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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第3章機械魔道連邦編

第一部・ヴァリアント 2話

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「起きろ」

 リオが不意に耳に入ってきた人の声で目を覚ます。
 ぼんやりとした頭のまま、リオが声のした方向へ視線を向けると、そこにはリオに対し睨みつけるような視線を向ける看守がいた。

「鐘、鳴った。早く出る」

 看守が独房の錠へと視線を向けながらそう呟く。すると、カシャン、という音と共にリオの居る独房の扉が開く。

「刑務作業場へ連れていく。今日、初日。内容は道中で説明する」

 通路に立ったままの看守がそう口にし、リオに出てくるように視線を送る。
 看守に従い、独房から出てくるリオ。それを確認した看守が独房の扉を再度施錠すると、一度だけリオの方を見てから歩き出した。



「今日やること。まずは自由広場の裏手に農場ある。そこでほかの囚人、収穫する。収穫したものを運ぶ。運ぶ先は都度指示する。終わったら広場へ毎回必ず戻ってくる」

 囚人区域にある独房エリアから屋外へと向かい2人で歩くリオと看守。その合間に刑務作業に関する説明を受けていると、目的地が近づいてきたのか、次第にリオの周りに他の囚人と看守の姿が見受けられるようになっていった。
 次第に数を増やしていく彼らは、刑務所に居るような年齢ではないリオの姿を見て、ある者は訝しむような視線を看守たちに向け、またある者はリオ自身に蔑みであったり憐れみであったりと、遠慮のない視線を向けていた。
 それらを気にしないように歩くリオ。だがそのリオの姿が一部の囚人には気にいらなかったようで――

「―――」

「――――」

「――」

 直接的な言動を取り始めた。それは彼らの発している言語の意味が分からないリオですら不快感を覚えたほどであり、その様子を見ていた看守から、リオの周囲に居た囚人たち全員に対して圧が加えられる。
 その光景に、リオが思わず内心で溜息を吐いてしまう。

(・・・けど、一応看守の人達は信用してもよさそう、かな?)

 だがリオは溜息と同時に感じたことがあったようで、看守たちに対する信用度を少しだけ上げた。
 その後、その場に居た囚人たちの中でリオに対する共通認識が生まれたのだろう。彼らは腫物を触るような視線をリオに向け、直接的な接触をしてくることは無くなった。――あくまでも看守の前では、だが。

「――、――。・・・ああ、ユースティアナ語なのか」

 それはリオが刑務作業を始めてから15分が経過した頃だった。同じ刑務作業をしていた囚人の1人が看守たちの目を盗んでリオに接触してきたのである。
 リオと同じチョーカーを付けられたその囚人は、まるで品定めをするようにリオのことをまじまじと見つめる。

「・・・そうだけど、それがどうかしたの?」

 対するリオは、声をかけて来た囚人の男性に対し警戒する素振りを見せる。

「いや、盗み程度でここに来るガキはどこの生まれなのかってな。・・・おっと、別に馬鹿にしてるわけじゃない」

 男性の台詞でリオがわずかに後ろに下がる。すると男性は、自身が口にした内容でリオの警戒が強まったことを察したのだろう、両手を広げながらリオに制止するように求めた。
 そんな男性に対し、リオが警戒心を浮かべたまま男性の求めに応じると、男性が話し始める。

「あんたに近づくと看守どもがうるさいだろう?だからわざわざこうやって1人になるタイミングを待って話をしたかっただけだ。――で、どうせあの甘々看守長のバートンのことだ、なんか言われてるんだろう?」

 男性の口にした台詞を聞いた瞬間、リオの瞳が動揺でわずかに揺らぐ。

「・・・言われてるとしたらどうなの」

「別にどうもしないさ。まあ、斯く言うオレもあの野郎に気に入られてるらしくてな、あんたの素性は大体把握してる」

「つまりそれは、僕に対する忠告と取ればいい?」

「忠告、ね。・・・聞いてた以上に慎重なんだな、あんた」

 リオの言動を見ていた男性が1人頷き始める。その姿をリオが不思議に思っていると――

「まあいい、オレの言葉が忠告かどうかはあんたの判断に任せる。――ただ、オレの言ったことを信用するっていうんならダラスって名前を覚えといてくれ、皇国生まれのリオ少年」

 そう言い残し、男性が広場の方へと去って行く。そして1人残されたリオは、その背中を見送りながら――

(・・・囚人たちの中にも味方と敵がいそうだね)

 そう考えたのだった。



 リオと囚人の男性・ダラスが別れた直後。
 看守たちから見えない場所で話をしていた2人の姿を見ていた人物が居た。

(なるほど、看守たちとあの男は繋がっている、と。早急に対処せねばのう)

 その人物はリオとダラスの2人が別れたことを確認すると、何処かへと去って行く。
 身軽な身のこなしで20メートルはある外壁を軽々と飛び越えたその人物は、最後に1度だけ背後を振り返ると、刑務所の外壁から飛び降りていった。



 その日の午後。
 あのあと、特に何もなく刑務作業を終えたリオの姿は、刑務作業時に何度も入った広場の中にあった。
 100人ほどは収容できるであろう広さを誇る広場。そこでは、リオのように刑務作業を終えた囚人たちの姿がちらほらと見受けられ、数名でのグループになり談議に花を咲かせている者や周囲を威嚇するような態度を取る者、さらには1人でぼうっとしている者など、各々が看守に注意をされない程度のラインで自由に行動していた。
 そんな人々をリオが広場の隅の方から観察していると――

「おう、また会ったな。今は人間観察中か?」

 リオの視線に気づいたのか、先ほど刑務作業中に彼に声をかけて来た男性・ダラスがリオの元へと歩いてくる姿が映った。

「ダラスさん、だっけ」

 存在感を消しながら広場の様子を眺めていたリオに気づいたダラスに対し、内心で警戒するリオ。だがダラスの方は、リオのそんな心境を知ってか知らずか――

「おう、覚えててくれたんだな」

 嬉しそうにそう口にすると、リオの隣に座り込み有無を言わさず話を始める。

「で、気になった奴はいるのか?」

 座り込むや否や、単刀直入にそう尋ねてくるダラス。
 対するリオは、彼のその質問の意図を計りかねているらしく、しばし逡巡したのちに口を開く。

「・・・あそこの集団かな。随分慣れてる雰囲気だし」

 そう口にしながらリオが示したのは、リオからすれば祖父母ほどの年齢の面々が談議に花を咲かせているグループだった。

「ああ、あのじいさん達か。あの3人は20年近くここにいるらしい。全員身寄りもないし釈放されても孤独だからっていう理由でここの看守長に掛けあって余生を過ごしてるんだとさ」

「へぇ・・・・・・でもここって、あくまでも刑務所なんだよね?」

「オレもそう思ってるんだがな、どうやらここの看守たち・・・特に看守長のバートンは違うらしい」

「優しい人なんだね」

「どうだかな」

 看守長であるバートンに対する印象をリオが口にする。だがダラスがバートンに対して抱いている印象はリオとは異なっているようで、彼の表情が一瞬にして険しくなった。

「あいつはただのお人好しだ。・・・そのくせ、いざとなれば簡単に周囲を切り捨てるクズ野郎だ」

 険しい表情のまま、ダラスが感情的な台詞を口にする。
 その姿に違和感を抱いたリオが踏み込もうとすると――

「それってどういう――」

「あんたは知らない方がいい。知ってしまったらあのじいさん達と同じ運命を辿ることになるぞ」

 まるで虎穴へ入ろうとする人間を引き留めるような台詞を口にしたのだった。



 それから数時間後。夕食を告げる鐘が刑務所内に鳴り響き、それに合わせるように囚人たちが続々と広場から食堂へと移動し始める。
 その人混みの中、流れに身を任せるように移動していたリオは、広場でダラスと話をした際に感じた違和感について考えていた。

(なんでダラスさんはあんなに看守長を警戒するような言動をしてたんだろう・・・)

 囚人が看守を警戒するのは自然的な感情だ。しかしリオがダラスに感じた感覚は「囚人と看守」という知り合い以下の存在に抱く感情ではない、まるで「復讐を誓った相手」を目の前にしているかのようであった。

(看守長・・・バートンさん、だっけ。ダラスさんとの間に何かがあるみたいなんだけど・・・)

 そこまで考えたところで食堂へと到着したリオは、バートンとダラスの2人の関係について考えながら夕食を終えたのだった。
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