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第2章終幕編
2章終幕編 1話
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辺り一面に広がる、一面の小麦畑。大地を吹き抜ける風に撫でられ、大きな波を起こすそれは、まるで黄金色の海のようだった。
その黄金色の海から北側へ離れること約10キロ。そこには、辺りに広がる色とりどりの自然を望む、3重の巨大な円状の城壁があった。そしてその城壁は、内側になるほどに直径が狭まっており、3重目の城壁の内側には三角形状に塔が3棟、そしてその中心部に古代神殿のような建物が建てられていた。
そしてその建物を間近で望むことが出来る、一番内側の城壁に備え付けられた門の内側。そこには、都市の南側に広がる小麦畑を抜けてきた1台の馬車の姿があった。
「――」
「――――」
馬車の周囲では、都市らしき場所を守る兵士10名ほどが、大した荷物も積んでいない馬車を訝しみながら取り囲んでいた。
その手には全長2メートルほどの槍があり、その穂先はもれなく馬車へと向けられていた。
(言語が通じない・・・ということは、ここはミルテア国でもエストラーダ皇国でもない、別の国家なのかな)
兵士たちが警戒する、馬車の中。
車外からの光がほとんど入り込んでこない薄暗い空間の中にいた人物は、相変わらず不自由な手足を忌々しく思いながら外の様子に気を配っていた。
ミルテア国の宿場町・アサヒ郊外の森の中で気を失い、馬車に乗せられていたことに気づいてから早3日。最低限の水分だけを与えられていたその人物の姿は、10歳前後の少年でありながらも、まともに栄養を摂れていないせいか少しずつ痩せ始めているようだった。
(別の国家だとしたら・・・早めにここがどこなのかを知らないと)
すっかり暗がりに慣れてしまった目で馬車の中を見回した少年が、もう何度目かも分からない自身の行動に溜息を吐く。すると不意に馬車の天幕が開き、少年が突然の眩しさに目を細める。
その少年の行動には目もくれず馬車の中に入り込んでくる兵士。
「――出ろ」
馬車の中に入ってきた兵士に足だけを自由にされた少年が、背中を突かれながら馬車から降りる。
そうして馬車から少年が降りたことを確認すると――
「―――」
別の兵士が少年に目隠しを付ける。
(ずいぶん厳重だけど・・・絶対ろくな場所ではないよね・・・)
周囲を見渡せない構造の馬車の中で手足に枷を付けての移送。そして目的地らしき場所での目隠し。そして周囲の兵士たちの放つ、物々しい気配。
それらから、現在自分が居る場所が、普通であれば一般人が来るような場所ではないと当たりをつける少年。はたしてそれは正解だったようで――
「これから国王に会う」
少年を馬車から降ろした兵士が片言でそう口にした。
兵士たちに連れられ歩くこと15分。とある場所へと案内された少年は、不意に目隠しを外される。
(・・・ここは・・・?)
目隠しを外された直後、視界へと飛び込んできた光景に唖然とする少年。はたしてそこにあったのは、少年の立つ場所を中心に半円状になっている屋内だった。
そしてその空間に合わせるように座席がいくつも並んでおり、そこにはまるで、少年を見世物のような視線で眺める、裕福層らしき人々の姿があった。それらの表情は、ある者は憎しみを、ある者は憐れむような視線を、またある者は蔑むような表情を浮かべていた。
「――――!」
突如上がる声。その雰囲気から、何かが始まったことを察した少年が息を呑む。
すると、少年の傍へ、さきほど馬車で彼に声をかけた兵士が姿を現した。
「私が通訳。いいな」
「通訳・・・。ねえ、ここはどこ?」
通訳として少年の傍に立つ兵士に対し、駄目元で情報を得るために声をかける少年。だが兵士の方は、少年のことを一瞥したかと思うと、警戒する様子を浮かべながら口を閉ざした。
(・・・さすがに答えてはくれないよね。間違いなく口止めされてるだろうし)
兵士の行動を見た少年が心の中で溜息を吐く。だが情報を得ることを諦めた様子はなく――
「おじさんはどこで皇国の言葉を覚えたの?」
彼の職務に差し障りのなさそうな話題を振る。すると、兵士の顔に浮かんでいた警戒がわずかに緩み――
「留学」
少年に言葉を返した。
(よし、上手くいった)
その姿に内心でガッツポーズをする少年。そしてそのまま、求めている情報を得るべく話題を振り続けていく。
「そうなんだ。・・・ミストってわかる?」
「聞いたことはある」
「ここからミストまでって遠いの?」
「・・・分からない。おそらく半年ほど」
「半年・・・・・・」
少年が兵士から聞き出したかった最大の情報を聞き、肩を落とす少年。
だが兵士の方は、これまでの少年との会話が、まさか現在地を特定するためのものだとは思っていなかったらしく、少年を気遣うように自身から話題を振った。
「生まれた場所か?」
「ううん、今の家族がいる場所、かな」
少年の答えを聞き、どう反応するべきか迷う兵士。そうして迷った挙句――
「・・・そうか」
ただ一言だけ口にした。
少年が兵士と話していると、不意に、見世物となっていた彼らを囲む人々から声が上がり始める。
そのざわめきと共に、少年の真向かいにある席へと1人の初老の男性が着席し、その手に握っていた1枚の紙に書かれた内容を読み上げていく。
だが男性の話す言語が分からない少年は、通訳として同席している兵士に対して視線を送る。
「罪状。この少年はスパイ。よってヴァリアント刑務所へ移送、そこで死刑。なお死刑は1週間後」
兵士から通訳された内容を聞き、内容を理解できなかった少年の表情が大きく歪む。
「え・・・と・・・?」
「死罪。これから君を刑務所へ移送する」
「いや、えっと、何かの間違いじゃ・・・」
「刑は決まった。移送を開始する」
困惑する少年。だが、まるで彼の心境を置いていくように時間は動いていくようで、少年は再度目隠しを付けられる。
「行くぞ」
そうしてどこからか現れた兵士の一団によって、少年は再度馬車へと収容されたのだった。
その黄金色の海から北側へ離れること約10キロ。そこには、辺りに広がる色とりどりの自然を望む、3重の巨大な円状の城壁があった。そしてその城壁は、内側になるほどに直径が狭まっており、3重目の城壁の内側には三角形状に塔が3棟、そしてその中心部に古代神殿のような建物が建てられていた。
そしてその建物を間近で望むことが出来る、一番内側の城壁に備え付けられた門の内側。そこには、都市の南側に広がる小麦畑を抜けてきた1台の馬車の姿があった。
「――」
「――――」
馬車の周囲では、都市らしき場所を守る兵士10名ほどが、大した荷物も積んでいない馬車を訝しみながら取り囲んでいた。
その手には全長2メートルほどの槍があり、その穂先はもれなく馬車へと向けられていた。
(言語が通じない・・・ということは、ここはミルテア国でもエストラーダ皇国でもない、別の国家なのかな)
兵士たちが警戒する、馬車の中。
車外からの光がほとんど入り込んでこない薄暗い空間の中にいた人物は、相変わらず不自由な手足を忌々しく思いながら外の様子に気を配っていた。
ミルテア国の宿場町・アサヒ郊外の森の中で気を失い、馬車に乗せられていたことに気づいてから早3日。最低限の水分だけを与えられていたその人物の姿は、10歳前後の少年でありながらも、まともに栄養を摂れていないせいか少しずつ痩せ始めているようだった。
(別の国家だとしたら・・・早めにここがどこなのかを知らないと)
すっかり暗がりに慣れてしまった目で馬車の中を見回した少年が、もう何度目かも分からない自身の行動に溜息を吐く。すると不意に馬車の天幕が開き、少年が突然の眩しさに目を細める。
その少年の行動には目もくれず馬車の中に入り込んでくる兵士。
「――出ろ」
馬車の中に入ってきた兵士に足だけを自由にされた少年が、背中を突かれながら馬車から降りる。
そうして馬車から少年が降りたことを確認すると――
「―――」
別の兵士が少年に目隠しを付ける。
(ずいぶん厳重だけど・・・絶対ろくな場所ではないよね・・・)
周囲を見渡せない構造の馬車の中で手足に枷を付けての移送。そして目的地らしき場所での目隠し。そして周囲の兵士たちの放つ、物々しい気配。
それらから、現在自分が居る場所が、普通であれば一般人が来るような場所ではないと当たりをつける少年。はたしてそれは正解だったようで――
「これから国王に会う」
少年を馬車から降ろした兵士が片言でそう口にした。
兵士たちに連れられ歩くこと15分。とある場所へと案内された少年は、不意に目隠しを外される。
(・・・ここは・・・?)
目隠しを外された直後、視界へと飛び込んできた光景に唖然とする少年。はたしてそこにあったのは、少年の立つ場所を中心に半円状になっている屋内だった。
そしてその空間に合わせるように座席がいくつも並んでおり、そこにはまるで、少年を見世物のような視線で眺める、裕福層らしき人々の姿があった。それらの表情は、ある者は憎しみを、ある者は憐れむような視線を、またある者は蔑むような表情を浮かべていた。
「――――!」
突如上がる声。その雰囲気から、何かが始まったことを察した少年が息を呑む。
すると、少年の傍へ、さきほど馬車で彼に声をかけた兵士が姿を現した。
「私が通訳。いいな」
「通訳・・・。ねえ、ここはどこ?」
通訳として少年の傍に立つ兵士に対し、駄目元で情報を得るために声をかける少年。だが兵士の方は、少年のことを一瞥したかと思うと、警戒する様子を浮かべながら口を閉ざした。
(・・・さすがに答えてはくれないよね。間違いなく口止めされてるだろうし)
兵士の行動を見た少年が心の中で溜息を吐く。だが情報を得ることを諦めた様子はなく――
「おじさんはどこで皇国の言葉を覚えたの?」
彼の職務に差し障りのなさそうな話題を振る。すると、兵士の顔に浮かんでいた警戒がわずかに緩み――
「留学」
少年に言葉を返した。
(よし、上手くいった)
その姿に内心でガッツポーズをする少年。そしてそのまま、求めている情報を得るべく話題を振り続けていく。
「そうなんだ。・・・ミストってわかる?」
「聞いたことはある」
「ここからミストまでって遠いの?」
「・・・分からない。おそらく半年ほど」
「半年・・・・・・」
少年が兵士から聞き出したかった最大の情報を聞き、肩を落とす少年。
だが兵士の方は、これまでの少年との会話が、まさか現在地を特定するためのものだとは思っていなかったらしく、少年を気遣うように自身から話題を振った。
「生まれた場所か?」
「ううん、今の家族がいる場所、かな」
少年の答えを聞き、どう反応するべきか迷う兵士。そうして迷った挙句――
「・・・そうか」
ただ一言だけ口にした。
少年が兵士と話していると、不意に、見世物となっていた彼らを囲む人々から声が上がり始める。
そのざわめきと共に、少年の真向かいにある席へと1人の初老の男性が着席し、その手に握っていた1枚の紙に書かれた内容を読み上げていく。
だが男性の話す言語が分からない少年は、通訳として同席している兵士に対して視線を送る。
「罪状。この少年はスパイ。よってヴァリアント刑務所へ移送、そこで死刑。なお死刑は1週間後」
兵士から通訳された内容を聞き、内容を理解できなかった少年の表情が大きく歪む。
「え・・・と・・・?」
「死罪。これから君を刑務所へ移送する」
「いや、えっと、何かの間違いじゃ・・・」
「刑は決まった。移送を開始する」
困惑する少年。だが、まるで彼の心境を置いていくように時間は動いていくようで、少年は再度目隠しを付けられる。
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