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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第3章皇国編

第一部・網を敷く 2話

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「止まれ!」

 アリシア達がトリスタンを出立した翌日。トリスタン東部にある分岐より東側へと進んでいたアッガス、マックス、レーベ、アラン、ふぐおの4人と1頭は、機械魔導連邦の中心地である国都へと進んでいた。
 その道中、機械魔導連邦の兵士らしき人々に呼び止められたアッガス達は、困惑した表情を浮かべながらも彼らの言う通りにその歩みを止めていた。
 片言で叫んだ兵士が、アッガス達の装いを品定めするかのように見ていく。

「・・・行け」

 誰かを探しているのだろう。少しすると、目的を果たせなかったのか、兵士が鼻を鳴らしながらアッガス達にそう告げた。

「なんか嫌な奴らだったな」

 兵士たちと別れてしばらく。不意にそう呟いたアッガスが後頭部へと手を回しながら口を尖らせた。
 すると、その彼の態度に賛同するようにマックス達が各々に感想を呟く。
 全員が不満気な言葉を口にしながら、既に刈り入れが終わり土が露出した畑の中を通る街道を進む。

(だが、あいつらの言動・・・誰かを探していることは間違いないんだが・・・)

 そんな中でただ一人、アッガスだけが先ほど対峙した兵士たちの言動を思い返しながら疑念を内心で呟いていた。
 まさか、リオか?
 直後、はっとしたように思いつく。だがそれが希望的観測であることは、彼自身がよく分かっていた。

(そんな都合の良いことがあるわけない。・・・だが、もしも本当だったら、どうする)

 小さな疑問から生まれた、小さな疑念。そして予感。
 それらを全て溜飲と共に記憶の隅へしまい込んだアッガスは、彼らが向かう目的地・機械魔導連邦国都への道中を進んでいく。
 その様子を、遥か後方、距離にして数キロは離れている位置から一人の老人が眺めていた。

(さて、こちらは気づいた者がいるようだな)

 姿の視認すら困難な距離で、老人がアッガスの心中を見抜いたように呟く。

(余計な輩には退場してもらう必要があるが・・・はたして彼はどこまで気づいたのか)

 すこし直接的に聞いてみるとするか。
 口元を歪める老人。直後彼の周囲に魔法陣が浮かび上がったかと思うと、気づいた頃には老人の姿は無かった。



 それから数日後。
 刈り入れが終わり、土が露出した畑に挟まれた街道を進んでいたアッガス達の元へ、向かい側から一人の老人が歩いてきた。
 既に色素が抜け白くなった老人の髪。それを隠すように羽織っている外套とフードは、旅人らしき佇まいを強調するように薄汚れていた。
 先頭を進んでいたアッガスがハンドサインを送り、街道の端に寄るように伝える。すると――

「そこの旅の方」

 しわがれた声と共に、向かい側から来た老人がアッガス達に声をかけた。

「実は探し人をしていてな、そこの少年より年下くらいの少年なのじゃが、見ておらんか?」

 急に声をかけてきた老人に驚くアッガスだったが、彼の佇まいが旅人のそれでないような感覚を覚え、警戒するように口を開いた。

「いや、俺たちは見てないな」

「そうか。――おお、そうだ。最近ここいらで大罪人がおるらしくての、わしもさっき兵士の方々から聞かれたんじゃ」

「大罪人、ね」

 老人の話を聞き、アッガスが考える素振りを見せる。

「そういうことじゃ。気を付けなされよ」

 そう言い残し立ち去る老人。そうして老人が充分な距離をとったことを確認すると、彼の隣で思案顔になっていたレーベに声をかけた。

「・・・レーベ、今の話、どう思う」

「普通に考えればあの人が罪人でしょうけど、それよりも気になったことが」

「お前もか」

「はい」

 アッガスの台詞に力強く頷くレーベ。
 だがマックスとアランは彼らの抱いていた不審点が分からないようで、二人の会話に首を傾げていた。

「レーベくん、どこがおかしいの?」

 頭をひねっても分からなかったのだろう。アランがレーベに縋るような視線を向けながら尋ねた。

「言葉だ」

「言葉?」

 レーベからの答えを聞き、アランが増々訳が分からないといった風に首を傾げる。
 そんなアランの姿をちょっと可愛いなと思いながら、レーベが説明を始める。

「何日か前に俺たちと会った兵士は最初この国の、機械魔導連邦での標準語で話していた」

「そういえば分からなかったかも」

「だろ?その後、向こうも言葉が通じないと分かったのかユースティアナ語に変えた。けど――」

「さっきの人、初めからわたしたちの分かる言葉で話していたってこと?」

 レーベの説明を聞き、アッガスとレーベが抱いた不審点の正体が分かったようで、アランが声を上げる。
 それを聞いたアッガスがレーベの説明を補完するように自身の推理を口にした。

「ここは俺たちの話す言語は外国語で扱われる。それなのに、わざわざ初めからその外国語を使ったのはいくら何でも怪しいって訳だ」

「なるほど。レーベくん、凄い!」

 冷静に推理を展開したアッガスに興奮したのか、それとも違和感にすぐに気づいたレーベに興奮したのか、それとも理由などないのか――
 いずれにしろ、アランがレーベへと抱き着いたことに変わりは無かった。

「あれ?俺も一応気づいていたんだけどな・・・まあ、別にいいけどよ」

 アランの評価がレーベにしか向いていないという状況に、思わず声を上げてしまうアッガス。
「扶桑鴉」の副リーダーである彼にとって、正直なところ評価はどうでもよかった。――だがそれでも、アッガスのアすら出てこなかったことはさすがに堪えたようだった。だが――

(まあ、付き合ってるんだから当然だわな)

 恋人同士だ、好きな相手が格好良ければアランの反応は別段おかしいものではないだろう。
 そう考えたアッガスの表情が、微笑ましく見守るものへと変化していく。
 すると、いつの間にか傍に来ていたマックスが尊敬するように呟いた。

「アッガス、すごいっすね」

「何がだ?」

「いや、大人だなと」

「そうか。なら、お前も十分に大人だろうに」

「そうすかね?」

「あれを見て微笑まし気に出来るんなら心に余裕はあるだろうさ」

「大人のハードル低いっすね」

「だな。・・・だが、俺たちは負けてるな」

「・・・う、頭が。でも、オレにはリオさんがいるんで!問題ないっす!・・・多分」

「お前、それは敗北宣言と同義だぞ」

 互いにラブラブな雰囲気の漂うレーベとアラン。
 その二人を見守りながら言葉を交わしていたアッガスとマックスは「年長者としての余裕」はあっても「恋人もしくは婚約者がいない」という現状にしばらく打ちのめされることになるのだが、それは別のお話。
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