157 / 231
第2章ミルテア国編
第三部・ミルテア 1話
しおりを挟む
リオ達がガレイを出てからおよそ2ヶ月後。ミスト、ガルダを経由して隣国・ミルテア国へと入ったリオ達「扶桑鴉」の面々は、ガルダから広がる牧草地帯とも別れをつげようとしていた。
そしてその牧草地帯の終わりから見える、エストラーダ皇国の国境沿いの宿場町・アサヒでは、炊事の物らしき煙が上がっていた。
その煙を見たアルベラが口を開く。
「あれが見えるということは、ここは完全にミルテア国だな。そしてあの町の構造――おそらくアサヒという町だろう」
宿場町・アサヒ。
ミルテア国北部にある元城塞都市であり、現在はエストラーダ皇国南東部にある要塞都市ガルダからミルテア国へと入国してくる人々が旅の疲れを癒す宿場町として栄えている。
その外観は元城塞都市の名残りらしき石造りの城壁。そして町の四隅にそびえたつ、3メートルほどの高さの物見櫓が特徴的であった。
城壁はエストラーダ皇国王都・エルドラドを守る城壁の3分の1程度の高さしかなく、4つある物見櫓も、長い期間使われているのか所々補修を加えた跡が残っていた。
「書物によると、以前は天にまで届きそうなほどに高い城壁に守られ、落ちたら這い上がることは出来ないほどの深い堀で囲われていたそうだ。そしてローレシア大陸でも数少ない「砲台」なるものを城壁内部に設置していたらしいが・・・」
「あ、それならオレも聞いたことが。たしか、ユースティアナ王国が今のエストラーダ皇国とミルテア国に別れた時に城塞都市化されたんですよね?」
アルベラの説明を聞いたマックスが、兵士時代の座学で身に着けた知識を口にする。
「そうだ。そして「砲台」なるものは、たった一発で兵士数十名が一度に打ち倒されたと聞いている」
両国が成立した直後に、ガルダ・アサヒ間の平原で起きた戦闘の記録に残っている文面をそらんじるアルベラ。
「へえ。・・・でも、今は残ってないんだね」
「ああ。両国で友好が結ばれてから10年ほど経った頃に「不要だろう」ということで撤去したそうだ。そもそも、両国が激突した原因は意見のすれ違いのようなものだったらしいからな」
エストラーダ皇国とミルテア国の対立原因。それは両国の前身であるユースティアナ王国の王族を、現在のミルテア国の領土を治めていたベナン藩王国が匿ったことに起因している。
「元々、我が国がミルテア国に出していた条件はユースティアナ王国の全王族の引き渡し又は処刑だった。だがミルテア国はその条件が不当だとして拒否したらしい」
元王族である人々の引き渡しを求めるエストラーダ皇国初代国王と、匿い続けるミルテア国の臨時元首であったベナン藩王国元藩王。その両者の意見はエストラーダ皇国初代国王が逝去するまで続き、そのたびにガルダとアサヒ間に広がる草原では幾度も血が流れていた。
「そもそも、ユースティアナ王国の制度では、国王と王太子以外の王族は政務に一切関われなかったそうだ。そして王族から国王への諫言も不可となれば、暴君ぶりにますます磨きがかかってしまったのも頷ける。・・・まあ、初代国王の要件を拒否できたのも、その事実を知るベナン藩王国の国王だったからだろう」
「あー、それ、覚えてます。なんでほかの王族がストッパーになれないようにしたんでしょうね」
「それは王を絶対的な立場にするためだそうだ。・・・つまり、逆らえる立場の人間を極力政務に関わらせないようにした結果だ」
アルベラの台詞に「まさかそれが滅亡の原因になるとは思わなかったでしょうね」とマックスが口にすると、アルベラが「そうだな」と返した。
「で、確か2代目国王の時に大きく状況が変わったんでしたっけ」
両国の関係が大きく変化したのは、皇国2代目国王となったオデロの即位からであった。
彼は前国王の提唱した「王国が滅びたのは王族全ての責」という内容に、王太子であった頃から少なくない疑問を抱いていた。――なぜなら、ユースティアナ王国の王族は国王と、唯一の例外である王太子以外は政務に一切関わることが出来ず、王妃ですら催し物への参加が「王族としての責務」というほどであった。
だがそれは、ごく一部の人間しか知らない暗黙の了解であった。そのためオデロは、その事実を公表すると共に各所への根回しを行ったのである。
そんな彼の努力の果てに、両国が建国されてから数年の内に泥沼化していた両国の緊張状態を「友好条約」という形で終わらせたのである。
「ああ、前国王だな。すでに退位されて10年近く経つが、今も元気にしているらしい」
「へえ。ちなみに、アルベラさんは会ったことは?」
前国王の話題が出た途端に、マックスが興味をそそられたように尋ねる。だがアルベラにとってはグレーゾーンの話題だったようで、剣の柄に手をかけながら口を開いた。
「・・・貴様、私を何歳だと?」
「え、40代くらいかなと。でも、見た目なら30代くらい・・・って、あっぶな!」
マックスが彼女の年齢を予想で口にすると、マックスの首元へ高速の斬撃が放たれる。
そしてそれをかろうじて盾で受け止めるマックス。
「何ですか!?」
「女性に年を聞くのは失礼だとは思わないのか?」
「いや、聞くも何も、ここまでの道中で「私には子供が居たが全員巣立っていった」って言ってたじゃないですか!ていうか、オレは前国王に会ったことがあるのか聞いただけです!」
「その後に私の年齢を予想していただろう」
「それはアルベラさんが何歳かと聞いてきたから・・・」
アルベラの剣幕に押され始めたマックスの声が次第に小さくなっていく。
「貴様にはデリカシーというものがないようだな?ん?」
「いや、デリカシーもなにも・・・」
「そこは「すみませんでした」だろうが」
少しずつ溜まっていたらしい怒りのボルテージが振り切れたのだろう、アルベラが周囲も凍り付きそうなほどに冷え切った声でそう口にすると――
「は、はいっ!すみませんでしたっ!」
マックスがびくびくと怯えながら勢いよく頭を下げたのだった。
そしてその牧草地帯の終わりから見える、エストラーダ皇国の国境沿いの宿場町・アサヒでは、炊事の物らしき煙が上がっていた。
その煙を見たアルベラが口を開く。
「あれが見えるということは、ここは完全にミルテア国だな。そしてあの町の構造――おそらくアサヒという町だろう」
宿場町・アサヒ。
ミルテア国北部にある元城塞都市であり、現在はエストラーダ皇国南東部にある要塞都市ガルダからミルテア国へと入国してくる人々が旅の疲れを癒す宿場町として栄えている。
その外観は元城塞都市の名残りらしき石造りの城壁。そして町の四隅にそびえたつ、3メートルほどの高さの物見櫓が特徴的であった。
城壁はエストラーダ皇国王都・エルドラドを守る城壁の3分の1程度の高さしかなく、4つある物見櫓も、長い期間使われているのか所々補修を加えた跡が残っていた。
「書物によると、以前は天にまで届きそうなほどに高い城壁に守られ、落ちたら這い上がることは出来ないほどの深い堀で囲われていたそうだ。そしてローレシア大陸でも数少ない「砲台」なるものを城壁内部に設置していたらしいが・・・」
「あ、それならオレも聞いたことが。たしか、ユースティアナ王国が今のエストラーダ皇国とミルテア国に別れた時に城塞都市化されたんですよね?」
アルベラの説明を聞いたマックスが、兵士時代の座学で身に着けた知識を口にする。
「そうだ。そして「砲台」なるものは、たった一発で兵士数十名が一度に打ち倒されたと聞いている」
両国が成立した直後に、ガルダ・アサヒ間の平原で起きた戦闘の記録に残っている文面をそらんじるアルベラ。
「へえ。・・・でも、今は残ってないんだね」
「ああ。両国で友好が結ばれてから10年ほど経った頃に「不要だろう」ということで撤去したそうだ。そもそも、両国が激突した原因は意見のすれ違いのようなものだったらしいからな」
エストラーダ皇国とミルテア国の対立原因。それは両国の前身であるユースティアナ王国の王族を、現在のミルテア国の領土を治めていたベナン藩王国が匿ったことに起因している。
「元々、我が国がミルテア国に出していた条件はユースティアナ王国の全王族の引き渡し又は処刑だった。だがミルテア国はその条件が不当だとして拒否したらしい」
元王族である人々の引き渡しを求めるエストラーダ皇国初代国王と、匿い続けるミルテア国の臨時元首であったベナン藩王国元藩王。その両者の意見はエストラーダ皇国初代国王が逝去するまで続き、そのたびにガルダとアサヒ間に広がる草原では幾度も血が流れていた。
「そもそも、ユースティアナ王国の制度では、国王と王太子以外の王族は政務に一切関われなかったそうだ。そして王族から国王への諫言も不可となれば、暴君ぶりにますます磨きがかかってしまったのも頷ける。・・・まあ、初代国王の要件を拒否できたのも、その事実を知るベナン藩王国の国王だったからだろう」
「あー、それ、覚えてます。なんでほかの王族がストッパーになれないようにしたんでしょうね」
「それは王を絶対的な立場にするためだそうだ。・・・つまり、逆らえる立場の人間を極力政務に関わらせないようにした結果だ」
アルベラの台詞に「まさかそれが滅亡の原因になるとは思わなかったでしょうね」とマックスが口にすると、アルベラが「そうだな」と返した。
「で、確か2代目国王の時に大きく状況が変わったんでしたっけ」
両国の関係が大きく変化したのは、皇国2代目国王となったオデロの即位からであった。
彼は前国王の提唱した「王国が滅びたのは王族全ての責」という内容に、王太子であった頃から少なくない疑問を抱いていた。――なぜなら、ユースティアナ王国の王族は国王と、唯一の例外である王太子以外は政務に一切関わることが出来ず、王妃ですら催し物への参加が「王族としての責務」というほどであった。
だがそれは、ごく一部の人間しか知らない暗黙の了解であった。そのためオデロは、その事実を公表すると共に各所への根回しを行ったのである。
そんな彼の努力の果てに、両国が建国されてから数年の内に泥沼化していた両国の緊張状態を「友好条約」という形で終わらせたのである。
「ああ、前国王だな。すでに退位されて10年近く経つが、今も元気にしているらしい」
「へえ。ちなみに、アルベラさんは会ったことは?」
前国王の話題が出た途端に、マックスが興味をそそられたように尋ねる。だがアルベラにとってはグレーゾーンの話題だったようで、剣の柄に手をかけながら口を開いた。
「・・・貴様、私を何歳だと?」
「え、40代くらいかなと。でも、見た目なら30代くらい・・・って、あっぶな!」
マックスが彼女の年齢を予想で口にすると、マックスの首元へ高速の斬撃が放たれる。
そしてそれをかろうじて盾で受け止めるマックス。
「何ですか!?」
「女性に年を聞くのは失礼だとは思わないのか?」
「いや、聞くも何も、ここまでの道中で「私には子供が居たが全員巣立っていった」って言ってたじゃないですか!ていうか、オレは前国王に会ったことがあるのか聞いただけです!」
「その後に私の年齢を予想していただろう」
「それはアルベラさんが何歳かと聞いてきたから・・・」
アルベラの剣幕に押され始めたマックスの声が次第に小さくなっていく。
「貴様にはデリカシーというものがないようだな?ん?」
「いや、デリカシーもなにも・・・」
「そこは「すみませんでした」だろうが」
少しずつ溜まっていたらしい怒りのボルテージが振り切れたのだろう、アルベラが周囲も凍り付きそうなほどに冷え切った声でそう口にすると――
「は、はいっ!すみませんでしたっ!」
マックスがびくびくと怯えながら勢いよく頭を下げたのだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる