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第3章皇国編
第二部・皇国入り 2話
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先に動いたのはリオだった。
先手必勝。最大限の攻撃をぶつけて一瞬で蹴散らす――
その考えの元、リオが大量の氷槍を作り出し打ち出した。
魔物を襲う、何十発もの氷槍。対する魔物の方は口元に大剣を精製、それと同時に障壁を張りリオの攻撃に備えた。
直後、障壁と大剣によって粉々に砕かれていく氷槍たち。
そして氷槍を全て粉砕した魔物が「こんなものか?」と言わんばかりの視線をリオへと向ける。だがその直後、リオが遅れて発動するように設定していた魔法による氷槍たちが魔物の背後を襲う。
「な・・・!?」
だがその攻撃をただの一瞥もすることなく障壁で防いだ魔物に対し、リオが驚愕した声を上げた。
格が違う。
その言葉通りの感覚を味わったリオが得物を構えなおす。
(炎を使う訳にもいかないし、かといってこれ以上の火力は望めない。接近戦が出来れば楽なんだけど、今の状態じゃ絶対に返り討ちにあうし・・・)
まともに動かせない体。そして森を焼くような炎魔法は使えない。リオの方は、実質ハンデを背負った状態でもあった。そのため、本来近接戦闘が得意なリオでは苦戦してしまうことは間違いようが無かった。
そうなればリオが得意な魔法は残るは風系統の魔法なのだが、未だにコツを掴めていないらしく、消費する魔力の量がほかの魔法と比べて桁違いだったのだ。
(風魔法は威力だけなら一応一番強い。でも、さっきのを見ると別の魔法を使った方がいい気がするんだよね・・・)
魔法は魔力を消費すればするほど強力になる。だがそれはあくまでも一定のラインまでであり、不得手な魔法はいたずらに魔力を消費するだけである。そしてリオは人並みよりは魔力が多いが、超人並みではない。
魔力量に限りがある以上、下手に魔力消費の多い魔法を使い魔力を枯渇させるわけにはいかなかった。
(どうしよう、倒せないなら逃げるだけだけど、今回はさすがに・・・)
今リオが取れる手段は、逃げ出すか魔物を倒すかの2つだけであった。
だが今のリオの現状では倒すことはほぼ不可能。そして逃げ出すこともかなり厳しいのは間違いが無かった。だが――
(それでも可能性があるのは逃げる方だよね)
取れる手段で可能性が高かったのは、倒すことよりも今この場から逃げ出すことだった。
(問題はどうやって逃げ出すかだよね)
現状を考えると、魔物を最低でも数日は動けなくする必要がある。だが今のリオにそれを実行できるだけの力があるかと言えば「無い」というべきだろう。なぜなら、求められる最低限でさえ「リオは無傷」「魔物に重傷を負わせる」「魔力を可能な限り温存する」という3つを果たす必要があったからだ。
無傷であることは自身が限界にきているということを考えれば必然的に達成しなければならない。そこまでは今のリオでも可能だろう。だが魔物に重傷を負わせるには、リオの体が満足に動かない以上、魔法主体の戦闘となる。その状態で可能な限り魔力を温存するなど不可能な話だった。
一応の為に記すが、魔法を使った身体強化も可能と言えば可能である。
だが、それでまともに動かなくなったリオの右手が動くかと言われれば、賭けでしかない。
さらに、リオの本来の戦闘スタイルは両手に短剣を持つという二刀流のスタイルだ。そのため、攻撃も防御も二本の得物ありきで行う。
咄嗟の際には意識よりも癖の方が強く出る。だからこそリオは、長期戦になる可能性が高いであろうこのぶっつけ本番の戦闘で一刀流で戦うということを避けたのだ。
あくまでも剣は防御の為。
そう割り切って使うことが、結果的に身を守ることに繋がるのだ。
だが魔法だけで魔物を足止め出来ない以上、どこかしらで剣を使うことにはなる。その際に狙うは、足のみ。
わずかな隙ではない、今でも十分に狙える大きな隙を作るんだ。
得物を構えたままリオが魔力弾を精製する。対する魔物もリオ同様に魔力弾を精製、リオが作り出した魔力弾へ向け撃ち出した。
直後、リオも魔力弾を撃ちだす。
互いにぶつかる攻撃。そのすべてが霧散していった頃、リオの頬から一筋の血が流れ落ちた。
(まずはあの厄介な尻尾を潰せた)
だがその傷は、彼の目的からすれば些末なことだった。
根元から消え去っていく魔物の尻尾。時間と共に消えていく蛇の頭は、ほんの1分も経たない間に消え去っていった。その光景は、リオが考え付いた戦法の通りだった。
それはまず尻尾となっている蛇の頭を潰す。その後、後方から氷槍を撃ちだし足を止めると同時に、風の刃で魔物の足を全て切り裂くというものだ。
魔物の尻尾が消えた直後、背後から大量の氷槍が放たれた。それらは魔物の足元を狙い、魔物の周囲を氷漬けにしていく。
直後、何重にも張り巡らされた風の刃が魔物の足を狙う。
「グルアア!」
だが魔物の方はまるでそれを予期していたかのように跳躍、リオの背後へと降り立った。
(ばれた・・・!?)
背後に降り立った魔物へと視線を向けながらリオが驚愕する。
なぜならリオが放った風の刃は、リオのギリギリ擦れ擦れを通るように調整して撃ちだしたものだったからだ。ぱっと見には、リオの背後が安全であるなど見抜きようがない。
だが目の前に居る魔物は、まるで未来を見ていたかのように迷いなく跳躍したのである。
(まずい、今のが効かないとなると、森を焼くしか・・・)
超広範囲を一度に制圧するには炎系統の魔法が一番適任である。だがそれは開けた場所で使わなければ火事になる。あくまでも魔法は現象を起こしているだけであり「現実に関与しない」という訳ではない。つまり、森で火を点ければ簡単に燃え広がるということだ。
一応リオは水系統の魔法も使える。
だがこれから自身が起こそうとしている火災を消しきれるかは正直な所怪しかった。
せめて、何処か広場みたいに開けているところがあれば――
その直後、以前ジン達「大鷲の翼」と共に向かった小屋を思い出す。
(あそこなら道さえ分かればどこからでも行ける)
だがそこまでが遠すぎる。
現在地が正確に分からない以上、このまま駆け出して魔物を連れ歩くということも出来なかった。だが、少しずつ足止めをしながらであれば話は別だ。
(足止めをしている内にわざとずれた方向に行って、少しずつ進もう。もしも途中で遭遇しなければそのまま街道に出て僕の勝ちだ)
完璧とはいえないが、これで時間は稼ぐことが出来る。そして時間が稼げるなら、ある程度の魔力の回復も見込める。つまり、ここである程度本気を出しても構わないということだ。
そうとくれば、やることは決まっている。リオは得物を握りながら不敵な笑みを浮かべた。
リオが全身へと魔力を流す。やがて全身へ魔力がいきわたり、リオの体が何倍にも軽くなる。
(やっぱり右手は使えない、か)
ぴくりとも動かない右手を一瞥するリオ。だが身体強化を行った以上、目の前に居る魔物相手でも簡単には負けないだけの身体能力は手に入れた。
直後、リオが駆け出す。
身体強化を経て普段通りの動きが出来るようになったリオが、まるで魔物の周りを舞うように動き回る。
それと同時に出来ていく切り傷。それは魔物の表面へと出来上がっており、対抗するように攻撃を続ける魔物を怒らせた。
――グルウオオオオォォォォ!!!
木々を揺らす咆哮が辺りを包む。だがそれは魔物の足を完全に止めてしまった。
直後、魔物の体が宙に浮く。突然の浮遊感に魔物が動転した眼差しを浮かべると、その体が地面へと落ちた。
次の瞬間魔物の目に映ったのは、魔力として消えていく自身の4つの足。じたばたと足を動かそうとするが、切り離された足が動くことは一度としてなかった。
(上手くいった)
そしてその様子を静観していたリオが、自身が放った魔法の成果を確認すると同時に歩き出した。
先手必勝。最大限の攻撃をぶつけて一瞬で蹴散らす――
その考えの元、リオが大量の氷槍を作り出し打ち出した。
魔物を襲う、何十発もの氷槍。対する魔物の方は口元に大剣を精製、それと同時に障壁を張りリオの攻撃に備えた。
直後、障壁と大剣によって粉々に砕かれていく氷槍たち。
そして氷槍を全て粉砕した魔物が「こんなものか?」と言わんばかりの視線をリオへと向ける。だがその直後、リオが遅れて発動するように設定していた魔法による氷槍たちが魔物の背後を襲う。
「な・・・!?」
だがその攻撃をただの一瞥もすることなく障壁で防いだ魔物に対し、リオが驚愕した声を上げた。
格が違う。
その言葉通りの感覚を味わったリオが得物を構えなおす。
(炎を使う訳にもいかないし、かといってこれ以上の火力は望めない。接近戦が出来れば楽なんだけど、今の状態じゃ絶対に返り討ちにあうし・・・)
まともに動かせない体。そして森を焼くような炎魔法は使えない。リオの方は、実質ハンデを背負った状態でもあった。そのため、本来近接戦闘が得意なリオでは苦戦してしまうことは間違いようが無かった。
そうなればリオが得意な魔法は残るは風系統の魔法なのだが、未だにコツを掴めていないらしく、消費する魔力の量がほかの魔法と比べて桁違いだったのだ。
(風魔法は威力だけなら一応一番強い。でも、さっきのを見ると別の魔法を使った方がいい気がするんだよね・・・)
魔法は魔力を消費すればするほど強力になる。だがそれはあくまでも一定のラインまでであり、不得手な魔法はいたずらに魔力を消費するだけである。そしてリオは人並みよりは魔力が多いが、超人並みではない。
魔力量に限りがある以上、下手に魔力消費の多い魔法を使い魔力を枯渇させるわけにはいかなかった。
(どうしよう、倒せないなら逃げるだけだけど、今回はさすがに・・・)
今リオが取れる手段は、逃げ出すか魔物を倒すかの2つだけであった。
だが今のリオの現状では倒すことはほぼ不可能。そして逃げ出すこともかなり厳しいのは間違いが無かった。だが――
(それでも可能性があるのは逃げる方だよね)
取れる手段で可能性が高かったのは、倒すことよりも今この場から逃げ出すことだった。
(問題はどうやって逃げ出すかだよね)
現状を考えると、魔物を最低でも数日は動けなくする必要がある。だが今のリオにそれを実行できるだけの力があるかと言えば「無い」というべきだろう。なぜなら、求められる最低限でさえ「リオは無傷」「魔物に重傷を負わせる」「魔力を可能な限り温存する」という3つを果たす必要があったからだ。
無傷であることは自身が限界にきているということを考えれば必然的に達成しなければならない。そこまでは今のリオでも可能だろう。だが魔物に重傷を負わせるには、リオの体が満足に動かない以上、魔法主体の戦闘となる。その状態で可能な限り魔力を温存するなど不可能な話だった。
一応の為に記すが、魔法を使った身体強化も可能と言えば可能である。
だが、それでまともに動かなくなったリオの右手が動くかと言われれば、賭けでしかない。
さらに、リオの本来の戦闘スタイルは両手に短剣を持つという二刀流のスタイルだ。そのため、攻撃も防御も二本の得物ありきで行う。
咄嗟の際には意識よりも癖の方が強く出る。だからこそリオは、長期戦になる可能性が高いであろうこのぶっつけ本番の戦闘で一刀流で戦うということを避けたのだ。
あくまでも剣は防御の為。
そう割り切って使うことが、結果的に身を守ることに繋がるのだ。
だが魔法だけで魔物を足止め出来ない以上、どこかしらで剣を使うことにはなる。その際に狙うは、足のみ。
わずかな隙ではない、今でも十分に狙える大きな隙を作るんだ。
得物を構えたままリオが魔力弾を精製する。対する魔物もリオ同様に魔力弾を精製、リオが作り出した魔力弾へ向け撃ち出した。
直後、リオも魔力弾を撃ちだす。
互いにぶつかる攻撃。そのすべてが霧散していった頃、リオの頬から一筋の血が流れ落ちた。
(まずはあの厄介な尻尾を潰せた)
だがその傷は、彼の目的からすれば些末なことだった。
根元から消え去っていく魔物の尻尾。時間と共に消えていく蛇の頭は、ほんの1分も経たない間に消え去っていった。その光景は、リオが考え付いた戦法の通りだった。
それはまず尻尾となっている蛇の頭を潰す。その後、後方から氷槍を撃ちだし足を止めると同時に、風の刃で魔物の足を全て切り裂くというものだ。
魔物の尻尾が消えた直後、背後から大量の氷槍が放たれた。それらは魔物の足元を狙い、魔物の周囲を氷漬けにしていく。
直後、何重にも張り巡らされた風の刃が魔物の足を狙う。
「グルアア!」
だが魔物の方はまるでそれを予期していたかのように跳躍、リオの背後へと降り立った。
(ばれた・・・!?)
背後に降り立った魔物へと視線を向けながらリオが驚愕する。
なぜならリオが放った風の刃は、リオのギリギリ擦れ擦れを通るように調整して撃ちだしたものだったからだ。ぱっと見には、リオの背後が安全であるなど見抜きようがない。
だが目の前に居る魔物は、まるで未来を見ていたかのように迷いなく跳躍したのである。
(まずい、今のが効かないとなると、森を焼くしか・・・)
超広範囲を一度に制圧するには炎系統の魔法が一番適任である。だがそれは開けた場所で使わなければ火事になる。あくまでも魔法は現象を起こしているだけであり「現実に関与しない」という訳ではない。つまり、森で火を点ければ簡単に燃え広がるということだ。
一応リオは水系統の魔法も使える。
だがこれから自身が起こそうとしている火災を消しきれるかは正直な所怪しかった。
せめて、何処か広場みたいに開けているところがあれば――
その直後、以前ジン達「大鷲の翼」と共に向かった小屋を思い出す。
(あそこなら道さえ分かればどこからでも行ける)
だがそこまでが遠すぎる。
現在地が正確に分からない以上、このまま駆け出して魔物を連れ歩くということも出来なかった。だが、少しずつ足止めをしながらであれば話は別だ。
(足止めをしている内にわざとずれた方向に行って、少しずつ進もう。もしも途中で遭遇しなければそのまま街道に出て僕の勝ちだ)
完璧とはいえないが、これで時間は稼ぐことが出来る。そして時間が稼げるなら、ある程度の魔力の回復も見込める。つまり、ここである程度本気を出しても構わないということだ。
そうとくれば、やることは決まっている。リオは得物を握りながら不敵な笑みを浮かべた。
リオが全身へと魔力を流す。やがて全身へ魔力がいきわたり、リオの体が何倍にも軽くなる。
(やっぱり右手は使えない、か)
ぴくりとも動かない右手を一瞥するリオ。だが身体強化を行った以上、目の前に居る魔物相手でも簡単には負けないだけの身体能力は手に入れた。
直後、リオが駆け出す。
身体強化を経て普段通りの動きが出来るようになったリオが、まるで魔物の周りを舞うように動き回る。
それと同時に出来ていく切り傷。それは魔物の表面へと出来上がっており、対抗するように攻撃を続ける魔物を怒らせた。
――グルウオオオオォォォォ!!!
木々を揺らす咆哮が辺りを包む。だがそれは魔物の足を完全に止めてしまった。
直後、魔物の体が宙に浮く。突然の浮遊感に魔物が動転した眼差しを浮かべると、その体が地面へと落ちた。
次の瞬間魔物の目に映ったのは、魔力として消えていく自身の4つの足。じたばたと足を動かそうとするが、切り離された足が動くことは一度としてなかった。
(上手くいった)
そしてその様子を静観していたリオが、自身が放った魔法の成果を確認すると同時に歩き出した。
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