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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第2章ミルテア国編

第三部・ミルテア 1話

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 リオ達がガレイを出てからおよそ2ヶ月後。ミスト、ガルダを経由して隣国・ミルテア国へと入ったリオ達「扶桑鴉」の面々は、ガルダから広がる牧草地帯とも別れをつげようとしていた。
 そしてその牧草地帯の終わりから見える、エストラーダ皇国の国境沿いの宿場町・アサヒでは、炊事の物らしき煙が上がっていた。
 その煙を見たアルベラが口を開く。

「あれが見えるということは、ここは完全にミルテア国だな。そしてあの町の構造――おそらくアサヒという町だろう」

 宿場町・アサヒ。
 ミルテア国北部にある元城塞都市であり、現在はエストラーダ皇国南東部にある要塞都市ガルダからミルテア国へと入国してくる人々が旅の疲れを癒す宿場町として栄えている。
 その外観は元城塞都市の名残りらしき石造りの城壁。そして町の四隅にそびえたつ、3メートルほどの高さの物見櫓が特徴的であった。
 城壁はエストラーダ皇国王都・エルドラドを守る城壁の3分の1程度の高さしかなく、4つある物見櫓も、長い期間使われているのか所々補修を加えた跡が残っていた。

「書物によると、以前は天にまで届きそうなほどに高い城壁に守られ、落ちたら這い上がることは出来ないほどの深い堀で囲われていたそうだ。そしてローレシア大陸でも数少ない「砲台」なるものを城壁内部に設置していたらしいが・・・」

「あ、それならオレも聞いたことが。たしか、ユースティアナ王国が今のエストラーダ皇国とミルテア国に別れた時に城塞都市化されたんですよね?」

 アルベラの説明を聞いたマックスが、兵士時代の座学で身に着けた知識を口にする。

「そうだ。そして「砲台」なるものは、たった一発で兵士数十名が一度に打ち倒されたと聞いている」

 両国が成立した直後に、ガルダ・アサヒ間の平原で起きた戦闘の記録に残っている文面をそらんじるアルベラ。

「へえ。・・・でも、今は残ってないんだね」

「ああ。両国で友好が結ばれてから10年ほど経った頃に「不要だろう」ということで撤去したそうだ。そもそも、両国が激突した原因は意見のすれ違いのようなものだったらしいからな」

 エストラーダ皇国とミルテア国の対立原因。それは両国の前身であるユースティアナ王国の王族を、現在のミルテア国の領土を治めていたベナン藩王国が匿ったことに起因している。

「元々、我が国がミルテア国に出していた条件はユースティアナ王国の全王族の引き渡し又は処刑だった。だがミルテア国はその条件が不当だとして拒否したらしい」

 元王族である人々の引き渡しを求めるエストラーダ皇国初代国王と、匿い続けるミルテア国の臨時元首であったベナン藩王国元藩王。その両者の意見はエストラーダ皇国初代国王が逝去するまで続き、そのたびにガルダとアサヒ間に広がる草原では幾度も血が流れていた。

「そもそも、ユースティアナ王国の制度では、国王と王太子以外の王族は政務に一切関われなかったそうだ。そして王族から国王への諫言も不可となれば、暴君ぶりにますます磨きがかかってしまったのも頷ける。・・・まあ、初代国王の要件を拒否できたのも、その事実を知るベナン藩王国の国王だったからだろう」

「あー、それ、覚えてます。なんでほかの王族がストッパーになれないようにしたんでしょうね」

「それは王を絶対的な立場にするためだそうだ。・・・つまり、逆らえる立場の人間を極力政務に関わらせないようにした結果だ」

 アルベラの台詞に「まさかそれが滅亡の原因になるとは思わなかったでしょうね」とマックスが口にすると、アルベラが「そうだな」と返した。

「で、確か2代目国王の時に大きく状況が変わったんでしたっけ」

 両国の関係が大きく変化したのは、皇国2代目国王となったオデロの即位からであった。
 彼は前国王の提唱した「王国が滅びたのは王族全ての責」という内容に、王太子であった頃から少なくない疑問を抱いていた。――なぜなら、ユースティアナ王国の王族は国王と、唯一の例外である王太子以外は政務に一切関わることが出来ず、王妃ですら催し物への参加が「王族としての責務」というほどであった。
 だがそれは、ごく一部の人間しか知らない暗黙の了解ルールであった。そのためオデロは、その事実を公表すると共に各所への根回しを行ったのである。
 そんな彼の努力の果てに、両国が建国されてから数年の内に泥沼化していた両国の緊張状態を「友好条約」という形で終わらせたのである。

「ああ、前国王だな。すでに退位されて10年近く経つが、今も元気にしているらしい」

「へえ。ちなみに、アルベラさんは会ったことは?」

 前国王の話題が出た途端に、マックスが興味をそそられたように尋ねる。だがアルベラにとってはグレーゾーンの話題だったようで、剣の柄に手をかけながら口を開いた。

「・・・貴様、私を何歳だと?」

「え、40代くらいかなと。でも、見た目なら30代くらい・・・って、あっぶな!」

 マックスが彼女の年齢を予想で口にすると、マックスの首元へ高速の斬撃が放たれる。
 そしてそれをかろうじて盾で受け止めるマックス。

「何ですか!?」

「女性に年を聞くのは失礼だとは思わないのか?」

「いや、聞くも何も、ここまでの道中で「私には子供が居たが全員巣立っていった」って言ってたじゃないですか!ていうか、オレは前国王に会ったことがあるのか聞いただけです!」

「その後に私の年齢を予想していただろう」

「それはアルベラさんが何歳かと聞いてきたから・・・」

 アルベラの剣幕に押され始めたマックスの声が次第に小さくなっていく。

「貴様にはデリカシーというものがないようだな?ん?」

「いや、デリカシーもなにも・・・」

「そこは「すみませんでした」だろうが」

 少しずつ溜まっていたらしい怒りのボルテージが振り切れたのだろう、アルベラが周囲も凍り付きそうなほどに冷え切った声でそう口にすると――

「は、はいっ!すみませんでしたっ!」

 マックスがびくびくと怯えながら勢いよく頭を下げたのだった。
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