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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第2章メルン編

第二部・マックス 2話

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 リオが逃げるように図書館へと駆け込んだ数日後。あれ以来顔を出していなかったギルドへと向かったリオは、恐る恐るといった様子で依頼書を手にカウンターへと向かっていたところだった。

「お、君は・・・」

 若干、挙動不審な動きをしているリオに声がかかる。その声に反応したリオが安心したような、面倒なのに捕まったというような何とも言えない表情を浮かべながら声の主の方を向くと。

「あ、おじさん。と・・・」

「よう、関所以来だな」

 リオに声をかけた、彼がメルンに来た初日に要人警護人のようにリオとふぐおにつき纏っていた傭兵らしき男性と共に、これまたリオがメルンに来た初日に会話した2人組の冒険者の内、娘がいると口にしていた男性がリオに対し声をかける。

「覚えていてくれて嬉しいよ。・・・君も見たところ依頼を受けるみたいだが、よかったら俺たちと一緒に行動しないか?報酬は山分けで」

 男性に続き、彼と一緒にいた男性が続くようにそう口にする。

(・・・今騒ぎになるのは避けたいし、報酬も貰えるんだったら全然ありかな)

 男性の提案に対し、横目で向かっていたカウンターの方を覗き見るリオ。

(おまけに、あの人から待ってます感満載の視線を向けられてるし・・・)

 すると、そんなリオの視線を感じたのか、はたまた初めからか――
 まるで罠にかかるのを手ぐすね引いて待っているかのような視線を向けられていることに気づいたリオは、男性の提案にありがたく乗せてもらうことにする。

「それなら、受けようとしてた依頼があるから、それでもいい?」

 そう口にしながら男性3人に受けようと思っていた依頼書を見せるリオ。

「お、大人を3人も連れて採集依頼か?久しぶりだから腕が鳴るな」

「そうだな、その昔「薬草鑑定人」と呼ばれた実力を君に特別に見せてあげよう」

「ついでに俺が受けようとしていたこの依頼もやってしまおう。もちろん、これも山分けで」

 依頼書を見せたリオに対し、それぞれ反応を返す男性3人。そうして臨時で彼らと行動を共にすることになったリオは、手続きを済ませると彼らとともにギルドを後にしたのだった。――ちなみに、カウンターに姿を現したリオに対し職員が「こちらが未受け取りの報酬です」と口にしながら数日前にリオが受け取りを拒否した報酬を無理やり渡してきたのは余談である。



 ギルドを後にしたリオ達はギルドの外で待機していたふぐおと合流すると、依頼の達成目標である採集物があるメルンから北側へと伸びる街道へと向かっていた。
 リオ達が受けた依頼の採集物とは、平たく言えば非常時の回復薬を作成するために必要になる薬草の採取であり、メルン周辺ではその気候から事故等で必要になることが多い。回復薬の効果としては瀕死の状態から10分ほど延命できる程度ではあるが、メルンを含む豪雪地帯では、そのわずかな時間でさえ大きな差となってくるのである。

「そういえば、君は聞いたことはあるかい?」

 町の中心部にある噴水を通りかかったところで、不意に男性の1人が口を開く。

「リオでいいよ。・・・それで、何を?」

「リオ・・・それが君の名前なんだね。――じゃなくて、最近、メルンの付近で冒険者や傭兵に手合わせを挑んでいる冒険者がいるらしいんだ」

 傭兵らしき身なりの男性がメルンの冒険者や傭兵の中でまことしやかに流れている噂を口にする。

「なんでも、それっぽい人間なら誰彼構わず声をかけているらしくてね、ギルドでも対応に困っているらしい」

 そう口にした男性がさらに説明を始める。
 男性が口にした内容は、件(くだん)の冒険者は自身と肩を並べられるだけの実力者を求めているらしく、その内容がゆえにギルドとしても口出しがしにくい状況だという事だった。――ちなみに、ギルドが口出ししにくい一因として、その冒険者が手合わせの際に必要な手続きである見届け人を手の空いている衛兵に依頼しているためという事情がある。

「へえ。・・・どのくらい強いの?」

 男性の話に興味を持ったリオがその冒険者の実力を尋ねる。

「俺も噂に聞いた程度だが「大鷲の翼」のリーダーに迫る強さらしい」

 リオに尋ねられた男性がそう答える。するとリオは明らかに高揚した様子で――

「ジンさんに?・・・なら、楽しみかも」

「いや、いくら力のある君でも、あの「大鷲の翼」リーダーの彼には敵わないんじゃないか?」

 冒険者と手合わせしたい旨を述べるリオに対しそう口にする傭兵の男性。すると――

「大丈夫だとは思う。ジンさんと一緒に何年も行動してたし、何度か手合わせもしたから」

 そんな男性に対しそう告げるリオ。だが、目の前にいる10歳の少年が口にした内容を聞いた3人の表情が驚愕した表情になり――

「おいおい、噂には弟子を取ったと聞いてたが、お前があのジンの弟子だって?」

 娘がいると言っていた男性が事実を確かめるような台詞を口にする。

「うん。・・・今は無いけど、王都でジンさんの推薦書で冒険者になったから」

 リオの台詞を聞いて唖然とした表情を浮かべる3人。すると、その中で一番戦闘が好きそうな見た目をしていた、娘がいると言っていた男性が口を開いた。

「・・・・・・なあ、俺と手合わせしてくれないか?」

「・・・いいけど、さっき話してた人との後でいい?」

 男性の口にした台詞に対しそう口にするリオ。すると男性は、一瞬だけ不満そうな表情を浮かべたのち、リオの口にした台詞に対して頷く。

「それじゃあ、早くその人の所に行こうよ」

 そうしていつの間にか目的が入れ替わっているらしいリオの発言と共に、3人の男性とふぐおはメルンから北側へ伸びる街道へと向かって行ったのだった。



 メルンから北に伸びる街道。そのまま進めばエストラーダ皇国の北方にある国家であるゲルミア民国に繋がるその街道を進んでいたリオ達は、前方に山脈が見える位置で、リオと共に来ていた男性たちの口にしていた件の冒険者を目の前に立ち尽くしていた。
 その冒険者は茶色の髪をし、土色の瞳をしたヤンキーのような出で立ちをした人物であり、特徴的な2本のアホ毛を揺らしながら正面にいるリオ達のことを見据えていた。
 そんな彼の両手には、エストラーダ皇国の兵士に支給される長剣と酷似した長剣が腰に差されており、左手には全身の8割近くを覆うような盾が装備されていた。

「てめえら、オレと勝負しやがれ」

 それはリオ達と目が合った瞬間に彼が口にした台詞であった。それに対してリオとふぐお以外の3人が黙っていると――

「――誰か立会人がいるならいいよ」

 リオが勝負を吹っかけてきた男性に対しそう口にする。

「なら、今すぐ衛兵でも呼んで来い」

 リオの台詞に対しそう口にする男性。それを聞いたリオはというと、傍らで黙っていた傭兵の男性に「そういうことだから、今すぐ衛兵の人を呼んできて欲しいな」と口にすると、彼がその場を去った事を確認してからふぐおに声をかけた。

「ふぐお、何があっても手出しはしちゃダメだよ」

「フギュ」

 昨日と同じように小さくなっていたふぐおが、何かに踏み潰されたような鳴き声を上げながらリオの口にした台詞に同意する。

「いや、いくらなんでも・・・なぁ?」

「ああ・・・流石にやめておいた方が・・・」

 戦闘へと運んでいくようなリオとふぐおの様子に冒険者である男性2人が声を上げると、リオと対峙していた男性が文句を口にする。

「ああ?わざわざ挑戦するって言ってんだ、気合を削ぐようなことを言うんじゃねえよ」

 全く圧の感じられない男性の台詞を聞いて黙る2人。だがリオは、その台詞を聞いて大したことはない人物と判断したようで――

「口だけなら戦うつもりはないよ」

 そう口にする。すると、それに対して件の冒険者である男性が笑い声を上げた。

「オレを口だけだと?・・・面白れぇ、ガキだと思ってたが、特別に本気で相手してやるよ」
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