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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第二部・攻防戦 最終話

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 時間は戻り、フジミが魔人によって消滅した直後。地面へと突き刺さった短剣を前に立ち尽くしていたリオは、静かに魔人の姿を見上げていた。全身を闇に覆われた魔人の姿を見ながら、リオが短剣を構え臨戦態勢となる。
 やがて、魔人へと向いていたリオの視線が足元に残るフジミの形見である短剣へと移る。地面へと突き刺さる短剣はフジミが短剣となった時と同様の黒色だが、まるで不純物に汚染されたかのようにくすんでいた。

(フジミ、仇をとるから)

 短剣を見た直後、魔人へと駆け出して行くリオ。と同時に、空いている左手で地面に突き刺さる短剣を引き抜く。対する魔人は、手放した大剣を魔力へと戻したかと思うと再度精製、そのまま自身の手に握る。
 そして魔人の間合いに入ったリオは、繰り出される斬撃を回避しながら懐へと飛び込んでいく。

(・・・やっぱり防がれるよね。なら!)

 短剣を振るうも、それを障壁によって防いだ魔人に対し一旦距離をとるリオ。そして両手に握る短剣へと魔力を流し込んでいくと、二振りの短剣がにわかに輝きを帯びていく。
 次の瞬間、再度魔人へ向けて駆け出すリオ。対する魔人も手にする得物を鞭のように自由自在に振るっていく。
 回避を中心に防御を織り交ぜながら先ほどよりも速い速度で魔人の懐へと入り込んだリオは、右手に持つ短剣を横薙ぎに振るう。

(よし!)

 リオの攻撃を障壁で防ぐ魔人。だがリオが短剣に流し込んでいた魔力が突然現象を発現し、障壁を凍りつかせていく。
 次の瞬間、凍りついた障壁へ向けて左手に握る短剣を振るうリオ。そうして障壁へと短剣が触れた瞬間、障壁が粉々に砕け散った。
 続いてその場でターンすると、剣舞を踊るように魔人へ攻撃を加えていくリオ。対する魔人は、致命傷となる攻撃のみを回避しながら距離をとろうとする。

「逃がさないよ!」

 後退しようとする魔人を追い立てるように連撃を叩き込んでいくリオ。対する魔人は再度障壁を展開、リオの攻撃を止めようと試みるが再度障壁を破壊されてしまう。
 直後、リオの攻撃により腹部へと短剣が突き刺さる魔人。次の瞬間、魔人から上がる咆哮。

「・・・!?」

 それと同時に、目の前にいたはずの魔人の姿を見失うリオ。直後に背後から悪寒を感じたリオは、咄嗟に体を前へと飛ばす。
 直後、背後から響く衝撃。それはリオの前から姿を消した魔人によるものだった。

(危なかった・・・)

 ほとんど勘に頼って回避したリオが急いで振り向く。するとそこには、地面へ亀裂を加えた魔人の大剣と、まるで炎のように揺れる魔人の姿。人型を象っていながら、まるで陽炎のように揺れている魔人の姿は幽霊の類にも見える。
 次の瞬間、再度魔人の姿が消えたかと思うと、リオの目の前に大剣を振り上げた姿が映る。瞬間移動といえるその動き。そこから繰り出される高速の攻撃を防ぐことは不可能に見えた。

「《防護壁》」

 だが次の瞬間、自身の目の前に防壁を展開するリオ。と同時に魔人の腹部へ突き刺さった短剣を引き抜くと、すぐに魔人から距離をとる。

(・・・さっきの動き、多分フジミと同じように・・・)

 魔人の動きを見ていたリオがある仮定を思いつく。リオが思いついた仮定とは、魔人の瞬間移動は一旦魔力となってから自身を再度人型に精製し直しているというものであった。

(それなら、魔力ごと動けなくすればいいかな)

 そうしてリオの脳裏に浮かんだ方法は、《防護壁》で魔人を閉じ込めるというもの。だが、先ほど破られた方法が通用するのかと言われると、普通は通用しないと考えるだろう。――だが先ほど破られたリオの攻撃には、リオの知らない現象が関係していたのである。
 水蒸気爆発。水が非常に高温の物体に触れることで起きる爆発現象だが、先ほどリオは土の壁の中へ氷を降らせたうえで密閉させていた。そして最初の《獄炎》のよって水となった氷が《終焉之業火》によって一気に過熱されたために水蒸気爆発が発生。内部の体積が一気に膨れ上がることにより、土壁と防壁へ圧力がかかり、やがてそれに耐えきれなくなった防壁が崩壊した、という訳であった。
 だがリオはそのことを知らない。そのため他の方法を模索するが、現実的に通用しそうな案は浮かんでこなかった。

(ほかに方法が浮かばない以上、やるしかないよね)

 腹を決めたリオは魔人の正面に展開されている防壁を拡張。ドーム状に形成しその中へ魔人を閉じ込めると、魔人の動きを警戒しながら見守る。
 対する魔人は防壁を砕こうと大剣を振るうが、それによりリオの展開した防壁が破壊されることは無かった。そして魔力となって防壁の外へ移動しようとしたが、魔人を形成する魔力が防壁に触れた途端に人型に戻ってしまった。
 その光景を見てリオは、先ほど防壁が消滅したのは別の要因があったことに気づく。と、その時。

「リオ、無事か?」

 その台詞と共に、リオの背後からジンが姿を現した。

「ジンさん!」

 突如背後からリオへと声をかけたジンに対し驚いた声を上げるリオ。そんな彼へ対し、目の前で起きている状況についてジンが説明を求める。

「で、あれは?いつかの誰かさんみたいになっているが・・・」

 以前見た光景を目にし、若干引きつった表情になるジン。おそらくジンの言う「誰かさん」とは、王都でリオが手合わせしたアイゼンの事だろう、その時もリオは現在魔人にしているようにアイゼンを防壁の中へ閉じ込めていた。
 だが、そんなことは記憶にない様子のリオが首を傾げた後に説明する。

「魔人の瞬間移動を封じれるか試してるんだ。あと、跡形もなく潰すために」

「そ、そうか」

 リオの表情と言動に恐怖と若干の狂気を感じたジンがそう答える。無表情にそう口にするリオの姿は、それを見た相手の恐怖を煽るには十分なようだった。

「そ、それじゃあ行くぞ」

 そのジンの台詞と同時に駆け出すリオとジン。そうして魔人の元へ向かっていったのだが――

「・・・やっぱりリオは怒らすべきじゃないな」

 防壁によって見事に瞬間移動も攻撃も封じられた魔人は、先ほどまでの圧倒的な力の半分も出せずにリオとジンの攻撃により姿を消したのだった。



 リオとジンが魔人を倒した直後、魔物たちの元に立っていた悪魔は驚愕の表情を浮かべていた。
 なぜ悪魔が驚愕していたのか。その理由は、彼ら悪魔が作り出す魔人は総じて普通の魔人よりも強い、言わば「強化個体」と言うべき存在だからである。
 そんな存在が圧倒していたと思いきや、リオの展開した防壁で攻撃も移動も封じられると一瞬にして消滅していったのである。これで驚くなという方が無理があるだろう。

(仕方がない、今日の所は引きましょう。・・・あれをどうにかしなければ)

 リオの使った魔法。無敵の盾ともいえるその存在をどう打ち破るか――それを思考しながら、悪魔は静かに魔物たちと共に後退していった。
 その直後、人間たちから湧き上がる歓声。勝利を祝うその声たちを聞きながら、魔人を打ち倒したリオとジンは倒れた仲間たちの元へ向かっていた。

「エレナさん、ふぐおは!?」

 地面に倒れたままのふぐおの元へ駆けつけたリオがエレナにふぐおの容体を尋ねる。

「大丈夫、命に別状はないわ。今はひとまず眠っているみたい」

「よかった・・・」

 胸を撫で下ろしながら安堵の息を吐くリオ。と同時に、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、その目から涙がこぼれ始める。

「ミリーとアッガスは?」

 そんなリオの隣から、エレナに声をかけたジン。そんな彼に対し、名前を呼ばれた2人が声を上げる。

「俺たちは無事だぜ」

「アッガスっちは無事じゃないでしょ。・・・ほら、安静にしてないと傷口が開くよ」

 ふぐおが横たわる場所から少し離れた位置にいたアッガスが立ち上がりジンの元へ向かおうとするが、その傍らにいたミリーに安静にするように言われ大人しく横になる。
 そんな2人の元へ向かうジン。

「具合はどうなんだ、2人とも」

「僕はかすり傷程度だったけど、アッガスっちはしばらく戦えないかな。地面に伏せるのが遅れたみたいで、右肩に直撃したみたい」

 ミリーとアッガスの元へ向かったジンが声をかけると、ミリーがそう答える。

「そうか。とりあえず大事になってないなら良かった。・・・さっきは悪かったな」

 ミリーから容体を聞いたジンは安心した様子でそう口にすると、先ほど2人を置いてリオの元へ向かおうとした時のことを謝る。
 だが2人は「なんの事か分からない」といった表情を浮かべながらジンを見ていた。

「・・・いや、何でもない。忘れてくれ」

 首を振りながらそう口にするジン。するとアッガスがおもむろに口を開く。

「気にするなよ。俺たちでも同じことをしようとしたかもしれないからな」

 それはジンを慰める言葉でもあったのだろうが、まるで自分自身に言い聞かせているようでもあった。
 そんなアッガスの姿を見ながら、ジンの脳裏には明日また訪れるであろう悪魔の存在が浮かび、すぐに現状の戦力を確認するジン。

(フジミが消滅、ふぐおとアッガスが戦闘不能。ミリーも負傷。無傷は俺とリオ、レーベ、エレナの4人か・・・)

 悪魔が今日戦った魔人以上の実力だと仮定すると、まともに渡り合えるのはリオとジンの2人だけだった。
 その現実に戦慄するような感覚を覚えるジン。なぜなら、彼らが相手をするのは悪魔1体だけではない。未だ千体以上残る魔物と、場合によっては新手の魔人とも戦う必要がある為である。
 対するガレイに残る戦力は義勇兵である傭兵や冒険者、民兵らを含めて200人足らずとなっており、彼我の戦力差は圧倒的であった。

(明日で何とか出来なければガレイは落ちる、か)

 状況を整理したジンがそう結論を出す。なぜなら、ガレイから最も近い町であるミストですら到着するには徒歩で2週間かかる。それに加えて軍隊の準備となれば何かと時間がかかる物である。例え馬で休みなく駆けたとしても、準備を含めて最短でも1週間は必要なのが現実であった。
 また近隣の町が襲われている以上、その近辺の町も魔物に襲われる可能性は十分に高く、町を守る衛兵たちをおいそれと割くわけにもいかなかったのである。そのため、援軍の到着は約1ヶ月後といわれていた。

「どこか近くに暇な部隊でもいればいいんだがな」

 神頼みにも近い台詞を呟くジン。するとそのジンの言葉を聞き届けたのか、その日の夜、偶然ガレイ南東部の森の中で訓練を行っていた皇国の精鋭部隊「清鳳団」所属の2大隊千名が姿を現し、町は大いに沸いたのだった。
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