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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第二部・攻防戦 15話

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 ガレイ攻防戦5日目。この日、昼過ぎに姿を現した魔物たちは、魔人5体を中心にガレイへと進攻してきていた。それに対し駐屯隊や傭兵、冒険者たちが魔物を迎え撃つべく出撃していく。
 程なくして対峙する両者。2千からなる魔物たちの群れは辺りを威圧しながら展開すると、駐屯隊目掛けて攻撃を開始した。
 激突する両者。だが防衛を行う兵士たちの士気は低く、連日の激戦も相まって少しずつガレイの町中へと押し戻されていた。

「退くなー!ここを抜かれればこの町は終わりだぞ!死に物狂いで持ちこたえるのだ!」

 辺りを激励するように叫ぶ兵士。だが彼がいくら叫んでも魔物たちの勢いは止まらず、気づけば西門跡を突破され町中まで後退していた。

「お、おらたちも町を守るぞ!」

 そんな兵士たちの支えになるように魔物へと突撃していく市民たちからなる民兵隊。あの後、話し合い(なぐりあい)の末残った50名が民兵として5日目の戦闘に参加していた。
 訓練された兵士たちと異なり個人の技量は素人の彼らだが、彼らの必死の戦闘は兵士たちに少なからず火を点けていったようで、わずかにだが後退の速度がゆっくりになっていく。

「てめえら!!あいつらに後れを取るな!「白虎」はまだ健在だと教えてやれ!」

 民兵たちに続くようにクロウ達が飛び込んでいく。昨日の戦いで団員が20名を切ってしまった彼らだが、その内の動ける14名が勇猛果敢に魔物たちへと切り込んでいったのだ。
 そしてそれに続くように、義勇兵として参加していた他の傭兵や冒険者たちも続いていく。

「なあジン。俺たちはまだ動いちゃいけないのか?」

 我先にと駆けだしていく傭兵や冒険者たちを見て羨ましそうに呟くアッガス。

「駄目だ。俺たちは最終防衛戦だ、下手に参戦は出来ない」

 心苦しそうに呟くジン。彼も出来る事なら、彼らに続いて魔物たちを倒したいのだろう。だが戦闘の前に万が一の際の最終防衛戦を司令官であるビロードから頼まれたジンとしては、よほどのことがない限り動くことが出来ないでいたのである。
 彼らの背後には文字通り無防備な市民たちがいる。もし彼らがここを離れた隙にただの1体でも戦線を抜けてしまえば大惨事となる。そして、現状町に残る兵力で一番強力なのが彼ら「大鷲の翼」であり、そのこともジンがここから動けないでいた理由の1つであった。

「でも、いくらふぐおとフジミに私がいるとは言っても、あれだけの数は流石に持ちこたえられないわよ?」

 ジンに対しエレナが声をかける。

「確かに、あれだけいられると守り抜くのは不可能だろう」

 エレナの台詞に同意するジン。

「だが、俺たちがするのはあくまでも時間稼ぎだ。万が一、市民に被害が及びそうな状況になったら東門から脱出させる。――そのために市民たちは既に東門のそばで待機しているからな」

 最終防衛戦を頼まれると同時に、ビロードから聞かされた作戦の概要を伝えるジン。無論彼が口にした作戦は最終手段であり、魔物たちを撤退させられればそれに越したことは無いだろう。

「なるほどね。市民たちが脱出すれば後は自力で逃げ出せってことね?」

「その解釈で構わない。一番いいのは奴らを殲滅することだがな」

 エレナの確認に頷きながら同意するジン。それならば、と唐突にエレナが魔力を圧縮し弾丸状に形成していく。
 その行動を見て何をするつもりか察したジンは、ふぐおとフジミにも声をかける。

「ふぐお、フジミ。お前たちも魔法で援護してくれ。狙うのは出来るだけ後方の奴らだ」

「フグ」

「っち、しゃーない、やってやるよ」

 ジンの指示を受け、2人と1頭が攻撃態勢に入る。すると不意に、エレナが口を開いた。

「そうだわ、リオ君も魔法で何かできない?」

「僕?」

 急に名前を呼ばれたリオが、自分の顔を指さしながら尋ねる。それに対しエレナが頷くと、リオを手招きする。そして、それに応じるようにエレナの元へ向かうリオ。

「じゃ、やるわよ」

 リオが隣に立ったことを確認したエレナがあらかじめ精製してあった魔力弾を発射する。それに続くようにふぐおとフジミも攻撃を開始。そこから若干遅れてリオが魔法で風の刃を作り出し、後方の魔物たち目掛けて撃ち放つ。
 魔物たちに優勢な戦場の後方で突如上がる砂煙。リオ達の放った攻撃は見事に命中し、十数体の魔物たちが魔力へと帰っていく。そしてその光景を見た兵士の一部から歓声が上がり、防戦一方となっていた戦況がわずかに好転する。

「次、いくわよ!」

 再度放たれる攻撃。それらは一射目と同様に後方の魔物たちへと直撃すると、今度は20体ほどの魔物が消え去っていった。
 再度上がる歓声。だが、それに呼応でもするかのように魔物たちからも咆哮が上がる。

「・・・まずいな」

 後方から戦況を見ていたジンが1人呟く。なぜなら、咆哮の後から明らかに魔物たちの動きが良くなったからである。

「おいおい、このままじゃやばくねえか?」

 同じように感じたのだろう、アッガスが今にもはち切れそうな防衛戦を見て声を上げる。

「すまん、アッガス。あとは任せる!」

 そう言うや否や、身の丈ほどもある大剣を片手に駆け出すジン。彼が向かった先は、今にも崩壊しそうな防衛戦の一点。

「あ、おい!・・・くそ、ミリー、ジンについてってくれ」

「うん、わかった」

 アッガスに声をかけられすぐに駆けだすミリー。そしてその直後、苦戦する防衛戦の一点の後方に辿り着いたジンが跳躍。魔物たちのひしめく場所に着地したかと思うと、得物の大剣を思い切り振り回し周囲の魔物たちを吹き飛ばしていく。
 その次の瞬間、民兵の1人を襲おうとした魔物を刹那の内に切り伏せるジン。

「急いで防衛戦を立て直せ!それまでは俺が受け持つ!」

 直後、周囲の兵士たちへ向けて声を上げるジン。そうして次の獲物へと迫り、瞬く間に周囲の魔物たちを殲滅していく。

「ジンー、先に行きすぎだよー!・・・やっと追いついたぁ」

 それから遅れること数秒。ジンの元へ辿り着いたミリーがジンに声をかける。対するジンはミリーの方を片目で見ると、すぐに魔物へと襲い掛かる。

「無駄口叩いてないで仕事しろってことー?・・・まあいいや」

 ジンに続いて魔物へと接近するミリー。ジンに負けるとも劣らない速度で動き回るミリーは、まるで狩人のように軽快に動き回りながら魔物たちを一閃していく。対するジンも、彼女に負けじと続々と魔物を屠っていく。

「彼らに続け!我らも負けるわけにはいかないぞ!」

 それから少しし、態勢を立て直した様子の兵士たちが続々と戦闘に参加していく。そうしてひとまず持ち直したことを確認したジンはミリーに声をかける。

「ミリー、次は左側へ進む。お前はこのままここで戦え、いいな?」

「うん、分かったよ、ジン」

 ミリーからの返事を聞き、ジンが次に戦線が崩壊しそうな左側へと向かっていく。
 一方その頃、ジンが向かっている最中の場所――町の大通りの中央部では、民兵を中心に他の冒険者たちの奮戦で持ちこたえている様子だった。
 大通りの防衛戦で最大の人数である駐屯隊の兵士も100名余りが負傷または死亡し、残る兵士たちも250名を切っている上に士気も疲労も最高潮となっている彼らに代わり、民兵と冒険者たちが奮戦し持ちこたえているという状況であった。
 そんな彼らの右側から、魔物を蹴散らしつつ参入するジン。

「味方だー!」

「ジンだ、あの「大鷲の翼」のジンだー!」

 ジンの姿に気づいた民兵や冒険者たちから続々と声が上がる。その歓喜の声に飲まれながらジンが得物を振り回し、周囲の魔物を魔力へと返していく。
 大量の魔物を相手に無双していくジンの姿を見て奮い立つ人々。そうして中央部も盛り返したかに見えた、その時。

「・・・おいでなすったか、魔人さんよ」

 彼らの上空に人型の魔物が姿を現し、ゆっくりと降下していく。それと同時に、まるで場所を開けるように後退していく魔物たち。

「魔人だ・・・」「ひーふーみー・・・5体もいるぞ!」

 一度に5体も現れた魔人たちを見て、民兵が声を上げる。

「ジン、こいつら・・・!」

 どうやら魔物たちは全体が後退したようで、ジンの元へミリーが駆け寄って来て声をかける。

「ああ、昨日現れた奴らだろう。だが、5体とも出て来るとはな・・・」

 正面に舞い降りた魔人たちを見ながら零すジン。彼としても、暴れていれば魔人たちが邪魔をしに来ることは計算していたようだが、まさか5体とも現れるとは思っていなかったのだろう、その表情は驚きに変わっていた。
 大剣を構えなおし、ミリーの方を見やるジン。

「ミリー、やれるか?」

「「やれるか?」じゃなくてやるしかないでしょ。向こうは戦う気満々みたいだし」

 ジンに声をかけられたミリーがそう答え、短剣を構えなおす。5対2という明らかに不利な状況に、ジンは内心毒づく。

(くそ、こういう時に限ってあいつらは気づいてないのか?近くに戦力になりそうな奴は・・・?)

 魔人たちを見据えながらジンが視線を巡らす。すると、左の方から駆けてくる男性2人の姿が映る。その正体は、ガレイ駐屯隊第一小隊臨時隊長・マイセフと傭兵集団「白虎」のリーダー・クロウの姿だった。

(クロウと・・・マイセフとかいったか。今は戦力が増えるなら心強いな)

 こちらへ近づいてくる2人の姿を見ながら内心で呟くジン。すると、ジン達の背後から声が上がる。

「何やら嫌な予感がして来てみれば・・・この老いぼれも力を貸そう」

 突然背後で上がった声に驚き振り向くジンとミリー。するとそこには、顎に白い髭を生やした70歳手前の老人が立っていた。
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