんて非常識だ。
玄関の“影”が、上半分を横に激しく振っている。まるでメトロノームでちょっと笑った。
ガラリと引き戸を開けて外を見る。
「ごめんくだせぇ。ちーと食べ物を分けてくれんかの」
酔っ払いだと思った。異常なくらい酒臭い。こんなあからさまに酒臭いことがあるのかと、まだ飲酒年齢に達していない俺は驚いた。
シワのたるみで垂れ目に見えるおじいさん寄りのおじさん。俺がご近所付き合いをあまりしてないにしても、ここらで見たことがない人間だった。
思わず、後ろのメトロノームになっていた“影”を見る。
まだメトロノームだった。こころなしかさっきより必死なような。
「聞こえとんのかぁ。飯をォクレ! 言うとるんが」
目の前のおじさんに急かされるが、生憎うちにはまともに食べ物なんて置いていない。訪ねる家を間違えている。
そもそもこれが人からご飯をもらう態度かと少し眉を顰めた。
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「嘘ォ吐くなァ!!」
血走った目。怒り食いしばって見えた黄色い歯。顔に点在するシミ。少し大きめの膨らんだホクロ。ザンギリな深爪。ささくれ立った茶色い指先。口の中で糸を引く唾液。
伸ばされる骨と皮だけの腕。
すると、肩を引かれた。
バシィンッ!
大音量を響かせて、玄関の戸が閉められた。途端に視界が暗くなる。玄関の“影”に前を覆われていた。
あのおじさんも、この状況もよく分からない。でも“影”に守られていると安心できるのは分かる。
「恐かった」
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