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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第3章皇国編

第六部・対機械魔導連邦編 10話

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「敵右翼、戦車部隊を伴って進撃してきました! その数、およそ三百!」
 ウォード率いる反乱軍右翼・約300が攻勢を強めたのは、ガーダが理解不能な現象について頭を抱えていたのとほぼ同時刻だった。記憶と錯誤している現状によってパンク寸前になっていたガーダにとっては寝耳に水であり、防衛戦線を構築している部隊の二倍の数を伴ってやってくる反乱軍は脅威以外の何物でもなかった。
「再編中の部隊を当てろ。未再編の兵士たちは十名単位で再編成し各所へ向かわせる。それと念の為、直衛隊から50を左翼に向かわせろ」
 焼けるような感覚と共に脳が思考を回し、ガーダから指示が飛ばされていく。
「ウォードが指揮を執っているというのなら、敵左翼は本命の攻撃部隊である騎馬隊を中核とした歩兵隊の可能性が高い。槍兵を多く配置して足を止めろ。中央にはおそらく戦車隊が控えている。これはこちらから攻撃しなければいずれ突っ込んでくる。それまでに対戦車用防衛陣を形成して搦めとれ。敵右翼に関してはすぐに乱戦状態になる、随伴兵よりも戦車乗員を優先して仕留めろ。可能なら奪取して戦力にしろ」
 今は敵になったとはいえ、彼らは自国では名の知れた名将達でありお互いの戦術を知り尽くしている間柄である。当然その弱点も熟知しているし、得意な戦術も理解している。そのため、ガーダからの指示は的確だった。彼はウォードの意図を読み、騎馬隊に対して最も有効である槍兵部隊を当てると共に、乱戦状態になるであろう左翼の守備を厚くしたのだ。
 彼の判断は、はたして正解であった。戦車を先頭に突入する反乱軍に対し、奪取した戦車による敵後方への砲撃で少なくない被害を与えられるようになったからだ。それはつまり、劣勢であった戦局がある程度有利になったということだ。
 しかし、敵側の主力戦車部隊であろう中央部隊は未だに動いていなかった。その事実は、事の顛末を聞き届けたガーダにとって一抹の不安を抱えさせるものであった。
 というのも、敵中央部隊には少なくとも戦車隊四個小隊分にあたる16輌の戦車が展開しており、ガーダ軍側の戦車は、鹵獲した稼働可能戦車を含めてもその半分にも満たなかったのである。そのため、中央部隊が動くという可能性は彼にとって最悪のシナリオの一つであった。
「反乱軍中央部隊、砲撃と共に前進を始めました!」
「防衛設備の進捗は」
 伝令によるその報告を聞いたガーダが焦りを孕んだ声で訊ねる。
「五割未満です」
「塹壕は?」
「歩兵や軽戦車なら捕らえられますが、大型の重戦車となると……」
 語尾を濁す報告に、ガーダは舌打ちを打つと共に唇を噛んだ。なぜなら今回の侵攻作戦は攻城戦を前提に編成された部隊だったため、戦車部隊は全て重戦車で編成されていた。つまり、対戦車用に構築されているであろう塹壕が意味を成さないことを把握した、ということだ。これには他国が重戦車と呼ぶ主力級戦車と、機械魔導連邦軍が重戦車と呼ぶ主力級戦車の車体サイズによる齟齬があったからである。
 自国の重戦車しかいない部隊に対して、他国の重戦車を想定した塹壕を構築するという行為は無駄でしかない。しかし、有事の際にそういった行動を迷わず行えるというのは日頃の訓練の賜物であり、それだけ部隊としての練度の高さが分かる結果となった。
 それに対戦車用防衛陣は塹壕だけではない。急造された柵も対戦車用設備として十分な抑止力を持つからだ。
 というのも、履帯キャタピラで走行する戦車は、どんなに本体の装甲が厚くても{足となる履帯部分が最も脆弱}という最大の問題を抱えているからだ。その脆弱さは、履帯とその上部を覆うスカートと呼ばれる部分の間に太い棒が挟まるだけで走行不能に陥るほどである。
 走行不能となった戦車は敵味方どちらにおいても戦力として扱うことはない。だが、戦場における遮蔽物にはなる。そして身を隠す遮蔽物は、一般的に攻める側よりも守る側の方が重宝する。なぜなら守る側は、自身が守る場所を敵に突破さなければ勝ちだからだ。そして分厚い装甲を持つ戦車は戦場において最も頼りになる「盾」であった。だからこそ中央に展開する反乱軍中央戦車部隊は前進して来ることはない。そうガーダは踏んでいたのだ。
 しかし彼の予想に反して反乱軍は前進を開始した。
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