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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章グレン編

第四部・魔人 1話

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 グレン北部にある森から無事脱出できたリオ達は、その数日後にギルドから呼び出しを受けていた。
 リオ達の他にも、同様にギルドから呼び出しを受けたらしき冒険者たちが、職員の話に耳を傾ける。

「――以上が今回の調査による概要になります」

 職員が話を終え、全体を見回す。職員の話はリオ達の報告をもとにしていたため、リオ達にとっては驚くことではなかったが、他の冒険者たちにとってはそうではなかった。
 その証拠に、職員の話を聞いて数名の冒険者がひそひそと声を上げ始める。

「魔人が2体って・・・」「「大鷲の翼」でも逃げ帰ってきたんだろう?そんな奴ら、相手にできんのかよ」「おまけに魔物がうじゃうじゃいるとか」

 ひそひそと話し始める冒険者たちを見ながら、ミリーが溜息をつく。

「僕ら、魔人と戦ったわけじゃないんだけどなー」

 正確には魔人同士が同士討ちを始めたため撤退したのだが、職員としてはその辺りは伏せておいた方がいいと判断したようだった。
 確かに彼らの常識からすれば、標的を目の前にして仲間内で戦い始める魔人など聞いたこともないからである。――その理由はとても単純なことなのだが。

「まあ、あのまま戦っててもここに全員いられる保証はなかったけどな」

「それはそうだけど」

 撤退した一番の理由であるジンの方を見ながら呟くアッガスに、ミリーが不承不承と言ったふうに同意する。
 当のジンも、その自覚があるため何も言わずにただ腕を組んだまま頷いた。

「むしろ眠っていたリオが安眠を妨害されてキレてくれれば楽だったんだがな」

 そんなジンの隣に立つオーガスが冗談を口にするが、彼の台詞を本気にしたミリーとエレナに睨まれ口をつぐむ。そして名前を出されたリオの方は、何のことか分からずに首を傾げていた。
 そんなリオに対し、レーベが簡単に説明してやると――

「僕、そんな危ない子じゃないよ?」

 どこかのぷよぷよした存在が口にしそうなセリフを口にする。

「自覚無しってこえーな」

 そんなリオを見ながら呟くレーベ。すると、そんな彼らを何人かの冒険者が眺めていることに気づく。リオ以外の面々もそれに気づいたようで、視線の主を探し始める。
 そして程なく。先ほどひそひそと声を上げていた冒険者たちが、ジンたちの視線に気づいたのか、彼らの元へ歩いてくる。
 やがてリオ達の前で立ち止まる冒険者たち。そんな彼らの瞳には攻撃的な様子が浮かんでいた。

「何か用か?」

 そんな彼らに対しジンが尋ねると、冒険者たちのリーダーであろう男性が口を開いた。

「あんたら、よくそんなへらへらした表情が出来るよな?あんたらのせいでこっちまで巻き添えくってんだぞ?」

 男性の台詞に、彼に付き従う冒険者たちが続々と声を上げ始める。
 そんな彼らを見ながら、エレナが憐れむような視線を向けた。

「なんだよ、あんた。そのゴミを見るような目はよ」

「別に。逆恨みもほどほどにしてほしいって思っただけよ。・・・まあ、喧嘩を売るって言うなら買うけど?」

 エレナが男性に対し挑発する。その彼女の行動を見て、ジンが頭を抱えるのだが、彼らはそのことを知らない。

「ほう?女に喧嘩を売る趣味はねえが、買うっていうからには覚悟はできてんだろうな、えぇ!?」

 ドスの効いた声を上げる男性。その声に周囲にいた冒険者たちも反応したようで、彼らの方へと視線を向け始める。
 対するエレナは、飄々とした様子でさらに男性の神経を逆なでし始める。

「あら。なら買おうかしら。あなたこそ、今から負けた時の言い訳でも考えておいた方がいいわよ」

「てめえ・・・後悔するぜ?」

 エレナを睨みながらついて来いとハンドサインする男性。対するエレナも黙ってついて行き、ギルドの外へと出て行った。

「あーあ、あいつ死んだな」

「だね。オーガスっち、早く証拠隠滅しといた方がよくない?」

 エレナと共に出て行った男性に対し、同情するアッガス。そんな彼に同意したミリーが、残る冒険者を見ながらにやりと口元を曲げる。そんな彼女の姿を見た冒険者たちから小さく悲鳴が上がった。

「待てミリー。やるならエレナ1人にやってもらう。・・・どうやらもう終わったようだからな」

 そう言いながら建物の入り口を見やるオーガス。するとそこには、一撃でのされた様子の男性がエレナに引きずられながら戻って来ていた。

「なによこいつ。口ほどにもなかったわ。・・・次はだれがやるの?」

 引きずってきた男性を放り出すと、残る冒険者たちに視線を向けるエレナ。対する冒険者たちは誰1人としてエレナと顔を合わせようとしない。むしろ、その表情には恐怖の感情が見え隠れしていた。

「はいはい、そこまでだ、エレナ。お前たちも恐怖を煽るような言動はするな」

 このままでは収拾がつかなくなりそうな気がしたのか、そこでジンが間に割って入る。

「あんたらもあいつみたいになりたくなかったらさっさと失せろ」

 そう言いながら、なぜか倒れた男性ではなくアッガスを指さすジン。その行動に悪寒が走ったアッガスが、次に来るであろう必殺の攻撃を躱そうと試みるが――

「なんで見世物は俺なんだよーー!」

 残念ながら回避することはできなかったようで、エレナの魔法により黒墨のように黒焦げにされたのだった。



「おい、ジン。今度はお前が見世物だからな」

 冒険者たちに絡まれてから10分後。彼らに無事(?)お引き取り願ったリオ達は、何事もなかったかのようにグレンの街中を歩いていた。

「ジンじゃリアクションが薄いもの。――これはあなたにしかできない仕事よ、アッガス」

「なに、そうなのか。じゃあ仕方ない・・・わけねーだろ!なんだ、俺は絡まれるたびに黒焦げになれってか!?」

「ええ、そうよ」

 黒焦げにした張本人であるエレナの発言にノリツッコミをかますアッガス。対するエレナは本気のようで、ツッコミを入れたアッガスに対して冷静に言葉を返していた。
 そんなやり取りを見ながら一行が歩いていると、正面にフーとデーンの姿を見つける。フーはグレンにある高級宿の跡取り娘であり、デーンはその婚約者の男性である。
 フー達もリオ達の姿に気づいたようで、リオ達の元へと歩いてくる。

「お、ジン達か。こんなところで会うなんて奇遇だね」

「ああ、そうだな。・・・で、あんた達は何を?」

「森に行くことになったからね。その準備さ。・・・ところで、なんで1人だけ真っ黒なんだい?」

 大分触れようか迷った様子のフーが、決意を決めたように尋ねる。

「マイブームらしいわ」

 それに対し、エレナが飄々と答える。そんな彼女にアッガスが食って掛かるが――

「ちげーよ!お前が黒焦げにしたんだろうが!」

「そういう趣味なのよ、彼。だから触れないでくれると嬉しいわ」

 エレナがそう口にする。

「そうそう、趣味――って、趣味じゃねーよ!俺は見世物にされたんだよ!」

 思わずボケをかましそうになったアッガスだったが、否定した後に簡単にギルドであったことを話す。

「・・・それは災難だったね。いやー、ぜひともその光景を見てみたかったよ」

「フー、それなら今やってもらえば・・・」

「やらないからな?絶対にやらないからな!・・・エレナ、準備しなくていい!」

 デーンの台詞に覆いかぶせるように叫ぶアッガス。そんな彼らを放置し、フーがジンにある提案をする。

「そうだ、ジン。せっかくなんだし、アタイらと一緒に森に行かないかい?正直、2人だけじゃ不安でね。頼むよ」

 フーの提案に対し、早速思考に入るジン。そうして少しすると、フーに対して了承する旨を伝える。

「決まりだね。それじゃあ、明日の朝出発でいいかい?」

「ああ、いいぜ。おい、そこで遊んでる2人。明日また森に行くからな」

 ジンが騒ぐアッガスとエレナに対し声をかけると、2人は手を上げることで了解した合図を送り騒ぎ続ける。
 そんな彼らを見ながら苦笑いするフー。そしてジンの方は、額を手で押さえながら呻くのだった。
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