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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第一部・ガレイ 2話

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 魔人が少年の姿で現れコントをしたり、レーベがふぐおに追い回されたりしながらも無事依頼を終えたリオ達は、ガレイへと戻る途中にあった。街道を歩く彼らを照らす太陽は、既に昼時を過ぎ、あと2、3時間もすれば空が赤み始めるくらいの位置で、強く光り輝いていた。
 先頭をご機嫌に歩く翡翠色の髪の女性・ミリーが、後ろを進むジン達へと声をかける。

「いやー、あの人太っ腹だったね!報酬も弾んでくれてさ!」

「ああ、そうだな。主に俺とジンに対しての、だったがな」

 ミリーの台詞に、アッガスが恨めしそうに呟く。実は依頼の収穫作業はほとんどジンとアッガスでこなしており、その姿を見た依頼主の男性が2人に対して別で報酬を払っていたのだ。

「ふふん、僕らも少ないけど貰ったんだよ。話に付き合ってくれたお礼だって」

 そう口にしながら、胸を反らすミリー。そして彼女と同様に報酬を貰ったエレナとリオは、なぜか2人揃って落ち込んでいた。

「ミリーは気楽でいいわね。私は大分下世話な話をされて困ったっていうのに」

「僕なんてまた女の子に間違えられたんだよ」

 2人が揃って口を開き、男性に対する感想を吐露する。エレナは主にリオへの教育面、リオは9歳となった今でも少女に間違えられることへの不満であった。
 そんな2人に対して、ミリーが急に口を尖らせる。

「いーじゃん、それで2人は追加でお金を貰えたんだからー」

「「そんなことで貰っても嬉しくない」のよ」

 そんなミリーに対して、リオとエレナが同時に溜息を吐きながらそう呟く。その2人を見ながら、ジンがなだめるように口を開いた。

「まあまあ。その辺にしとけ。さっきから静かなレーベが小さくなっていってるから」

「いいんですよ。俺は所詮――」

「フーグ!」

 真っ黒なオーラ全開でうじうじとしていたレーベに、彼をそうさせた原因の1つであるふぐおが彼を抱き上げる。
 急に浮遊感を覚えたレーベが小さく声をあげるが、ふぐおは気にした様子もなく自身の背中へとレーベを乗せ、レーベの顔を見る。その姿は「元気出せよ」と言っているようだった。
 ふぐおの優しさに、胸が熱くなる感覚を覚えるレーベ。

「ふぐお・・・お前、いい奴だよな」

 レーベの言葉に頷くふぐお。だがそこで、レーベは一番大事なあることを思い出した。

「ていうか、元々お前のせいだったよな、ふぐお?いいとこ見せて証拠隠滅か?」

 レーベが思い出したこと。それは、彼がこうなった原因の1つがふぐおにあるということだった。
 レーベの台詞を聞いて、首を傾げながら知らぬ存ぜぬを通そうとするふぐおだったが、ふとリオの視線を感じ、レーベに対してウインクする。その行動は正に「てへぺろ」といったところだろう。

「てめ・・・あとで覚えてろよ・・・」

 ふぐおの行動に何かを言う気力すら失せたレーベが、負けたチンピラのような台詞を吐いてその背中から降りる。
 そうしてガレイまであと半分といった距離まで来た頃。先頭を歩くミリーが、違和感を感じ急に立ち止まった。

「どうした、ミリー」

 急に立ち止まったミリーに対し、ジンが声をかける。するとミリーが短剣を抜き放ち、ジンに目配せする。
 彼女のその行動を見たジンが全員にハンドサインを送り、戦闘態勢に入った。
 と、次の瞬間。彼らの進行方向から2体の魔物が姿を現した。



 一方その頃。4メートルほどの高さの木塀を四方に配しているエストラーダ皇国の交通の要所・ガレイでは、人為的なものではない煙が上がっていた。
 その煙と共に響く、人々の悲鳴。辺りに満ちる建物が燃える匂いと、血の匂い。――町が何者かに襲われたのだ。そしてその町を襲う正体とは、漆黒の闇のような体を持ち、生きとし生けるものすべてを敵と認識する存在――魔物であった。

「第一、第四小隊を西門へ急行。第二小隊は東門へと市民を誘導させろ。町にいる冒険者と傭兵に義勇兵要請を」

 そんなガレイのギルドでは、指揮官である男性の命令と共に、各兵士が持ち場へと急行していく。
 魔物がガレイを襲い始めたのは、今からわずか20分ほど前の事である。偶然見張りについていた兵士が、魔物たちの集団を見つけたことがはじまりであった。
 急な事態によりガレイ内は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。それからすぐに各人が独断で行動を始めたのがほんの15分前。そこから指揮系統が回復し今に至っていた。

「それから、第三小隊はここの警備。第五、第六小隊は北門と南門の警備を。残りは防護柵の構築のために必要な資材を集めさせろ」

「隊長。市民の避難、一割ほど完了です。それから、傭兵集団の「白虎」が西門へと向かっています。それから――」

 必要な指示を終えたタイミングを見計らい、兵士の1人が指揮官に状況を報告していく。それを聞いた指揮官の男性は、そばにある簡易的なガレイの地図の上に兵士らに見立てた駒を並べていく。
 彼らが指揮所としたガレイのギルドでは、兵士だけでなく職員らも駆け回っており、互いに協力しながら情報の共有を行っていた。すると、そんな中の1人が指揮官の男性の元へと駆けてくる。

「あの、多分、外にも冒険者がいるはずです。彼らの安全も」

「分かっている。だがまずは、攻め込まれた西門を取り返すことが先決だ」

 慌てた様子のギルドの職員。そんな彼の台詞を聞いた男性は、職員の不安を取り除くように力強く口にする。

「隊長!北門にも魔物の群れが・・・!」

 その報告によって、彼の表情は苦虫を嚙み潰したようになっていった。



 ガレイ西門。一番早く魔物たちの奇襲を受けることになったその場所では、20人ほどの兵士たちが、少なくとも50体はいる魔物の集団を相手に奮戦を続けていた。
 1人、また1人と数を減らしていく兵士たちの表情には、恐れと怒りの両方の感情が浮かび、死に物狂いで魔物たちを相手にしていた。

「ウルノミ!・・・このクソ野郎どもがああ!」

 1人の兵士が、魔物たちに囲まれその命を落とす。その兵士の代わりに、別の兵士が魔物たちを倒し、魔物たちにより命を落とす。そしてまた別の兵士が戦い、散っていく。
 その光景はまるで、暖簾に腕押ししているかのようで。
 人間側と魔物側、どちらに戦局が傾くわけでもなく、かといって傾くような要因もない、ただの殴り合いの消耗戦と化していた。
 だが、そんな消耗戦もやがて終わりが来る。――ガレイに駐留していた傭兵集団「白虎」が彼らの元へと駆けつけたのである。

「てめえら!ここは俺たちのホームだ。荒らす余所者にはお帰り願いやがれ!」

 傭兵集団「白虎」の先頭を進む男性が声高らかに宣言する。と、同時に、彼の背後にいた傭兵たちが、魔物たちへと襲い掛かった。
 新たな戦力の登場により、完全に戦況が人間側へと傾き、町へと攻め入っていた魔物たちを確実に減らしていく。そうして気づけば、ガレイの兵士たちも加わり魔物たちを西門そばまで押し返していた。
 その光景を少し後方から眺めていた男性の元へ、同じ傭兵らしき男性が声をかける。

「頭。どうやら北にも魔物がでたらしいですぜ」

「何?」

 男性の報告を聞き、顎へと手を当てる男性。傭兵らしく独自のネットワークがあるのか、彼らはギルドで指揮をする隊長の男性より早くその情報を得ていた。

「よし、5人連れて行け。俺たちもすぐ行く」

「りょーかい致しやした、頭」

 そう言って頭を下げながら、近くにいた傭兵たちに声をかけると、男性はさっさと北門へと姿を消した。
 後に残された男性は、周囲に立ち上る煙と血の匂いに顔をしかめながら辺りを見回し、偶然近くを通りかかった兵士に声をかけた。

「おい、あんたの隊長さんに知らせな。俺たち「白虎」はこれから北門の援護に向かうってな」

「・・・了解した、すぐに部下を走らす。――おい」

 どうやら男性が声をかけたのは、西門防衛の指揮を任された兵士だったようで、一瞬男性を睨んだがすぐに近くの兵士を伝令に出した。

「じゃ、また生きて会えることを祈るぜ」

「ああ。「白虎」の活躍を楽しみにしていよう」



 ガレイで傭兵集団「白虎」と兵士たちが形勢を優勢にした頃、リオ達は襲ってきた2体の魔物を撃退し、あと数分でガレイの外壁である木塀を視界に収めるという距離にいた。
 今の彼らの位置からでも、ガレイから立ち上る煙ははっきりと見え、場所によっては火の手が上がっているのか、火の粉らしきものも見えていた。

「見ろ。ガレイから煙が上がってる」

 警戒態勢のまま、ミリーと共に先頭を歩いていたジンが呟く。それをほぼ同時に捉えたミリーもジンに続いた。

「もしかして、さっき僕たちを襲った魔物って」

「おそらく、ガレイを襲ってる魔物たちからはぐれたか、街道側から誰か来ないか監視していたんだろう」

 ミリーの台詞に対し、そう口にするジン。彼らがそう考えるのは、3年前にあったグレンでの出来事や、ここ1年以内で各地での魔物が相次いで目撃されていることからであった。
 そしてその考えは、今や冒険者や兵士、傭兵といった人々に限らず全ての国民に公表されていた。――人々の命を守るために。

「・・・と、おいでなすったようだぜ」

「みたいだな」

 彼らがガレイから立ち上る煙を眺めていると、彼らの進行方向から何体もの魔物たちが姿を現す。猪型、獅子型。さらには新しく確認された鳥型の魔物や蛇型の魔物までいた。
 現在確認されている種類の魔物の内、ほぼ全てが彼らの前に結集していた。

「フルパーティだな。モテるならこんな薄気味悪い化け物達じゃなくて人間がいいぜ」

 アッガスが愚痴る。そんな彼の愚痴に、リオ達全員が心の中で同意し、次の瞬間、リオ達と魔物たちが激突する。

「おら、お前らの相手は」「こっちだ!」

 一気に距離を詰めてきた魔物たちに対し、アッガスとレーベが2人でヘイトをとるように前へと進み、手にする得物を振り回す。
 対する魔物たちは2人を標的に絞ったらしく、元となった動物たちの武器を利用しながら多彩な攻撃を彼らに向ける。
 猪型や獅子型の鋭い牙に爪。鳥型の魔物たちによる爪攻撃や絨毯爆撃のように降り注ぐ魔力弾。果てには蛇型魔物による毒や酸まで飛んでくる。

「うわあ!あんなのフンだよ、鳥のフン!食らったら生きてたとしても嫌だよ!」

 鳥型魔物の絨毯爆撃のように降り注ぐ魔力弾の出所を見てしまったミリーが叫ぶ。

「そんなもんに注意するくらいならこっちの明らかにやべー方をどうにかしろよ!溶けるか毒で苦しむ方が嫌だろーが!」

 鳥型魔物の動きを注視し始めたミリーへアッガスからの叱咤が飛ぶ。そんな彼の足元には2体の蛇型魔物がまとわりつき、今にも彼の体を酸か毒で蝕もうと企んでいた。
 そんな彼の足元をうごめく魔物たちを魔法で地面の中へと誘い、押しつぶすエレナ。彼女の黒い部分が見え隠れするその一撃に救われたアッガスが、引きつった表情を浮かべながら礼を言う。

「さ、サンキュー、エレナ」

「礼なら後で返してもらうから」

 エレナの台詞に承知するアッガス。
 そんな彼らのそばでは、ジンを中心にし、リオ、レーベ、ミリー、ふぐおの3人と1頭が暴れ回っていた。ふぐおが鳥型の魔物を撃墜するために対空砲火の如く魔力弾を放ち、地面に落ちた魔物たちをジンとミリーの2人が仕留めていく。
 そして、そんな彼らに近づこうとする魔物たちは、リオとレーベの少年コンビが相手をし魔力へと返していく。そして、彼らから少し離れた位置では、漆黒の体を持つ存在が、リオ達の味方をするために姿を現していた。

「はっはーっ!俺様こと二四フタヨン号改めフジミ見・参!暴れるぜ!」

 漆黒の体を持つ存在・魔人こと二四号改めフジミが電流のように魔力をほとばしらせ、近づく魔物たちを滅却していく。
 刹那、魔物を霧散させたリオのそばへと電流が走り、足元へと焦げ目が出来上がった。

「ちょっと、暴れすぎだよ」

「すまん、すこし自重しよう」

 リオの瞳に圧されたフジミは、少しだけ辺りにほとばしらせる魔力の量を減らす。それでも時折リオ達の元まで届いてくる電流は、当たったらただではすまないだろう。

「・・・名前を気に入ってから調子に乗ってるな、あいつ」

「本当だよ。これならあんな話しなければよかったかも」

 背中を合わせながらフジミの行動に溜息を吐くリオとレーベ。リオのした話とは、魔人が気に入る名前を考えるというもので、フジミというのは余りにもひどい名前たちの中から彼が唯一気に入ったものだった。
 そうして、ご機嫌なフジミの参戦によりあっという間に数を減らした魔物たちは、散り散りになりながら逃げ去って行ったのだった。
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