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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第3章皇国編

第四部・再会 7話

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 その日の夜、リオは、梅の間で横並びに並んだ布団を前に立ち尽くしていた。

(僕たちで望んだことだけど……)

 一夜の間二人きりでいることを望んだのは、ほかでもないリオ達本人だ。
 だが、実際に布団が並んでいる光景を見ると、さすがに思うところがあったようで、リオが今からでもなかったことに出来ないかと考え始める。

「リオ様」

 だがそれよりも早く、旅館から提供される、「ユカタ」と呼ばれる衣服を着込んだ姿でアリシアが布団の上に座った。風呂上りなのだろうか、アリシアの頬はわずかに上気していた。

「う、うん」

 ほんのりと紅くなったアリシアの顔に、リオが思わず姿勢を正す。
 アリシアの正面に座ったリオは、アリシアの紺碧の瞳を見る。吸い込まれそうなほどに透き通った紺碧の瞳は、不安そうに揺れ動いていた。
 二人の間に沈黙が流れる。彼らを照らすのは、部屋の片隅に灯った炎と月明りだけだ。

「その、リオ様……」

 おずおずとアリシアが声をあげる。
 時折ちらちらとリオの瞳を窺っては、落ち着きが無さそうに瞳を逸らす。その姿は、これから起こりうる出来事の一つに、思いを馳せているようにも思えた。
 アリシアという少女が何を想像していたのかについては定かではない。
 しかしどうやら彼女の理性は何かを自分自身に諭しているようで、己を窘めるように大きく深呼吸をした。
 不可思議なアリシアの行動に、リオは首を傾げる。だが特に気にする必要もないだろうと思い、リオは口を開いた。

「それじゃあまず」

 そう前置きし、リオはアリシア達と離れ離れになっていた間の出来事を話し始めた。
 アサヒで魔人の協力者によって隣国・機械魔導連邦の国都へ移送されたこと。
 そこで身に覚えのない罪を着せられ、刑務所へと収監されたこと。
 刑務所での生活の最中、アリシア達の夢を見たこと。
 看守長であるバートンの協力により、なんとか刑務所を抜け出したこと。
 人目を避けながら、機械魔導連邦の東部からユーラザニア山脈へと向かったこと。
 ユーラザニア山脈でいくつもの頭を持つ魔物に襲われ、右手の自由と引き換えになんとか逃げ出したこと。
 その後、再度相まみえた魔物と戦い、なんとかグレンまでやってこれたこと。
 街道まで出て最初にフーとデーンと出会い、湯煙亭に厄介になると決まったこと。
 フーとデーンの二人と共に、冒険者稼業をしていたということ。
 そして最後に、アリシア達はリオのことを探していないと思ったこと。
 この七ヶ月間にあった出来事たち。
 それらを話し終えたリオは、どうしてか、頬を伝う冷たい感触を感じた。

「あれ、どうして……」

 リオがとめどなく溢れてくる雫を拭いながら肩を揺らす。
 ただ、あった出来事を話しただけ。たったそれだけなのに、感情が爆発したようにぼろぼろと涙が頬を伝っては手元へと落ちていく。
 制御の出来ない自分自身にリオが困惑する。と――

「リオ様……」

 リオの頬に温かな体温が触れる。アリシアの手だ。リオは思わず顔を上げる。
 零れていく涙を愛おしそうに救い上げたアリシアが、リオの瞳を見据えた。

「本当に、本当に大変な旅をしてきたのですね」

 自身も泣きそうなほどに目元を震わせていたアリシアがリオを抱きしめる。
 衣類越しでも確かに感じる、温かな体温。
 アリシアも泣いているのだろうか、リオの衣服に、新たな冷たい感触が増える。

「アリシア様、心配かけて、ごめんなさい」

 さらに溢れてきた涙と感情のままに、リオがアリシアを抱きしめる。
 ぼろぼろと落ちていく涙を拭うこともせず、リオはただこの瞬間を噛み締めるようにアリシアの体温を感じる。
 互いに互いを抱きしめ合い、体温と、鼓動と、呼吸と、想いを感じるリオとアリシア。

「いいのです。リオ様が、すべて話してくれたので」

 涙を零しながらアリシアが顔をあげる。しかしリオは、ドクン、と鳴った心臓に嫌な予感を覚えた。

(今のは、なに……?)

 アリシアと目が合った瞬間、リオは意識の中に芽生えた疑問と、心臓を締め付けられるような痛みと共に暗転していく視界によって、その意識を手放した。
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