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第3章皇国編
第四部・再会 6話
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「アリシア様、そろそろよろしいですか?」
廊下からアルベラの遠慮がちな声がした。アリシアに気を使って外に出たはよかったものの、どうやら号泣するアリシアによって部屋へと入るタイミングを逃したようで、落ち着いたタイミングを見計らってふすま越しから声をかけたようだった。
「ええ、かまいませんわ」
アリシアが振り向きざま、目元の涙を拭いながら答えた。
その声に応じるように、ふすまがゆっくりと開いた。廊下からアルベラとミーシャの二人が顔を出し、遅れてフーとデーンの二人が部屋の中を覗き込んだ。
四人とも不安そうな面持ちで、リオとアリシアを見ている。
「心配をかけましたわね。もう私もリオ様も大丈夫です」
アリシアが、先ほどまでの態度とは打って変わって凛とした態度で言う。だが、その態度が虚勢だとリオはすぐに気づいた。
「そうですか」
アリシアが虚勢を張っていると気づいているのだろうか、アルベラが思案顔を浮かべながら頷く。
「では、我々は失礼します。積もる話もあるでしょう?」
「え⁉」
「あ、アルベラ⁉」
そしてどうやら、リオの予想は当たっていたらしい。視線だけで「嘘を吐くなよ?」としっかりと釘を打ってきた。
「さ、行きましょう。……ミーシャ、行くぞ」
そうして三人の背中を押すアルベラは、最後にアリシアに目配せをして去って行った。
取り残される結果となったリオとアリシアは、互いに目を見合わせると、あまりにも不自然すぎるアルベラの言動に、二人そろって噴き出した。
笑い声を上げるリオとアリシア。気づけばアリシアの手は、リオの左手を握っていた。
やがて自身の行動に気づいたアリシアが、顔を真っ赤に染める。
「あの、その。……このままでも、いいですか」
「いい、けど……大丈夫? いつものアリシア様らしくないけど」
リオが心配そうな瞳を向ける。
ぐいぐいと来ないだけで心配されるというのは、淑女としてどうなのだろうか? という疑問を抱きながら、アリシアがリオを見据える。
「その、リオ様に久しぶりに出会って、その、緊張しまして」
「緊張してるようには見えなかったけど」
「それはっ! その、廊下にアルベラ達がいると分かっていたので……」
それは嘘だ。
そう思ったリオが、アリシアの手を握る。
「リオ様? どうされたのですか?」
すると、リオの予想通り、いつものアリシアの言動が戻ってきた。
「いや、嘘だってことが分かったから」
「嘘などと! いまのはただ、少し期待しただけと申しますか、その、ええっと……」
リオから距離をとり、言葉を濁しながらもじもじと指先を突き合わせるアリシア。そっぽを向きながら呟いた彼女の紅く染まった頬は、それだけでいじらしい。
「じゃあ、なにを期待したの?」
「な、なにって……その、い、言えないことですわ!」
「気になるけど、聞かない方がいいの?」
「え⁉ そ、それは……でも、リオ様には聞いてほしいです」
耳まで真っ赤になったアリシアが、リオの耳元で囁く。と、リオの方も顔を赤く染めながらアリシアからわずかに距離をとった。
「……したいの……?」
「……はい」
二人の間に沈黙が流れる。互いに顔を真っ赤に染めながら俯く二人は、上目に互いを見つめあっていた。
「それでは、今夜、お願いしますわ」
スカートの裾を握りしめながら、アリシアが決意を込めた表情でリオを見る。
対するリオは、迷いを残したままに頷いた。だがアリシアの願いには賛成的なようで、立ち塞がるであろう最大の障壁に対する対抗策を考え始める。
「なら、アルベラさん達を納得させられる理由を考えないと」
「それならもう考えてありますわ。――上手くいくかは五分五分ですけど」
そう言って、アリシアが策を披露する。その策を聞いたリオは、とてもではないが成功すると思えなかった。
「じゃあ失敗すると見ていいね。となれば――」
「リオ様、失敗前提はさすがに傷つきますわ」
「じゃあ、億が一にも成功したと考えて――」
「その方が傷つきます!」
なら、なんならいいのさ、とリオが愚痴る。
対するアリシアも精一杯答えを探そうとしたのだろう、うんうんと呻くように頭を抱えていたのだが――
「リオ様が納得するならどれでもいいですわ」
やがて考えること自体を放棄したのか、清々しい笑顔と共にリオに丸投げした。
思わぬ丸投げに、リオのこめかみがピクピクと痙攣する。
「なら、この話は無かったことに」
「リオ様、それはご勘弁ください!」
淡々と口にしたリオに対し、アリシアが叫ぶ。
「じゃあちゃんと考えて」
「はい!」
リオの言葉に、アリシアが勢いよく頷く。
そうして二人で話し合いを続けた結果、リオとアリシアは、なんとか今夜だけ二人きりでいられる時間を作れたのだった。
廊下からアルベラの遠慮がちな声がした。アリシアに気を使って外に出たはよかったものの、どうやら号泣するアリシアによって部屋へと入るタイミングを逃したようで、落ち着いたタイミングを見計らってふすま越しから声をかけたようだった。
「ええ、かまいませんわ」
アリシアが振り向きざま、目元の涙を拭いながら答えた。
その声に応じるように、ふすまがゆっくりと開いた。廊下からアルベラとミーシャの二人が顔を出し、遅れてフーとデーンの二人が部屋の中を覗き込んだ。
四人とも不安そうな面持ちで、リオとアリシアを見ている。
「心配をかけましたわね。もう私もリオ様も大丈夫です」
アリシアが、先ほどまでの態度とは打って変わって凛とした態度で言う。だが、その態度が虚勢だとリオはすぐに気づいた。
「そうですか」
アリシアが虚勢を張っていると気づいているのだろうか、アルベラが思案顔を浮かべながら頷く。
「では、我々は失礼します。積もる話もあるでしょう?」
「え⁉」
「あ、アルベラ⁉」
そしてどうやら、リオの予想は当たっていたらしい。視線だけで「嘘を吐くなよ?」としっかりと釘を打ってきた。
「さ、行きましょう。……ミーシャ、行くぞ」
そうして三人の背中を押すアルベラは、最後にアリシアに目配せをして去って行った。
取り残される結果となったリオとアリシアは、互いに目を見合わせると、あまりにも不自然すぎるアルベラの言動に、二人そろって噴き出した。
笑い声を上げるリオとアリシア。気づけばアリシアの手は、リオの左手を握っていた。
やがて自身の行動に気づいたアリシアが、顔を真っ赤に染める。
「あの、その。……このままでも、いいですか」
「いい、けど……大丈夫? いつものアリシア様らしくないけど」
リオが心配そうな瞳を向ける。
ぐいぐいと来ないだけで心配されるというのは、淑女としてどうなのだろうか? という疑問を抱きながら、アリシアがリオを見据える。
「その、リオ様に久しぶりに出会って、その、緊張しまして」
「緊張してるようには見えなかったけど」
「それはっ! その、廊下にアルベラ達がいると分かっていたので……」
それは嘘だ。
そう思ったリオが、アリシアの手を握る。
「リオ様? どうされたのですか?」
すると、リオの予想通り、いつものアリシアの言動が戻ってきた。
「いや、嘘だってことが分かったから」
「嘘などと! いまのはただ、少し期待しただけと申しますか、その、ええっと……」
リオから距離をとり、言葉を濁しながらもじもじと指先を突き合わせるアリシア。そっぽを向きながら呟いた彼女の紅く染まった頬は、それだけでいじらしい。
「じゃあ、なにを期待したの?」
「な、なにって……その、い、言えないことですわ!」
「気になるけど、聞かない方がいいの?」
「え⁉ そ、それは……でも、リオ様には聞いてほしいです」
耳まで真っ赤になったアリシアが、リオの耳元で囁く。と、リオの方も顔を赤く染めながらアリシアからわずかに距離をとった。
「……したいの……?」
「……はい」
二人の間に沈黙が流れる。互いに顔を真っ赤に染めながら俯く二人は、上目に互いを見つめあっていた。
「それでは、今夜、お願いしますわ」
スカートの裾を握りしめながら、アリシアが決意を込めた表情でリオを見る。
対するリオは、迷いを残したままに頷いた。だがアリシアの願いには賛成的なようで、立ち塞がるであろう最大の障壁に対する対抗策を考え始める。
「なら、アルベラさん達を納得させられる理由を考えないと」
「それならもう考えてありますわ。――上手くいくかは五分五分ですけど」
そう言って、アリシアが策を披露する。その策を聞いたリオは、とてもではないが成功すると思えなかった。
「じゃあ失敗すると見ていいね。となれば――」
「リオ様、失敗前提はさすがに傷つきますわ」
「じゃあ、億が一にも成功したと考えて――」
「その方が傷つきます!」
なら、なんならいいのさ、とリオが愚痴る。
対するアリシアも精一杯答えを探そうとしたのだろう、うんうんと呻くように頭を抱えていたのだが――
「リオ様が納得するならどれでもいいですわ」
やがて考えること自体を放棄したのか、清々しい笑顔と共にリオに丸投げした。
思わぬ丸投げに、リオのこめかみがピクピクと痙攣する。
「なら、この話は無かったことに」
「リオ様、それはご勘弁ください!」
淡々と口にしたリオに対し、アリシアが叫ぶ。
「じゃあちゃんと考えて」
「はい!」
リオの言葉に、アリシアが勢いよく頷く。
そうして二人で話し合いを続けた結果、リオとアリシアは、なんとか今夜だけ二人きりでいられる時間を作れたのだった。
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