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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第二部・攻防戦 1話

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 青い空のつづく、何の変哲もない世界。中世のような武具に、魔法や魔物と言った変わった存在がいる、ファンタジーとしては普通な世界。
 そんな世界にある人口2千人ほどのガレイという町は、わずか数日前まではそこに住む人々や訪れる旅人や商人といった人々で賑わう、活気のある町であった。
 だが、そんな人々で溢れていた町には今や寄り付く人の姿はなく、その代わりにガレイという町を吞み潰さんが如く迫る漆黒の存在――魔物たちの姿があった。

「我らで時間を稼ぐのだ。我々がここで1秒でも時間を稼げば、100人の市民の命が救えると考えろ」

 部隊を指揮していると思われる男性が、部下の兵士たちに向け大声を張り上げる。わずか20名ほどの兵士たちは、皆一様に覚悟を決めた表情を浮かべ、男性の言葉に呼応する。

「さあ、花を咲かせるぞ!」

 男性が先頭に立ち、総勢3千に上ろうかという魔物の集団へと突撃する兵士たち。
 ――それは、6日間行われたガレイ攻防戦の中で散った、人々を救うために命を投げ捨てた漢たちの最期だった。



 ガレイ攻防戦1日目。
 この日、昼前にガレイへと進行してきた魔物たちは、2千という数をもってして500名ほどのガレイ駐屯兵を押し潰さんと迫って来ている最中だった。

「敵襲ー!魔物達だ!」

 魔物発見の報を伝えるべく大声で叫ぶ兵士。その彼の声は、波打ち際に寄せる波のように瞬く間に周囲へと広がり、すぐに駐屯隊から300名ほどが魔物の迫る西門へと向かっていく。

「ビロード殿。俺たちは念のため西門の後方に待機する」

 西門へと向かう兵士たちと共にいたビロードへ「大鷲の翼」のリーダーである赤毛の男性・ジンが声をかける。

「了解した。・・・他の冒険者や傭兵たちは?」

 ジンに返事をしたビロードは、傍らに立つ兵士に声をかけながらそのままジンの元を去って行く。その後ろ姿を見送ったジンは、彼の背後にいる仲間たちへと声をかける。

「さて。・・・今回俺たちがやることは西門の兵士たちの手助けだ」

 ジンの台詞に頷く一同。全員が「大鷲の翼」としてやるべきことを理解している様子に、ジンが静かに口を開く。

「そろそろ始まるぞ。ここからは戦場だ、気は一切抜くな」

 そうして程なく、西門の外で兵士たちの雄たけびが上がった。



 ガレイ西門を出てわずか数分の位置で始まる戦い。2千体の魔物と、350名ほどの兵士たち。そしてそれを手助けする冒険者や傭兵たち。両者は目前の敵を前に、自身を奮い立たせながら命のやり取りをしていた。
 開戦から数分。激突した地点では、早くも互いに悲鳴が巻き起こる。それらは辺りへ木霊するように響くと、空の彼方へと消え去っていく。

「報告!西門から4分の位置で守備隊と魔物が激突。現在我らが劣勢です!」

 開戦から10分後。司令部であるギルドで前線の状況を報告に来た兵士が、指揮官であるビロードへと報告をする。
 報告を聞いたビロードは顎に手を当てしばし考える。

(思ったよりも早かったな。彼らを出すか?)

 思考を続けるビロード。彼の言う「彼ら」とは傭兵集団の「白虎」のことである。
 傭兵集団「白虎」は皇国内でも高い知名度を誇っており、そのリーダーを務める男性・クロウはほぼ同職と言える冒険者から傭兵へ転身。冒険者時代に培った技術とその人柄で30人からなる傭兵集団の長を務めていた。
 ちなみに、冒険者と傭兵の最大の違いは、依頼の内容に「人殺し」が含まれるかどうかである。冒険者が「町の便利屋さん」といった立場なら、傭兵は「裏社会の構成員」といったところだろう。

(・・・いや、まだ耐えさせるべきだろう。これで万が一にも他の門が攻められた場合、切り札が無くなってしまう)

 そんな彼に率いられる傭兵たちもそこらの冒険者と変わらないレベルで強く、個人の力量では「大鷲の翼」には敵わないが、その人数の多さを生かした戦い方・連携精度は「大鷲の翼」と変わらないかむしろ上回るほどである。

「――ジン殿に即座に参戦するように伝えろ。それから、各門守備隊長に「白虎」を西門に向けるように伝えろ」

 やがてビロードは、現在西門を攻める魔物たちが全戦力と判断したのか「白虎」にも西門へ向かうように命令する。
 伝令たちは即座に各門へ急行し、司令部であるギルドにはビロードと北門守備隊隊長・アイオワの姿が残る。そんな彼らの周囲では、ギルドの職員たちがせわしなくギルド中央にある掲示板に張られた地図へと戦況を記入していた。

「・・・さて、これで西門は守りきれる。だが――」

「北門はともかく、東と南は攻められれば持たんぞ?」

 指令官であるビロードの呟きに、既に還暦を超え、間もなく70歳となる北門守備隊長のアイオワが、顎に生やした髭を撫でながら口を開く。
 アイオワの口にした言葉はビロードも理解しているのか、彼に同意するように頷く。

「ですが、このままでは西門が落ちる可能性の方が高い。そうなれば他の門が無事でも意味がない」

 ビロードが口を開き、そう口にする。

「そうだの。だが、西門への援護は「大鷲の翼」だけで十分だったろう。「白虎」まで動かす必要はなかったぞ」

 なぜなら彼らには魔人がついておるからな――
 そう口にするアイオワの表情は、昨日あったフジミと魔物の対決の様子を思い浮かべている様だった。

「ええ、その報告は受けています。ですが、その魔人が本当に彼らの味方である可能性は・・・」

 ビロードが神妙な面持ちのままそう口にする。
 そんな彼に対し、アイオワは高らかな笑いを上げる。すると、彼の耳元で衝撃の発言をした。

「その魔人は使役されている」

 アイオワの言葉に、理解が出来ずに立ち尽くすビロード。
 本来であれば魔人という存在は、害を与えることはあっても人間に味方することはない。――普通の魔人であれば、だが。
 アイオワの守る北門へ現れた魔人・フジミはリオの母・ミサトの無念が元で生まれた存在であり、グレンの森でリオと出会ったことにより魔人でありながら人間の味方をするようになったのである。
 だが、そのことを知らない側からすれば、魔人が人間の味方をするだけで衝撃的である。それに加えて使役されているなど、一体どこの誰が想像できるだろうか。

「し、えき・・・?というと、その魔人は「大鷲の翼」の誰かに使役されていると?」

 魔人が現れた報告は受けていたが、使役されているという報告は受けていなかったのだろう、戸惑いがちにビロードがそう口にする。そんな彼に対し、アイオワはさらなる衝撃の事実を伝える。

「うむ。――しかも、その魔人が言うには自身を使役しているのは「大鷲の翼」と共にいる少年らしい」

 アイオワのその言葉で、ビロードは地面が崩れ落ちていくような感覚を覚えたのだった。



 ガレイ西門。現在そこでは、2千体もの魔物を相手にガレイ駐屯隊350名が苦戦しながらも、何とか戦闘を継続していた。
 響く咆哮と悲鳴。それに紛れて聞こえる兵士たちの声は、さながら巨象を狩ろうとする人間達のようでもあった。
 だが現在。巨象たる魔物たちを狩ろうとする人間たちは、逆にその数を少しずつ減らしつつあった。

「第三小隊・第二分隊が後退、同小隊第一分隊が援護中です」

「第六小隊・第一分隊から救援要請!既に3名やられたと」

 西門のあった場所から戦況を眺める、現場指揮官である第一小隊隊長・ジェラードが、苦い表情を浮かべながら目の前に広がる図面を睨みつける。

「・・・第二小隊を全部隊前へ。各分隊ごとに前線の部隊を掩護させろ。それから――」

「報告!後方で待機していた「大鷲の翼」が前線へ突入!現在第三小隊・第一、第二分隊を掩護中です!」

 ジェラードが指示を出そうとすると、前線から走ってきたらしき兵士が突然声を上げ報告する。
 その報告を聞いたジェラードが一瞬だけ驚いた表情を浮かべるが、すぐに別の命令を飛ばす。

「第二小隊は第六小隊の援護に。第一小隊へは第四小隊から3分隊を出せ」

 指令を受けた兵士がすぐに各隊へと走る。

(いいタイミングで参戦してくれた。だが、隊長からの伝言はまだ――)

 ジェラードが内心で「大鷲の翼」へと感謝をするが、指揮官であるビロードからの伝令は彼の元へはまだ来ていなかった。

「ジェラード殿、指揮官より伝令です。――「大鷲の翼」を参戦させる、と」

 彼の元にビロードからの伝令が来たのは、それから2分後のことであった。
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