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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第一部・ガレイ 3話

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 リオ達の元から魔物たちが逃げ去って行った直後。息つく暇もなくガレイへと進み始めたリオ達は、ガレイの西門を襲っていた魔物たちの姿をその視界に収めていた。
 すでに傭兵集団「白虎」の面々が魔物たちをあらかた殲滅し尽くしたあとのようで、残る魔物たちもガレイを守る兵士たちの手によってその数を減らしつつあった。
 そんな真っ只中へと飛び込んでいくリオ達。急に背後から襲われたことにより、魔物たちは完全に混乱し、蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行った。

「援護感謝する。君たちは・・・「大鷲の翼」か?」

 前線で魔物を切り倒していた兵士がジンに声をかける。

「ああ。ところで、この状況は?」

「つい30分ほど前に急に魔物たちの襲撃を受けてな。――まだ北門が襲われているはずだ。君たちにはそこへ向かってもらいたい」

 ジンに声をかけた兵士が簡単に説明し、北門の方を指さす。だがジンは、腕を組みながら彼に意見を述べた。

「悪いんだが、俺たちがここに残ろうと思う。それよりもここに残ってる半数を向かわせた方がいいだろう」

 ジンの意見を聞いた兵士が即座に戦況を整理し始め、頷いた。

「では第四小隊から15名を残そう。それから守備隊から15名。残りは連れて行く」

「待て。守備隊だけでいい。それよりもおそらく後方に回している兵士がいるはずだろう?彼らを連れてきてくれ」

 兵士の台詞に対し、そう口にしながら、後方のボロボロになった門と木塀を指すジン。
 そんな彼の思惑を察した兵士は、ジンの台詞に頷き、すぐさま近くの兵士たちに声をかける。

「お前たち!守備隊は「大鷲の翼」と共に。残りは北門の援護に向かう!急げ!」

 兵士の言葉に、すぐに動き出す兵士たち。そうして残された西門守備隊の面々から、1人がジンの元へ近づいていく。

「私が守備隊の隊長・ポトゴロフだ。あなたが「大鷲の翼」のジン殿か?」

 守備隊隊長・ポトゴロフに対し頷くジン。そしてジンは、先ほどの兵士に口にした内容を彼と共有する。

「なるほど。貴殿の考えは了解した。となれば、我らは増援が到着するまではここを死守するのが任務ですかな」

「そうなるな。だが、守備は10人ばかり貸してくれればいい。それ以外は俺たちがカバーする」

 自身の為すべきことを口にするポトゴロフに、ジンがそう口にする。
 対するポトゴロフは、一瞬困った表情を浮かべながらも、ジンに「その間に防護柵の準備を」と言われ、彼の考えを読み取る。

「おい、ペターはいるか?」

 ポトゴロフがペターという兵士の名前を呼ぶと、ほどなくして姿を現した。
 隊長であるポトゴロフの前で敬礼するペターに対し、ポトゴロフが命令を下す。

「お前の隊は今からジン殿らと共に、門の外に出て守備を行ってもらう。為すことは1つ。魔物の侵攻を許すな、以上だ」

 命令を下されたペターが180度周り、配下の兵士を呼び集めリオ達の元へと戻ってくる。そうしてペター配下の兵士7名を加えたリオ達は、魔物たちによって破壊された城門の外へと繰り出していった。



 一方その頃、北門へと向かった傭兵集団「白虎」の頭である男性は、彼らが相手にする魔物に対し目を見張っていた。
 馬のような体の上に、三面六臂の人の体が乗った、奇怪な化け物。ケンタウロスとも言えないようなその魔物は、周囲を取り囲む兵士や傭兵たちを、まるで赤子の手をひねるかのように惨殺していた。

「・・・隙がねえ。あんなの卑怯だろ」

 一方から誰かが攻め、その反対から誰かが攻めようとも魔物の前では全くの意味を成していなかった。3面についた顔が、360度あらゆる方向からの攻撃を捌いていたからである。

「頭ぁ・・・もう7人もやられましたぜ」

 彼のそばに立つ傭兵が、絶望した声をあげる。
 魔物は次第に数を減らしていく人間に対し、全くというほど疲れを感じさせていなかった。

「くそ、あんな化け物見たことがないぞ」「どこから攻撃しても防がれる・・・どうやって倒すんだよ!」

 前線で魔物を相手にする兵士や傭兵からも絶望に満ちた声が上がる。

(どうすればいい?こんな時、あいつなら・・・!)

 男性が打開策を模索するが、一向にいい案は浮かばない。それどころか、彼が時間をかければかけるほどに兵士たちの命が犠牲になっていく。
 すると突然、彼の頭上から人の声が響き渡った。驚いた男性が空を見上げる。そこにいたのは――

「はっはー!お困りの時はフジミ様に任せろ!」

 漆黒の闇のような体。翼もないのに空に浮く、生命全ての敵・魔人だった。



「魔人!?なぜここに・・・」

 北門へと向かっていた兵士の1人から突如、驚愕の声が上がった。彼らが見た魔人――フジミは、なぜか敵であるはずの人間の味方をするように異形の魔物と死闘を演じていたからである。

「わからんが、どうやら味方らしい」

 驚愕する兵士たちに対し隊長の男性が呟き、そばに立つ男性に声をかける。

「あれはどういうことだ、「白虎」の団長?」

「知らん。だが、本人が言うには「大鷲の翼」と共にいる子供の使い魔?らしい」

 隊長に尋ねられた男性は、本人も困惑した様子で答える。それを聞いた隊長は先ほどジンと共にいた子供の姿を思い浮かべる。

(まさか、な)

 ある可能性を思い浮かべた隊長は、すぐに首を振り魔人と魔物の戦いを観察する。

「久しぶりに骨のあるやつと戦えて嬉しいぜ?化け物さんよ」

 フジミが相対する魔物に声をかけながら得物である片手剣を振るう。彼が両手に手にした片手剣は、死角から飛んでくる魔物の攻撃を完璧に防ぎながら魔物へと喰らいついていく。
 再度響く甲高い金属音。と同時に、フジミが魔物の背後へと魔法陣を展開する。

「ブムゥオオオォォ!?」

 突如背後から現れた魔法陣より放たれた高速の一撃。その攻撃をまともに受けた魔物は悲鳴を上げ、乱雑に6本の腕が手にする得物を振り回す。
 その魔物の攻撃を難なく回避しながら、フジミが自身の目の前に魔法陣を展開。先ほど魔物へと直撃させた高速の弾丸を撃ち放つ。

「これでも致命傷にならねえのかよ。無駄に硬いな」

 だが彼の放った攻撃は、皮膚代わりの厚い魔力の層により阻まれてしまう。
 だが、いかに厚い防御層といえども痛みはあるのだろう。魔物が咆哮をあげ、怒り狂ったようにフジミを攻め立てる。
 対するフジミは、回避を中心にしながら致命傷となりうる攻撃だけを的確に捌いていく。やがて攻撃が当たらないことに憤怒し始めたのか、魔物の攻撃が単調になっていく。

「貰ったぜ!」

 刹那、魔物の放った攻撃を得物で受け流し、そのまま魔物の懐へと飛び込むフジミ。そうして両手にした片手剣を短剣サイズへと変化させると――

「秘儀・蜂の巣!・・・ってな」

 無数の乱撃を叩き込み魔物を切り裂いていく。
 辺りに巻き起こる暴風。それらと共に、魔物の悲鳴の咆哮が辺りに轟き渡る。地面を揺らすような悲鳴と、体を揺さぶる風。それらが止んだ頃には、三面六臂のケンタウロス型の魔物の姿は綺麗に消え去っていた。



 フジミが異形の魔物を倒した1時間後。リオ達のいる西門では、急ピッチで防護柵の建設が進んでいた。
 西門守備隊20名、増援部隊100名により進んだ建設作業は、もうすぐそれらしい形を得ようとしていた。

「ひとまず大丈夫そうだな・・・リオ、レーベ。そろそろ退屈してたフジミの奴を迎えに行ってやれ」

「「はーい」」

 作業がいよいよ最終段階へと入ったことを確認したジンが、リオとレーベにフジミを探してくるように伝える。
 魔物を倒した後リオの元へ帰ってきたフジミだったが、そこで行われていた地味な作業に飽きたらしく、町の中を歩き回っていたのだ。無論、少年の姿で、であるが。
 すぐにガレイの中の無事な場所へと走っていくリオ達。そんな2人を見送るジンの背後から、西門守備隊の隊長であるポトゴロフが声をかける。

「ジン殿。もうすぐ防護柵も完成する。残りは我々本職に任し、少し休んできては如何だろうか?」

「では、お言葉に甘えるとしよう。おい、お前ら。一旦休憩だ。1時間後にまた集まるぞ」

 ポトゴロフの台詞を聞いたジンが「大鷲の翼」の面々へと声をかける。すると、声をかけられた面々は我先にと持ち場を離れ、町の中へと戻っていった。
 そして、リオ達と共にいたペターが2人を窺うように視線を向ける。

「ポトゴロフさん。良ければ彼らにも」

「そうだな。――ペター。すぐに交代を送る。それから順次体を休めてこい」

 ポトゴロフの台詞を聞いたペターが小さく頷き、自身に課せられた任務に戻る。その姿を見届けたジンは、傍らに立つポトゴロフに声をかける。

「では、俺はこれで」

「うむ。また後でな」

 ポトゴロフと軽く握手を交わしたジンは、仲間たちに続いて町の中へと戻っていったのだった。
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