WORLD CREATE

ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

文字の大きさ
上 下
203 / 231
第3章皇国編

第四部・再会 2話

しおりを挟む
 その日の夜、宿屋の一室でアルベラ、ミーシャと顔を突き合わせていたアリシアは、難しい顔をしたアルベラの報告に耳を傾けていた。
 彼女がこの日共有していたのは、以前彼女がギルドで聞いた魔物についてのものだった。
 地図を指しながらアルベラが口を開く。

「今日も数組の冒険者たちが例の魔物を目撃したそうです。位置はここ。グレン北側に伸びる街道の上で北門から大して距離もありません。魔物は彼らの方を一瞥すると、すぐに去って行ったそうですが」

「街道……前までは森の中でしたよね?」

 ミーシャが一昨日聞いた情報を確認するように口にすると、アルベラは頷いた。

「ああ。確実にグレンに近づいてきているな」

 近づいている、という言葉に、アリシアが頭を抱える。

「問題は、その魔物が「何を目的にしているのか」ですわね」

「たしか、普通の魔物と行動が違いすぎるんだよね?」

「はい。何かを探しているのか、それともただの偵察か。いずれにしろ、碌なことではないというのは確かですわ」

 そう口にするアリシアの脳裏には、二年ほど前に聞いた、ある噂があった。それはリオが、ジン達「大鷲の翼」の一員として行動していた際に訪れた、グレン北部の森であった魔人騒動に関するものだ。
 リオがグレンを訪れたのは今から六年ほど前になるのだが、その四年後にあったガレイ攻防戦で「魔人が魔物を指揮していた」という報告があった。アリシアが思い出していたのは、その際に流れた噂である「人間が魔人化した」という噂だ。
 はたしてその噂がどこから流れ始めたのかまでは定かではない。
 だがその二つの噂にリオが関わっているかもしれない、ということもあり、アリシアは個人的に調べさせていたのだ。
 その結果は、「あくまでも噂の域を出ない」というもの。だがとある情報筋から、グレンに居た魔物も「一部だけ組織立った動きをしていた」という情報を得ていた。
 そして今回グレンに現れた魔物の動きは、彼女が聞いた魔物の行動と酷似している部分がいくつもあったのである。
 ただ反対に、いくつか腑に落ちない点もあった。例えば、人前に姿を見せている点や、品定めするように人間を見ては去って行くという点だ。

「特定個人を探しているのでしょうか……」

 アリシアが呟く。
 それが一番正解に近いような気がしながらも、微妙に納得がいかない。
 生者の敵たる魔物が、特定の個人を探すのにわざわざ噂になるような行動をするだろうか?

(彼らがとったのは、互いにとって不利益にも利益にもなる行動ですわね)

 拭いきれない違和感を抱いていたアリシアに、アルベラがアリシアの言葉をアルベラが否定した。

「そうだとすれば、あまりにも目立ちすぎているかと」
「ですわよね……。向こうからすれば、騒ぎにして得する理由は……」

「無い」と言おうとしたアリシアの口が止まった。
 騒ぎにする理由が、あるかもしれない。
 それは各町に居る警備隊が特定の存在をあぶり出す方法とよく似ていた。
 それならば、こうして騒ぎにする理由も出来る。そしてその理由が、「魔物たちを指揮する存在にとって都合の悪い人間の観察。ならびに排除」であれば?
 そう考えたアリシアが、止まっていた口を動かした。

「もしも。もしもですわ。この都市の中に犯罪者の集団が居て、それをあぶり出すなら、どう動きますか?」

 唐突なアリシアの質問に首を傾げるアルベラとミーシャ。そんな二人に構わずアリシアが続ける。

「たしか以前、どこかの町で違法賭博の一斉摘発がありましたわよね? あの時、たしか警備隊の方々が町中に噂を流していたと思うのですが」

「……たしかに、そんなこともありましたが、今となんの関係が?」

 アルベラが胡乱うろんそうに言う。アリシアの口にする話と、今回の魔物との繋がりが全く見えてこなかったからだ。

「確かその時、前々から決まっていた検問を突如中止し、明らかにおかしな物の流れがあった賭博店を後日一斉に検問することでほぼすべての違法賭博店を検挙しましたわ。
 もしも今、郊外に居る魔物が急に姿を消したらどうなるか。
 おそらく、魔物に身を追われる覚えのある人間は、人気のない時間や人流に合わせてどこかへ去るでしょう。
 魔物はそこを襲えば、簡単に目的を達成できるとは思いませんか?
 これであぶり出せなければ、その時こそ実力行使。数を揃えて都市を襲う。そうすれば、ほぼ確実に目標を始末できますわ」

 自身満々に語ったアリシアに、アルベラが目を細めながら口を開く。

「……つまりアリシア様は、外にいる魔物が近いうちに姿をくらます、と」

わたくしの考えではそうなると思いますわ」

 アルベラが溜息を吐く。と同時に、ミーシャがあわあわとしながら――

「え? え? 話が見えてこないんだけど、アリシアちゃん、どういうこと?」

 アリシアの説明にさらなる解説を求めた。そんな彼女に、アルベラがアリシアの考えを大雑把に説明する。

「つまり、何かしらの方法で目的の人物に行動を起こさせ、町の外に出ればそこを襲う。そうでなければ、町ごと襲う。そうですよね、アリシア様?」

「有り体に言えばそういうことですわね」

「じゃ、じゃあ、アサヒみたいにここも魔物に襲われるかもしれないってこと?」

 あっけらかんと言い切ったアリシアにミーシャが狼狽えると、アリシアが追い討ちのように頷いた。

「ですわ」

 ――清々しいまでの笑顔と共に。ただし、その顔には「これで理解しましたわよね?」と書かれてあった。
 そのことに気づいたのか、それとも魔物たちに町が襲われるかもと聞いたからか。いずれにしろ、「ええーー⁉」というミーシャの驚愕した声が響いたのは、言うまでもない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...