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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第三部・「大鷲の翼」 3話

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 ガレイ攻防戦6日目。この日最大の波乱を起こした戦闘の火蓋を切ったのは、その中心となる「大鷲の翼」の面々だった。
 悪魔に対し5人で攻撃を加える「大鷲の翼」。レーベが守り、ジンとミリーが攻める。その後方から支援や攻撃を行うエレナとリオ。彼らが現在とれる、一番バランスの良いそのフォーメーションは、堅実に悪魔へと攻撃を加えていく。
 対する悪魔も打開策を模索しているようで、前線で悪魔を攻めるジンとミリーの攻撃を捌きながら周囲のほころびを探している様子だった。

「あれが今回の目標だ、皆、一層奮起せよ!」

 そうして互いに一進一退の攻防が続く中、リオ達の背後から新たな声が響く。そして声の主に続いて上がる喊声。その方向をジンが盗み見ると、そこには「清鳳団」第五師団第三大隊・第三、第四中隊の残存兵150名の姿があった。
 ジン達の左側から現れた「清鳳団」の面々は、喊声と共に悪魔目指して突撃していく。

「面倒ですね。せっかくの楽しみを邪魔されては敵いません」

 その光景を悪魔も見ていたのだろう、ジン達の攻撃を回避すると同時に空中へ舞い上がると、突撃してくる「清鳳団」に向けて魔法を行使する。
 直後、先頭を進む兵士たちの足元が爆発したかと思うと、周囲の魔物すら巻き込む大爆発を起こす悪魔。それにより「清鳳団」の兵士たちは、一瞬の内に100名近くが土にまみれていった。おそらく、爆発の中心部にいた兵士たちは跡形も残っていないだろう。

「あいつ、仲間ごと・・・!」「怯むな、進め!」「仲間の仇をとるんだ!」

 目の前で起きた光景に対し憤怒する兵士たち。それと同時に再度悪魔へ向けて突撃していく。

「虫けらが。消し去って我が駒にしてやりましょう」

 なおも向かってくる兵士たちへ向け、悪魔が苛ついた様子でそう口にすると、頭上へと10メートルはあろう巨大な魔力の塊を作り出す。そしてそれを人間1人ぐらいの大きさに圧縮した悪魔は、躊躇なく兵士たちの中へ投げ込んだ。

「リオ君、あれをどうにかするわよ」

「うん」

 悪魔が放った魔力塊の威力を悟ったエレナとリオが即座に動き出す。エレナは大量の魔力弾を、リオは兵士たちの頭上に《防護壁》を展開すると、展開された防壁を圧縮。薄く強固な防壁に造り変える。それと同時に放たれたエレナの魔力弾。
 対する悪魔はその妨害行為に気づいたのか、リオ達の元にも同様の攻撃を放とうとするが――

「ちっ、あの壁はやはり厄介だ」

 それに気づいたリオが防壁を展開することで悪魔の攻撃を防ぐことに成功する。そして舌打ちと同時に、新たに作り出した魔力塊を霧散させる悪魔。
 そして初めに悪魔が放った魔力塊はというと、エレナの放った無数の魔力弾により爆発。爆風だけで人を木っ端微塵に出来そうな衝撃が空気を揺るがすが、その衝撃をリオの展開した防壁が防ぐ。と同時に、リオ達に守られたことを察した兵士たちは、喊声を上げながら悪魔の元へ近づいていく。

「弓兵と魔導士は空中に浮かぶ敵を狙え!そのほかの者は周囲の魔物を殲滅せよ!」

 指揮官である兵士の声が響いた直後、悪魔へ向かい飛んでいく矢と魔法。多種多様な攻撃に襲われた悪魔は、兵士たちの攻撃を障壁を展開することによって防御する。

「打て打て、打ち続けろ!」

 攻撃を防がれる光景を目の当たりにしながらも、攻撃の指示を続ける隊長の兵士。対する悪魔は痺れを切らしたようで、刹那の内に魔力を練り上げると、周囲にいる存在を敵味方問わず攻撃し始める。雷撃、爆発、火炎放射、魔力弾――ありとあらゆる攻撃が悪魔を中心として周囲に降り注いでいき、それを受け魔物だけでなく人間たちも跡形もなく消え去っていく。
 殺戮に等しい悪魔の攻撃。それによって起きた土煙が晴れた頃には、ほとんどの命がこの場から消え去っていた。

「皆大丈夫か?」

 そんな中、生き残れた数少ない存在であるジンが仲間たちの安否を確認する。

「僕は大丈夫だよー。リオっちが守ってくれたから」

「俺もです。・・・エレナさんとリオも無事です」

 ジンの台詞に対し、ミリーとレーベが答える。そうして仲間たちの無事を確認したジンは、土煙の晴れた戦場を見渡しながら息を飲む。

「生き残ってるのは30人程度、か」

 周囲を確認し、生き残った人間の数を数えるジン。ジン率いる「大鷲の翼」5名、クロウ率いる「白虎」9名。そして「清鳳団」の残存兵17名。その内、負傷者が目算で8名いるという状況に絶望するジン。おそらく今回「大鷲の翼」に被害が出なかったのは、偶然悪魔の近くに居たからだろう。その証拠にリオの展開した防壁は破壊され、「白虎」の生き残りも「清鳳団」の生き残りも、全員が偶然悪魔に近い位置にいた者だけであった。リオの防壁を破壊した悪魔は、そのまま100人以上の人間を消し去ったのである。
 悪魔によって引き起こされた現実に戦慄するジン。それと同時に、ジンは周囲の生き残った人々へ声をかける。

「生き残った奴らは俺の元に集まれ!ここなら安全だ!」

 そのジンの声に反応した兵士や傭兵たちが希望を求めるように集まっていく。絶望の最中さなかに希望を与える――ジンが行った行為はそれそのものだが、現在の状況においては最も周囲が安心し、最も敵から狙われるという危険を孕んだものであった。
 そうしてジンの元へ集まる兵士と傭兵たち。だが、現在の状況で声を上げたジンの元へ敵が集まってくることは自明の理であり、その結果リオ達は大量の魔物を相手にすることとなった。悪魔の攻撃によって数を減らしたとはいっても、未だに千体を超える魔物は健在であり、それらの半数近くが彼らの元へ迫っていったためである。

「おいおい、こりゃあ洒落にならねえぞ、ジン」

「・・・生きてたのか。だが、このくらいは余裕だろ?」

「は、当たり前だ!」

 ジンの元へ辿り着いたクロウと無駄口を叩き合うジン達。そんな彼らに倣ってか、傭兵も冒険者も兵士も関係なく互いに背中を任せていく。そうして出来上がった即席の部隊は、彼らを押し潰そうとする魔物たちを相手に善戦を続けていく。

「ギレイはサッチェス、ミリーと共に右の魔物を相手にしろ。クロウ、お前は「白虎」の戦える奴らから3人だせ。そいつらと正面を頼む。レーベ、お前はマラカス、アレックスの2人と左を頼む」

 気づけば司令官となっていたジン。彼の指示の元、戦える人間は続々と魔物との戦いに身を投じていく。そんなジンへクロウが声をかける。

「了解、こっちはグーレとエミリー、デーンの3人でやる。残りのタッカーは預けた」

 そう言い残したクロウが魔物たちの元へと駆けていき、彼に名前を呼ばれた傭兵たちが続いていく。

「タッカー。お前には「清鳳団」の奴らと共に後方の援護を頼みたい。うちのエレナを守ってくれ」

 ジンに指示され頷く2人。そうして彼らが向かった先では、エレナが負傷者に対して治癒を行っている最中だった。次から次へとやってくる負傷者に対し、苛ついた表情を浮かべるエレナ。

「ああもう、少しは怪我しない戦い方をしなさいよ、もう」

 愚痴を口にしながらも、1人1人丁寧に治癒していくエレナ。そんな彼女の元を訪れていたのは「清鳳団」の面々ばかりであった。無論、彼女の元を訪れようとしているわけではない。単純に兵士たちの戦い方と、傭兵・冒険者での戦い方が違うからである。
 連携を前提とした傭兵・冒険者の戦い方と、個人での戦い方を重視する兵士たちでは、どうしても被害率が変わってきてしまう。そもそも、軍隊である彼らがなぜ個人での戦い方が重視されているかというと、単にお作法的な問題でもあった。1人で倒した方が褒章は大きい。そして、そういった存在がいれば非戦時下である皇国の軍事力の証明になる、という上層部の浅はかな考えからであった。
 そして、上層部がそう考えるようになってしまったのは、皇国で最強ともいえる部隊「聖騎士団」の影響が大きいことは間違いないだろう。
 かの部隊の個人での技量は、皇国トップクラスの冒険者であるジンやアッガスほどではないが、それに迫るレベルの猛者ばかりである。そんな集団が居ては、連携という概念が低く見られても仕方が無いことだろう。――言い方を変えれば、それほどまでに「聖騎士団」には一騎当千ともいえる猛者の集団であった。
 だが決して「聖騎士団」の連携力が低いという訳ではない。彼らは個人の技量もさることながら、その高い技量を活かした連携も強さの1つであった。だが、現場に出ていない上層部の人間にそれが分かるかと言われれば、答えは「否」だろう。
 そうした間違った練成により、個人での戦闘を重要視された世代である彼らは、最低限の連携技しか教え込まれていなかった。幸いなことに、彼らが相手にした魔人はその程度でも倒せる相手だったが、もしリオ達が相手をした魔人が彼らのもとへ向かっていれば大打撃を受けていたことだろう。

「・・・あーもう、相手にしきれないわ!なんでそんなに怪我するのよ!「清鳳団」って雑魚の集まりなの!?毎回同じ顔ばっかり!」

 いくら治癒しても減らない兵士たちに対しキレるエレナ。たった1人ですでに何十回も治療していたせいか、治療に来る兵士たちの顔を覚えていたらしく、苛立ちのままに口走る。
 そんな彼女の態度は兵士たちの怒りを買ったらしく、数名の兵士たちから抗議の声が上がる。

「何、俺たちが一般兵の集まりだと?」

「おい、いくら「大鷲の翼」だからって言いすぎじゃないのか」

 そんな兵士たちに対し、エレナから怒りの声が上がる。

「はあ?ふざけないで頂戴。あなた達より駐屯兵の方が圧倒的に怪我人は少なかったわよ?言っておくけど、私は戦闘後に毎回治療に参加してたの。どんなに激しい戦闘でも治癒した人は20人もいなかった」

 抗議する兵士たちに対しそう口にするエレナ。実は攻防戦の最中に負傷した兵士は、彼女と専門の軍医数名によって治療されていた。その中でも魔法による治癒ができる彼女は、軽重傷問わず1日で平均50人近い負傷者を診て来ていたのである。
 無論、戦場で怪我が元で命を落とした兵士もいるため一概に比較はできないが、現在彼女の元を訪れている兵士たちの数は異常であった。

「重症の人も診たわ、何人もね。それから軽傷の人達も皆あなた達より傷が深かった。・・・でしょう、アーデン?」

 そう口にしたエレナの視線が彼女の近くで横たわる男性へと移る。その男性・アーデンは、先ほどの悪魔による無差別攻撃で瀕死の重傷を負ったものの、治癒が間に合い、こうして一命を取り留めていたのだ。
 エレナの台詞に対し、わずかではあるが頷いて片手を上げるアーデン。その手は、彼女の台詞を裏付けるように力強く握られていた。

「分かったら少々の傷で来ないで。魔力にだって限りはあるの。いざという時に重傷者を救えなかったらあなた達のせいよ」

 そのエレナの一言で半数が散っていく兵士たち。皆一様に怪我は負っていたが、全員が擦り傷程度であったためである。
 彼女の言う通り、個人が保有する魔力量には限りがある。彼女ほどであれば魔力切れを起こす心配はないが、万が一にも魔力が無くなってしまったら一般人となんら変わらない存在となってしまう。
 そうして散っていった兵士たちを見ながら、エレナが愚痴を零す。

「まったく、あの程度で無駄な体力を使わせないで欲しいわ」

 短く嘆息したエレナは、残った兵士たちの傷の具合を診ながら治癒を続けたのだった。
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