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第1章グレン編
第四部・魔人 2話
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翌日。まだ日の昇りきらない時間から要塞都市・グレンを出たリオ達は、グレンで知り合った冒険者であるフーとデーンと共に、グレン北部にある件の森へと入っていた。
以前訪れた時と変わらない様子の森の中を進んでいく一行。以前は進むたびに魔物たちに襲われた記憶のあったリオ達だったが、今回はなぜか魔物に襲われることなく、魔人と遭遇した小屋まで辿り着いていた。
「なんか、あんたらから聞いてた話と全然違うから拍子抜けだよ」
すんなりと目的の小屋まで辿り着けたことに戸惑いを隠せないフー。傍らに立つデーンも同じようで、フーの台詞に同意していた。
一切の妨害なく小屋まで来れたことに、フー同様戸惑うジン。魔物はおろか、目の前の小屋には魔人の姿すらなく、既にもぬけの殻となっていた。
「・・・俺たちも驚きだ。まさか、もう魔人はここに居ないのか?」
だが、彼の心中では言葉とは裏腹に様々な思考が動き始める。
他の面々も、辺りを警戒しながら小屋へと近づくべきか討論を始める。
(俺が魔人ならどうする?・・・俺ならここまで誘い込んで全滅させる手を仕込む。確実に敵を全滅――そういう事か!)
「全員、すぐに小屋から離れろ!すぐに奴らが姿を現すぞ」
危険を感じ、大声で叫ぶジン。そんな彼の気迫に押されたのか全員が出来る限り小屋から距離を取る。
ジンが叫んだ次の瞬間。ジンの予想は的中したようで、小屋の周囲から何十体もの魔物が姿を現す。現れた魔物たちは、そのすべてが複数の生物が混ざりあった姿をした「変異種」と呼んでいる存在だった。
突如として現れた変異種たちと共に、1人の人影が小屋の屋根へと降り立つ。
「魔人・・・!」
以前この場所まで来た際に姿を現した一〇四号と呼ばれていた魔人だった。
グレン北部の森。その中で魔人と遭遇したリオ達は,
即座に近くにいる仲間と共に戦線を形成する。
「おいでなすったようだな」
ジンと共に戦線を形成したアッガスがぼそりと呟いた。彼は得物である小盾とメイスを構えながら、正面に対峙する変異種の魔物との距離を測っていた。
「だね。・・・けどどうやら、アタイ達以外にも巻き込まれた冒険者がいるみたいだよ」
「みたいだな」
ジンとフーが、彼らの右前方にいる3人組の冒険者たちの姿を認めながら言葉を交わす。すると、3人組冒険者たちの近くにいたミリーが彼らに声をかけ、すぐに後退させる。
どうやらジンたちの視線に気づいたのだろう、冒険者たちを下がらせた彼女はジンたちに向かって片手を上げる。
「ジンの彼女は優秀だね。デーンもあのくらい気が利いたらいいんだけどね」
ミリーの行動を見ながらそう呟いたフー。だがジンの方は意味が分からないと言った表情になる。
「・・・ありゃ、あの子と付き合ってるんじゃないのかい?」
「残念ながら。ていうか、俺としてはあいつは妹か娘みたいなもんだからな。そういった存在にはなれんさ」
フーの台詞に頬を搔きながら答えるジン。それは彼自身が誰にも話していない本音のようで、彼らと共にいたアッガスも少しばかり驚いた表情になる。
「はは、それはあいつが可哀そうだ。・・・だが、兄だろうと父だろうと、2人にとって互いが大事な存在に変わりはないってことだな」
「そうだな」
アッガスの台詞に対しジンがそう口にした直後。魔人の操る魔物たちが、彼ら目掛けて襲い掛かった。
ジン達に魔物が襲い掛かった、丁度その時。ミリーと共に後退した3人組冒険者の元にはレーベの姿があった。
レーベは後退してきた冒険者たちが安全な場所まで下がると、ミリーと共に魔物と相対する。そんな彼らを踏み潰さんと、魔物たちは咆哮を上げる。
「レーベっちと一緒に戦うことになるなんてね。先に言っておくけど、しくらないでね」
「ミリーさんこそ。ジンさんやリオじゃないんで、援護は期待しないでくださいよ」
軽口をたたき合いながら魔物と対峙する2人。そんな彼らに、先ほど後退した冒険者たちが声をかける。
「なあ、あんた達。俺たちも参加させてもらうぜ」
そう口にしながら2人の前に立つ3人。その行動に驚いたのか、ミリーが声を上げる。
「ええっ、あいつらは僕の獲物だよ!」
――どうやら3人の行動に驚いたわけではなく、獲物を横取りされそうなことに驚いたらしい。
「あー、ミリーさんのことは気にしないでいいんで、お願いします」
そんな彼女の言動を見て、レーベがミリーを抑えながら、3人の冒険者に後を託す。そうして自分たちは1人でいるオーガスの元へ向かう。
「あ、ああ。任されたぜ!」
レーベとミリーの後ろ姿を見送りながら声をかけた冒険者。その直後、彼らに向かい、魔物たちが襲い掛かった。
一方その頃。ジンや3人組冒険者たちよりも先に戦闘に巻き込まれていたリオとふぐおは、周囲に群がる魔物たちを相手にしながらぼやいていた。
「なんでまた僕だけ狙われるのかなぁ・・・」
実は初め、リオは一行の後方にいたのだ。それなのに、なぜか気づけば魔物たちと戦闘を繰り広げていたのだ――彼でなくとも、文句の1つは言いたくなるだろう。
そして、リオと共にいたために戦闘に巻き込まれたふぐおは、落ち込んでいく主人の感情を少しでも良くしようと張り切って魔物たちを倒していた。実際、ふぐおのお陰でリオの方には数体程度しか魔物は向かっていない。
「フグ、フグ!」
嬉々として魔物たちを蹴散らしていくふぐお。少しでも主人に機嫌をよくしてもらいたいというふぐおの行動だが、はたから見れば悪鬼や修羅そのものである。
ふぐおの「機嫌取り」という名の殲滅は、さすがの魔人でさえも口をあんぐりと開けてしまうほどの光景だったらしく。
「・・・――」
何とか言葉を発しようとする魔人だったが、理解不能な光景に適切な言葉が出てこない様子だった。それは偶然巻き込まれたデーンも同じだったようで、彼も口を開けたり閉じたりしていた。
「デーンさん、さぼってないで戦ってよ・・・」
リオがデーンに対して苛立ちを隠さずに告げる。対するデーンは、リオの言葉に何とか頷くものの、動くことは無かった。――いや、正確には動けなかった。
間違いなくリオが相手にしている魔物達では、自分では瞬殺されると理解していたからである。
というのも、デーンは婚約者であるフーの付き人として冒険者になっただけであり、実力はそこらの新米冒険者に毛が生えた程度でしかなかったのだ。
だがそのことを知らないリオは、行動を起こさないデーンに対し、いないものとして扱うことに決める。
「はは、ははは、はははははっ!そこの小僧!この私と勝負しなさい!」
小屋の屋根に立つ魔人が狂ったような笑い声をあげ、リオの元へと降り立つ。対するリオは、また面倒なのが増えたと言わんばかりの冷めた視線を魔人に向ける。
だが魔人のほうはそんなリオの視線を気にすることなく声をあげる。
「さあ、一騎打ちです。あなたも私も使い魔を近づけない。それがルールです。いいですね?」
「なんでもいいんだけど、その前に後ろにいる人の説明してよ」
明らかに苛ついたリオがいつの間にか魔人の背後に立つもう1体の魔人について問い詰める。すると初めからいた魔人は、驚いたように背後を振り返る。
「貴様、二四号!?いつからそこに・・・」
二四号と呼ばれた魔人は、口元を歪めながら初めからいた魔人・一〇四号に詰め寄る。
「ついさっきだよ。あんときはよくも俺様を消してくれやがったな?」
あんとき、とは恐らくリオ達が森の中の小屋で彼らに初めて会った時だろう。どうやらその時の仲間割れは、一〇四号の方が勝利したようだった。
「おい、ガキ。俺様がお前に力を貸してやる。俺様を使役しやがれ」
どこで覚えたのだろうか、魔獣とパスを繋げる際の用語を口にする二四号。対するリオは――
「嫌だ」
「はぁ!?」
その一言のみで断る。どうやら、そのリオの言葉は魔人にとって想定外だったようで、素頓狂な声を上げた。
そんな二四号に対し、リオが憎悪を込めた瞳で2体の魔人を睨む。
「魔人はお母さんの仇なんだ。絶対に許さないし、仲間にするつもりなんて一切ない」
憎悪を込めたリオの台詞に対し、リオに共闘を求めた魔人・二四号が高らかに笑い声をあげる。
「面白いやつだ。俺様はお前が気に入った、お前が何と言おうと力になってやる」
そう言いながらリオの隣へと降り立つ魔人。対するリオは迷惑そうな瞳を向けるが、どうするべきか迷っているようで、しばし魔人の姿を見つめる。
そんなリオを不思議に思ったのか、二四号はリオの手を無理矢理掴み――
「我はこの者の力とならん」
リオに対して魔力を流し込み、無理矢理使役状態になる二四号。
「・・・パスが繋がってる・・・?」
魔人を使役した感覚を覚えたリオが、無理矢理繋がれた魔人とのパスを感じ驚愕する。普通、魔獣を使役する際はパスを繋ぐ作業は使役する側――つまり、リオの方が行う。
だが、彼の傍らに立つ魔人は自らリオの方へとパスを繋げ、自分から使役されるという、普通であれば理解不能な行動に出たのである。
「これで俺様はお前の意のままだ。お前が望むかは別として、世界すら恐怖に陥れることができる」
「・・・どうして、君はこんなことを?」
魔人らしからぬ行動に疑問を抱くリオ。だが、そんな彼に対する魔人の答えは酷く曖昧なものだった。
「知るか。お前を見たら、なんでか守ってやらないとって気になっただけだ。――おかげであのお方を裏切ることになったがな」
そう口にする二四号の姿は、どこか嬉しそうでもあった。その姿を見たリオは、どうしてか母・ミサトの面影を魔人に重ねる。そして、彼自身もなぜか、この魔人だけは信用できる。そういう気がしていた。――理由も無しに、である。
魔人とは意思を持った魔力が、周囲の魔力を集め形作る存在である。何かしらの「憎しみ」や「無念」を持った意思が魔力と融合して出来るのだが、それらはほぼすべて生命に対する強い敵対心を抱く。
だが何事にも例外はあるようで、リオと共に立つ魔人は、その数少ない例外なのだろう。憎しみはともかく「無念」が常に負の方向に向いているわけではないのと同じである。
その数少ない例外である二四号は、リオ達に敵対する魔人・一〇四号に対し、啖呵を切る。
「一〇四号。なんでかわかんねえが、俺様はこのガキを守らなきゃならねえ。それが俺様を形作る魔力の「意思」らしいんでな」
「そうですか・・・なら、あなたにはここで消えてもらわないといけませんね」
どうやら一〇四号は元味方であった二四号を完全に敵と認識したようで、鋭い視線を向ける。対する二四号は、リオの前に立つ。その姿は、リオにあの時のことを想像させた。
「お前は下がってろ。あいつは――」
「嫌だ。僕はもう二度と、大事な人を失いたくない!」
それはリオの確かな決意。魔人の行動に母を思い出したのか、それとも魔人を仲間と認めたのか――どちらかは分からないが、リオの瞳には強い決意が満ちていた。
そのリオの瞳を見た魔人が、ぼそりと呟いた。
「強くなったな――」
それは彼にとっても無意識の、彼を形作る魔力の意思による言葉だった。
「僕は1人じゃない。ふぐおも、ジンさん達も、レーベもいる。――それからあなたも」
1人語るリオ。その姿は、決意を決めた勇敢な漢の姿だった。
そんなリオの言葉に呼応するように、彼らの背後から声が上がる。
「リオ、よく言った!だが、たまには俺たちに任せろ」
振り向くリオ。その視線の先には、変異種たちを殲滅したジンたちの姿があった。
以前訪れた時と変わらない様子の森の中を進んでいく一行。以前は進むたびに魔物たちに襲われた記憶のあったリオ達だったが、今回はなぜか魔物に襲われることなく、魔人と遭遇した小屋まで辿り着いていた。
「なんか、あんたらから聞いてた話と全然違うから拍子抜けだよ」
すんなりと目的の小屋まで辿り着けたことに戸惑いを隠せないフー。傍らに立つデーンも同じようで、フーの台詞に同意していた。
一切の妨害なく小屋まで来れたことに、フー同様戸惑うジン。魔物はおろか、目の前の小屋には魔人の姿すらなく、既にもぬけの殻となっていた。
「・・・俺たちも驚きだ。まさか、もう魔人はここに居ないのか?」
だが、彼の心中では言葉とは裏腹に様々な思考が動き始める。
他の面々も、辺りを警戒しながら小屋へと近づくべきか討論を始める。
(俺が魔人ならどうする?・・・俺ならここまで誘い込んで全滅させる手を仕込む。確実に敵を全滅――そういう事か!)
「全員、すぐに小屋から離れろ!すぐに奴らが姿を現すぞ」
危険を感じ、大声で叫ぶジン。そんな彼の気迫に押されたのか全員が出来る限り小屋から距離を取る。
ジンが叫んだ次の瞬間。ジンの予想は的中したようで、小屋の周囲から何十体もの魔物が姿を現す。現れた魔物たちは、そのすべてが複数の生物が混ざりあった姿をした「変異種」と呼んでいる存在だった。
突如として現れた変異種たちと共に、1人の人影が小屋の屋根へと降り立つ。
「魔人・・・!」
以前この場所まで来た際に姿を現した一〇四号と呼ばれていた魔人だった。
グレン北部の森。その中で魔人と遭遇したリオ達は,
即座に近くにいる仲間と共に戦線を形成する。
「おいでなすったようだな」
ジンと共に戦線を形成したアッガスがぼそりと呟いた。彼は得物である小盾とメイスを構えながら、正面に対峙する変異種の魔物との距離を測っていた。
「だね。・・・けどどうやら、アタイ達以外にも巻き込まれた冒険者がいるみたいだよ」
「みたいだな」
ジンとフーが、彼らの右前方にいる3人組の冒険者たちの姿を認めながら言葉を交わす。すると、3人組冒険者たちの近くにいたミリーが彼らに声をかけ、すぐに後退させる。
どうやらジンたちの視線に気づいたのだろう、冒険者たちを下がらせた彼女はジンたちに向かって片手を上げる。
「ジンの彼女は優秀だね。デーンもあのくらい気が利いたらいいんだけどね」
ミリーの行動を見ながらそう呟いたフー。だがジンの方は意味が分からないと言った表情になる。
「・・・ありゃ、あの子と付き合ってるんじゃないのかい?」
「残念ながら。ていうか、俺としてはあいつは妹か娘みたいなもんだからな。そういった存在にはなれんさ」
フーの台詞に頬を搔きながら答えるジン。それは彼自身が誰にも話していない本音のようで、彼らと共にいたアッガスも少しばかり驚いた表情になる。
「はは、それはあいつが可哀そうだ。・・・だが、兄だろうと父だろうと、2人にとって互いが大事な存在に変わりはないってことだな」
「そうだな」
アッガスの台詞に対しジンがそう口にした直後。魔人の操る魔物たちが、彼ら目掛けて襲い掛かった。
ジン達に魔物が襲い掛かった、丁度その時。ミリーと共に後退した3人組冒険者の元にはレーベの姿があった。
レーベは後退してきた冒険者たちが安全な場所まで下がると、ミリーと共に魔物と相対する。そんな彼らを踏み潰さんと、魔物たちは咆哮を上げる。
「レーベっちと一緒に戦うことになるなんてね。先に言っておくけど、しくらないでね」
「ミリーさんこそ。ジンさんやリオじゃないんで、援護は期待しないでくださいよ」
軽口をたたき合いながら魔物と対峙する2人。そんな彼らに、先ほど後退した冒険者たちが声をかける。
「なあ、あんた達。俺たちも参加させてもらうぜ」
そう口にしながら2人の前に立つ3人。その行動に驚いたのか、ミリーが声を上げる。
「ええっ、あいつらは僕の獲物だよ!」
――どうやら3人の行動に驚いたわけではなく、獲物を横取りされそうなことに驚いたらしい。
「あー、ミリーさんのことは気にしないでいいんで、お願いします」
そんな彼女の言動を見て、レーベがミリーを抑えながら、3人の冒険者に後を託す。そうして自分たちは1人でいるオーガスの元へ向かう。
「あ、ああ。任されたぜ!」
レーベとミリーの後ろ姿を見送りながら声をかけた冒険者。その直後、彼らに向かい、魔物たちが襲い掛かった。
一方その頃。ジンや3人組冒険者たちよりも先に戦闘に巻き込まれていたリオとふぐおは、周囲に群がる魔物たちを相手にしながらぼやいていた。
「なんでまた僕だけ狙われるのかなぁ・・・」
実は初め、リオは一行の後方にいたのだ。それなのに、なぜか気づけば魔物たちと戦闘を繰り広げていたのだ――彼でなくとも、文句の1つは言いたくなるだろう。
そして、リオと共にいたために戦闘に巻き込まれたふぐおは、落ち込んでいく主人の感情を少しでも良くしようと張り切って魔物たちを倒していた。実際、ふぐおのお陰でリオの方には数体程度しか魔物は向かっていない。
「フグ、フグ!」
嬉々として魔物たちを蹴散らしていくふぐお。少しでも主人に機嫌をよくしてもらいたいというふぐおの行動だが、はたから見れば悪鬼や修羅そのものである。
ふぐおの「機嫌取り」という名の殲滅は、さすがの魔人でさえも口をあんぐりと開けてしまうほどの光景だったらしく。
「・・・――」
何とか言葉を発しようとする魔人だったが、理解不能な光景に適切な言葉が出てこない様子だった。それは偶然巻き込まれたデーンも同じだったようで、彼も口を開けたり閉じたりしていた。
「デーンさん、さぼってないで戦ってよ・・・」
リオがデーンに対して苛立ちを隠さずに告げる。対するデーンは、リオの言葉に何とか頷くものの、動くことは無かった。――いや、正確には動けなかった。
間違いなくリオが相手にしている魔物達では、自分では瞬殺されると理解していたからである。
というのも、デーンは婚約者であるフーの付き人として冒険者になっただけであり、実力はそこらの新米冒険者に毛が生えた程度でしかなかったのだ。
だがそのことを知らないリオは、行動を起こさないデーンに対し、いないものとして扱うことに決める。
「はは、ははは、はははははっ!そこの小僧!この私と勝負しなさい!」
小屋の屋根に立つ魔人が狂ったような笑い声をあげ、リオの元へと降り立つ。対するリオは、また面倒なのが増えたと言わんばかりの冷めた視線を魔人に向ける。
だが魔人のほうはそんなリオの視線を気にすることなく声をあげる。
「さあ、一騎打ちです。あなたも私も使い魔を近づけない。それがルールです。いいですね?」
「なんでもいいんだけど、その前に後ろにいる人の説明してよ」
明らかに苛ついたリオがいつの間にか魔人の背後に立つもう1体の魔人について問い詰める。すると初めからいた魔人は、驚いたように背後を振り返る。
「貴様、二四号!?いつからそこに・・・」
二四号と呼ばれた魔人は、口元を歪めながら初めからいた魔人・一〇四号に詰め寄る。
「ついさっきだよ。あんときはよくも俺様を消してくれやがったな?」
あんとき、とは恐らくリオ達が森の中の小屋で彼らに初めて会った時だろう。どうやらその時の仲間割れは、一〇四号の方が勝利したようだった。
「おい、ガキ。俺様がお前に力を貸してやる。俺様を使役しやがれ」
どこで覚えたのだろうか、魔獣とパスを繋げる際の用語を口にする二四号。対するリオは――
「嫌だ」
「はぁ!?」
その一言のみで断る。どうやら、そのリオの言葉は魔人にとって想定外だったようで、素頓狂な声を上げた。
そんな二四号に対し、リオが憎悪を込めた瞳で2体の魔人を睨む。
「魔人はお母さんの仇なんだ。絶対に許さないし、仲間にするつもりなんて一切ない」
憎悪を込めたリオの台詞に対し、リオに共闘を求めた魔人・二四号が高らかに笑い声をあげる。
「面白いやつだ。俺様はお前が気に入った、お前が何と言おうと力になってやる」
そう言いながらリオの隣へと降り立つ魔人。対するリオは迷惑そうな瞳を向けるが、どうするべきか迷っているようで、しばし魔人の姿を見つめる。
そんなリオを不思議に思ったのか、二四号はリオの手を無理矢理掴み――
「我はこの者の力とならん」
リオに対して魔力を流し込み、無理矢理使役状態になる二四号。
「・・・パスが繋がってる・・・?」
魔人を使役した感覚を覚えたリオが、無理矢理繋がれた魔人とのパスを感じ驚愕する。普通、魔獣を使役する際はパスを繋ぐ作業は使役する側――つまり、リオの方が行う。
だが、彼の傍らに立つ魔人は自らリオの方へとパスを繋げ、自分から使役されるという、普通であれば理解不能な行動に出たのである。
「これで俺様はお前の意のままだ。お前が望むかは別として、世界すら恐怖に陥れることができる」
「・・・どうして、君はこんなことを?」
魔人らしからぬ行動に疑問を抱くリオ。だが、そんな彼に対する魔人の答えは酷く曖昧なものだった。
「知るか。お前を見たら、なんでか守ってやらないとって気になっただけだ。――おかげであのお方を裏切ることになったがな」
そう口にする二四号の姿は、どこか嬉しそうでもあった。その姿を見たリオは、どうしてか母・ミサトの面影を魔人に重ねる。そして、彼自身もなぜか、この魔人だけは信用できる。そういう気がしていた。――理由も無しに、である。
魔人とは意思を持った魔力が、周囲の魔力を集め形作る存在である。何かしらの「憎しみ」や「無念」を持った意思が魔力と融合して出来るのだが、それらはほぼすべて生命に対する強い敵対心を抱く。
だが何事にも例外はあるようで、リオと共に立つ魔人は、その数少ない例外なのだろう。憎しみはともかく「無念」が常に負の方向に向いているわけではないのと同じである。
その数少ない例外である二四号は、リオ達に敵対する魔人・一〇四号に対し、啖呵を切る。
「一〇四号。なんでかわかんねえが、俺様はこのガキを守らなきゃならねえ。それが俺様を形作る魔力の「意思」らしいんでな」
「そうですか・・・なら、あなたにはここで消えてもらわないといけませんね」
どうやら一〇四号は元味方であった二四号を完全に敵と認識したようで、鋭い視線を向ける。対する二四号は、リオの前に立つ。その姿は、リオにあの時のことを想像させた。
「お前は下がってろ。あいつは――」
「嫌だ。僕はもう二度と、大事な人を失いたくない!」
それはリオの確かな決意。魔人の行動に母を思い出したのか、それとも魔人を仲間と認めたのか――どちらかは分からないが、リオの瞳には強い決意が満ちていた。
そのリオの瞳を見た魔人が、ぼそりと呟いた。
「強くなったな――」
それは彼にとっても無意識の、彼を形作る魔力の意思による言葉だった。
「僕は1人じゃない。ふぐおも、ジンさん達も、レーベもいる。――それからあなたも」
1人語るリオ。その姿は、決意を決めた勇敢な漢の姿だった。
そんなリオの言葉に呼応するように、彼らの背後から声が上がる。
「リオ、よく言った!だが、たまには俺たちに任せろ」
振り向くリオ。その視線の先には、変異種たちを殲滅したジンたちの姿があった。
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