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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第3章皇国編

第二部・皇国入り 1話

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 リオが山道を進むこと1ヶ月半。その後なんとかユーラザニア山脈を越えたリオは、グレン北部から東西に広がる森林で彷徨っていた。
 ユーラザニア山脈で魔物に襲われた後に別の魔物に襲われたリオ。それをなんとか凌ぎ切ったものの方向感覚が無くなってしまったリオは、越えてきた山脈を背にしながら森林地帯を進んでいた。
 山脈を背に進めば高確率でエストラーダ皇国に入れるはず。
 そう考えたリオは、ユーラザニア山脈を背にしながら進んでいたのだが――

(あんな建物、絶対にエストラーダ皇国にはないよね)

 森を抜け視界に映った砦を目にし、自身が進んでいた方角が間違っていたことを悟っていた。
 バートンから貰った地図を片目に現在位置を確認する。

(おそらく今居るのがトリスタンの北部。となれば、ここから右側に進めば皇国に入れるはず)

 地図を確認しながらリオが右手を向く。
 彼の視界に映ったのは、遠くにぼんやりと映る建物と石畳の街道。そして視界の端に映る森林地帯だった。
 はやく進まないと。
 その思いのままにリオが足を進める。そのどこかおぼつかない足取りは、リオの限界が近いことを示していた。



 それから約半月が経過した。
 現在リオは、グレン北部から広がる森林地帯を西へ向け行軍していた。
 辺りは鬱蒼とした森林が広がっており、いつ迷子になるか分からない。そのため、前回の失敗を踏まえ、山脈を背にしながら数時間に一度空を見上げては方角を確かめながら進んでいた。
 すると、不意にくぅ~、と腹の虫が鳴る。

(おなかすいたなぁ・・・)

 食料は山脈を越えた時点で尽きた。そのため、ここまで木々に実る果実を口にしながらなんとか飢えをしのいできたリオだったが、さすがに足りていなかったらしく、時折気が狂いそうになっていた。
 再度、腹の虫が鳴り、一旦足を止めたリオが周囲を見渡す。
 ――とにかく何でもいい、食べられるものを探そう。
 そうして周囲の木々に果実が実っていないかと目を皿にして辺りを見渡していたリオだったが――

(・・・進もう)

 何も見つからなかったのだろう、大きな溜息と共に進み始めた。
 ゆらりゆらりと揺れるように歩いていくリオ。彼の痩せこけた頬と、どこかぼんやりとした目線は、ここしばらくまともな食事にありつけていないということをよく物語っていた。

 ――なんでここに居るんだっけ。
 時折、自分がどうしてここに居るのかすらも忘れそうになる。
 虚偽の罪状で刑務所へ収監されてからおよそ4ヶ月。刑務所を抜け出してからおよそ3ヶ月半。長すぎるこの逃避行は、一体いつまで続くんだろう。この国を出るまで?皇国に入ってからも?それとも、これから先永遠に?
 先が見えない恐怖。不安。絶望感。
 それら全てが、まるで重圧みたいにのしかかってくる。
 もう終わってもいいかな。もう止めてもいいかな。もう、諦めてもいいよね。
 ――もうこのまま、横になってもいいよね――
 不意に、体が揺れた。ドサッという音と共に、視界には森の木々が映った。
 サアアアァという、葉が擦れる音と共に風が顔に吹き付ける。
 冷たい。そっか、今メルンは冬季か。そういえば、メルンで会ったあの人たち、元気かな。宿屋でお酒を飲んでいた人は、今頃また騒いでいるのかな。
 騒いでるっていえば、グレンのフーさんとデーンさん。きっと今もあの日みたいにギルドで茶番劇をしてるのかな。
 劇・・・そういえば、アリシア様は劇が好きだって言ってたっけ。ミーシャさんも。――そうだ、今度みんなで観に行こう。きっと楽しいはず。
 楽しいと言えば、ミストに居るお義母さんとお義父さんとお父さん、それからグルセリアさん達にも会いたいな。アリシア様のことを紹介したら絶対勘違いしそうだけど、きっと楽しい。
 そうだ、お母さんにもアリシア様のことを伝えないと。それと、ミリーさんにも、オーガスさんにも。あ、あとビロードさんも。それからバートンさんにはお礼を言わないと。
 そうだ、ここまでそうやって来た。だったら、ここで諦めたら駄目、だよね。
 重たい体を持ち上げる。喉も乾いたし、おなかだって空いた。――でも、絶対に死ねない。死ぬわけにはいかない。
 だって、僕にはやらないといけないことが――会いたい人たちがたくさんいるから!

 数時間後、リオはぼんやりとしてきた視界の端に、木々の隙間から覗く石壁を見つけた。
 その方向へと目を凝らすと、どこか見覚えのある城壁がはっきりとリオの瞳に映った。

(グレンだ)

 そうリオが確信するまでに時間は要らなかった。
 距離としては、あと半月もあればたどり着ける。もう少し、もう少し。
 わずかに早くなるリオの足並み。だがそれを阻害するように近くの茂みが揺れた。

(――追ってきたのか・・・!)

 揺れた茂み。その上から、まるでこちらを監視するように睨みを利かせていた存在がいたのだ。――つい先日、リオがユーラザニア山脈で戦った魔物の尻尾だ。
 直後、リオめがけて酸が放たれた。その攻撃をリオが紙一重で回避する。

(っ、最悪なパターンってやつだね)

 リオが小さく舌打ちを打つ。それと同時に左手で引き抜いた短剣を、これから姿を現すであろう魔物へと向ける。
 ガサガサガサ。果たしてリオの予想通り、茂みの木の葉が揺れると共に、獅子の顔を持つ魔物が姿を現した。

(なんとなく前に会った魔物に気配が似てる・・・?)

 目の前に現れた魔物に対し、リオがそんな感想を抱く。だが、その魔物は以前会った魔物とは異なり、リオに向け明確な敵意を向けていた。
 リオが手にした短剣を魔力を使って片手剣サイズへと変化させる。

「・・・」

「・・・」

 対峙する両者。見ている側が息をすることを忘れそうなほどに張り詰めた空気は、先に動いた側によって破られた。
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