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第1章グレン編
第一部・王都 5話
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今までと比べ物にならない威力に、為す術もなく闘技場の壁へと叩きつけられたリオ。
「く、ふっ」
体への衝撃は相当だったようで、リオの呼吸が一瞬止まり、すぐに再開される。
そんなリオに対し、アイゼンが距離を詰める。
「どうした、私やジン殿の本当の実力はこんなものではないぞ!」
そう口走りながら自身の得物である長剣を構えるアイゼン。対するリオは――さらに一段階ギアを上げた。
アイギスの振るう長剣を回避するリオ。そしてそのままカウンターに移る。
一閃ごとに速度を増していくリオの攻撃に、アイゼンが防戦一方になる。
(そろそろ真面目にやらなければ。だがこの少女、底が知れんな。この年でここまでできるとは)
盛大な勘違いをしながらアイゼンがリオの攻撃に対応し始め、それを悟ったリオが、今度は無駄なく攻撃を加え始める。
先ほどまでの乱撃とは異なり、一撃一撃が下手をすれば命取りとなりうる威力の攻撃を受け続けるアイゼン。だが、フェイントになる攻撃が減ったことにより対処が簡単になったのか、すぐに攻撃に対処し始め時折カウンターを挟み始める。
(速度を上げた方がいいのかな。すぐに対応されちゃった)
現状でも一閃ごとに風が吹き荒れるほどの剣戟を繰り広げるリオが、さらに速度を上げ、フェイントを入れ込む。だが、純粋な剣技だけではアイゼンに対応されてしまう。
余裕のできたアイゼンが声をかける。
「君の実力はその程度かい?使えるのなら魔法だって使っていいんだよ」
「じゃあ、使わせてもらうね」
リオが言質はとったとばかりに、即座に魔法を行使する。
「《防護》」
「嘘だろう?」
次の瞬間、リオの周囲に魔力による防壁が出来上がる。アイゼンは冗談で口走ったようだったが、目の前で魔法を使われて焦りを浮かべる。急いで防壁を割ろうと攻撃を加えるが、びくともしない。それどころか、防壁の内側からリオの剣戟が閃く。
「ちょ、ずるくないかい!?」
リオの攻撃は通し、アイゼンの攻撃は一切通さない。安全地帯から一方的に降り注ぐ攻撃に、さしものアイゼンも防戦一方となる。それを見たリオが、自身の周囲に展開していた防壁でアイゼンを閉じ込めていく。
「君には騎士としての精神が――」
「僕、騎士じゃないよ。あと、女の子じゃないもん」
騒ぎ始めるアイゼンを一瞥しながら、むうっと頬を膨らませるリオ。非常に愛らしい仕草ではあるが、その瞳には見間違いようがない怒りの炎が灯っていた。そこでようやく、自身が地雷を踏み続けていたことを悟るアイゼン。
鉄壁の盾に閉じ込められたアイゼンが、動くことすら困難な広さの中で得物を構えようとするが、防壁に触れた瞬間に長剣が粉微塵になる。
「・・・終わり、終わりだ。――君の勝ちだよ」
動くこともできず、さらに武器まで失ったアイゼンが降参し、勝敗は決したのだった。
レーベが冒険者となった翌日。リオはアッガスと共に、アッガスの幼馴染の元へと顔を出していた。昨日、リオは短剣を見てもらおうとしたが、紆余曲折あり結局見てもらえなかった為である。
アッガスの幼馴染であるテラーが、店内に来たリオ達を見て声をあげる。
「お、アッガスと昨日の可愛い子ちゃん。どしたん、今日は何の用なん?」
相変わらず訛りの強い喋り方で尋ねるテラー。そんな彼女にリオが要件を伝えると、テラーはすぐにリオの短剣を要求した。
「ほおぉ。中々いいもんじゃけど、うちならもっとええもんにできるで?どうする?」
リオの短剣を見たテラーがそう口にする。リオはどうしようかと迷った挙句、テラーの言葉に乗ることにした。
「よっしゃ、久しぶりに改造じゃ。明日にはできるけん、また来てな」
テラーが力こぶを作りながら、すぐに店の奥にある工房へと姿を消す。
残されたリオとアッガスは武器屋を後にすると、その足で防具を取り扱う店へと向かう。
「いらっしゃい。好きに見ていくといい」
店内に入ると、店主らしき男性の声が響いた。
二人は、防具屋に寄った目的を果たすために小盾が並ぶ場所へと向かう。
「よしリオ。どれか気に入ったものはあるか?」
それから半刻ほど吟味したリオに対し、アッガスが尋ねる。
尋ねられたリオは、全部で五つある小盾の中から、扱いやすそうなものを二つ指さす。
「んー、その二つは短剣使いにとってどうなんだ?片手が塞がると思うんだが」
リオが指さした二つの盾を見て呟くアッガス。なにせ、リオが指さした物は、二つとも腕に着けるタイプではなく、手で持つタイプの物だったからである。
リオが選んだ物の代替になりそうなものを代わりに選定するアッガスだが、この店で売っている盾は全て手で持つタイプだったため、すぐにリオに向き直る。
「悪いリオ。この話はまた今度にしないか?必要ならテラーに頼んで作ってもらおうぜ」
「うん。・・・でも、本音を言えば魔法でどうとでもできるからいらないかも」
「そういやそうだったな。それじゃあ無理に買う必要もないか」
そう言うアッガスの脳裏には、昨日のアイゼンとの戦闘の光景が浮かぶ。木製とはいえ、触れた剣を木っ端微塵に粉砕した例の魔法を思い出し、背中に冷や汗が流れる感覚を覚える。
(今思えばエグい戦い方をしてたよな)
リオがアイゼンと戦うように仕向けたのはアッガス達であった。だがあの戦闘の後、アイゼンは何かに憑りつかれたように体を震わせていた。その理由は間違いなくリオの《防護》という魔法だろう。
相手の攻撃は通さず、自身の攻撃は通す。そんなものを使われては如何に強い存在でも勝つことは不可能だろう。なにせ、攻撃が当たらないのだから。
アイゼンにちょっとした拷問を味合わせてしまったことを心の中で謝りながら、リオに声をかけるアッガス。
「よし、それじゃ帰ろうぜ」
「うん。ジンさんも頭痛、治ってるといいね」
試験後、頭痛でうなされ続けていたジンを心配するリオ。そんなリオの頭を撫でたアッガスが歩き出し、リオもその後ろについていった。
その同時刻。
試験の後、横になっていたジンは、宿泊する宿屋で目を覚ました。視界に入る、木製の天井を見ながら、昨日あったことを思い出していく。
(ああ、そうだ。試験で手を抜いたアイゼンを叩きのめすように言って・・・)
それにエレナが本音で乗って。そのほかの三人が――
「そうだ、ミリーとアッガスとオーガス!あいつら、適当なことを・・・」
ふと、ジンの左側で翡翠色の物体が動くのが映り、その物体が何かを確認するためにジンが体を起こす。はたしてその正体は――
「あ、おはよー、ジン。ずいぶん寝てたね」
ミリーだった。
起き上がったジンに気づいた彼女は、ジンと目を合わせないようにしながら声をかける。その手には、何故かナイフが握られていた。
「・・・ミリー、それはどういうことだ?」
視界に映る状況を飲みこめず困惑するジンが、なんとか口を開く。そんなジンに対し、ミリーが恐る恐るといった風に、彼女の背後にあった物をジンの方へ差し出した。
「朝ご飯だよ。といっても、エレナっちのと違って不格好だけどね」
ミリーが差し出した物。それはお皿の上に乗った、カットされた果物だった。お皿を受け取ったジンが、早速食べ始める。
「これ、ミリーが全部切ったのか?」
不揃いな大きさにカットされた果物を口に運びながら、ジンが尋ねる。対するミリーは、頷くことで肯定した。心なしか、その頬は若干赤い。
「形はあれだが、美味いぞ。・・・そう言えば、他の奴らは?」
ジンに褒められたミリーが一瞬昇天しかけたが、ジンに尋ねられて我に返る。
「え、うん。――エレナっちは買い出し。オーガスっちとレーベっちは昨日の闘技場で訓練してるよ。リオっちとアッガスっちは散歩だって」
ミリーからの返事を聞きながら、ジンがベッドから立ち上がる。そしてミリーのほうを見ながら声をかけた。
「それじゃあ俺達も王都を見て回るか。ついでに依頼のことも確認したいしな」
「わかった。じゃ、すぐに準備してくるよ」
上機嫌な様子で慌てて部屋から出ていくミリー。そんな彼女の背中を見送ったジンも、すぐに外出の準備を始める。
それから数分後。部屋を出て宿屋のエントランスへと降りたジンは、ちょうど階段が見える位置でミリーを待っていた。
「お、ジン。ようやく復活か」
ミリーを待つジンに声がかかる。声のした方へジンが振り向くと、王都を散歩していると聞いたアッガスとリオの姿があった。
「アッガス、リオ。もう帰ってきたのか」
「「もう」とは酷い言い方だな?・・・そういうジンはどうしたんだよ?なんだ、デートか?」
「馬鹿か。そんなわけないだろう。これからミリーとギルドに向かうんだ」
相変わらずのアッガスに、呆れた声をあげるジン。だが、アッガスは何かあると睨んでいるのか、さらに踏み込んでいく。
「で?そのあとはまっすぐ戻ってくるのか?」
「いや、すこし二人で王都をぶらぶらしようかと。・・・なんだ、その顔は」
アッガスの表情が気になったジンが半眼で睨む。対するアッガスは特に気にした様子もなく口を開く。
「いや、お熱いなぁってな。ここまで鈍感だとミリーが可哀そうだぜ」
「いや、お前の言ってる意味がイマイチ分からないんだが」
「だとよ、ミリー。木偶の坊に恋するのはやめとけ」
ちょうど階段を下りてきたミリーを見つけたアッガスが話を振る。ミリーはアッガスの台詞にしどろもどろになりながらも、なんとか反論する。
「ふえ・・・、べ、別にジンのことが好きなんじゃ・・・いや、人としては好きだけど」
耳まで真っ赤になったミリーを見ながら首を傾げるジンとリオ。その二人を見て、アッガスがさらに言葉を続ける。
「人として好きってどういう意味なんだ?その辺をもっと詳しく――」
悪い笑みを浮かべながら根掘り葉掘り聞こうとするアッガス。だがそんな彼の台詞を遮り、リオが口を開き――
「僕もジンさんが好きだよ?」
爆弾を投下した。
「く、ふっ」
体への衝撃は相当だったようで、リオの呼吸が一瞬止まり、すぐに再開される。
そんなリオに対し、アイゼンが距離を詰める。
「どうした、私やジン殿の本当の実力はこんなものではないぞ!」
そう口走りながら自身の得物である長剣を構えるアイゼン。対するリオは――さらに一段階ギアを上げた。
アイギスの振るう長剣を回避するリオ。そしてそのままカウンターに移る。
一閃ごとに速度を増していくリオの攻撃に、アイゼンが防戦一方になる。
(そろそろ真面目にやらなければ。だがこの少女、底が知れんな。この年でここまでできるとは)
盛大な勘違いをしながらアイゼンがリオの攻撃に対応し始め、それを悟ったリオが、今度は無駄なく攻撃を加え始める。
先ほどまでの乱撃とは異なり、一撃一撃が下手をすれば命取りとなりうる威力の攻撃を受け続けるアイゼン。だが、フェイントになる攻撃が減ったことにより対処が簡単になったのか、すぐに攻撃に対処し始め時折カウンターを挟み始める。
(速度を上げた方がいいのかな。すぐに対応されちゃった)
現状でも一閃ごとに風が吹き荒れるほどの剣戟を繰り広げるリオが、さらに速度を上げ、フェイントを入れ込む。だが、純粋な剣技だけではアイゼンに対応されてしまう。
余裕のできたアイゼンが声をかける。
「君の実力はその程度かい?使えるのなら魔法だって使っていいんだよ」
「じゃあ、使わせてもらうね」
リオが言質はとったとばかりに、即座に魔法を行使する。
「《防護》」
「嘘だろう?」
次の瞬間、リオの周囲に魔力による防壁が出来上がる。アイゼンは冗談で口走ったようだったが、目の前で魔法を使われて焦りを浮かべる。急いで防壁を割ろうと攻撃を加えるが、びくともしない。それどころか、防壁の内側からリオの剣戟が閃く。
「ちょ、ずるくないかい!?」
リオの攻撃は通し、アイゼンの攻撃は一切通さない。安全地帯から一方的に降り注ぐ攻撃に、さしものアイゼンも防戦一方となる。それを見たリオが、自身の周囲に展開していた防壁でアイゼンを閉じ込めていく。
「君には騎士としての精神が――」
「僕、騎士じゃないよ。あと、女の子じゃないもん」
騒ぎ始めるアイゼンを一瞥しながら、むうっと頬を膨らませるリオ。非常に愛らしい仕草ではあるが、その瞳には見間違いようがない怒りの炎が灯っていた。そこでようやく、自身が地雷を踏み続けていたことを悟るアイゼン。
鉄壁の盾に閉じ込められたアイゼンが、動くことすら困難な広さの中で得物を構えようとするが、防壁に触れた瞬間に長剣が粉微塵になる。
「・・・終わり、終わりだ。――君の勝ちだよ」
動くこともできず、さらに武器まで失ったアイゼンが降参し、勝敗は決したのだった。
レーベが冒険者となった翌日。リオはアッガスと共に、アッガスの幼馴染の元へと顔を出していた。昨日、リオは短剣を見てもらおうとしたが、紆余曲折あり結局見てもらえなかった為である。
アッガスの幼馴染であるテラーが、店内に来たリオ達を見て声をあげる。
「お、アッガスと昨日の可愛い子ちゃん。どしたん、今日は何の用なん?」
相変わらず訛りの強い喋り方で尋ねるテラー。そんな彼女にリオが要件を伝えると、テラーはすぐにリオの短剣を要求した。
「ほおぉ。中々いいもんじゃけど、うちならもっとええもんにできるで?どうする?」
リオの短剣を見たテラーがそう口にする。リオはどうしようかと迷った挙句、テラーの言葉に乗ることにした。
「よっしゃ、久しぶりに改造じゃ。明日にはできるけん、また来てな」
テラーが力こぶを作りながら、すぐに店の奥にある工房へと姿を消す。
残されたリオとアッガスは武器屋を後にすると、その足で防具を取り扱う店へと向かう。
「いらっしゃい。好きに見ていくといい」
店内に入ると、店主らしき男性の声が響いた。
二人は、防具屋に寄った目的を果たすために小盾が並ぶ場所へと向かう。
「よしリオ。どれか気に入ったものはあるか?」
それから半刻ほど吟味したリオに対し、アッガスが尋ねる。
尋ねられたリオは、全部で五つある小盾の中から、扱いやすそうなものを二つ指さす。
「んー、その二つは短剣使いにとってどうなんだ?片手が塞がると思うんだが」
リオが指さした二つの盾を見て呟くアッガス。なにせ、リオが指さした物は、二つとも腕に着けるタイプではなく、手で持つタイプの物だったからである。
リオが選んだ物の代替になりそうなものを代わりに選定するアッガスだが、この店で売っている盾は全て手で持つタイプだったため、すぐにリオに向き直る。
「悪いリオ。この話はまた今度にしないか?必要ならテラーに頼んで作ってもらおうぜ」
「うん。・・・でも、本音を言えば魔法でどうとでもできるからいらないかも」
「そういやそうだったな。それじゃあ無理に買う必要もないか」
そう言うアッガスの脳裏には、昨日のアイゼンとの戦闘の光景が浮かぶ。木製とはいえ、触れた剣を木っ端微塵に粉砕した例の魔法を思い出し、背中に冷や汗が流れる感覚を覚える。
(今思えばエグい戦い方をしてたよな)
リオがアイゼンと戦うように仕向けたのはアッガス達であった。だがあの戦闘の後、アイゼンは何かに憑りつかれたように体を震わせていた。その理由は間違いなくリオの《防護》という魔法だろう。
相手の攻撃は通さず、自身の攻撃は通す。そんなものを使われては如何に強い存在でも勝つことは不可能だろう。なにせ、攻撃が当たらないのだから。
アイゼンにちょっとした拷問を味合わせてしまったことを心の中で謝りながら、リオに声をかけるアッガス。
「よし、それじゃ帰ろうぜ」
「うん。ジンさんも頭痛、治ってるといいね」
試験後、頭痛でうなされ続けていたジンを心配するリオ。そんなリオの頭を撫でたアッガスが歩き出し、リオもその後ろについていった。
その同時刻。
試験の後、横になっていたジンは、宿泊する宿屋で目を覚ました。視界に入る、木製の天井を見ながら、昨日あったことを思い出していく。
(ああ、そうだ。試験で手を抜いたアイゼンを叩きのめすように言って・・・)
それにエレナが本音で乗って。そのほかの三人が――
「そうだ、ミリーとアッガスとオーガス!あいつら、適当なことを・・・」
ふと、ジンの左側で翡翠色の物体が動くのが映り、その物体が何かを確認するためにジンが体を起こす。はたしてその正体は――
「あ、おはよー、ジン。ずいぶん寝てたね」
ミリーだった。
起き上がったジンに気づいた彼女は、ジンと目を合わせないようにしながら声をかける。その手には、何故かナイフが握られていた。
「・・・ミリー、それはどういうことだ?」
視界に映る状況を飲みこめず困惑するジンが、なんとか口を開く。そんなジンに対し、ミリーが恐る恐るといった風に、彼女の背後にあった物をジンの方へ差し出した。
「朝ご飯だよ。といっても、エレナっちのと違って不格好だけどね」
ミリーが差し出した物。それはお皿の上に乗った、カットされた果物だった。お皿を受け取ったジンが、早速食べ始める。
「これ、ミリーが全部切ったのか?」
不揃いな大きさにカットされた果物を口に運びながら、ジンが尋ねる。対するミリーは、頷くことで肯定した。心なしか、その頬は若干赤い。
「形はあれだが、美味いぞ。・・・そう言えば、他の奴らは?」
ジンに褒められたミリーが一瞬昇天しかけたが、ジンに尋ねられて我に返る。
「え、うん。――エレナっちは買い出し。オーガスっちとレーベっちは昨日の闘技場で訓練してるよ。リオっちとアッガスっちは散歩だって」
ミリーからの返事を聞きながら、ジンがベッドから立ち上がる。そしてミリーのほうを見ながら声をかけた。
「それじゃあ俺達も王都を見て回るか。ついでに依頼のことも確認したいしな」
「わかった。じゃ、すぐに準備してくるよ」
上機嫌な様子で慌てて部屋から出ていくミリー。そんな彼女の背中を見送ったジンも、すぐに外出の準備を始める。
それから数分後。部屋を出て宿屋のエントランスへと降りたジンは、ちょうど階段が見える位置でミリーを待っていた。
「お、ジン。ようやく復活か」
ミリーを待つジンに声がかかる。声のした方へジンが振り向くと、王都を散歩していると聞いたアッガスとリオの姿があった。
「アッガス、リオ。もう帰ってきたのか」
「「もう」とは酷い言い方だな?・・・そういうジンはどうしたんだよ?なんだ、デートか?」
「馬鹿か。そんなわけないだろう。これからミリーとギルドに向かうんだ」
相変わらずのアッガスに、呆れた声をあげるジン。だが、アッガスは何かあると睨んでいるのか、さらに踏み込んでいく。
「で?そのあとはまっすぐ戻ってくるのか?」
「いや、すこし二人で王都をぶらぶらしようかと。・・・なんだ、その顔は」
アッガスの表情が気になったジンが半眼で睨む。対するアッガスは特に気にした様子もなく口を開く。
「いや、お熱いなぁってな。ここまで鈍感だとミリーが可哀そうだぜ」
「いや、お前の言ってる意味がイマイチ分からないんだが」
「だとよ、ミリー。木偶の坊に恋するのはやめとけ」
ちょうど階段を下りてきたミリーを見つけたアッガスが話を振る。ミリーはアッガスの台詞にしどろもどろになりながらも、なんとか反論する。
「ふえ・・・、べ、別にジンのことが好きなんじゃ・・・いや、人としては好きだけど」
耳まで真っ赤になったミリーを見ながら首を傾げるジンとリオ。その二人を見て、アッガスがさらに言葉を続ける。
「人として好きってどういう意味なんだ?その辺をもっと詳しく――」
悪い笑みを浮かべながら根掘り葉掘り聞こうとするアッガス。だがそんな彼の台詞を遮り、リオが口を開き――
「僕もジンさんが好きだよ?」
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