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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章グレン編

第一部・王都 最終話

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「いてて・・・」

 意識を取り戻したレーベが上半身を起こしながら呻いていた。リオの得物を直接受けた腹部をさすりながら声をあげる。

「マジで容赦なさすぎだろ・・・って、ストップ、ストップ!」

 上半身を起こしたレーベに向かい肉薄するリオ。そんなリオに対して、両手を突き出しながらレーベが停まるように求めるが――

「ふげぁっ」

 顔面にリオの攻撃を受けたレーベが昏倒する。
 得物である大剣を振り切ったリオが、今頃になってレーベの言葉に反応する。そしてその直後に、昏倒したレーベを見て困った表情を浮かべる。

「リオ、そこで終わりだ」

 ただでさえネジの外れた人間の多い「大鷲の翼」に、新しく一本ネジの外れた存在が増えたことに頭を抱えながら声をかけるジン。ちなみに、リオがそうなったのはジンの言動が原因なのだが、ジンは夢にも思っていないだろう。
 訓練を止めたジンに対し、珍しく攻撃的な視線を向けるリオ。

「不満なら俺が相手してやる。そのイライラが吹き飛ぶまで好きにしろ」

「じゃあ遠慮しないよ」

 ジンの台詞に対し遠慮のない目線を向け続けるリオ。すぐさまレーベをどかし、二人の闘いが始まる。
 そんな二人を余所に、オーガスがレーベにどこからか用意した水を顔面にかける。
 冷たい水の感触に目を覚ますレーベ。そんな彼に対し、オーガスが今すぐリオとジンの闘いに参加するように告げる。

「いやいや、あんな中に飛び込むなんて自殺行為ですよ!?」

 現在進行形で繰り広げられる二人の異次元の闘いに首どころか全身を振るレーベ。

「だが、お前もいつかはあれくらい・・・」

「いや、あの二人が規格外なだけですよ!?オーガスさん、どこかに「普通」って言葉置いてきてません?」

 レーベの言う通り、そこで行われている闘いは普通という言葉からは大きくかけ離れたものだった。
 どちらかの得物が一閃するたびに突風どころか暴風の吹き荒れる闘技場。まともに一発でも受ければ、骨が折れるどころか命に関わりそうなレベルの剣戟が繰り広げられていた。

「ていうか、なんでリオは普段扱わない大剣であれだけジンさんと渡り合えるんだよ?」

「あれがリオの普通だからな」

 呟くレーベに対し、オーガスがその答えを返す。だが、それを聞いたレーベが半眼でオーガスにツッコんだ。

「だから、普通って言葉、どこかに置いてきてますよね?」

「・・・そんなことはない、と思う」

 レーベのツッコミに対し、オーガスも自覚があるのか目を反らしながら答える。そしてその間も繰り広げられる剣戟。
 やがて意地でも参加しないレーベに痺れを切らしたのか、オーガスが先ほどから行われている異次元の闘いの中にレーベを無理矢理放り込もうと動き出した。

「え?ちょ、オーガスさん?」

「舌噛むなよ」

 唐突にレーベを肩に抱くオーガス。と、次の瞬間。リオとジンの丁度中間に投げ込まれたレーベが二人の振るった大剣を目の前にする。

「どわああああ!?」

 咄嗟に頭を下げるレーベ。それと同時に響いたカンッという乾いた音と共に、二人の驚いた声が響く。

「「レーベ!?」」

 三人がそのままの態勢で固まる。吹き荒れていた暴風は止み、闘技場を静寂が包む。
 その静寂の中、オーガスに投げ込まれたことによって突如現れたレーベに、リオが声をかける。

「レーベ、構えて。さっきの続きだよ」

「はぁ?いや、続きって・・・」

 まだ状況の飲み込めないレーベがとぼけた声をあげる。
 だが、リオはそんなことはお構いなしに、すぐに距離を取りレーベを目標に突進する。

「っと。丸腰のレーベにそんなことをするのはフェアじゃないぞ、リオ」

 レーベに向けて振るわれた大剣を受け止めるジン。そしてそのままレーベに声をかけた。

「レーベ。今から二人でリオを倒す。お前がメインアタッカーだ。いいな?」

「わ、わかりました」

「オーガス、武器をレーベに渡してくれ。リオ、その間は動くなよ?」

 ジンがそう口にしながらリオに注意する。その後、即座にレーベの手に大剣が渡る。
 準備の整ったレーベを見たジンがリオに声をかけた。

「準備は終わった。いつでも来い」

 ジンの台詞を聞いたリオが小さく頷き、二人に対し距離を詰める。
 リオの動きに対しジンが防御を、レーベが攻撃の機会を窺いながらその背後に立った。
 その数刹那後、闘技場に鳴り響く木同士のぶつかり合う乾いた音。

「今だ、レーベ。攻めろ」

 ジンの台詞が終わると同時にレーベがリオに攻撃をするために側面へ回り込む。だがその動きは読まれていたようで――
 再度乾いた音が響く。レーベの動きを見て数歩後退したリオが、彼の攻撃を受け止めたのだった。

「やっぱり、レーベには攻撃は向いてないよ」

 鍔迫り合いをしながらリオが呟く。だが、それを聞いたレーベはあることを思いついたようで、ジンに声をかける。

「ジンさん。今度は俺が防御に回ってもいいですか?」

「別に構わないが・・・」

 レーベの提案に戸惑いながらも了承するジン。そうして攻守の担当が入れ替わり、数度剣戟が繰り広げられる。

(・・・思うように攻撃が加えられない?)

 すると先ほどまでと異なり、有効打を与えられなくなったことを疑問に抱いたリオは、今までのレーベとの訓練を思い出し、一つの結論に辿り着く。

(そういえば、レーベが気絶する時っていつもレーベが攻めた時だっけ)

 既に何度も手を合わせていたことにより、その結論に辿り着いたリオは、すぐさまに攻撃の方法を変える。
 優先的にアタッカーであるジンを狙うことにより、レーベの動きを制限しようと画策したのだ。
 だが、その考えは失策だったようで、すぐに返り討ちに遭ってしまう。

(・・・余計なことを言い過ぎたかな?)

 ついさっきレーベに対して呟いた言葉を後悔するリオ。あくまでも訓練である以上、そう言った助言は問題ないのだが、そこから戦況が変わったのは事実であった。
 レーベの防御に関する技術に関しては天賦の才があったようで、リオはレーベが防御専門に回ってからは有効な攻撃が与えられないでいた。

(なんでか、攻めない方がリオの動きが分かるな・・・)

 天賦の才にはさすがのリオも勝てないのか、少しずつレーベが自由に動ける時間が増えていく。
 ほんの僅かな時間ではあるが、レーベはそのわずかな時間でさえもジンを守るために神経を張り巡らし、リオの攻撃を防いでいく。
 そうして数分が経った頃。ジンの振るった得物がリオを捉えた。

(レーベの才能はこっちだったのか)

 防御したリオをそのまま吹き飛ばしたジンが内心で呟く。「大鷲の翼」は攻撃的な面々しかいないため、普段はそれぞれが各自で回避を行っていた。
 そのため「専門の防御役(タンク)に向いているのでは?」という考えに至らなかったのである。
 そして、偶然ながらも結果的にレーベの真の実力を引き出したリオに対し舌を巻くジン。

(防御役って厄介だね。・・・でも、うまくやれば簡単に崩せるかも)

 対するリオは、防御専門(タンク)という存在を逆手に取り勝負を決めようと画策する。――レーベから数歩離れた位置にいたジンに対し隙を見せ、おびき出すことにしたのだ。

「リオ、もらったぜ!」

 リオの策略とも知らず攻撃を加えるため前に出るジン。対するリオは、レーベの間合いの外にまで下がると、すぐにジンに対し攻撃を加える。
 迷いなく後退したリオに対し、嵌められたと悟るジン。すぐにレーベの元まで後退しようと背後を確認するが、二人の距離は開きすぎていた。
 そのことに気づいたレーベも前進するが、次の瞬間、ジンはリオの手にする大剣により気を失ってしまう。
 まだ防御役がいるという戦い方に二人が慣れていないことを利用した、リオの戦略勝ちであった。

「オーガスさん、短剣が欲しいかな」

 そして邪魔者は消えたといわんばかりに、リオが一番得意な戦闘スタイルにするためにオーガスに訓練用の短剣を要求する。
 そんなリオに対し、短剣を二振り投げ込むオーガス。

「リオだけ武器を変えるんじゃ不平等だ。――レーベ、お前は武器を変えるか?」

「いや、俺はこのままで。・・・本気のリオの攻撃を持ちこたえてこそ意味があるんで」

 武器を変えるか尋ねるオーガスに対し、そのままでいいというレーベ。

「健闘を祈る」

 一言だけ口にし、そのまま気絶したジンを連れてオーガスが闘技場内の観覧席に移動する。
 オーガスが離れたことを見届けたリオが床に落ちた二振りの短剣を握る。

「オーガスさん、ありがとう」

 両手に握られる短剣。それはリオが試したかった新しい戦闘スタイルであり、彼が考えるうえで理論上最強の戦闘スタイルであった。
 そのことを知るレーベがリオを見ながらぼやく。

「あくまでも俺の訓練じゃないのかよ」

「もちろん、レーベの訓練だよ。でも、僕も常に強くなり続けないと」

 レーベのぼやきに返すリオ。今以上に強くなりたいと言うリオに対し、乾いた笑いをレーベが零すが、リオは聞かなかったフリをし、レーベに声をかけた。

「レーベ、準備は良い?」

「ああ、いいぜ」

 声をかけられたレーベが頷き、得物である大剣を構える。対するリオも短剣を構え、少しずつ間合いを詰めていく。
 互いの距離が二メートルを切った頃。ジン達のレベルでなければ気づけない速度でレーベとの距離を詰め乱撃を放つ。
 対するレーベは、すべての攻撃を直感で受け流す。そうしてリオの攻撃を受け切った頃、レーベの予測しなかった一撃が迫る。が、レーベが直感のままに回避行動をとる。

「・・・っ!?」

 間違いなく直撃するはずの攻撃を躱され驚くリオ。そんな彼に、レーベによるカウンターが飛んでくる。
 そのカウンターを何とか受け止めるリオだったが、勢いを殺しきれず数メートルほど吹き飛ばされる。

(油断はできないね)

 吹き飛ばされながらも冷静に受け身をとるリオ。地面に着地した次の瞬間、リオが刹那の間にレーベに肉薄するが、レーベがかろうじてリオの一撃を受け止めた。

(防がれた・・・?)

 防がれた瞬間を目にしたリオが追撃を加えるが、その攻撃をレーベが防いでいき、やがてリオの動きが止まった。

「はあっ!」

 攻撃が止まり無防備になったリオに対し、レーベがカウンターを叩きこむ。だがリオがレーベの大剣を受け流し、その勢いを利用しながら飛び上がる。
 そして空中で身を翻すと、カウンターを叩きこんだことによりがら空きになったレーベの腹部に短剣を叩きこんだ。
 一瞬体が浮かび上がる感覚を覚えるレーベだったが、踏ん張ることによりなんとか宙に浮かずに済む。しかし、腹部から響く骨が折れたような痛みに顔をしかめる。

(訓練なんだよな?気を抜いたら死にそうなレベルなんだが)

 そんなレーベに対し、追撃を加えるリオ。腹部の痛みに耐えながらリオの攻撃を防いでいくレーベだったが、やがて得物である大剣を叩き割られてしまった。
 真っ二つになった木製の大剣を見ながら驚愕の声をあげるレーベ。

「マジかよ・・・」

 丸腰になったレーベの眼前に、得物である短剣の切っ先を向けるリオ。

「勝負ありだな」

 その光景を見届けたオーガスが訓練の終了を宣言する。それなりに善戦していたレーベだったが、これほどの闘いを経てもほとんど息を切らしていないリオに対し嘆息してしまう。

(つくづくバケモンだよな・・・。なんで俺はあいつを目標にしたんだ?)

 過去の自分へと問いかけるレーベ。
 彼がリオを目指そうと思った理由は、ただリオが強い存在だったからである。それ以上もそれ以下もなかった。
 自身より上の存在を目標にすることはなんらおかしいことではない。彼が目指した存在が雲の上過ぎたというだけである。
 だが、今になってその事実を理解したレーベが本当に目標とするべきは誰か思考するが、思い浮かぶのはリオだけであった。
 その事実に頭を抱えるレーベだったが、すぐに考え方を変える。

(リオはある程度防御もこなせるが、間違いなく攻撃役だよな。――なら俺は、リオを支えられる防御役になってやる)

 そう決意を固めるレーベ。のちにそれは彼の信念となり、やがて最高のコンビといわれる二人の少年の最初の一歩であった。
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