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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第2章メルン編

第三部・「扶桑鴉」 6話

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 リオ達が王城に泊まることになった翌日。王城のとある部屋で目を覚ましたリオは、視界に映った布製の天蓋を見つめていた。

(なんでまたここにいるの・・・?)

 視界に映る布製の天蓋に見覚えのあったリオが内心で呟くと、少なくない動揺を覚えながら周囲を見渡す。
 部屋の中にはいかにも高級そうな円形のテーブルに加え、その左右に置いてある2つの椅子。そしてそれらに暖気を届けるための暖炉が壁際設置されており、暖炉がある反対側の壁には3つの窓とその片隅に化粧台。それの反対側にはタンスとクローゼットに小物類を置くことの出来る本棚が窓側から順番に設置されていた。
 その中でも特にリオの目を引いたテーブルは中心部分に3本の足がある鴉のような装飾が施されており、左右の椅子には背もたれの裏へと巨大な木の周りを10羽の鴉が飛び交う様子が装飾として施されていた。
 すると、部屋を見渡していたリオの視界へと小型犬ほどの大きさとなっていたふぐおの姿が入ってくる。

(・・・ふぐお――って、え?)

 ぐっすりと眠るふぐおの表情を見ながら嘆息するリオ。すると次の瞬間、眠っているふぐおを抱きかかえるように寝息を立てる少女の姿が目に入ってしまう。

(おう、じょ、さま・・・!?)

 その姿が目に入った瞬間、一瞬にして頭の中が真っ白になるリオ。
 リオより2歳年上のその少女は、ふぐおをまるでぬいぐるみのように抱きながら時折頬を緩ませており――

「りおさま・・・ふかふかですよ~・・・」

 なんの夢を見ているのか、リオの名前を呟いていた。

(本人の目の前で本人の寝言を言わないで欲しいんだけどなぁ・・・)

 対するリオはというと、目の前で自身に関する寝言を口にされたからか若干頬を赤くし始める。

(・・・じゃなくて!なんで僕はここにいるの!?)

 だがそこでふと我に返ったリオが、何故自分は王女であるアリシアの部屋でアリシアとふぐおと共に眠っていたのかについて心の中で叫び声を上げる。すると――

「どうかされましたか?」

 まるでリオの心の叫びが聞こえたかのように声をかけられたのだった。



「・・・え?・・・・・・あ」

 リオが心の中で叫んだ直後。
 急に声をかけられたことに驚いたリオだったが、それで部屋の中に近衛兵らしき人物がいることに気づいたらしく、慌ててベッドから這い出ようとする。

「お待ちください。もしもあなたがそこから離れた場合、切り捨てます。それからアリシア様に手を出しても切り捨てます」

 だが近衛兵の方は既に抜剣しており、剣先をリオへと向けながら一歩ずつ近づいていく。

「えっと、あの・・・?」

「口も開いてはいけません。アリシア様が起きてしまいます」

「ちょ、ちょっと待って?この状況の説明だけ――」

 してほしい――
 リオがそう口にしようとした瞬間、リオの眼前に近衛兵の剣先が突きつけられた。

「開いてはいけませんと言いましたよね?」

 次の瞬間、無表情のままそう口にする近衛兵。するとリオが勢いよく頷くことで了承した旨を伝える。
 そしてその姿を見た近衛兵は、流れるような手つきで得物を鞘に納めると近くにあった椅子へと腰を下ろした。

「まず、なぜここに居るのかという事からでしょう。――昨夜、あなたとお連れの方たちはアイゼン殿によって闘技場へ向かった・・・そこまでは覚えていますね?」

 近衛兵の台詞に頷くリオ。

「そしてあなたはお連れの方の内の1人と宿を取りに行き、再度闘技場に戻ってきました」

(マックスさんと宿を取りに行った後・・・?そういえば、そのくらいって眠くて仕方が無かった気がするけど・・・・・・まさか)

 近衛兵の話を聞いたリオがマックスと宿を取りに行った際のことを思い出しながら最悪の可能性を思い浮かべる。

「その際に私共がある事情で闘技場へ向かいまして。その際にあなた方を王城まで連れてきたのですが、その際にあなたは既に夢心地だったようで、アリシア様にこちらのお部屋に案内されたのです」

 そうして口を閉じる近衛兵。そしてその話を聞いたリオはというと――

(・・・色々言いたいことはあるけど、ひとまず最悪の場合ではなさそう、かな。・・・どっちもどっちだけど)

 大きな溜息を吐きながら予想していた最悪の場合ではなかったことに安堵していた。

「では、事情も理解されたと思いますので、今すぐアリシア様を起こすか、アリシア様が目を覚ますまでこのままか選んでください。――なお、今すぐ起こすというのであればここで気絶してもらいますが」

(2択あるように見えて1択しかないじゃん・・・)

 溜息を吐いたリオに対してわずかに頬を引きつらせた近衛兵が口にした台詞に対して内心でツッコむリオ。
 なお、リオの実力があれば近衛兵の攻撃を受けないことは造作もないのだが、王城で反乱と取られる可能性のある行動をすればその後どうなるかは言うまでもないだろう。

(ていうか、ふぐおも起きてよ・・・さっきから無理矢理魔力を流し込んでるのに起きる気配すらないんだけど)

 そして今もアリシアに抱かれ続けるふぐおを見ながら恨めしそうに内心で呟くリオ。
 ちなみにふぐおは魔力を使って体のサイズを変えているのだが、その魔法が原因となってかリオからの強制操作を受け付けていないようだった。

「・・・では、今すぐにアリシア様を起こしますか?」

 まるで最後通告のようにそう口にする近衛兵。対するリオは首を横に振って答える。

「そうか、あなたが賢明な人間であることに安心した。・・・では私はこれで。くれぐれも既成事実を作られないようにな」

 答えを示したリオに対して意味深な台詞を残して退室していく近衛兵。そして残されたリオはというと――

(きせいじじつって何?)

 近衛兵の口にした言葉の意味が分からず首を傾げていた。すると――

「年頃の男女が一晩同衾――つまり「同じ布団で過ごす」ということですわ、リオ様。庶民ではこれが一般的だと聞きましたので、このチャンスに既成事実――ではなく、体験したかったのです」

 リオの背後から、アリシアが解説と共に密着していく。

「ちょ!?起きてたんですか・・・?」

 背後から上がった声と、背中にかかってくる感覚に体をびくりと震わせるリオ。そんなリオを面白そうに見ていたアリシアが再度口を開く。

「ええ、リオ様が起きる前から。・・・とても可愛らしい寝顔でしたわ」

「・・・寝言だと思ってた「ふかふかですよ」っていうのも演技だったっていう事・・・?」

 リオに対して「初めから起きていた」と口にしたアリシアに対して、リオが寝言だと思っていた言葉を口にする。

「えっ?・・・え、ええ、そうですわ」

 するとアリシアが若干声を上ずらせながらそう口にする。だがリオはアリシアが動揺したことを見逃さなかったようで――

「寝てたんだ・・・」

 乾いた笑いを上げた。そしてそのリオの笑い声を聞いたアリシアが急に頬を膨らませたかと思うと、未だに眠ったままのふぐおを抱きかかえる。

「フンギュッ!?」

 するとアリシアの抱き上げる力が強かったのか、口から色々と出てきそうな鳴き声と共にふぐおが目を覚ます。
 そして寝ぼけたまま周囲を見回すふぐお。すると自身が抱えあげられていることに気づいたようで、自身を抱き上げていたアリシアに対して文句を言いたげな視線を向ける。
 対するアリシアはふぐおと視線を合わせないように明後日の方向へと視線を泳がすと――

「・・・ふぐお、その辺で許してあげよう?」

 そんな2人を見ていたリオが、ふぐおに睨まれ続けるアリシアに同情したのかそう口にする。するとふぐおは文句を言いたげな表情を浮かべながらもアリシアから視線を逸らした。

「それじゃ、王女様が起きたって伝えてきます」

「あ、リオ様、お待ちください」

 するとアリシアが起きたことを口実に彼女のもとを離れようとするリオ。だがそんなリオの服の裾をアリシアが掴み――

「もう少しだけお話をさせて欲しいのです。――主にアイゼン様について」

 にっこりと笑顔を浮かべながら黒い表情を浮かべたのだった。
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