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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第二部・攻防戦 20話

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 一方その頃。リオとレーベに襲い掛かる魔人の姿を見ていたジンは、2人の元へ向かおうとするミリーとアッガスを引き留めながら冷静に状況を分析していた。

(基本的な行動パターンはあまり変わらないみたいだな)

 近接攻撃は障壁で、魔法攻撃は得物か魔法で相殺するという方法で防御を固め、攻撃は両手に握る二振りの大剣を用い、質量で押しつぶす。
 まるで動く要塞のような魔人のその行動は、実は先ほどからあまり変わっていなかった。

(あとは弱点も同じかどうかだ。それも変わらないのであれば打つ手はある)

 リオ達と戦っている魔人の弱点。それは「近接防御用の障壁が魔法には弱い」というものであった。事実、先ほどジンは魔力弾によって障壁が破壊された瞬間を目の前で目撃している。
 すると、リオとレーベが先ほどと異なる動きを始め、レーベが率先して魔人を攻撃。そしてリオの方は後方で何かをしている様子だった。
 その様子を見て、ミリーとアッガスに声をかけるジン。

「ミリー、アッガス。リオの奴が何か始めたらしい。すぐに援護に行くぞ」

「やっとか。正直言って、このままあいつらを見殺しにするつもりかと思ってたぜ」

「そうだよ。なんでもっと早く動かなかったのさ、ジン」

 ジンの台詞に口々に文句を言いながらリオ達の元へ駆けていくミリーとアッガス。そしてその後ろをジンがついて行きながらエレナに向けて視線を送る。
 その視線に気づいたエレナはふぐおに声をかけると、すぐに魔法の行使を始める。それと同時に彼女たちの周囲に浮かぶ多数の魔法陣。そしてその中から、人差し指ほどの大きさの魔力弾が機銃掃射のように濃密な弾幕となって魔人へ向かっていく。
 その光景が視界に入った瞬間、ジンがレーベに向かい叫ぶ。

「レーベ、すぐに後退しろ!」

 ジンの声に反応するレーベ。その直後、魔人から距離をとるために背後へと飛び退いていく。
 対する魔人はレーベへと追撃を仕掛けるために前へ飛ぼうとする。だがその行動は魔人の左側から飛来した大量の魔力弾により無かったこととなる。
 次の瞬間、大量の魔力弾が魔人に向かい牙を剥く。――かに見えた。

「ミリー、アッガス、止まれ!」

 魔人の動きに違和感を感じたジンが即座に2人に停止するように声をかける。そして次の瞬間、魔人を中心に広がるドーム状の障壁。そしてその障壁に触れた瞬間、無数の魔力弾は続々と障壁に飲み込まれていく。その次の瞬間、まるで爆風のように飲み込んだすべての魔力弾を辺り一帯へと反射させていく。

「マジかよ、伏せろ!」

 一瞬にして辺りが銃撃飛び交う戦場のような有様になると同時にジンが叫び、リオ達は急いで地面へと身を伏せる。
 地面と平行方向に反射された魔力弾たちは、周囲にいたリオ達だけでなく後方で戦いを見守る兵士や魔物たちにも降り注いでいく。
 それにより人間側と魔物側でお互いに悲鳴が上がった。

「ふぐお!」

 そんな中響くエレナの声。その声の方向へとジンが目線を送ると、ふぐおが地面へと倒れ込んでいる姿が映る。どうやらふぐおは魔獣ゆえの巨体が災いしてしまったらしく、全身から血を流して倒れていた。
 その光景を間近で目撃したエレナが致命傷を負ってしまったふぐおの元へ近づくと、すぐに魔法による治癒を始める。

(くそ、今は後回しだ)

 今すぐにふぐおの状態を確認するべきだという衝動に駆られるジンだったが、あえてその衝動をねじ伏せて魔人の方を見る。ふぐおに怪我を負わせた張本人である魔人の方はふぐおのことなど目にも入っていないようで、障壁が消え去ると同時にリオ達の方へと駆け出していく。

「ミリー、アッガス、急げ!あいつらの援護・・・に・・・」

 リオ達に迫る魔人の姿を追いながらジンが立ち上がる。そして障壁があったはずの場所を見ると、ミリーとアッガスの2人が血を流しながら地面に倒れていた。



 ジンが地面に倒れる2人の姿を目撃する少し前。魔人の標的とされていたリオとレーベは、突然目の前で起きた光景に困惑の色を隠せないでいた。
 彼が困惑していた理由。それは彼らの目の前で、魔人が大量に飛来した魔力弾を無傷で耐えた上に、その魔力弾で周囲への無差別攻撃を行ったためである。

「・・・サンキュー、リオ。けど・・・」

 魔人が魔力弾を反射した瞬間にリオの行使した《防護壁》によって、至近距離ながらも無傷で済んだレーベがリオに礼を言うが、彼らの背後にいた兵士たちが地面に無残に横たわる姿を見て言葉を失う。
 対するリオの方はその光景を一瞥すると魔人を睨みつける。

「ふぐお!」

 次の瞬間、リオ達の右側からエレナの声が上がる。その声に釣られてリオ達がその方向へ視線を送ると、地面に横たわるふぐおの姿が視界に映る。

「ふぐお!」

 その光景を見た瞬間に駆け出そうとするレーベ。だが彼の行動は意外な人物に阻止されてしまう。

「リオ・・・?」

 レーベの行動を阻止した人物であるリオが、駆け出そうとしたレーベの進行線上に立ち得物を構える。その行動を見たレーベはリオに大して動揺する視線を向けていた。
 そんなレーベに対し、恐ろしいほどに冷たく言い放つリオ。

「レーベ、今は魔人を相手にする方が先だよ」

「・・・リオ、本気で言ってんのか!?ふぐおが・・・お前の家族があんな大怪我負ってんだぞ!?それなのに――」

 怒りを露わにするレーベ。今の彼にとっては、ふぐおに傷を負わせた魔人よりも、ふぐおの使役者であり家族でもあるリオがそんな冷たい言葉を口にしたことの方が許せなかった。
 だがリオは、無感情にも思えるほどに淀んだ紫黒しこくの瞳をレーベに向ける。

「だからだよ。今は魔人を・・・あいつを消す方が先だよ」

 そう口にするリオの淀んでいた瞳へと怒りの炎が灯る。だがその瞳とは対照的な酷く冷たいリオの声は、彼と共に戦ってきたレーベですら強い恐怖感を抱いてしまうものだった。
 おそらくリオの台詞と共に、真正面からリオの瞳を見てしまったこともあるのだろう、レーベはまるで心臓を掴まれているかのような感覚を覚えていた。

「――、分かった。けど、俺はふぐおの所に行く。・・・どうしても戦うなら1人でやってくれ」

 まるで冷徹な殺戮者のようなリオに気圧されながらレーベがはっきりと口にする。するとリオは、レーベに向けていた瞳を魔人に向けると口を開いた。

「分かった。足手まといは要らないから、早くエレナさんの所に行って。邪魔だから」

 淡々とそう口にするリオ。

「な・・・!おいリオ、今のはどういうことだよ!」

 リオの台詞に対し、神経を逆撫でされたレーベが叫ぶ。対するリオはレーベの方を一切見ることなく魔人に向かい駆け出した。

「おい!・・・くそ!」

 置いて行かれたレーベは地面を蹴ると、すぐにふぐおとエレナの元へ向かっていったのだった。



 リオとレーベが別々に行動し始めた頃。あのあと地面に倒れるミリーとアッガスへ声をかけ続けていたジンは、ようやく2人が怪我をしていたことに気づき、すぐにその場を離脱するべく行動していた。

(・・・リオ?)

 2人をどうにかして移動しようとするジンの視界に、魔人に向かい1人向かっていくリオの姿が映る。

(まさかレーベも?)

 リオが1人で魔人へ向かっていく姿を見て、レーベの姿を探すジン。そうして程なく、エレナの元へ向かうレーベの姿を確認する。

(よかった、無事みたいだな)

 レーベが何事もなく動く姿を見て安堵するジンだったが、それと同時に彼の脳裏に新たな疑問が浮かんでいく。

(いや待て。なんでレーベはエレナの元に・・・?)

 怪我もしていないのにエレナの元へ向かう理由。それは恐らく、リオと何かがあった証拠だろうと確信したジンがレーベに声をかける。

「レーベ!エレナの所に行く前に2人を運ぶのを手伝ってくれ!」

 ジンの声を聞いて立ち止まり、一瞬考える表情になるレーベ。元々ふぐおの容体が気になってエレナの元へ向かっていたレーベは、今すぐにふぐおの元へ向かうべきか、それともジンの元へ行くべきか悩んでいるようだった。
 だがジンのそばにミリーとアッガスが倒れている姿を見つけると、すぐにジンの元へ向かっていく。

「悪いな、レーベ。それで、なんでリオと別行動になったんだ?」

 ジンの元へ来たレーベに対し質問するジン。少し前にジンは常に2人1組で行動するように言い渡したばかりであり、それに基づいたチーム分けもしていた。
 だがその言葉を破ってでもするべき何かがあると感じたジンだったが、次のレーベの台詞で言葉を失ってしまう。

「リオに足手まといって言われたんで」

「・・・はあ?」

 呆けた声を上げ言葉を失ったジンに対して、レーベが簡単に状況を説明していく。

「俺がふぐおの所に行こうって言ったら冷たく言い返されたんです。それで・・・」

「馬鹿野郎!」

 レーベの説明を聞いたジンが思わず怒鳴ると、すぐに言葉を続けていく。

「そんな理由でこっちに来たのか!?お前は、あいつが今どんな気持ちでいるのか分かってるのか!?」

「どんな気持ちって・・・ただ冷たく言われただけなんで分かりませんよ・・・」

 ジンの台詞に対し小さくなっていくレーベ。そんな彼に対し、ジンが警告するように口を開いた。

「今のリオは周りが見えてない。・・・下手したら辺り一帯が消え去るぞ」

 そう口にしながら、ジンが魔人と戦うリオの方を見る。二刀流の短剣使いと同じく二刀流の大剣使い。その両者が起こす剣戟による突風は、両者の得物がぶつかってから少し時間を置いてジン達の元まで達していた。
 その様子を見たレーベが口を開く。

「いくら何でもそれは無いんじゃ・・・」

「いや、あいつはそれくらいは出来る。昔、文字通り辺り一帯を吹き飛ばしたからな」

 レーベの台詞に対してそう口にするジン。その脳裏には、リオと出会ってばかりの頃、エレナが暴走したことにより草原の地面へ大穴を開けた時のことがあった。
 リオはその時よりも格段に強くなっており、魔力の操作も上達している。そのため、今のリオならば間違いなくその時とは比べ物にならないくらいの事を起こせるだろう。
 ジンの台詞を聞いて、唖然とした表情になるレーベ。そんな彼に「早くリオを止めに行くぞ」とジンが声をかけると、彼らの背後で爆発音が鳴り響いた。
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