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第3章皇国編
第四部・再会 2話
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その日の夜、宿屋の一室でアルベラ、ミーシャと顔を突き合わせていたアリシアは、難しい顔をしたアルベラの報告に耳を傾けていた。
彼女がこの日共有していたのは、以前彼女がギルドで聞いた魔物についてのものだった。
地図を指しながらアルベラが口を開く。
「今日も数組の冒険者たちが例の魔物を目撃したそうです。位置はここ。グレン北側に伸びる街道の上で北門から大して距離もありません。魔物は彼らの方を一瞥すると、すぐに去って行ったそうですが」
「街道……前までは森の中でしたよね?」
ミーシャが一昨日聞いた情報を確認するように口にすると、アルベラは頷いた。
「ああ。確実にグレンに近づいてきているな」
近づいている、という言葉に、アリシアが頭を抱える。
「問題は、その魔物が「何を目的にしているのか」ですわね」
「たしか、普通の魔物と行動が違いすぎるんだよね?」
「はい。何かを探しているのか、それともただの偵察か。いずれにしろ、碌なことではないというのは確かですわ」
そう口にするアリシアの脳裏には、二年ほど前に聞いた、ある噂があった。それはリオが、ジン達「大鷲の翼」の一員として行動していた際に訪れた、グレン北部の森であった魔人騒動に関するものだ。
リオがグレンを訪れたのは今から六年ほど前になるのだが、その四年後にあったガレイ攻防戦で「魔人が魔物を指揮していた」という報告があった。アリシアが思い出していたのは、その際に流れた噂である「人間が魔人化した」という噂だ。
はたしてその噂がどこから流れ始めたのかまでは定かではない。
だがその二つの噂にリオが関わっているかもしれない、ということもあり、アリシアは個人的に調べさせていたのだ。
その結果は、「あくまでも噂の域を出ない」というもの。だがとある情報筋から、グレンに居た魔物も「一部だけ組織立った動きをしていた」という情報を得ていた。
そして今回グレンに現れた魔物の動きは、彼女が聞いた魔物の行動と酷似している部分がいくつもあったのである。
ただ反対に、いくつか腑に落ちない点もあった。例えば、人前に姿を見せている点や、品定めするように人間を見ては去って行くという点だ。
「特定個人を探しているのでしょうか……」
アリシアが呟く。
それが一番正解に近いような気がしながらも、微妙に納得がいかない。
生者の敵たる魔物が、特定の個人を探すのにわざわざ噂になるような行動をするだろうか?
(彼らがとったのは、互いにとって不利益にも利益にもなる行動ですわね)
拭いきれない違和感を抱いていたアリシアに、アルベラがアリシアの言葉をアルベラが否定した。
「そうだとすれば、あまりにも目立ちすぎているかと」
「ですわよね……。向こうからすれば、騒ぎにして得する理由は……」
「無い」と言おうとしたアリシアの口が止まった。
騒ぎにする理由が、あるかもしれない。
それは各町に居る警備隊が特定の存在をあぶり出す方法とよく似ていた。
それならば、こうして騒ぎにする理由も出来る。そしてその理由が、「魔物たちを指揮する存在にとって都合の悪い人間の観察。ならびに排除」であれば?
そう考えたアリシアが、止まっていた口を動かした。
「もしも。もしもですわ。この都市の中に犯罪者の集団が居て、それをあぶり出すなら、どう動きますか?」
唐突なアリシアの質問に首を傾げるアルベラとミーシャ。そんな二人に構わずアリシアが続ける。
「たしか以前、どこかの町で違法賭博の一斉摘発がありましたわよね? あの時、たしか警備隊の方々が町中に噂を流していたと思うのですが」
「……たしかに、そんなこともありましたが、今となんの関係が?」
アルベラが胡乱そうに言う。アリシアの口にする話と、今回の魔物との繋がりが全く見えてこなかったからだ。
「確かその時、前々から決まっていた検問を突如中止し、明らかにおかしな物の流れがあった賭博店を後日一斉に検問することでほぼすべての違法賭博店を検挙しましたわ。
もしも今、郊外に居る魔物が急に姿を消したらどうなるか。
おそらく、魔物に身を追われる覚えのある人間は、人気のない時間や人流に合わせてどこかへ去るでしょう。
魔物はそこを襲えば、簡単に目的を達成できるとは思いませんか?
これであぶり出せなければ、その時こそ実力行使。数を揃えて都市を襲う。そうすれば、ほぼ確実に目標を始末できますわ」
自身満々に語ったアリシアに、アルベラが目を細めながら口を開く。
「……つまりアリシア様は、外にいる魔物が近いうちに姿をくらます、と」
「私の考えではそうなると思いますわ」
アルベラが溜息を吐く。と同時に、ミーシャがあわあわとしながら――
「え? え? 話が見えてこないんだけど、アリシアちゃん、どういうこと?」
アリシアの説明にさらなる解説を求めた。そんな彼女に、アルベラがアリシアの考えを大雑把に説明する。
「つまり、何かしらの方法で目的の人物に行動を起こさせ、町の外に出ればそこを襲う。そうでなければ、町ごと襲う。そうですよね、アリシア様?」
「有り体に言えばそういうことですわね」
「じゃ、じゃあ、アサヒみたいにここも魔物に襲われるかもしれないってこと?」
あっけらかんと言い切ったアリシアにミーシャが狼狽えると、アリシアが追い討ちのように頷いた。
「ですわ」
――清々しいまでの笑顔と共に。ただし、その顔には「これで理解しましたわよね?」と書かれてあった。
そのことに気づいたのか、それとも魔物たちに町が襲われるかもと聞いたからか。いずれにしろ、「ええーー⁉」というミーシャの驚愕した声が響いたのは、言うまでもない。
彼女がこの日共有していたのは、以前彼女がギルドで聞いた魔物についてのものだった。
地図を指しながらアルベラが口を開く。
「今日も数組の冒険者たちが例の魔物を目撃したそうです。位置はここ。グレン北側に伸びる街道の上で北門から大して距離もありません。魔物は彼らの方を一瞥すると、すぐに去って行ったそうですが」
「街道……前までは森の中でしたよね?」
ミーシャが一昨日聞いた情報を確認するように口にすると、アルベラは頷いた。
「ああ。確実にグレンに近づいてきているな」
近づいている、という言葉に、アリシアが頭を抱える。
「問題は、その魔物が「何を目的にしているのか」ですわね」
「たしか、普通の魔物と行動が違いすぎるんだよね?」
「はい。何かを探しているのか、それともただの偵察か。いずれにしろ、碌なことではないというのは確かですわ」
そう口にするアリシアの脳裏には、二年ほど前に聞いた、ある噂があった。それはリオが、ジン達「大鷲の翼」の一員として行動していた際に訪れた、グレン北部の森であった魔人騒動に関するものだ。
リオがグレンを訪れたのは今から六年ほど前になるのだが、その四年後にあったガレイ攻防戦で「魔人が魔物を指揮していた」という報告があった。アリシアが思い出していたのは、その際に流れた噂である「人間が魔人化した」という噂だ。
はたしてその噂がどこから流れ始めたのかまでは定かではない。
だがその二つの噂にリオが関わっているかもしれない、ということもあり、アリシアは個人的に調べさせていたのだ。
その結果は、「あくまでも噂の域を出ない」というもの。だがとある情報筋から、グレンに居た魔物も「一部だけ組織立った動きをしていた」という情報を得ていた。
そして今回グレンに現れた魔物の動きは、彼女が聞いた魔物の行動と酷似している部分がいくつもあったのである。
ただ反対に、いくつか腑に落ちない点もあった。例えば、人前に姿を見せている点や、品定めするように人間を見ては去って行くという点だ。
「特定個人を探しているのでしょうか……」
アリシアが呟く。
それが一番正解に近いような気がしながらも、微妙に納得がいかない。
生者の敵たる魔物が、特定の個人を探すのにわざわざ噂になるような行動をするだろうか?
(彼らがとったのは、互いにとって不利益にも利益にもなる行動ですわね)
拭いきれない違和感を抱いていたアリシアに、アルベラがアリシアの言葉をアルベラが否定した。
「そうだとすれば、あまりにも目立ちすぎているかと」
「ですわよね……。向こうからすれば、騒ぎにして得する理由は……」
「無い」と言おうとしたアリシアの口が止まった。
騒ぎにする理由が、あるかもしれない。
それは各町に居る警備隊が特定の存在をあぶり出す方法とよく似ていた。
それならば、こうして騒ぎにする理由も出来る。そしてその理由が、「魔物たちを指揮する存在にとって都合の悪い人間の観察。ならびに排除」であれば?
そう考えたアリシアが、止まっていた口を動かした。
「もしも。もしもですわ。この都市の中に犯罪者の集団が居て、それをあぶり出すなら、どう動きますか?」
唐突なアリシアの質問に首を傾げるアルベラとミーシャ。そんな二人に構わずアリシアが続ける。
「たしか以前、どこかの町で違法賭博の一斉摘発がありましたわよね? あの時、たしか警備隊の方々が町中に噂を流していたと思うのですが」
「……たしかに、そんなこともありましたが、今となんの関係が?」
アルベラが胡乱そうに言う。アリシアの口にする話と、今回の魔物との繋がりが全く見えてこなかったからだ。
「確かその時、前々から決まっていた検問を突如中止し、明らかにおかしな物の流れがあった賭博店を後日一斉に検問することでほぼすべての違法賭博店を検挙しましたわ。
もしも今、郊外に居る魔物が急に姿を消したらどうなるか。
おそらく、魔物に身を追われる覚えのある人間は、人気のない時間や人流に合わせてどこかへ去るでしょう。
魔物はそこを襲えば、簡単に目的を達成できるとは思いませんか?
これであぶり出せなければ、その時こそ実力行使。数を揃えて都市を襲う。そうすれば、ほぼ確実に目標を始末できますわ」
自身満々に語ったアリシアに、アルベラが目を細めながら口を開く。
「……つまりアリシア様は、外にいる魔物が近いうちに姿をくらます、と」
「私の考えではそうなると思いますわ」
アルベラが溜息を吐く。と同時に、ミーシャがあわあわとしながら――
「え? え? 話が見えてこないんだけど、アリシアちゃん、どういうこと?」
アリシアの説明にさらなる解説を求めた。そんな彼女に、アルベラがアリシアの考えを大雑把に説明する。
「つまり、何かしらの方法で目的の人物に行動を起こさせ、町の外に出ればそこを襲う。そうでなければ、町ごと襲う。そうですよね、アリシア様?」
「有り体に言えばそういうことですわね」
「じゃ、じゃあ、アサヒみたいにここも魔物に襲われるかもしれないってこと?」
あっけらかんと言い切ったアリシアにミーシャが狼狽えると、アリシアが追い討ちのように頷いた。
「ですわ」
――清々しいまでの笑顔と共に。ただし、その顔には「これで理解しましたわよね?」と書かれてあった。
そのことに気づいたのか、それとも魔物たちに町が襲われるかもと聞いたからか。いずれにしろ、「ええーー⁉」というミーシャの驚愕した声が響いたのは、言うまでもない。
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