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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第3章機械魔道連邦編

第一部・ヴァリアント 3話

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 リオがダラスと話をした翌日。昨日と同じように刑務作業を行っていたリオは、看守の1人から声をかけられていた。
 どうやら看守にはリオに頼みたい仕事があるらしく、リオはその説明をしている最中だった。

「備品の移動?」

 看守からの大体の説明を受けたリオが首を傾げる。

「明日、新たな囚人来る。そのための準備、手伝う」

 看守がリオに頼んだ仕事――それは、新たに移送されてくる囚人の為の居住空間を整えることだった。
 内容としては牢内の掃除と家具類の点検・整備などが主な仕事の内容なのだが、リオの居るヴァリアント刑務所では元から居る囚人たちにそういった仕事を割り振ることがあるようで、今回看守がリオに声をかけたのもそういった理由からであった。
 直後、リオに対し説明を終えた看守が、近くに居る別の囚人にも声をかけるために辺りを見回し――

「――――」

「――」

「―――」

 周りに居た囚人たち数名に声をかけていった。

「いくぞ」

 そうして看守から仕事の内容を聞いた囚人たちと共に、リオは彼に連れられながら屋内へと入っていったのだった。



 刑務所内の備品置き場。リオ達の入っている牢屋に備え付けられている申し訳程度の窓とは大きく異なり、開閉まで出来る大きな窓から差し込んでくる光は、部屋の隅々まで明るく照らしていた。
 そのせいでやたらと埃の目立つ備品置き場は、長いこと清掃が行われていないのか、それとも文字通りの物置き場とされているのか――
 兎にも角にも「粗大ごみ置き場」と表現するのが近しい備品置き場の中では、リオをはじめとする囚人たちによって、まだ使える備品の整理が行われていた。

「それ、捨てる。――――、――。それ、外に出す」

 彼らをここまで連れて来た看守の指示の元、次々と備品たちを運び出していくリオ達。

「次は清掃」

 そうして備品置き場で作業する事、約1時間。
 あらかた中の物を出し終えたリオ達は2つのグループに別れ、片方は備品の点検を、もう片方は備品置き場内の清掃に取り掛かり始めていた。

(なんで部屋を準備するだけなのに掃除が始まってるんだろう・・・?)

 ふと、現在の状況に違和感を抱いたリオが内心で呟く。なぜなら、彼の思っていた仕事の内容と、彼が現実でしている作業があまりにも乖離しすぎていたからであった。
 連れて来られてから始めの1時間は、まるで粗大ごみのように乱雑に積まれていた家具類を物置となっている備品置き場から通路へと運び出し、看守の元で仕分け。その後は2手に別れてひたすら備品置き場と家具類の清掃作業を行っていたのである。これが「居住空間の準備です」と言われて納得できる人間は少ないだろう。
 それからしばらくの間清掃作業が続き、やがてリオ達全員が看守に対して「元々の目的を忘れたのではないのか」と疑い始めた頃。

「移動する」

 急に作業の中止を宣言した看守がそう全員に告げ、新たに仕事を割り振り始める。近場に居た囚人たちから続々と仕事を割り振っていき――

「最後。キミは彼と共に独房掃除」

 最後にリオに対して仕事を割り振った看守は、再度全員を引き連れ、今度は囚人区域へと向かったのだった。



「・・・うわ・・・・・・」

 看守と共に、新たな囚人が入るという独房の前までやってきたリオ達は、その中から漂ってくる血生臭い匂いに顔をしかめていた。

「10249番、3865番と2人で掃除。急ぐ」

 そんなリオの背後から、看守が急かすような視線と共に声をかけてくる。
 彼らの目の前には、唯一外からの光が差し込む場所を塞いだ薄暗い独房があった。そして先ほどから周囲に充満している血生臭い匂いの発生源は独房の中らしく、リオは自身と共に独房内の清掃をすることとなった囚人と共に立ち尽くしていた。
 おそらくそこから漂ってくる匂いと、塞がれた鉄格子の隙間からわずかに零れる光によってかすかに見えた「地面に横たわる人型らしき何か」によって、独房の中にある物を想像してしまったのだろう。

「――・・・」

「・・・」

 直後、リオは隣にいた3865番と呼ばれた囚人と顔を見合わせる。だが少しすると、やがて意を決したように2人で独房の中へと足を踏み入れた。

 リオが足を踏み入れてから数歩。丸石の冷たい感触を捉えていた彼の足の裏へと、不意にひんやりと冷たいながらも人肌のように柔らかい感触が伝わる。その次の瞬間、その感触と生臭い嫌な臭いによってリオの本能が何度も警鐘を鳴らす。

(見ちゃダメ、見ちゃダメ、見ちゃダメ・・・)

 その警鐘に従うように、リオが何度も頭の中でそう唱え続けながら前へと進む。だが一歩踏み出すたびに嫌な感触を何度も覚え、次第に一歩足を踏み出すたびにリオの表情が青ざめていく。
 なるべく何も考えず、周りを見ないようにしようとするリオ。すると、そんなリオの隣を歩く囚人が、不意に恐怖に負けたような声色で何かを呟いた。

「――、――」

「へ、平気じゃないよ・・・平気に見えるなら狂ってるよ・・・」

 囚人が何を呟いたのかまでは理解できなかったリオだったが、彼がリオへ向けていた、尊敬のような、畏怖のような眼差しに「なんで平気なんだ」と言われたような気がしたリオがそう呟く。
 すると、囚人が反論するように何かを口にしようとするが――

「――――!!」

 一歩進むと同時に足裏へとやってきた感触に叫び声を上げた。直後、リオも釣られるように叫び声を上げる。

「静かにやれ。―――」

「――・・・」

「はい・・・」

 看守から叱責される2人。だが彼らは恐怖に足がすくんでしまったようで、リオと囚人の2人はそこから動けなくなってしまう。
 薄暗い独房の中互いに膝を震えさせながら顔を見つめ合い、まるで時が止まったかのような状態になる2人。次第に何かをし講ずる余裕は戻ってきたのか、2人して「このまま時間が過ぎていって欲しい」と思い始める。

「出てこい」

 だが彼らが一向に動こうとしない様子を看守はしっかりと視界に抑えていたようで、リオ達に対し、看守がまるで最後通告のように冷たく言い放つ。だが完全に足がすくんでしまい動けなくなっていた2人がそのことを看守に伝えようとするが――

 「出てこないなら1晩そこにいろ」

 という看守の台詞によって無理矢理看守の元へと戻ろうとする。
 だがその歩みは非常に遅く、その様子に痺れを切らしたらしき看守によって別の囚人がリオ達のもとへ送り込まれることとなる。だが――

「――!?」

「――」

 看守に命令された囚人も独房の中に何があるのか予想がついてしまっていたのだろう、命令された囚人が勢いよく首を振り拒否する姿勢を見せるが、看守の圧のある発言により嫌々ながらに独房の中へと足を踏み入れることとなった。だが――

「うぉええええ」

 独房内にあった物を見てしまったのか、それとも触れてしまったのか――どちらかは分からないが、新たに独房へ入った囚人がリオ達の遥か手前で嘔吐してしまう。
 その光景に他の囚人たちも尻込みし、一部の囚人に関しては腰を抜かしたのか崩れ落ちるように地面へと座り込んでしまった。――おそらく、独房の中にある物の正体について察してしまったのだろう。
 すると、彼らから責めるような視線を向けられるリオ達。

(な、なんで僕らが睨まれるの・・・)

 その理不尽な視線に対し、リオは反論とばかりに拗ねるような視線を投げつけたのだった。



「散々だった・・・・・・」

 その日の夜。
 あの後、看守や囚人たちの協力の元なんとか独房から抜け出し、独房内にあった物も処理し終えたリオは、げっそりとした表情を浮かべながら独房の壁へともたれかかっていた。

(・・・星が綺麗だなぁ)

 独房から抜け出せた後も仕事を続けさせられた上に処理までさせられたリオは現在、今日あった出来事を忘れる為に絶賛現実逃避中らしく、備え付けの鉄格子から見えた星空をぼんやりと眺めていた。

 ――散々な一日だったから絶対に忘れてやる――

 現実逃避をしていたリオはそんな覚悟を持っていた。なお余談ではあるが、リオがそんな覚悟を決めたのは看守に対する腹いせの部分が大きい。
 だがそうしてしばらく時間を潰していた甲斐があったのか、リオは今日の出来事を記憶の奥底に封印出来たらしく、その脳裏には離れ離れになってしまった仲間たちの姿が浮かんでいた。

(皆無事だといいけど・・・)

 星を眺めながら遠い場所に居るであろう仲間たちのことを想うリオ。だが1つだけ、彼としては出来れば認めたくない、しかし「嬉しい」と思える出来事があったようで――

(ただ、月が見えてすぐにアリシア様を思い出したっていうのは、ちょっと癪かも)

 星空に浮かぶ月を見て一番最初に脳裏へ浮かんだ、菜の花のような黄色い髪の少女の姿を思い浮かべながら1人笑みを零したのだった。
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