193 / 231
第3章皇国編
第二部・皇国入り 1話
しおりを挟む
リオが山道を進むこと1ヶ月半。その後なんとかユーラザニア山脈を越えたリオは、グレン北部から東西に広がる森林で彷徨っていた。
ユーラザニア山脈で魔物に襲われた後に別の魔物に襲われたリオ。それをなんとか凌ぎ切ったものの方向感覚が無くなってしまったリオは、越えてきた山脈を背にしながら森林地帯を進んでいた。
山脈を背に進めば高確率でエストラーダ皇国に入れるはず。
そう考えたリオは、ユーラザニア山脈を背にしながら進んでいたのだが――
(あんな建物、絶対にエストラーダ皇国にはないよね)
森を抜け視界に映った砦を目にし、自身が進んでいた方角が間違っていたことを悟っていた。
バートンから貰った地図を片目に現在位置を確認する。
(おそらく今居るのがトリスタンの北部。となれば、ここから右側に進めば皇国に入れるはず)
地図を確認しながらリオが右手を向く。
彼の視界に映ったのは、遠くにぼんやりと映る建物と石畳の街道。そして視界の端に映る森林地帯だった。
はやく進まないと。
その思いのままにリオが足を進める。そのどこかおぼつかない足取りは、リオの限界が近いことを示していた。
それから約半月が経過した。
現在リオは、グレン北部から広がる森林地帯を西へ向け行軍していた。
辺りは鬱蒼とした森林が広がっており、いつ迷子になるか分からない。そのため、前回の失敗を踏まえ、山脈を背にしながら数時間に一度空を見上げては方角を確かめながら進んでいた。
すると、不意にくぅ~、と腹の虫が鳴る。
(おなかすいたなぁ・・・)
食料は山脈を越えた時点で尽きた。そのため、ここまで木々に実る果実を口にしながらなんとか飢えをしのいできたリオだったが、さすがに足りていなかったらしく、時折気が狂いそうになっていた。
再度、腹の虫が鳴り、一旦足を止めたリオが周囲を見渡す。
――とにかく何でもいい、食べられるものを探そう。
そうして周囲の木々に果実が実っていないかと目を皿にして辺りを見渡していたリオだったが――
(・・・進もう)
何も見つからなかったのだろう、大きな溜息と共に進み始めた。
ゆらりゆらりと揺れるように歩いていくリオ。彼の痩せこけた頬と、どこかぼんやりとした目線は、ここしばらくまともな食事にありつけていないということをよく物語っていた。
――なんでここに居るんだっけ。
時折、自分がどうしてここに居るのかすらも忘れそうになる。
虚偽の罪状で刑務所へ収監されてからおよそ4ヶ月。刑務所を抜け出してからおよそ3ヶ月半。長すぎるこの逃避行は、一体いつまで続くんだろう。この国を出るまで?皇国に入ってからも?それとも、これから先永遠に?
先が見えない恐怖。不安。絶望感。
それら全てが、まるで重圧みたいにのしかかってくる。
もう終わってもいいかな。もう止めてもいいかな。もう、諦めてもいいよね。
――もうこのまま、横になってもいいよね――
不意に、体が揺れた。ドサッという音と共に、視界には森の木々が映った。
サアアアァという、葉が擦れる音と共に風が顔に吹き付ける。
冷たい。そっか、今メルンは冬季か。そういえば、メルンで会ったあの人たち、元気かな。宿屋でお酒を飲んでいた人は、今頃また騒いでいるのかな。
騒いでるっていえば、グレンのフーさんとデーンさん。きっと今もあの日みたいにギルドで茶番劇をしてるのかな。
劇・・・そういえば、アリシア様は劇が好きだって言ってたっけ。ミーシャさんも。――そうだ、今度みんなで観に行こう。きっと楽しいはず。
楽しいと言えば、ミストに居るお義母さんとお義父さんとお父さん、それからグルセリアさん達にも会いたいな。アリシア様のことを紹介したら絶対勘違いしそうだけど、きっと楽しい。
そうだ、お母さんにもアリシア様のことを伝えないと。それと、ミリーさんにも、オーガスさんにも。あ、あとビロードさんも。それからバートンさんにはお礼を言わないと。
そうだ、ここまでそうやって来た。だったら、ここで諦めたら駄目、だよね。
重たい体を持ち上げる。喉も乾いたし、おなかだって空いた。――でも、絶対に死ねない。死ぬわけにはいかない。
だって、僕にはやらないといけないことが――会いたい人たちがたくさんいるから!
数時間後、リオはぼんやりとしてきた視界の端に、木々の隙間から覗く石壁を見つけた。
その方向へと目を凝らすと、どこか見覚えのある城壁がはっきりとリオの瞳に映った。
(グレンだ)
そうリオが確信するまでに時間は要らなかった。
距離としては、あと半月もあればたどり着ける。もう少し、もう少し。
わずかに早くなるリオの足並み。だがそれを阻害するように近くの茂みが揺れた。
(――追ってきたのか・・・!)
揺れた茂み。その上から、まるでこちらを監視するように睨みを利かせていた存在がいたのだ。――つい先日、リオがユーラザニア山脈で戦った魔物の尻尾だ。
直後、リオめがけて酸が放たれた。その攻撃をリオが紙一重で回避する。
(っ、最悪なパターンってやつだね)
リオが小さく舌打ちを打つ。それと同時に左手で引き抜いた短剣を、これから姿を現すであろう魔物へと向ける。
ガサガサガサ。果たしてリオの予想通り、茂みの木の葉が揺れると共に、獅子の顔を持つ魔物が姿を現した。
(なんとなく前に会った魔物に気配が似てる・・・?)
目の前に現れた魔物に対し、リオがそんな感想を抱く。だが、その魔物は以前会った魔物とは異なり、リオに向け明確な敵意を向けていた。
リオが手にした短剣を魔力を使って片手剣サイズへと変化させる。
「・・・」
「・・・」
対峙する両者。見ている側が息をすることを忘れそうなほどに張り詰めた空気は、先に動いた側によって破られた。
ユーラザニア山脈で魔物に襲われた後に別の魔物に襲われたリオ。それをなんとか凌ぎ切ったものの方向感覚が無くなってしまったリオは、越えてきた山脈を背にしながら森林地帯を進んでいた。
山脈を背に進めば高確率でエストラーダ皇国に入れるはず。
そう考えたリオは、ユーラザニア山脈を背にしながら進んでいたのだが――
(あんな建物、絶対にエストラーダ皇国にはないよね)
森を抜け視界に映った砦を目にし、自身が進んでいた方角が間違っていたことを悟っていた。
バートンから貰った地図を片目に現在位置を確認する。
(おそらく今居るのがトリスタンの北部。となれば、ここから右側に進めば皇国に入れるはず)
地図を確認しながらリオが右手を向く。
彼の視界に映ったのは、遠くにぼんやりと映る建物と石畳の街道。そして視界の端に映る森林地帯だった。
はやく進まないと。
その思いのままにリオが足を進める。そのどこかおぼつかない足取りは、リオの限界が近いことを示していた。
それから約半月が経過した。
現在リオは、グレン北部から広がる森林地帯を西へ向け行軍していた。
辺りは鬱蒼とした森林が広がっており、いつ迷子になるか分からない。そのため、前回の失敗を踏まえ、山脈を背にしながら数時間に一度空を見上げては方角を確かめながら進んでいた。
すると、不意にくぅ~、と腹の虫が鳴る。
(おなかすいたなぁ・・・)
食料は山脈を越えた時点で尽きた。そのため、ここまで木々に実る果実を口にしながらなんとか飢えをしのいできたリオだったが、さすがに足りていなかったらしく、時折気が狂いそうになっていた。
再度、腹の虫が鳴り、一旦足を止めたリオが周囲を見渡す。
――とにかく何でもいい、食べられるものを探そう。
そうして周囲の木々に果実が実っていないかと目を皿にして辺りを見渡していたリオだったが――
(・・・進もう)
何も見つからなかったのだろう、大きな溜息と共に進み始めた。
ゆらりゆらりと揺れるように歩いていくリオ。彼の痩せこけた頬と、どこかぼんやりとした目線は、ここしばらくまともな食事にありつけていないということをよく物語っていた。
――なんでここに居るんだっけ。
時折、自分がどうしてここに居るのかすらも忘れそうになる。
虚偽の罪状で刑務所へ収監されてからおよそ4ヶ月。刑務所を抜け出してからおよそ3ヶ月半。長すぎるこの逃避行は、一体いつまで続くんだろう。この国を出るまで?皇国に入ってからも?それとも、これから先永遠に?
先が見えない恐怖。不安。絶望感。
それら全てが、まるで重圧みたいにのしかかってくる。
もう終わってもいいかな。もう止めてもいいかな。もう、諦めてもいいよね。
――もうこのまま、横になってもいいよね――
不意に、体が揺れた。ドサッという音と共に、視界には森の木々が映った。
サアアアァという、葉が擦れる音と共に風が顔に吹き付ける。
冷たい。そっか、今メルンは冬季か。そういえば、メルンで会ったあの人たち、元気かな。宿屋でお酒を飲んでいた人は、今頃また騒いでいるのかな。
騒いでるっていえば、グレンのフーさんとデーンさん。きっと今もあの日みたいにギルドで茶番劇をしてるのかな。
劇・・・そういえば、アリシア様は劇が好きだって言ってたっけ。ミーシャさんも。――そうだ、今度みんなで観に行こう。きっと楽しいはず。
楽しいと言えば、ミストに居るお義母さんとお義父さんとお父さん、それからグルセリアさん達にも会いたいな。アリシア様のことを紹介したら絶対勘違いしそうだけど、きっと楽しい。
そうだ、お母さんにもアリシア様のことを伝えないと。それと、ミリーさんにも、オーガスさんにも。あ、あとビロードさんも。それからバートンさんにはお礼を言わないと。
そうだ、ここまでそうやって来た。だったら、ここで諦めたら駄目、だよね。
重たい体を持ち上げる。喉も乾いたし、おなかだって空いた。――でも、絶対に死ねない。死ぬわけにはいかない。
だって、僕にはやらないといけないことが――会いたい人たちがたくさんいるから!
数時間後、リオはぼんやりとしてきた視界の端に、木々の隙間から覗く石壁を見つけた。
その方向へと目を凝らすと、どこか見覚えのある城壁がはっきりとリオの瞳に映った。
(グレンだ)
そうリオが確信するまでに時間は要らなかった。
距離としては、あと半月もあればたどり着ける。もう少し、もう少し。
わずかに早くなるリオの足並み。だがそれを阻害するように近くの茂みが揺れた。
(――追ってきたのか・・・!)
揺れた茂み。その上から、まるでこちらを監視するように睨みを利かせていた存在がいたのだ。――つい先日、リオがユーラザニア山脈で戦った魔物の尻尾だ。
直後、リオめがけて酸が放たれた。その攻撃をリオが紙一重で回避する。
(っ、最悪なパターンってやつだね)
リオが小さく舌打ちを打つ。それと同時に左手で引き抜いた短剣を、これから姿を現すであろう魔物へと向ける。
ガサガサガサ。果たしてリオの予想通り、茂みの木の葉が揺れると共に、獅子の顔を持つ魔物が姿を現した。
(なんとなく前に会った魔物に気配が似てる・・・?)
目の前に現れた魔物に対し、リオがそんな感想を抱く。だが、その魔物は以前会った魔物とは異なり、リオに向け明確な敵意を向けていた。
リオが手にした短剣を魔力を使って片手剣サイズへと変化させる。
「・・・」
「・・・」
対峙する両者。見ている側が息をすることを忘れそうなほどに張り詰めた空気は、先に動いた側によって破られた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる