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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第二部・攻防戦 3話

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 それから少し。ジンとクロウの2人は、突如として始まった彼らの競争に巻き込まれた4人と共に迫りくる魔物たちを蹂躙していた。
 久しぶりに好敵手ライバルと呼べる存在が出てきたことに興奮していたのか、初めチーム戦として始まった両者の競争だが、気づけばジンとクロウの2人によるタイマン勝負と化していた。

「わー、なんだか楽しそうだね・・・」

「ええ。でも、なぜか後でジンを折檻しなきゃいけない気がするわ・・・」

 その光景を見ながら呟いたのが、エレナとミリーの2人。彼女たちが見ていたのは、明らかに羽目を外したジンの姿とそのジンについて行くクロウの姿であった。

(こいつ、思ったよりもやるな)

 隣で魔物を屠るクロウの姿を見ながら、内心で呟くジン。そんなクロウは、得物である長剣を的確に魔物たちの急所へと突き刺しながらジンの方をちらりと見る。

(挑発ってとこか。たまには乗るのもいい、最近は暴れることもなかったからな)

 3年前、オーガスが依頼中に死亡して以来戦闘系の依頼を受けることがめっきり減っていた「大鷲の翼」は、その武勇を振るう機会はほとんどなかった。
 おそらくジンは3年経った今でもオーガスの死を引きずっており、意識のどこかで避けるようにしているのだろう。
 ジンはクロウに視線を返すと、ギアを一段階上げ、先ほどまでの倍近い速度で魔物を屠っていく。対するクロウも、負けじと付近の魔物たちを殲滅していく。
 彼らが得物を一閃するごとに空を舞う魔物たち。

「ねえ、おじさんたち。・・・僕らここに居る意味ってあるのかな?」

 一閃ごとに空中へ跳ね上がり霧散していく魔物たちを見ながら、リオがクロウと共に来た傭兵・ペルトに声をかける。
 ちなみにジンとクロウが2人で無双しているため、現在彼らは手持無沙汰――もとい、さぼっている最中だった。

「・・・さあな。だが、そろそろ2人を止めねえと、そちらさんの魔法使いが怒り狂いそうだぜ?」

「え?」

 世間的に「大鷲の翼」での認知されている魔法使いと言えばエレナのみである。そのことをペルトに指摘され、思わず振り返るリオとレーベ。
 するとそこには、彼の言った通り、今にもジンとクロウを再起不能にしてしまいそうな雰囲気のエレナの姿があった。
 その姿を見て慌てるリオとレーベ。すぐにジン達の元へ向かうと、2人を強制的に後退させる。

「おじさん、下がって!じゃないと大変なことになる」

「ジンさん、エレナさんが!」

 慌てふためく2人を見て、初めは訝しがる2人だったが、突然背後から殺気を感じ思わず振り返る。そうして彼らが見たものとは――

「そこの脳みそ筋肉2人。すぐに冷静になるか、冷や水をぶっかけられるか選びなさい」

 頭上に2メートルはあるであろう巨大な氷塊をいくつも浮かべたエレナの姿。冷や水と言いながら氷塊を掲げる彼女の表情は、般若そのものだった。
 彼女の表情と言動を見て即座に撤退するジン達。そんな彼らを食らい尽くそうと魔物たちが迫るが――

「消えなさい!」

 エレナの台詞と同時に放たれた氷塊たちが、中央の戦場に残っていた魔物たちの内、50体近くを消し去った。
 ――余談だが、一連の彼女の行動を見ていた「白虎」の3人はその日の夜、仲間たちにこの出来事を話し「「大鷲の翼」で一番怒らせてはならないのはエレナ」という共通認識を持たせるまでに至ったのだった。なお、彼らが撤退した後にジンが折檻を受けていたこともその認識を加速させる一因となったことも記しておく。
 その数分後。左翼の戦場からも歓声が上がり、各戦場から魔物たちが撤退していった。
 ガレイ攻防戦の初戦、1日目の昼前に始まった戦いは、こうしてわずか1時間ほどでガレイ側の勝利に終わったのだった。



 初戦を勝利で収めたガレイ駐屯隊と冒険者・傭兵たちは、最低限の見張りを残し、少し遅めの昼食をとっていた。
 そんな中リオ達が西門側にある商業施設の片隅で食事をとっていると――

「おう、ジン。さっきは凄かったな」

 傭兵集団「白虎」のリーダー・クロウが数名の部下たちと共に、彼らの元を訪ねてくる。

「ははは・・・できれば忘れてくれ」

 何やら遠い目をしたジンが口を開く。そんな彼の隣ではエレナが刺し殺すような視線をジンとクロウへ向け「また余計なことを始めるなら容赦しないわよ」と脅しているように見える。
 そんな彼女の視線を感じ押し黙るジンとクロウ。すると、不意にクロウの背後から1人の少女が姿を現し、リオへ一直線に抱き着く。

「お兄ちゃん達、大丈夫だった?」

 クロウらの背後から現れた少女は、茜色の髪を揺らしながらリオの胸元へ顔をうずめると、その桃色の瞳をリオの顔へ向ける。

「大丈夫だよ、メイン。・・・ほら、ふぐおとフジミも」

 リオが少女の名前を呼び、ふぐおとフジミを手招きする。

「熊さん!ねえ、また触ってもいい?」

 ふぐおの姿を見たメインは跳ねるようにリオから離れると、リオの許可を待つことなくふぐおの体へその身をうずめる。
 そんな少女を見て苦笑いを浮かべるリオ。急に体をまさぐられたふぐおは、困った視線を周囲に向け、フジミは不機嫌そうに口を尖らせる。

「俺様は呼ばねえのかよ」

 ぼそりと呟いたフジミへ、メインが今気づいたように声をかける。

「あ、こわいひと」

「誰が怖い奴か!」

「そういうところだと思うよ」

 こわいひと、と言われたフジミが鬼のような形相で少女へ食ってかかるが、リオに指摘され静かになる。だが少しすると、開き直ったように口を開いた。

「は、俺様は魔人だ。怖がられてなんぼの存在なのだ!だから気にしてねえ!いいな!?」

(((めちゃくちゃ気にしてる・・・)))

 その台詞を聞いて内心でほぼ同時にそう思うリオ達。そして、当のフジミの方はなぜか胸を反らしているのだから、どことなく可哀そうな子感が出てしまっているのは否めなかった。
 そしてフジミの台詞を聞いたメインとクロウ達の反応はというと――

「てことは、お前が昨日北門で大暴れしてやがった野郎か!いやー、あん時は助かったぜ」

「まじん・・・?なんだかかっこいいね」

 さほど驚いた様子もなくフジミの発言を受け入れていた。――いや、メインの場合は魔人という存在をよく分かっていないという方が正しいだろう。
 そんなメインに、リオが簡単に魔人について説明すると――

「悪者から正義の味方になったの?」

 と、子供らしい解釈が返ってくる。人間の敵が人間の味方をするということは、月並みな解釈ではあるが、それが一番わかりやすいだろう。――言い方を変えれば同胞への裏切りでもあるのだが。

「えーっと、まあ、そんなところかな」

 本当はリオとフジミの間に色々とあったのだが、ひとまずそこは省くことにしたリオ。そこで、ふと浮かんだ疑問をリオが口にする。

「でも、魔人って魔物たちの親玉みたいなものだけど、メインは憎くないの?」

 彼女にとってフジミは家族を殺した魔物の同類である。それにも関わらずフジミに気を許しているのは、フジミ自身が彼女の両親探しを手伝ったからなのか、それともリオの仲間だからなのか。はたまたその両方か――
 メインはリオの質問に対し、すぐに首を振り答える。

「全然。こわいひとはメインを助けてくれたもん」

 そう口にしたメインの表情は、屈託のない眩しいまでの笑顔だった。



 それからしばらく。メインやクロウ達も交え昼食をとったリオ達は、西門を望む範囲で自由行動をとっていた。
 ジン、ミリーは久しぶりに2人で昔話をするらしく、町の中央へ。アッガスは1人西門の兵士たちのもとへ。エレナはレーベとフジミを連れ「白虎」のクロウらと交流をしていた。
 そして残るリオとふぐおはというと、数日ぶりにふぐおのブラッシングをしていた。地面に横たわり、完全にリラックスしている様子のふぐおは今にも眠ってしまいそうなほどに目をトロンとさせていた。

「熊さん、気持ちよさそう」

 リオがブラッシングをする様子を眺めていたメインが呟き、リオの方へちらりと視線を送る。その視線に気づいたリオは「やってみる?」と声をかけると、手にしていた櫛を差し出す。

「うん!」

 勢いよく返事をすると、櫛を受け取ったメインが見よう見まねでブラッシングを始める。だが上手くいかないようで、何度も毛が櫛に引っかかるのか強引に引っ張ったりしており、そのたびにふぐおの体がビクンと跳ね上がる。

「あ、あれ?動かなくなっちゃった」

 そんな無茶を繰り返したせいか、やがて完全に動かなくなる櫛。と、次の瞬間。メインが櫛を思いっきり引っ張った。

「えい!!」

「フッッ!?ギュウウウウウゥゥオ!!??」

 次の瞬間、ふぐおのものとは思えない悲鳴のような絶叫が響き渡る。少し離れた位置で2人を見守っていたリオも、その突然の鳴き声に弾かれた様に2人の元へ向かう。そして――

「・・・・・・」

 目の前にあった光景に絶句するリオ。彼の視界に入ったのは、一部が10円ハゲのように見事になくなったふぐおの漆黒のような黒い体。それと、痛みのせいで涙目なふぐおの困り果てた視線と、メインの血の気の引いた真っ青な顔だった。
 おそらく、ふぐおも相手が相手だけに怒ることもできず、メインの方も状況が状況だけにどうしたらいいのか分からないのだろう。

「ふぐお、大丈夫?・・・って、これじゃあ大丈夫じゃないよね」

 リオの台詞に、涙目のまま頷くふぐお。軽くリオがふぐおの禿げた部分を見るが、しばらくはこのままだろうと思ったリオは、メインに声をかける。

「メイン、ひとまずふぐおに謝ろう?」

 リオの台詞にこくこくと頷くメイン。まだその表情は真っ青なままだが、ふぐおの前に立つと深々と頭を下げて謝る。
 対するふぐおは自身の毛が絡まったままの櫛を恨めしそうに見るが、一声鳴くと軽い力でメインの頭を小突く。おそらくそれは、「今度からは気を付けろよ」というふぐおの言葉なのだろう。その証拠に、ふぐおの顔は涙目ながらも怒っている様子は一切なかった。

「熊さん、ごめんなさい」

 最後にもう一度謝るメイン。そんな彼女に対しふぐおは特に気にした様子もなくブラッシングの続きを要求したのだった。
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