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第1章グレン編
第三部・グレン 6話
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ジン達が話をしている頃。
森の中を進むリオ達は、何度目か分からない魔物の群れに遭遇していた。
「なんだよ、この奇怪な奴はよ?」
現れた魔物達の相手をしながら、自身の目の前にいる化け物を睨みつけるアッガス。彼が視界に収めている魔物は、猪に鳥や蛇、果てには人のようなものが複雑に混ざり合ったグロテスクなものだった。
魔物を睨むアッガスに対し、声をかけるミリー。
「多分、エレナっちの言ってた「変異種」とかいうやつじゃない?いかにも生き物っぽくないし」
得物である短剣を振るいながら、猪型の魔物を一体霧散させるミリー。そんな彼女のそばに立つレーベが、ミリーを狙う魔物の足止めをしていた。
「ナイス、レーベっち」
レーベの抑えた魔物に止めを刺しながら、ミリーがウインクする。
「フグオ!」
そんな2人の死角から攻撃を加えようとした魔物を、ふぐおが自慢の腕力を使って殴りつける。
ふぐおに殴られた魔物は、悲鳴を上げる暇もなく霧散していく。
「わー、あれだけは絶対に受けたくないね」
「ですね」
魔物でなければミンチになっていそうな光景を目の当たりにした2人が呟く。
そんな2人に対し、ジンから臨時のリーダーにされたアッガスが口を開く。
「見物するのは後にしろ!リオを助ける方が先だ!」
魔物にメイスを叩きつけながら叫ぶアッガス。彼の視線の先には、何体もの魔物に囲まれるリオの姿があった。そこまでに魔物達が何層もの肉壁を形成し、彼らの行く手を阻む。
すると突然、ふぐおが痺れを切らしたように魔物達に向かい突進していく。
ふぐおの突進と共に放たれた魔力弾が周囲の魔物達を打ち抜いては霧散させていき、あっという間に魔物達による壁が崩壊する。
その光景を目の当たりにしたアッガスが引き気味に声を出した。
「うーわ・・・」
衝撃的な光景に、アッガスのみならず、レーベ、ミリーの2人も、声には出さないが内心で引いていた。
当のふぐおはそんなことを気にすることもなく、近寄ってくる魔物を一網打尽にしていく。
「・・・なあ、俺ら必要あるのか?」
「あると思うよ。2人が暴走しないためにも」
とりあえずそう口にしたミリー。――実際に彼らが暴れまわったら3人では暴走する2人を止める手段はないのだが。
「気休めはやめましょうよ。本気で暴れたら俺たちまで巻き添えですよ。・・・ていうか、今でも危険ですけど」
レーベの言葉に苦い表情を浮かべながら項垂れる2人。そんな彼らのそばを、ふぐおの放った魔力弾が通過していき、彼らの背後に小さな窪みを作り出した。
「・・・当たったら命はなさそうだな」
背後にできた窪みを見ながら呟くアッガス。そんな彼の台詞に同意した2人は、アッガスと共に数歩後ろに後退した。
一方、リオの方はというと。
「ふぐお、みんなに当たっちゃうから、後ろには撃ったら駄目だよ」
10体以上の魔物に囲まれながら、余裕綽々といった風にふぐおを注意していた。注意されたふぐおは、申し訳なさそうな視線を背後に向けると、すぐに周囲の魔物達の殲滅を再開する。
ふぐおとリオにより、瞬く間に数を減らしていく魔物達。
やがて味方が半分を切ると、堰を切ったように後退していく魔物達。だが、リオとふぐおは彼らを逃すつもりは一切なく――
「ジンさんの仇だよ!」「フグ!」
魔物へと向け、追い打ちをかけていく。リオは風系統の魔法を、ふぐおは魔力弾を用い、わずか10秒たらずの時間で魔物達を殲滅する。
攻撃を受けた魔物たちは、洩れなく体を2つに割られ、魔力として空中に消え去っていく。――目の前で起きた出来事は、思わず魔物達に同情してしまいそうなほどに凄惨だった。
やがて霧散していった魔物達を確認したリオが、後方へ退避していたアッガス達に声をかける。
「みんな、終わったよ」
無邪気に声をかけるリオ。
そんなリオに声をかけられた3人は、青ざめた表情をしながら、リオの方へと歩いていく。
「あれ、みんなどうしたの?」
3人の表情に気づいたのか、リオが声をかける。
「いや、間違っても魔物として産まれてこなくてよかったと思っただけだ」
アッガスが2人を代表してそう口にする。だが、彼の口にした言葉の意味が分からなかったリオは、1人首を傾げる。
「いや、何でもない。さっさと先に進むぞ」
首を傾げるリオに対し、何かを言おうとしたアッガスだったが、喉元まで出かかった言葉を飲み込み、代わりに全員を急かしたのだった。
そうしてリオ達が森の中を歩くこと1時間。幾度も襲ってくる魔物達を撃退し進んでいると、森の中に立つ小さな小屋を見つけた。
鬱蒼とした森の中にポツンと建つその小屋は、まるで怪談の舞台になりそうなほどにボロボロで、今にも霊の1体や2体は化けて出てきそうな雰囲気であった。
そんな小屋を目の前に、リオ達4人と1頭は魔物達と戦闘を繰り広げていた。
「こんだけ数が多いってことは、ここが黒幕の野郎の守りたい場所なのか?」
「うーん、どうなんだろうね。こういう時に役に立つ頭のいい組は皆ジンの所なんだよね」
アッガスの言葉に、ミリーが返す。彼女の言う通り「大鷲の翼」内の頭脳ともいえる3人はみごとにこの場所にいない。
残るアッガスも、認めたくはないようだが、自身がそう言う立場ではないことを自覚しているようで、愚痴を零していた。
「リオ、なんかエレナみたいにわかんねーのか?この際なんでもいい、何かないのか?」
すがるようにリオに尋ねるアッガス。だが、リオからは何も返事が返ってこない。それを不思議に思ったアッガスが横目でリオのいる方を見ると、リオとふぐおが魔物達に囲まれている光景を目にする。
「また囲まれてんのかよ、あいつは!」
「・・・それは僕たちも同じみたいだよ、アッガスっち」
声を荒げるアッガスに、ミリーが冷静に返す。
「みたいだな。レーベは・・・いるか」
すぐにレーベの所在を確認したアッガス。そうしてそばにレーベがいることを確認すると、声を張り上げた。
「リオ!そいつらさっさと潰せ!そしたら一度ジン達の所まで撤退だ!」
アッガスはそう口にすると、リオの返事を聞くことなく目の前にいる魔物達に意識を集中させる。
「アッガスさん、前衛は俺が」
「レーベ。お前は今回ばかりは足手まといだ。大人しく自分の身だけ守ってろ。いいな」
「・・・わかりました」
レーベに対し、冷たく言い放つアッガス。それは決して戦力にならないという意味ではない。むしろレーベは、そこら辺の新米冒険者ではもう手も足も出ないくらいの実力は身に着けていた。
だが、それでもアッガスがそう言い放った理由は、現在彼らを取り囲む魔物の数では、レーベまでフォロー出来ないと踏んだからであった。
「間違っても死んじゃだめだよ」
アッガスに続いて、ミリーもレーベに声をかける。彼女の場合は普段と変わらない口調だったが、明らかにその意識はレーベではなく、辺りを取り囲む魔物達に向いていた。
そうして魔物に意識を向けながら、レーベが最も奮い立つ言葉を投げかける。
「レーベっちに何かあったらリオっちが悲しんじゃうよ」
その言葉を聞いて、唇を噛みしめ頷くレーベ。そんな彼を見たミリーは、得物である短剣を構えながら、アッガスの隣に立つ。
隣に立ったミリーを見ながら、アッガスが口を開いた。
「そんじゃ、久しぶりに暴れるとするか」
「うん。後でいっぱいジンに褒めてもらうんだ」
アッガスの台詞に、ミリーが返す。そうして次の瞬間――ミリーが駆け出した。
煌めく短剣。それと共に、彼女に向かって駆け出した数体の魔物が動きを止め、魔力へと帰って行く。
「ほらほら、お前らの相手はこっちだぜ!」
仲間を殺したミリーへと魔物達が向かっていくが、その間に割り込んだアッガスが小盾で正面の魔物を受け止めながら、左右を駆け抜けようとする魔物に対し得物のメイスを振るっていく。
アッガスのメイスが動く度に地面へと叩きつけられる魔物。だが、それでは倒しきれなかったようで、アッガスの攻撃を受けた魔物達は続々と立ち上がり、アッガス目掛けて突進していく。
「それ!がら空きだよ!」
だが、アッガスに向かい突進しようとした魔物達は、もれなくミリーの短剣の餌食となって消えていく。その間に、アッガスは別の魔物に攻撃を加え、次のミリーの標的を作っていく。
そんな光景を見ながら、レーベが1人呟く。
「すげえ・・・」
2人の完璧な連携。森に入ってからは幾度となく封じられてきた「大鷲の翼」の最強の武器が、標的である魔物達をどんどんと駆逐していく。
そして瞬く間に数を減らした魔物達は、アッガスとミリーの2人を倒すことは無理と判断したらしく、彼らの背後に立つレーベへと標的を変え、彼に殺到する。だが魔物たちのその行動は、突如現れた大剣の攻撃により阻まれた。
大剣の餌食となった魔物達が霧散し消えていく。そして、レーベの傍らに立っていたのは――
「よう、レーベ。そんなところで呆けてたらまた狙われるぞ」
ジンと共にいたはずのオーガスだった。
「オーガスさん・・・」
突如そばに現れたオーガスを見ながらレーベが呟く。聞きたいことは山ほどあるのだろうが、目の前の状況が飲み込めていないせいか、口を開けたり閉めたりしながらオーガスを見つめる。
そんなレーベを見ながら、オーガスが得物の大剣を構えなおす。
「何か言いたいことがあるようだが、それは後だ。まずはこいつらを捌かなきゃな」
「あ・・・はい!」
オーガスに声を掛けられ、体から抜けかけていた魂が戻ったかのように返事をするレーベ。
慌てて大剣を抜くと、オーガスと背中合わせになり、魔物と相対する。
「よし、俺の背中はお前に任せるぞ、レーベ」
背後を確認することなく声をかけるオーガス。対するレーベも、振り向くことなく小さく返事をした。
そして次の瞬間。同時に駆け出した2人が、正面にいる魔物を大剣で薙ぎ払う。
「レーベ、右だ!」
「オーガスさん、左から来ますよ!」
互いに声を掛け合いながら連携をとる2人。いつも一緒に訓練をしているせいか、2人の連携は非常に良い。どちらかが攻撃をすれば、もう片方がほかの魔物の注意を惹く。
先ほどのアッガスとミリーの動きに似ているが、こちらは常に攻守を入れ替えながら魔物を殲滅していく。
(レーベもここまで出来るようになったか。もう少しでリオと共に前線を張れるかもな)
横目でレーベを見ながら、微笑むオーガス。そんなオーガスに視線に気が付くことなく、レーベは魔物を両断する。
(まだ、まだまだだ。もっと上を目指さないと、リオの隣には立てない・・・!)
魔物を両断し、次の獲物を探すレーベ。と、次の瞬間。
「フグウ!」
2人の死角となっていた方向から、ふぐおの鳴き声が響く。慌てて2人がその方向を向くと、ふぐおに体当たりをされた魔物達が、突き飛ばされた勢いのまま木々に衝突。砕け散るように霧散していく。
「すまん、ふぐお。助かった・・・」
「フグ」
礼をするオーガスに対し、気にするなといった風に鳴くふぐお。そんなふぐおの背後から、疲れ切った表情をしたリオが歩いてくる。
そんなリオに気づいたのか、レーベ達を取り囲んでいた魔物達が一斉にリオのほうへと向かう。
「ええ、まだ来るのぉ・・・」
彼らは知らないが、実はリオは今回だけで、既に50体以上の魔物を相手にしていたのだ。そしてようやく倒しきったところに、新手が現れた形になったのである。いくら超人的な力を持っていても、本人はいまだ年端も行かない6歳の子供なのだ。
「もう勘弁してよー!」
半泣きになりながら叫ぶリオ。と同時に、魔物達の足元が隆起し、魔物達を串刺しにしていった。
森の中を進むリオ達は、何度目か分からない魔物の群れに遭遇していた。
「なんだよ、この奇怪な奴はよ?」
現れた魔物達の相手をしながら、自身の目の前にいる化け物を睨みつけるアッガス。彼が視界に収めている魔物は、猪に鳥や蛇、果てには人のようなものが複雑に混ざり合ったグロテスクなものだった。
魔物を睨むアッガスに対し、声をかけるミリー。
「多分、エレナっちの言ってた「変異種」とかいうやつじゃない?いかにも生き物っぽくないし」
得物である短剣を振るいながら、猪型の魔物を一体霧散させるミリー。そんな彼女のそばに立つレーベが、ミリーを狙う魔物の足止めをしていた。
「ナイス、レーベっち」
レーベの抑えた魔物に止めを刺しながら、ミリーがウインクする。
「フグオ!」
そんな2人の死角から攻撃を加えようとした魔物を、ふぐおが自慢の腕力を使って殴りつける。
ふぐおに殴られた魔物は、悲鳴を上げる暇もなく霧散していく。
「わー、あれだけは絶対に受けたくないね」
「ですね」
魔物でなければミンチになっていそうな光景を目の当たりにした2人が呟く。
そんな2人に対し、ジンから臨時のリーダーにされたアッガスが口を開く。
「見物するのは後にしろ!リオを助ける方が先だ!」
魔物にメイスを叩きつけながら叫ぶアッガス。彼の視線の先には、何体もの魔物に囲まれるリオの姿があった。そこまでに魔物達が何層もの肉壁を形成し、彼らの行く手を阻む。
すると突然、ふぐおが痺れを切らしたように魔物達に向かい突進していく。
ふぐおの突進と共に放たれた魔力弾が周囲の魔物達を打ち抜いては霧散させていき、あっという間に魔物達による壁が崩壊する。
その光景を目の当たりにしたアッガスが引き気味に声を出した。
「うーわ・・・」
衝撃的な光景に、アッガスのみならず、レーベ、ミリーの2人も、声には出さないが内心で引いていた。
当のふぐおはそんなことを気にすることもなく、近寄ってくる魔物を一網打尽にしていく。
「・・・なあ、俺ら必要あるのか?」
「あると思うよ。2人が暴走しないためにも」
とりあえずそう口にしたミリー。――実際に彼らが暴れまわったら3人では暴走する2人を止める手段はないのだが。
「気休めはやめましょうよ。本気で暴れたら俺たちまで巻き添えですよ。・・・ていうか、今でも危険ですけど」
レーベの言葉に苦い表情を浮かべながら項垂れる2人。そんな彼らのそばを、ふぐおの放った魔力弾が通過していき、彼らの背後に小さな窪みを作り出した。
「・・・当たったら命はなさそうだな」
背後にできた窪みを見ながら呟くアッガス。そんな彼の台詞に同意した2人は、アッガスと共に数歩後ろに後退した。
一方、リオの方はというと。
「ふぐお、みんなに当たっちゃうから、後ろには撃ったら駄目だよ」
10体以上の魔物に囲まれながら、余裕綽々といった風にふぐおを注意していた。注意されたふぐおは、申し訳なさそうな視線を背後に向けると、すぐに周囲の魔物達の殲滅を再開する。
ふぐおとリオにより、瞬く間に数を減らしていく魔物達。
やがて味方が半分を切ると、堰を切ったように後退していく魔物達。だが、リオとふぐおは彼らを逃すつもりは一切なく――
「ジンさんの仇だよ!」「フグ!」
魔物へと向け、追い打ちをかけていく。リオは風系統の魔法を、ふぐおは魔力弾を用い、わずか10秒たらずの時間で魔物達を殲滅する。
攻撃を受けた魔物たちは、洩れなく体を2つに割られ、魔力として空中に消え去っていく。――目の前で起きた出来事は、思わず魔物達に同情してしまいそうなほどに凄惨だった。
やがて霧散していった魔物達を確認したリオが、後方へ退避していたアッガス達に声をかける。
「みんな、終わったよ」
無邪気に声をかけるリオ。
そんなリオに声をかけられた3人は、青ざめた表情をしながら、リオの方へと歩いていく。
「あれ、みんなどうしたの?」
3人の表情に気づいたのか、リオが声をかける。
「いや、間違っても魔物として産まれてこなくてよかったと思っただけだ」
アッガスが2人を代表してそう口にする。だが、彼の口にした言葉の意味が分からなかったリオは、1人首を傾げる。
「いや、何でもない。さっさと先に進むぞ」
首を傾げるリオに対し、何かを言おうとしたアッガスだったが、喉元まで出かかった言葉を飲み込み、代わりに全員を急かしたのだった。
そうしてリオ達が森の中を歩くこと1時間。幾度も襲ってくる魔物達を撃退し進んでいると、森の中に立つ小さな小屋を見つけた。
鬱蒼とした森の中にポツンと建つその小屋は、まるで怪談の舞台になりそうなほどにボロボロで、今にも霊の1体や2体は化けて出てきそうな雰囲気であった。
そんな小屋を目の前に、リオ達4人と1頭は魔物達と戦闘を繰り広げていた。
「こんだけ数が多いってことは、ここが黒幕の野郎の守りたい場所なのか?」
「うーん、どうなんだろうね。こういう時に役に立つ頭のいい組は皆ジンの所なんだよね」
アッガスの言葉に、ミリーが返す。彼女の言う通り「大鷲の翼」内の頭脳ともいえる3人はみごとにこの場所にいない。
残るアッガスも、認めたくはないようだが、自身がそう言う立場ではないことを自覚しているようで、愚痴を零していた。
「リオ、なんかエレナみたいにわかんねーのか?この際なんでもいい、何かないのか?」
すがるようにリオに尋ねるアッガス。だが、リオからは何も返事が返ってこない。それを不思議に思ったアッガスが横目でリオのいる方を見ると、リオとふぐおが魔物達に囲まれている光景を目にする。
「また囲まれてんのかよ、あいつは!」
「・・・それは僕たちも同じみたいだよ、アッガスっち」
声を荒げるアッガスに、ミリーが冷静に返す。
「みたいだな。レーベは・・・いるか」
すぐにレーベの所在を確認したアッガス。そうしてそばにレーベがいることを確認すると、声を張り上げた。
「リオ!そいつらさっさと潰せ!そしたら一度ジン達の所まで撤退だ!」
アッガスはそう口にすると、リオの返事を聞くことなく目の前にいる魔物達に意識を集中させる。
「アッガスさん、前衛は俺が」
「レーベ。お前は今回ばかりは足手まといだ。大人しく自分の身だけ守ってろ。いいな」
「・・・わかりました」
レーベに対し、冷たく言い放つアッガス。それは決して戦力にならないという意味ではない。むしろレーベは、そこら辺の新米冒険者ではもう手も足も出ないくらいの実力は身に着けていた。
だが、それでもアッガスがそう言い放った理由は、現在彼らを取り囲む魔物の数では、レーベまでフォロー出来ないと踏んだからであった。
「間違っても死んじゃだめだよ」
アッガスに続いて、ミリーもレーベに声をかける。彼女の場合は普段と変わらない口調だったが、明らかにその意識はレーベではなく、辺りを取り囲む魔物達に向いていた。
そうして魔物に意識を向けながら、レーベが最も奮い立つ言葉を投げかける。
「レーベっちに何かあったらリオっちが悲しんじゃうよ」
その言葉を聞いて、唇を噛みしめ頷くレーベ。そんな彼を見たミリーは、得物である短剣を構えながら、アッガスの隣に立つ。
隣に立ったミリーを見ながら、アッガスが口を開いた。
「そんじゃ、久しぶりに暴れるとするか」
「うん。後でいっぱいジンに褒めてもらうんだ」
アッガスの台詞に、ミリーが返す。そうして次の瞬間――ミリーが駆け出した。
煌めく短剣。それと共に、彼女に向かって駆け出した数体の魔物が動きを止め、魔力へと帰って行く。
「ほらほら、お前らの相手はこっちだぜ!」
仲間を殺したミリーへと魔物達が向かっていくが、その間に割り込んだアッガスが小盾で正面の魔物を受け止めながら、左右を駆け抜けようとする魔物に対し得物のメイスを振るっていく。
アッガスのメイスが動く度に地面へと叩きつけられる魔物。だが、それでは倒しきれなかったようで、アッガスの攻撃を受けた魔物達は続々と立ち上がり、アッガス目掛けて突進していく。
「それ!がら空きだよ!」
だが、アッガスに向かい突進しようとした魔物達は、もれなくミリーの短剣の餌食となって消えていく。その間に、アッガスは別の魔物に攻撃を加え、次のミリーの標的を作っていく。
そんな光景を見ながら、レーベが1人呟く。
「すげえ・・・」
2人の完璧な連携。森に入ってからは幾度となく封じられてきた「大鷲の翼」の最強の武器が、標的である魔物達をどんどんと駆逐していく。
そして瞬く間に数を減らした魔物達は、アッガスとミリーの2人を倒すことは無理と判断したらしく、彼らの背後に立つレーベへと標的を変え、彼に殺到する。だが魔物たちのその行動は、突如現れた大剣の攻撃により阻まれた。
大剣の餌食となった魔物達が霧散し消えていく。そして、レーベの傍らに立っていたのは――
「よう、レーベ。そんなところで呆けてたらまた狙われるぞ」
ジンと共にいたはずのオーガスだった。
「オーガスさん・・・」
突如そばに現れたオーガスを見ながらレーベが呟く。聞きたいことは山ほどあるのだろうが、目の前の状況が飲み込めていないせいか、口を開けたり閉めたりしながらオーガスを見つめる。
そんなレーベを見ながら、オーガスが得物の大剣を構えなおす。
「何か言いたいことがあるようだが、それは後だ。まずはこいつらを捌かなきゃな」
「あ・・・はい!」
オーガスに声を掛けられ、体から抜けかけていた魂が戻ったかのように返事をするレーベ。
慌てて大剣を抜くと、オーガスと背中合わせになり、魔物と相対する。
「よし、俺の背中はお前に任せるぞ、レーベ」
背後を確認することなく声をかけるオーガス。対するレーベも、振り向くことなく小さく返事をした。
そして次の瞬間。同時に駆け出した2人が、正面にいる魔物を大剣で薙ぎ払う。
「レーベ、右だ!」
「オーガスさん、左から来ますよ!」
互いに声を掛け合いながら連携をとる2人。いつも一緒に訓練をしているせいか、2人の連携は非常に良い。どちらかが攻撃をすれば、もう片方がほかの魔物の注意を惹く。
先ほどのアッガスとミリーの動きに似ているが、こちらは常に攻守を入れ替えながら魔物を殲滅していく。
(レーベもここまで出来るようになったか。もう少しでリオと共に前線を張れるかもな)
横目でレーベを見ながら、微笑むオーガス。そんなオーガスに視線に気が付くことなく、レーベは魔物を両断する。
(まだ、まだまだだ。もっと上を目指さないと、リオの隣には立てない・・・!)
魔物を両断し、次の獲物を探すレーベ。と、次の瞬間。
「フグウ!」
2人の死角となっていた方向から、ふぐおの鳴き声が響く。慌てて2人がその方向を向くと、ふぐおに体当たりをされた魔物達が、突き飛ばされた勢いのまま木々に衝突。砕け散るように霧散していく。
「すまん、ふぐお。助かった・・・」
「フグ」
礼をするオーガスに対し、気にするなといった風に鳴くふぐお。そんなふぐおの背後から、疲れ切った表情をしたリオが歩いてくる。
そんなリオに気づいたのか、レーベ達を取り囲んでいた魔物達が一斉にリオのほうへと向かう。
「ええ、まだ来るのぉ・・・」
彼らは知らないが、実はリオは今回だけで、既に50体以上の魔物を相手にしていたのだ。そしてようやく倒しきったところに、新手が現れた形になったのである。いくら超人的な力を持っていても、本人はいまだ年端も行かない6歳の子供なのだ。
「もう勘弁してよー!」
半泣きになりながら叫ぶリオ。と同時に、魔物達の足元が隆起し、魔物達を串刺しにしていった。
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