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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章グレン編

第四部・魔人 最終話

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「さあ行くぞ、お前ら。――狩りの時間だ!」

 リオと二四フタヨン号、ふぐおの背後から飛び出してきたジン達「大鷲の翼」の5人は、彼らの前に立つや否や、長年の冒険で極めた5人でのフォーメーションを展開する。
 小盾を持つアッガスが前衛に立ち、ジン、ミリー、オーガスの3人がアタッカーとして、エレナが後衛として支援を行う「大鷲の翼」最強の布陣である。

「突撃!」

 ジンの掛け声とともに始まる「大鷲の翼」対魔人・一〇四ヒトマルヨン号の戦い。
 入れ替わり立ち代わり攻撃を加える3人をアッガスがうまくヘイトを貰うことでカバーし、そんな彼らをエレナが的確に支援していく。治癒、バフ、デバフ。ありとあらゆる魔法を扱うエレナは完全な支援役と思いきや、時折攻撃魔法で魔人の動きを阻害していく。
 完璧という言葉を超越している連携。元々連携力が強さのみなもとでもあった「大鷲の翼」は、ここぞとばかりに魔人を攻め立てる。
 そうして動きが鈍った魔人を、ジン達アタッカーの面々が容赦なく攻撃していく。

「くそ、ちょこまかと・・・!いでよ、我が下僕しもべ達よ!」

 魔人の言葉が終わる前に、異形の魔物たちが姿を現す。だがその魔物たちは、フーや3人の冒険者、それからレーベたちによって、洩れなく狩られていく。

「あの気持ち悪い魔物どもは任せな!ジンたちは親玉を!」

 魔物たちを倒したフーが叫ぶ。

「支援感謝する。お前ら、俺たちは大鷲だ。――やるぞ!」

 次の瞬間、駆けだしたジンにより一太刀浴びせられ呻く魔人。そしてジンに続くようにミリーが短剣を振り回し、乱撃を放つ。
 対する魔人は新たに生み出した魔物たちを盾にミリーの攻撃を防ぐ。だがミリーの攻撃速度は魔人を守ろうとする魔物たちの動きを上回り、魔人本体へと何発もの斬撃を刻む。
 それに続くように大剣を上段に構えるジンとオーガス。刹那、彼らを襲おうとした魔物がフー達によって霧散する。そして――

「終わりだ!」

 ジンとオーガスの振り下ろした大剣が魔人を捉えた。



 ジンとオーガス、2人の振り下ろした大剣により巻き起こった砂煙は、辺りの視界を完全に奪っていた。
 立ち込める砂煙の中、魔人の生死を確認するため歩き出すジン。

「まだ終わりませんよ!」

 突如砂煙の中から響く声。慌てて後退するジンだったが、わずかに反応が遅れてしまったようで、魔人の振るった得物により大剣を手放してしまう。
 慌てて後退するジン。だが、そんな彼の周りには魔物たちが群れを成し、ジンを食らい尽くそうと獰猛な雰囲気を漂わせていた。

「ジン!」

 孤立したジンへ向かい、自身の得物である大剣を放るオーガス。そんな彼の周りにもジンと同じように魔物たちが群れを成していたのだが、彼は迷いなく大剣を放っていた。

「オーガス!?お前、何を・・・」

 オーガスの行動を理解できなかったジンが声を上げる。だが、彼が言葉を言い切る前に魔物たちがジンを襲う。
 止む無しにオーガスから託された大剣を抜き、接近する魔物を霧散させていくジン。だがその間に、対抗する武器を持たないオーガスが魔物に飲まれていく。
 次の瞬間、オーガスのものらしき悲鳴が上がる。その悲鳴に気づいたミリーたちが慌てて魔物を押しのけるが、残ったのはオーガスの無残な死体だけだった。
 魔物を押しのけたジンが、オーガスのいた方向を見て呟く。

「オーガス・・・」

 すでに残っていたのは胴と片足のみとなっていたオーガスを見ながら、ジンが大剣を強く握りしめる。その光景をただ眺める事しかできなかったリオ達も、自身の得物を強く握り、魔人への憎しみを露わにする。
 対する魔人は、新しい遊びを覚えた子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。

「馬鹿な奴め。だが、私はとても気持ちがいいぞ・・・!」

「ガキ。俺にあいつをやらせろ!俺の腹がいけすかねえって叫んでるんだ!」

 元々敵であったはずの魔人である二四号が、オーガスの悲劇を見て叫ぶ。だがリオが、怒り狂う彼を繋がったパスを使って無理矢理止める。

「なんでだよ、お前にとっても大事な仲間なんだろ!?」

 パスによって行動を阻害された魔人が叫ぶ。もはやそれは、魔人しての彼ではなく、1人の人間としての――彼を形作る「意思」の言葉だった。だが、リオはその言葉を聞いても魔人のパスへの魔力供給を止めなかった。
 その代わりに、リオが一言だけ口にする。

「あいつは殺す。絶対に」

「だったら・・・」

 リオの言葉に食らいつく魔人。だが、その言葉はリオには届いていないようで、リオは1人で歩き出す。――明確な意思を持って。

「おや、死にたい輩が来てくれたようですね。なら、遠慮なく・・・!?」

 リオの瞳を見たのか、それともリオの行動を見たのか。――もしくはその両方なのか。
 リオは自ら使役された魔人を魔力に変え、父から貰った、その手に持つ短剣へと宿す。短剣よりも長く、大剣よりも小さい、丁度長剣くらいのサイズに収まった短剣は、リオの意思に反応するように強く光り輝く。
 その光は、まるで超新星爆発ビッグバンのように強く、無条件に愛を与える母親のように温かく、人々を照らす太陽のように眩い光を放つ。やがてその剣は、リオの意思に応じて目の前の魔人をロックオンする。

「・・・やはり、君は早めに始末されているべきだった。いや、一度は始末されたはずなのですが・・・」

 謎の言葉を口にする魔人は、次の瞬間、リオの手にする得物によって魔力もろとも消えてなくなった。



 それから数分後。リオの手により消えてなくなった魔人と共に消えていく魔物たちを見ながら、リオが呟いていた。

「あなたの意思は、僕のお母さんなんだね」

「・・・らしいな。お前の剣になった途端に、俺を作った意思が記憶を呼び込んできやがった」

 2人はその場に立ち尽くしながら呟く。それは悲劇か、それとも喜劇か。どちらに分類すればいいのか分からない出来事に、2人は次の言葉が思いつかず黙り込む。
 かたや、母の仇と魔人を敵対視した少年。かたや、少年の母の無念から生まれた魔人。そして人種の――生命の敵。運命というものはなぜこうにも無慈悲なのだろうか。

「さて、俺様はお前の・・・いや、正確には俺様の意思の息子なんだが、どうする?」

 しばし無言の2人。そんな静寂を破るように魔人が口を開く。おそらく、彼にとっては覚悟を決めた言葉だったのだろう。
 魔人は生命を持つすべての存在の敵である。リオの判断如何(いかん)によっては、この場で存在を抹消される可能性も十分にあり得た。
 だがリオは首を振り――

「あなたは敵じゃないから。誰がなんて言おうと僕があなたを守る」

 魔人に対してそう口にしていた。対する魔人は安心したように息を吐く。それはきっと、人間の記憶に触れたことにより得た彼の人間らしさなのだろう。
 そんな彼らの元へジンたちがやってくる。

「ジンさん、この人は・・・」

「分かってる。こいつが俺たちに危害を及ぼさないことも、及ぼすつもりもないことはな」

 そう口にしながらジンが魔人の手をとる。それは間違いなく、ジンが魔人を仲間と認めた瞬間だった。
 そのジンの行動に、驚いた表情を浮かべる魔人こと二四号。そんなジンに対し、二四号が口を開く。

「俺様は魔人だぜ?いくらこのガキの味方をしたからって・・・」

「理由なんてもんはいらない。リオは俺たちにとっても家族だ。その家族を守った――その事実だけで十分だ」

 戸惑う二四号に対しジンがそう口にする。それを聞いた二四号はため息を吐きながら首を横に振る。それは、彼がジンに呆れた行動でもあったが、同時に感謝の証でもあったようで。
 魔人は頬を掻きながらジンに対し自身の思いを口にする。

「そうかよ。だが、それは俺様の「意思」も同じだ」

 そう口にする魔人の表情は、どこか晴れやかであった。その理由は、間もなく彼自身の口から語られることになる。

「最期に愛しい我が子に会えて十分だと言っている。つまり、未練をなくした俺様はここで消える運命ってことさ」

 そう口にしながら不敵に微笑む二四号。その言葉の意味をいち早く理解した――いや、理解してしまったジンは、握ったままの手を強く握り返す。
 魔人は「憎しみ」や「無念」によって生まれる存在である。だがもし、その憎しみや無念が晴らされたとしたら?――彼らは幽霊と同じく天へと消え去っていくことだろう。文字通り塵のように。
 その証拠に、二四号の体は次第に消え去っていく。だが、それを阻止するようにリオが魔人へと魔力を注ぐ。

「無駄だぜ、ガキ――いや、リオ」

「・・・もう、大切な人を失いたくないんだ。絶対に」

 大量の魔力を注ぐリオ。だが、彼の意思に反し、二四号はその体を失っていく。
 出来る手を尽くしても消えることを止められない現実に絶望するリオ。だがそんな彼に、ちゃっかり(はじめから)そばにいたデーンがリオの肩に手を乗せながら囁く。

「僕の魔力を使え。――君の母親を助けたいんだろう?」

「デーンさん・・・」

「僕に出来るのは、フーを守る事以外にはこのくらいなんでね」

 デーンの決意に満ちた表情を見ながら、リオが目尻に涙を浮かべながら頷く。そうして二四号へと魔力を注ぐリオ。そんなリオの決意を感じたのか、ふぐおが強制的にパスを繋ぎ魔力を供給する。
 ふぐおからの魔力供給を受けたリオは、脳裏にある言葉を思いつく。だが、それを実行するには自身とふぐお、さらにデーンの命を犠牲にしなければならないとリオが直感する。だが同時に、自身の五体、さらには臓器や命、すべてを犠牲にすればふぐおやデーンには大きな障害は残らないと理解するリオ。
 それを踏まえ、決死の覚悟と共にその魔法を発動するリオ。――ふぐおやデーンに出来る限り迷惑が掛からないように、自身の全てを犠牲にして。
 やがて辺りが眩い光に包まれる。それは、リオの思惑に気づいたジンや、デーンの元に駆け寄ろうとしたフー、さらには彼らと共にいた冒険者を包み、大きなドーム状になって弾けた。



 森に住む小動物が辺りを駆け、久方ぶりに戻ってきた平和を謳歌していた頃。故郷のユリアナ村に居た頃の記憶に似た物音に目を覚ました2つの存在がいた。

「「いき、てる・・・?」」

 同時に声を発した存在は、互いに顔を見合わせた後、周囲の状況を確認する。
 片方は最後の記憶に残る周囲の風景を、もう片方は共にここまで来た存在を頼りに首を巡らす。
 そうしてほどなく、両者は自身がこの世界に生きていることを実感する。

「なんで生きてるんだよ?」

「僕に聞かないでよ。僕だって不思議なんだから」

 互いに死を覚悟した仲である。少なくとも親近感が湧いたのだろう、互いに言葉を重ねる。

「ていうか、なんで魔人のままなの?」

「知るか、俺様に聞くんじゃない」

 互いに言葉を重ねた2人は、お互いの肩を掴みながら立ち上がり、共に戦った仲間の元へ向かっていった。
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