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第1章ガレイ編
第四部・約束 1話
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ガレイ攻防戦が人間たちの勝利に終わってから数日後。そこに生きる人々は、とても戦闘があったとは思えないほどの平穏の中、町の復興作業を行っていた。
既に町は、ほんの数日前まで生死を賭けた戦いがあったとは思えないほどに人々で賑わっており、魔物との戦闘が行われていた噂を聞きつけたらしき冒険者や傭兵が訪れ始めており、ガレイへと着いた彼らは既に戦闘が終わっていたことに安堵しながら、町の人々と共にガレイの復興作業に当たっていた。
既に攻防戦前の活気を取り戻しつつあるガレイの東門側にある、宿屋が立ち並ぶ通り。その通りにある宿屋のほとんどが臨時病床となっているその場所では、軽傷の兵士や冒険者たちに加え、既に必要な治療を終え療養している人々の姿があった。
その中の一室。ガレイに唯一存在する病院に入りきらない重傷患者たちが収容されている部屋の1つで、リオは最後に見た景色と異なる光景を視界に収めながら上半身を起こす。
(ここは・・・建物の中、だよね。確か、悪魔を倒して・・・体がふらっとして)
倒れる瞬間の感覚を思い出すリオ。魔力切れによる、貧血に似た状態になったリオはそのまま気を失いここまで運ばれてきたのである。
上体を起こしたままぼんやりと壁を眺めるリオ。
「リオ!目を覚ましたんだな」
目の前の木造の壁を眺めていたリオは、急に声をかけられる。
「レーベ。・・・おはよう?」
声をかけた存在である、藍白の髪を持つ少年に声をかけ、少し間を開けてから首を傾げる。対する少年・レーベの方はリオの言動に対し連続でツッコミを入れていく。
「なんで疑問形なんだよ?べつに普通でいいだろ。しかも前後に間を開けた上に最後に首を傾げるな」
一気にツッコまれたリオは困った表情を浮かべると、リオなりに理由を説明していく。
「だって、もうお昼だよ?でも僕は今起きたから・・・。朝起きたら「おはよう」だけど、お昼だとなんて言うのか分からなかったから」
「別に起きた時が「おはよう」でいいだろ。・・・てか、何だこのやり取り」
リオの説明に対して簡潔に反論するレーベ。そこで不意に冷静になったのか、ここまでのやり取り自体に疑問を抱き始める。
「それよりも、僕はどのくらい寝てたの?」
ここまでのやり取りに疑問を抱いたレーベに対して現状を確認するリオ。そんなリオを半眼で睨むレーベだったが、その行動の理由が分からなかったリオが不思議そうな表情を浮かべると、溜息を吐きながら口を開く。
「丸2日ってとこだな。・・・そうだ、これを伝えといてくれってジンさんに頼まれたんだ」
「ジンさんに?」
「ああ。「大鷲の翼」は解散するって」
リオが眠っていた時間を口にしたレーベがジンからの伝言をリオに伝える。
「そっか。・・・寂しいけど、仕方がない、のかな」
レーベから「大鷲の翼」の解散を聞かされたリオは、寂し気な表情を浮かべながら残念そうにそう口にする。その姿を見たレーベもリオと同じ気持ちになったようで、2人で静かに項垂れていた。
それから30分後。目を覚ましたリオは簡単な診察を受けると、レーベに教えられたジンの入院するガレイ唯一の病院へと向かっていた。
病院のある、多くの商業施設の立ち並ぶ南側の大通り。そこには戦友を見舞いに来た兵士や冒険者たち。さらには時刻がちょうどお昼時と言うこともあり、早くも営業を再開した飲食店に立ち寄る人々の姿で溢れていた。
その人混みの中を進み病院へと入っていったリオは、せっせと仕事をこなしていく看護師に声をかけ、ジンのいる病室を教えてもらう。
「それなら2階の右から2番目の部屋ですよ」
「ありがとう、お姉さん」
上目遣い気味になりながらお礼を口にしたリオは、即座に教えられた部屋へと向かっていく。そんなリオの後ろ姿を見送った看護師の表情は、まるで小動物に骨抜きにされたかのようになっていた。
「ジンさーん、入るね」
そんな看護師を置いてジンの居る病室までやってきたリオは、部屋の扉を開けながら室内に声をかける。
「リオか。目を覚ましたんだな」
リオの姿を視界に収めたジンが声をかけながら片手を上げる。
「うん、1時間くらい前に。ジンさん、怪我はどうなの?」
ジンの台詞に答えながら備え付けの椅子を引っ張り出したリオは、椅子に座りながら容体を尋ねる。するとジンは答えにくそうな顔をした後、ゆっくりと口を開いた。
「残念だが、もう冒険者としては活動出来ない」
一言、簡潔に答えるジン。それが何を意味しているのかはリオにも分かったようで、慰めるようにジンに声をかける。
「・・・そうなんだ。でも、ジンさんは皆のために――」
「リオ、そういう慰めは要らない」
リオの台詞を遮りそう口にするジン。その彼の表情には、やるせない気持ちが浮かんでいた。
「俺は3年前、ミストでお前を支えてやると言った。だが、これじゃあお前を守ることも出来ないし、支えてやることも出来ない。・・・約束したのにな」
握りこぶしを作りながらそう口にするジン。わずかに揺れているその拳は、彼の今の思いをそのまま表現しているようだった。
そんなジンに対して声をかけるリオ。
「ううん、ジンさんは約束を守ってくれたよ。僕をここまで支えてくれた」
「・・・だが「これから」はどうするんだ」
心からリオ達の事を心配しているのだろう、残ったメンバーの事を案ずるように口を開くジン。
そんなジンに対してリオが力強く告げる。
「これからは僕らが「僕らだけで」進んでいくんだ。・・・あの時、ジンさんも自分で言ってたよね?「旅先で大切なものを失うかもしれない」って。それにはジンさんも含まれているって」
そこで一旦言葉を切るリオ。その先の言葉を悩んでいるのか、少しだけ思案顔になる。リオのその様子を見たジンが口を開いた。
「何か抵抗して失う方が良い、とか言ってたな。・・・あれは「それでも進んでいく」っていう意思表示だったんだよな」
少しだけ自嘲するように口にするジン。
「・・・うん」
考え続けたが結局答えに迷ったリオは、ジンの口にした台詞を答えにしたようで少し間を開けて頷いた。
その後2人は、暗くなってしまった雰囲気を変えようと1時間ほど昔話をして過ごしたのだった。
それから数日後。再びジンの元を訪れていたリオは、病室備え付けの椅子に座りながらここ数日で疑問に抱いていたことを口にしていた。
「そういえばジンさん。エレナさんはどうなの?」
ジンの元を訪れていたリオは、ジンの口からエレナの事が出てこない事を不安に思い、思い切って尋ねたのだった。
リオの質問に対し、曖昧な台詞を口にするジン。
「あー、無事なのは無事なんだがな・・・ある意味では無事ではないかもしれない」
「無事なのに無事じゃないの?」
ジンの台詞に対して不思議そうな表情を浮かべる。そんなリオに対してジンは困った顔になると口を開いた。
「すまん、俺も詳しいことは聞けていないんだ。・・・まだ目を覚ましてないからな」
まだ目を覚ましていない。――つまるところ、エレナは昏睡状態であった。彼女はガレイ攻防戦6日目に受けた、悪魔による攻撃で生死の境を彷徨っていたのである。
「おまけに明日・・・いや、今すぐ死んでもおかしくない状態らしい」
「そうなんだ。早く目を覚まして欲しいな・・・」
ジンの台詞を聞いて、短く簡潔に思いを口にしながら俯くリオ。
エレナはリオの仲間であり伯母でもある。そのため彼女が亡くなった場合、リオは2人目の身内を失うことになるのだが、リオの反応はジンが思っていたものとは異なるものだった。
「・・・案外驚かないんだな」
「今、僕が騒いだところでどうにもならないから」
ジンの台詞に対し淡々と答えるリオ。だがジンはそれだけでリオが動揺していることを見抜いたようで「無理はするなよ」と声をかける。
「無理はしてないよ。ただ不安なだけ」
先ほどと同様に淡々と口にするリオ。そんなリオの頭へと左手を乗せたジンは、安心させるようにリオの頭を撫で始める。
久しぶりの感触にくすぐったそうな表情になるリオ。
「・・・ジンさん」
やがてリオが唐突に口を開く。
「なんだ?」
「もう子供じゃないよ」
「っく・・・」
頭を撫で続けるジンに対して、少しだけ頬を膨らませながら文句を口にするリオ。その姿を見たジンが吹き出し、リオがそれを咎めるような視線をジンに向ける。
「9歳なんてまだまだ子供だろうが。せめて15歳になってから言え」
子供じゃないと口にしたリオに対してこの世界の成人に分類されるボーダーラインである年齢を口にするジン。
「あ、あと6年すれば大人だから、大人だよ!」
「なんだ、その理論は・・・。ミリーみたいな事を言うなよ」
呆れながら笑みを零すジン。そうしてミリーの名を口にした途端、表情が暗くなってしまう。対するリオはその名前を聞いたことで思い出したことがあったらしく、腰に差していた短剣をジンに差し出す。
「・・・ミリーのか」
差し出された短剣を見て呟くジン。
「うん。これは多分、ジンさんが持っている方がいいかなと思って」
「そうか、ありがとな、リオ」
リオの説明を聞いて表情をほころばせるジン。だがジンは短剣を受け取らず、リオに持っていて欲しいと口にする。
そのジンの言動に対して食い下がるリオ。
「駄目だよ、これはジンさんの大事な人の形見でしょ?ジンさんが持っていないとミリーさんが悲しむよ」
リオはそう口にしながら再度ジンに短剣を差し出す。だがそれでもジンは受け取ろうとはしない。
やがて痺れを切らしたのか、リオはジンの手に無理矢理短剣を握らせる。
「・・・リオ、適材適所って言葉を知ってるか?物事に対して適した物や人を充てろって意味だ」
リオに無理矢理短剣を握らされたジンが不意に口を開く。それに対してリオは、ジンの口にした言葉の意味を量りかねている様で首を傾げていた。
その様子を見たジンが、リオの手に形見である短剣を握らせる。
「武器は戦いで相手を傷つける為の物だ。誰かと戦えない俺が持っていても意味は無い。それよりは戦うことの出来る奴が持っているべきだ」
そこでジンの真意に気づくリオ。――ジンはリオに、ミリーの形見である短剣を持っていて欲しいと思っていたのである。
そのことに気づいたリオは手にした短剣を腰に差す。
「そうだ、リオ。この間は曖昧になったが、これからどうするんだ?」
この間、とはリオが目を覚ました日のことである。その時は暗くなった雰囲気を変えるために無理矢理話題を変えた為、ジンが本来聞きたかったことを聞けずにいたのだった。
「お父さんを探すのと、悪魔が言ってた「あの御方」を探してみる。・・・もしかすると、それで何か分かるかもしれないから」
既に町は、ほんの数日前まで生死を賭けた戦いがあったとは思えないほどに人々で賑わっており、魔物との戦闘が行われていた噂を聞きつけたらしき冒険者や傭兵が訪れ始めており、ガレイへと着いた彼らは既に戦闘が終わっていたことに安堵しながら、町の人々と共にガレイの復興作業に当たっていた。
既に攻防戦前の活気を取り戻しつつあるガレイの東門側にある、宿屋が立ち並ぶ通り。その通りにある宿屋のほとんどが臨時病床となっているその場所では、軽傷の兵士や冒険者たちに加え、既に必要な治療を終え療養している人々の姿があった。
その中の一室。ガレイに唯一存在する病院に入りきらない重傷患者たちが収容されている部屋の1つで、リオは最後に見た景色と異なる光景を視界に収めながら上半身を起こす。
(ここは・・・建物の中、だよね。確か、悪魔を倒して・・・体がふらっとして)
倒れる瞬間の感覚を思い出すリオ。魔力切れによる、貧血に似た状態になったリオはそのまま気を失いここまで運ばれてきたのである。
上体を起こしたままぼんやりと壁を眺めるリオ。
「リオ!目を覚ましたんだな」
目の前の木造の壁を眺めていたリオは、急に声をかけられる。
「レーベ。・・・おはよう?」
声をかけた存在である、藍白の髪を持つ少年に声をかけ、少し間を開けてから首を傾げる。対する少年・レーベの方はリオの言動に対し連続でツッコミを入れていく。
「なんで疑問形なんだよ?べつに普通でいいだろ。しかも前後に間を開けた上に最後に首を傾げるな」
一気にツッコまれたリオは困った表情を浮かべると、リオなりに理由を説明していく。
「だって、もうお昼だよ?でも僕は今起きたから・・・。朝起きたら「おはよう」だけど、お昼だとなんて言うのか分からなかったから」
「別に起きた時が「おはよう」でいいだろ。・・・てか、何だこのやり取り」
リオの説明に対して簡潔に反論するレーベ。そこで不意に冷静になったのか、ここまでのやり取り自体に疑問を抱き始める。
「それよりも、僕はどのくらい寝てたの?」
ここまでのやり取りに疑問を抱いたレーベに対して現状を確認するリオ。そんなリオを半眼で睨むレーベだったが、その行動の理由が分からなかったリオが不思議そうな表情を浮かべると、溜息を吐きながら口を開く。
「丸2日ってとこだな。・・・そうだ、これを伝えといてくれってジンさんに頼まれたんだ」
「ジンさんに?」
「ああ。「大鷲の翼」は解散するって」
リオが眠っていた時間を口にしたレーベがジンからの伝言をリオに伝える。
「そっか。・・・寂しいけど、仕方がない、のかな」
レーベから「大鷲の翼」の解散を聞かされたリオは、寂し気な表情を浮かべながら残念そうにそう口にする。その姿を見たレーベもリオと同じ気持ちになったようで、2人で静かに項垂れていた。
それから30分後。目を覚ましたリオは簡単な診察を受けると、レーベに教えられたジンの入院するガレイ唯一の病院へと向かっていた。
病院のある、多くの商業施設の立ち並ぶ南側の大通り。そこには戦友を見舞いに来た兵士や冒険者たち。さらには時刻がちょうどお昼時と言うこともあり、早くも営業を再開した飲食店に立ち寄る人々の姿で溢れていた。
その人混みの中を進み病院へと入っていったリオは、せっせと仕事をこなしていく看護師に声をかけ、ジンのいる病室を教えてもらう。
「それなら2階の右から2番目の部屋ですよ」
「ありがとう、お姉さん」
上目遣い気味になりながらお礼を口にしたリオは、即座に教えられた部屋へと向かっていく。そんなリオの後ろ姿を見送った看護師の表情は、まるで小動物に骨抜きにされたかのようになっていた。
「ジンさーん、入るね」
そんな看護師を置いてジンの居る病室までやってきたリオは、部屋の扉を開けながら室内に声をかける。
「リオか。目を覚ましたんだな」
リオの姿を視界に収めたジンが声をかけながら片手を上げる。
「うん、1時間くらい前に。ジンさん、怪我はどうなの?」
ジンの台詞に答えながら備え付けの椅子を引っ張り出したリオは、椅子に座りながら容体を尋ねる。するとジンは答えにくそうな顔をした後、ゆっくりと口を開いた。
「残念だが、もう冒険者としては活動出来ない」
一言、簡潔に答えるジン。それが何を意味しているのかはリオにも分かったようで、慰めるようにジンに声をかける。
「・・・そうなんだ。でも、ジンさんは皆のために――」
「リオ、そういう慰めは要らない」
リオの台詞を遮りそう口にするジン。その彼の表情には、やるせない気持ちが浮かんでいた。
「俺は3年前、ミストでお前を支えてやると言った。だが、これじゃあお前を守ることも出来ないし、支えてやることも出来ない。・・・約束したのにな」
握りこぶしを作りながらそう口にするジン。わずかに揺れているその拳は、彼の今の思いをそのまま表現しているようだった。
そんなジンに対して声をかけるリオ。
「ううん、ジンさんは約束を守ってくれたよ。僕をここまで支えてくれた」
「・・・だが「これから」はどうするんだ」
心からリオ達の事を心配しているのだろう、残ったメンバーの事を案ずるように口を開くジン。
そんなジンに対してリオが力強く告げる。
「これからは僕らが「僕らだけで」進んでいくんだ。・・・あの時、ジンさんも自分で言ってたよね?「旅先で大切なものを失うかもしれない」って。それにはジンさんも含まれているって」
そこで一旦言葉を切るリオ。その先の言葉を悩んでいるのか、少しだけ思案顔になる。リオのその様子を見たジンが口を開いた。
「何か抵抗して失う方が良い、とか言ってたな。・・・あれは「それでも進んでいく」っていう意思表示だったんだよな」
少しだけ自嘲するように口にするジン。
「・・・うん」
考え続けたが結局答えに迷ったリオは、ジンの口にした台詞を答えにしたようで少し間を開けて頷いた。
その後2人は、暗くなってしまった雰囲気を変えようと1時間ほど昔話をして過ごしたのだった。
それから数日後。再びジンの元を訪れていたリオは、病室備え付けの椅子に座りながらここ数日で疑問に抱いていたことを口にしていた。
「そういえばジンさん。エレナさんはどうなの?」
ジンの元を訪れていたリオは、ジンの口からエレナの事が出てこない事を不安に思い、思い切って尋ねたのだった。
リオの質問に対し、曖昧な台詞を口にするジン。
「あー、無事なのは無事なんだがな・・・ある意味では無事ではないかもしれない」
「無事なのに無事じゃないの?」
ジンの台詞に対して不思議そうな表情を浮かべる。そんなリオに対してジンは困った顔になると口を開いた。
「すまん、俺も詳しいことは聞けていないんだ。・・・まだ目を覚ましてないからな」
まだ目を覚ましていない。――つまるところ、エレナは昏睡状態であった。彼女はガレイ攻防戦6日目に受けた、悪魔による攻撃で生死の境を彷徨っていたのである。
「おまけに明日・・・いや、今すぐ死んでもおかしくない状態らしい」
「そうなんだ。早く目を覚まして欲しいな・・・」
ジンの台詞を聞いて、短く簡潔に思いを口にしながら俯くリオ。
エレナはリオの仲間であり伯母でもある。そのため彼女が亡くなった場合、リオは2人目の身内を失うことになるのだが、リオの反応はジンが思っていたものとは異なるものだった。
「・・・案外驚かないんだな」
「今、僕が騒いだところでどうにもならないから」
ジンの台詞に対し淡々と答えるリオ。だがジンはそれだけでリオが動揺していることを見抜いたようで「無理はするなよ」と声をかける。
「無理はしてないよ。ただ不安なだけ」
先ほどと同様に淡々と口にするリオ。そんなリオの頭へと左手を乗せたジンは、安心させるようにリオの頭を撫で始める。
久しぶりの感触にくすぐったそうな表情になるリオ。
「・・・ジンさん」
やがてリオが唐突に口を開く。
「なんだ?」
「もう子供じゃないよ」
「っく・・・」
頭を撫で続けるジンに対して、少しだけ頬を膨らませながら文句を口にするリオ。その姿を見たジンが吹き出し、リオがそれを咎めるような視線をジンに向ける。
「9歳なんてまだまだ子供だろうが。せめて15歳になってから言え」
子供じゃないと口にしたリオに対してこの世界の成人に分類されるボーダーラインである年齢を口にするジン。
「あ、あと6年すれば大人だから、大人だよ!」
「なんだ、その理論は・・・。ミリーみたいな事を言うなよ」
呆れながら笑みを零すジン。そうしてミリーの名を口にした途端、表情が暗くなってしまう。対するリオはその名前を聞いたことで思い出したことがあったらしく、腰に差していた短剣をジンに差し出す。
「・・・ミリーのか」
差し出された短剣を見て呟くジン。
「うん。これは多分、ジンさんが持っている方がいいかなと思って」
「そうか、ありがとな、リオ」
リオの説明を聞いて表情をほころばせるジン。だがジンは短剣を受け取らず、リオに持っていて欲しいと口にする。
そのジンの言動に対して食い下がるリオ。
「駄目だよ、これはジンさんの大事な人の形見でしょ?ジンさんが持っていないとミリーさんが悲しむよ」
リオはそう口にしながら再度ジンに短剣を差し出す。だがそれでもジンは受け取ろうとはしない。
やがて痺れを切らしたのか、リオはジンの手に無理矢理短剣を握らせる。
「・・・リオ、適材適所って言葉を知ってるか?物事に対して適した物や人を充てろって意味だ」
リオに無理矢理短剣を握らされたジンが不意に口を開く。それに対してリオは、ジンの口にした言葉の意味を量りかねている様で首を傾げていた。
その様子を見たジンが、リオの手に形見である短剣を握らせる。
「武器は戦いで相手を傷つける為の物だ。誰かと戦えない俺が持っていても意味は無い。それよりは戦うことの出来る奴が持っているべきだ」
そこでジンの真意に気づくリオ。――ジンはリオに、ミリーの形見である短剣を持っていて欲しいと思っていたのである。
そのことに気づいたリオは手にした短剣を腰に差す。
「そうだ、リオ。この間は曖昧になったが、これからどうするんだ?」
この間、とはリオが目を覚ました日のことである。その時は暗くなった雰囲気を変えるために無理矢理話題を変えた為、ジンが本来聞きたかったことを聞けずにいたのだった。
「お父さんを探すのと、悪魔が言ってた「あの御方」を探してみる。・・・もしかすると、それで何か分かるかもしれないから」
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