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第2章王都・エルドラド編
第一部・第7王女 6話
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「そこの少女達、王城に何か用か?」
段々と夜の帳が近づきつつある王都・エルドラド最大の建造物である王城の前に立っていたリオとアリシアに対して、近衛兵の兵士が声をかける。
そんな兵士に対してリオが口を開くより先に、アリシアがフードを取ると、その下に隠れていた、まるで菜の花のように明るい黄色の髪が姿を現す。
「姫様!今まで一体どこに・・・!」
アリシアの姿を見た兵士が傅きながらそう口にすると、おもむろに立ち上がりリオの方を見る。――その表情は、明らかにリオのことを疑っていた。
「・・・少し話を聞かせてもらえるかな?」
「・・・念の為聞くんだけど、このまま帰ることは?」
リオ自身も、王族と一緒に――しかも行方不明だった第7王女と2人きりでいた為このまま返されるわけは無いと思っていたのだろう。
その証拠に、聞くというよりは確認するように近衛兵に尋ねる。
「拒否権はありません。さらに、力づくでここから去ろうというのであれば即座に指名手配犯です」
リオに対して冷たく言い放つ近衛兵。
そんな近衛兵の台詞に、万が一にもこのまま立ち去れないという事実を確認したリオは、近衛兵について王城へと入って行ったのだった。
近衛兵に連れられ王城に入ったリオとアリシアの2人は、王城内部へ入ると同時に別々にされると、リオは10人ばかりの近衛兵に王城の地下へと連れていかれた。
石造りの、よく音が反響しそうなその場所は、どうやら王城に備え付けの監禁部屋らしく、現在彼らの足元を照らすのは光量の弱い蝋燭の火と、近衛兵の持つランタンのみだった。
そんな薄暗い上にどことなくジメジメとした空間へと連れてこられたリオは、その中の一室へと入るように促される。
「それではここで少しお待ちください。何もなければすぐにここから出られるかと」
近衛兵に従いまるで牢屋のような部屋へと入れられたリオは、鍵のかけられた扉の向こう側にいる近衛兵にそう声をかけられる。
「うん、わかった」
「では、また後で。・・・脱走するとは思わないが、念のためここで見張っていてくれ」
リオに声をかけた近衛兵がそう言い残し、リオと共にこの場所まできた近衛兵のほとんどを連れて去っていく。
その様子を足音から判断したリオは、自身が入れられた場所を見回す。
現在リオが入れられている場所はまるで瓦礫を積んで出来たかのような場所であり、大小さまざまな石が複雑に積み重なり壁を構築していた。
そして床の方はある程度慣らされてはいるものの、裸足で歩き回れば足裏に擦り傷や切り傷が出来るのはほぼ間違いないだろう。
そしてその空間を照らすのは、外の通路よりはまだ明るい蝋燭の火だけであった。
(・・・誰かが生活するためにある場所じゃないよね)
部屋を見回したリオがそんな感想を抱く。なぜなら、リオのいる部屋には横になれそうなスペースはあるものの、家具といえるものは一切存在していなかったからである。
そんな空間には、扉と灯り以外にも1つだけ備え付けられているものがあった。
部屋の片隅にある小さな穴。人が落ちないくらいの大きさに掘られていたその穴からは、鼻をつく嫌な臭いたちが漂っていた。
(・・・これ、もしかしてトイレ・・・?)
鼻に届いた匂いからそう判断するリオ。そしてその穴はリオの判断した通りのものであり、穴の先は王都郊外のとある場所にある集積所に繋がっている。
(そういえば、なんで王女様と一緒にここに来たんだろう・・・)
そうして部屋を見回すことをやめたリオが、ふとそんな疑問を抱く。
もしも2人で王城前まで行かなければ、こうして牢屋のような部屋に入れ込まれることも、さらには疑われることも無かったはずである。
よくよく考えればすぐにそのことに気づけたはずだが、どうしてかそのことまで頭が回らなかったリオは、現にこうして牢屋のような場所に閉じ込められている。
(・・・あの王女様にしてやられた気がしてならないよ。・・・ていうか、どうして親近感なんて抱いちゃったんだろう)
そうして辿り着いたのは、わずかでもアリシアに親近感を抱いたことだった。
リオ達庶民からすれば、王族が誰と結婚しようが構わない。――ましてや、国が荒れるのでもなければ王族の人間関係などに興味も湧かないことだろう。
だが、リオはアリシアと少し話をしたことで親近感が湧いた上に、彼女が抱えていた思いに対して「それは駄目だ」と思ってしまったのだ。――そしてそれは、リオ自身の性格と、幼くして母親を亡くしてしまったからこそであった。
(はあ、きっとメインが心配してるよ・・・)
宿屋に残してきた少女のことを思い浮かべるリオ。なぜなら、既に目を覚ましてリオのことを待っていることは間違いないからだ。
そして、リオのことを待っているであろうメインはというと――
「へっくしゅ!・・・・・・?」
可愛らしいくしゃみをしていた。
そして、泊まっている宿屋の表にいたふぐおと共に、両者してメインのくしゃみに首を傾げながらリオのことを待つのだった。
それから10分が経ち、いい加減石造りの壁を見ていることにリオが飽きてきた頃。リオが入れられていた部屋の外から、数人の足音が響いてきた。
「どうしてあの方をこのような場所に!?」
先ほどリオと共に王城に来たアリシアの声が、リオのいる部屋まで響く。
「万が一のためです。無いとは思いますが、あの子供が何か良からぬことに加担していた場合に備え監視を――」
「それは先ほども聞きました!私が言いたいのは、そのためならこのような場所でなくともよいでしょうという話です!」
リオのいる部屋の近くまで来たのだろう、声を荒げている少女に対し、先ほど去っていた近衛兵らしき男性の声がリオの元まで聞こえてくる。
「姫様、さすがにそれは出来ません。いくら「大鷲の翼」と共にいたからといって、それだけで――」
「ああもう、いいですわ!とにもかくにも早くここを開けなさい!」
やがて暖簾に腕押し状態となっていた2人の会話は、アリシアがそう口にした事で終わりを告げる。と同時に、リオが入れられていた部屋の鍵が開く音がする。と同時に、その扉が勢いよく開かれ――
「んがっ!」
扉の向こうから勢いよく飛んできたアリシアがリオに激突し、そのまま後頭部を勢いよく地面へとぶつけ、ピクリとも動かなくなる。
「・・・あら」
そんなリオの上に乗るアリシアがそう零すと――
「お、おい、今すぐ医者を呼べ!」「姫様、とりあえず降りてください!」「息はあるのか?」「横になれる部屋を――」
その様子を見ていた近衛兵たちが、大騒ぎを始めたのだった。
段々と夜の帳が近づきつつある王都・エルドラド最大の建造物である王城の前に立っていたリオとアリシアに対して、近衛兵の兵士が声をかける。
そんな兵士に対してリオが口を開くより先に、アリシアがフードを取ると、その下に隠れていた、まるで菜の花のように明るい黄色の髪が姿を現す。
「姫様!今まで一体どこに・・・!」
アリシアの姿を見た兵士が傅きながらそう口にすると、おもむろに立ち上がりリオの方を見る。――その表情は、明らかにリオのことを疑っていた。
「・・・少し話を聞かせてもらえるかな?」
「・・・念の為聞くんだけど、このまま帰ることは?」
リオ自身も、王族と一緒に――しかも行方不明だった第7王女と2人きりでいた為このまま返されるわけは無いと思っていたのだろう。
その証拠に、聞くというよりは確認するように近衛兵に尋ねる。
「拒否権はありません。さらに、力づくでここから去ろうというのであれば即座に指名手配犯です」
リオに対して冷たく言い放つ近衛兵。
そんな近衛兵の台詞に、万が一にもこのまま立ち去れないという事実を確認したリオは、近衛兵について王城へと入って行ったのだった。
近衛兵に連れられ王城に入ったリオとアリシアの2人は、王城内部へ入ると同時に別々にされると、リオは10人ばかりの近衛兵に王城の地下へと連れていかれた。
石造りの、よく音が反響しそうなその場所は、どうやら王城に備え付けの監禁部屋らしく、現在彼らの足元を照らすのは光量の弱い蝋燭の火と、近衛兵の持つランタンのみだった。
そんな薄暗い上にどことなくジメジメとした空間へと連れてこられたリオは、その中の一室へと入るように促される。
「それではここで少しお待ちください。何もなければすぐにここから出られるかと」
近衛兵に従いまるで牢屋のような部屋へと入れられたリオは、鍵のかけられた扉の向こう側にいる近衛兵にそう声をかけられる。
「うん、わかった」
「では、また後で。・・・脱走するとは思わないが、念のためここで見張っていてくれ」
リオに声をかけた近衛兵がそう言い残し、リオと共にこの場所まできた近衛兵のほとんどを連れて去っていく。
その様子を足音から判断したリオは、自身が入れられた場所を見回す。
現在リオが入れられている場所はまるで瓦礫を積んで出来たかのような場所であり、大小さまざまな石が複雑に積み重なり壁を構築していた。
そして床の方はある程度慣らされてはいるものの、裸足で歩き回れば足裏に擦り傷や切り傷が出来るのはほぼ間違いないだろう。
そしてその空間を照らすのは、外の通路よりはまだ明るい蝋燭の火だけであった。
(・・・誰かが生活するためにある場所じゃないよね)
部屋を見回したリオがそんな感想を抱く。なぜなら、リオのいる部屋には横になれそうなスペースはあるものの、家具といえるものは一切存在していなかったからである。
そんな空間には、扉と灯り以外にも1つだけ備え付けられているものがあった。
部屋の片隅にある小さな穴。人が落ちないくらいの大きさに掘られていたその穴からは、鼻をつく嫌な臭いたちが漂っていた。
(・・・これ、もしかしてトイレ・・・?)
鼻に届いた匂いからそう判断するリオ。そしてその穴はリオの判断した通りのものであり、穴の先は王都郊外のとある場所にある集積所に繋がっている。
(そういえば、なんで王女様と一緒にここに来たんだろう・・・)
そうして部屋を見回すことをやめたリオが、ふとそんな疑問を抱く。
もしも2人で王城前まで行かなければ、こうして牢屋のような部屋に入れ込まれることも、さらには疑われることも無かったはずである。
よくよく考えればすぐにそのことに気づけたはずだが、どうしてかそのことまで頭が回らなかったリオは、現にこうして牢屋のような場所に閉じ込められている。
(・・・あの王女様にしてやられた気がしてならないよ。・・・ていうか、どうして親近感なんて抱いちゃったんだろう)
そうして辿り着いたのは、わずかでもアリシアに親近感を抱いたことだった。
リオ達庶民からすれば、王族が誰と結婚しようが構わない。――ましてや、国が荒れるのでもなければ王族の人間関係などに興味も湧かないことだろう。
だが、リオはアリシアと少し話をしたことで親近感が湧いた上に、彼女が抱えていた思いに対して「それは駄目だ」と思ってしまったのだ。――そしてそれは、リオ自身の性格と、幼くして母親を亡くしてしまったからこそであった。
(はあ、きっとメインが心配してるよ・・・)
宿屋に残してきた少女のことを思い浮かべるリオ。なぜなら、既に目を覚ましてリオのことを待っていることは間違いないからだ。
そして、リオのことを待っているであろうメインはというと――
「へっくしゅ!・・・・・・?」
可愛らしいくしゃみをしていた。
そして、泊まっている宿屋の表にいたふぐおと共に、両者してメインのくしゃみに首を傾げながらリオのことを待つのだった。
それから10分が経ち、いい加減石造りの壁を見ていることにリオが飽きてきた頃。リオが入れられていた部屋の外から、数人の足音が響いてきた。
「どうしてあの方をこのような場所に!?」
先ほどリオと共に王城に来たアリシアの声が、リオのいる部屋まで響く。
「万が一のためです。無いとは思いますが、あの子供が何か良からぬことに加担していた場合に備え監視を――」
「それは先ほども聞きました!私が言いたいのは、そのためならこのような場所でなくともよいでしょうという話です!」
リオのいる部屋の近くまで来たのだろう、声を荒げている少女に対し、先ほど去っていた近衛兵らしき男性の声がリオの元まで聞こえてくる。
「姫様、さすがにそれは出来ません。いくら「大鷲の翼」と共にいたからといって、それだけで――」
「ああもう、いいですわ!とにもかくにも早くここを開けなさい!」
やがて暖簾に腕押し状態となっていた2人の会話は、アリシアがそう口にした事で終わりを告げる。と同時に、リオが入れられていた部屋の鍵が開く音がする。と同時に、その扉が勢いよく開かれ――
「んがっ!」
扉の向こうから勢いよく飛んできたアリシアがリオに激突し、そのまま後頭部を勢いよく地面へとぶつけ、ピクリとも動かなくなる。
「・・・あら」
そんなリオの上に乗るアリシアがそう零すと――
「お、おい、今すぐ医者を呼べ!」「姫様、とりあえず降りてください!」「息はあるのか?」「横になれる部屋を――」
その様子を見ていた近衛兵たちが、大騒ぎを始めたのだった。
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