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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第3章皇国編

第一部・網を敷く 最終話

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 2日前にグレンにて二手に分かれることに決めたアリシア達は、この日もそれぞれで情報収集を行っていた。
 いつものように集まらない、リオに関する情報。だがこの日は少しだけ異なっていたようで、町人の一人に話を聞いていたアルベラの表情がわずかに強張っていた。

「ご老人、それは本当のことですか?」

「ああ、つい数日前に冒険者たちが変な魔物が確認されたってギルドで騒いでいたよ。まったく、物騒な話さ」

 それはさかのぼること3日前。偶然グレン北部に広がる森林地帯で、獅子の顔をした魔物が確認されたという話だ。
 だが獅子型の魔物であれば以前も確認されており、その程度ではギルドが騒ぐといったこともないだろう。それは変異種であっても然りだ。
 しかし、今回確認された魔物はその尻尾に大きな特徴があった。

「なんでも、蛇の頭が尻尾になっているとかって言っててね。個体としてもかなり強かったらしい」

 探し人が出会っていないことだけを祈るよ。
 そう言い残し立ち去っていく老人。その後ろ姿を見送りながら、アルベラが一人神妙な面持ちのまま思案顔になっていく。
 通常、変異種は複数の生物が合わさったような姿をしている。だが今まで確認された変異種は全て尻尾に顔など無かったのだ。
 そして3日前に確認されたという魔物。アルベラはその話を聞いた瞬間、わずかに嫌な予感を抱いたのだ。いや、それは予想に近かったかもしれない。
 ――もしも、少年がその魔物と出会ったら?
 機械魔導連邦にしろメザイア連邦にしろ、長距離の移動となることには間違いない。そしてその日々は完全なる逃避行だ。常に神経を張り詰めている状態でその魔物と出会えばどうなるだろうか。

(正直、私が同じ立場なら御免被りたいところだな)

 それに食糧の問題もある。
 あとほんの数週間でリオがいなくなってから半年が経とうとしていた。おそらく相当厳しい生活を送っているに違いない。いくらかのお金は持ち合わせているだろうが、下手をすれば着の身着のまま逃げ回っている可能性だってある。
 もしもそうならば、とアルベラが考えたところで、ぶるり、と彼女の体が震える。

(・・・念のため、その魔物についても調べておく必要がありそうだな)

 そう考えたアルベラは、グレンのギルドへ向かったのだった。

 皇国ギルド・グレン支部。
 広さだけで言えば王都にあるギルドよりも広い建物の一階では、アルベラがくだんの魔物に関する情報を集めようと、周囲に居る同業者や元同業者たちに声をかけて回っていた。
 するとどうやら、運が良いことにその魔物と戦闘を行ったという冒険者に話を聞くことが出来たようだった。

「体は豹みたいにしなやかな体だったな。で、雄の獅子の頭に尾っぽが蛇の頭。偶然出くわして戦ったんだが、とりあえず三人で逃げ出すのだけが精一杯だったな」

 冒険者の男性が左右に立っていた面々を指しながら当時の状況を事細かにアルベラへと伝えていく。

「んで、何種類か攻撃方法があるみたいでよ、俺達が受けたのは酸と大剣での近接戦だった。ほかのやつらの話では、やべえくらいの量の魔法とか爪での近接戦とかを聞いている」

「二通りの近接戦闘、酸や魔法による中・遠距離攻撃か・・・ありがとう、参考になった」

 男性から話を聞き終えたアルベラが頭を下げる。

「いいってことよ。・・・ただ、会っても戦おうとはしない方が身のためだぜ」

 そう言い残し、仲間たちと共に去って行く男性。その姿を見送りながら、アルベラがこれまでに得られた情報の整理を始めた。
 彼女がこれまでに得た情報は、件の魔物は新種の変異種である可能性が非常に高いということ。攻撃方法は遠近両方に対応しており、主な攻撃手段は酸、魔法による中・遠距離戦闘と大剣による近距離戦闘。防御方法は基本的に回避だが、障壁のような物での防御方法も存在しているということだった。
 遠距離と近距離の攻防をどちらもこなせるという万能さ。そして獣の機動力を有している件の魔物は、知れば知るほどに「こんな出鱈目なものが存在していいのだろうか」とアルベラに思わせていた。
 他にも詳細な戦闘状況も聞いていた彼女にはその魔物に近衛騎士が数名で掛かっても秒殺されるだろうという確証があった。なんせ、先ほど彼女が話をした冒険者三人組は、グレンに居る冒険者の中でも上位に位置する手練れたちだったからだ。そんな彼らが逃げ帰ることしかできなかったという事実は、ギルドが大騒ぎするには十分すぎる内容だろう。おそらく、以前魔人が二体同時に現れた時並みに動揺したに違いない。

(・・・こうなればここに一人を残す方が危険だ。偶然ではあるが、アリシア様の案があってよかった)

 もしもあのまま自分の案のまま行動していたら――
 その先を考えたアルベラが内心で冷や汗を掻きながら、それよりも早く良い案を提案してくれたアリシアに感謝の念を抱く。

(さて、一度宿屋へ帰らなければ。皆の報告も気になることだしな)

 そうしてギルドを後にするアルベラ。リオに関することではないが、今後の行動を決定するための有力な情報が得られたからだろう、彼女の足取りは心なしか軽やかだった。



「――以上が私がギルドで得た情報だ。おそらく以前、機械魔導連邦で出会った魔物に相当する存在だろう」

 その日の夜。アリシア達が宿泊する宿屋では、アルベラが自身の得た情報を話していた。
 ショウ、エドワード、シオンの三人は大した情報を得られず、アリシアが「魔物に関する噂を聞いてきた」というところで、アリシアの提示した情報を補足するようにアルベラが口を開いたのだ。
 アルベラからもたらされた情報を聞いた面々が当時のことを思い出したようで、小さく項垂れた。

「あの時の魔物並みってことは、俺たちじゃ歯が立たないような奴ってことだよな・・・」

 ショウが不安げに小さく呟く。
 結局あの時魔物と戦ったメンバーの中でまともに魔物と立ち合えたのは、レーベとふぐおだけだったのだ。

「残念だがそうなるな。だからこの地には私とアリシア様。そしてミーシャの三人を残すことにする。ショウ、エドワード、シオンの三人はまず王都に向かいこれをギルドで渡してくれ。その次はガレイでこっちをジン殿に渡すんだ」

 そんな彼に対し、アルベラはフォローすることなく現実だけを口にする。それと同時に、ショウへと二つの手紙を渡した。

「私からの手紙だと言えば王都のギルドは動いてくれるだろう。ガレイの方はギルドで配達員に任せるか直接届けてくれ。いいな」

 アルベラから手紙を受け取ったショウがこくりと頷く。

「よし、なら明日から別行動だ。・・・アリシア様、構いませんか?」

「ええ、それが一番良いでしょうから」

「では皆、そのように」

 アルベラの言葉に全員が頷く。そうしてその翌日、ショウ、エドワード、シオンの三人はエストラーダ皇国王都・エルドラドへ向け旅立った。
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