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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ミスト編

第三部・新たな家族 2話

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「さて、ふぐおちゃんにお礼もできたことだし・・・リオ君、しばらくうちで暮らさない?」

 ミストにある、自身が経営する宿屋の前でティアナが提案する。
 ――お礼というよりただすりすりされただけだと思うんだけど――
 その場にいる職員とリオが全く同じことを内心でツッコむ。そんなことを知らないティアナは名案とばかりに胸を反らせていた。

「・・・それはティアナさんが里親になる――ということで間違いないですか?」

 宿屋へ入りながら、暫く唖然としていた職員が口を開き、確認する。里親というのは親を亡くした子供たちを養子として引き取ることであり、現代と大差ないものである。
 だがこの世界では「養子となった子供たちに少しでも良い環境を」ということで、配偶者がいるかが条件の一つとなっている。両親のいる環境で普通の家庭のように愛情を貰って育ってほしいと、現国王が制定したのだ。――ちなみに他の条件は安定した収入となる仕事をしているかどうかである。

「ええ。私がリオ君の母親になればこの子が奴隷になったりする必要はないでしょう?」

「失礼ですが・・・ティアナさんは結婚していらっしゃいませんよね?里親となる条件は――」

 確認する職員の言葉をティアナが遮る。

「大丈夫よ、私、来週結婚するもの。・・・ほら、厨房にいるあの人。あの人と結婚するから問題ないわ」

 そう言いながら、厨房でせっせと宿屋で出している朝食の一種であるパンを焼いている男性を指さす。枯茶色の髪の男性は、焼きあがったパンを並べるためのトレーを準備している最中だった。

「サミュエル、ちょっと来て」

 ティアナが男性に声をかける。

「えっ、あと数分で次のパンが焼きあがるから待ってもらえないかい!?」

 男性――サミュエルが非常に整った顔立ちをリオ達の方へと向ける。気の優しそうな声をした、いわゆる「イケメン」な彼は、少しばかり焦った様子でティアナに告げる。
 それを聞いたティアナは「じゃあ焼きあがってから来て」と伝え、リオ達の方へと向き直る。

「・・・あら、どうしたの?」

 彼女が見たのは、口をあんぐりと開けたまま固まるリオと職員の姿だった。

「・・・僕もいつか、あんなカッコイイ人になれるかなぁ」

 しばらくし、リオが呟く。同性であるリオは、サミュエルの容姿に感銘を受けたようだった。――だが、少女のような顔立ちをしたリオには彼のようなイケメンには程遠そうに見える。

「待たせてしまってすまない」

 そう言いながら、焼きあがったパンをトレーに並べ陳列したサミュエルが、ミトンを片手にリオ達の元へやってくる。

「それで、何の話・・・かな?」

 そう言ってサミュエルが三人を見回す。そんな彼に、ティアナが事情を説明する。

「――という訳なの。どう?」

「そんな・・・!――ティアナ、彼のためにも今日式を挙げないか?」

 ティアナの説明を聞いたサミュエルが迫る。案外、涙脆いようで、その瞳には大粒の涙ができていた。

「いや、いくらなんでも今日いきなり式を挙げるなんてできないでしょう?運よく開いてる場所なんて――」

 ティアナが冷静に返す。

「開いている式場ならありますよ?」

 そこに追い打ちをかけたのはギルドの職員だった。ただ単に、事実を告げただけで、他意はなかったのだろう。
 だが、それが彼の暴走を助長することになるとは知らず――

「よし、すぐに式を――」

 サミュエルは勢いのまま、ティアナを連れ出そうと片手を掴む。興奮が最高潮に達した彼を鎮める方法は無いかに見えた。だが――

「いっぺん落ち着けーー!!」

 ペシーーン!!
 宿屋の中に、乾いた音が鳴り響いた。



 乾いた音と共に、頬を真っ赤にしたサミュエルが呆けた顔でティアナを見る。

「落ち着いた?」

「うん」

 最高潮まで昇りきった彼を冷静に戻したのは、婚約者であるティアナのビンタだった。
 冷静になったサミュエルは口を開く。

「ごめんよ、どうかしてたよ。・・・やっぱり、式は予定通りにしよう」

 正確には冷静になりきれていないのか、落胆したように呟く。そんな彼の肩に、ティアナが片手を置き――

「式は明日にしましょう?この子を助けてくれた恩人を呼びたいの」

 そう言って、リオを見た。

「そういえば、その子は?」

 今さらになって、サミュエルが尋ねる。
 内心で(聞いてなかったのね・・・)とぼやくティアナだったが、改めてリオのことを話す。

「ティアナのお姉さんの子なのか。いろいろあったんだね」

 サミュエルがリオを見ながら呟く。――ぶっきらぼうにも思えるが、その言葉は彼なりの心配だったのだろう。言葉の節々にはリオを心配する雰囲気があった。
 だが五歳のリオにはそれが分からなかった。彼のぶっきらぼうな物言いに苦手意識を持ったようで、警戒するような眼差しを向ける。

「おおっと、そんな怖い目をしないでくれよ。・・・ごめんよ、僕は子供が苦手なんだ」

 そう言って、サミュエルがおどけてみせる。だが、リオの険しい目つきは変わらなかった。
 サミュエルをフォローするようにティアナが口を開く。

「リオ君、ごめんね?彼、本当に子供が苦手なの。あまり彼のことは気にしないで?」

 ティアナに言われ、少しだけ警戒を解くリオ。だが、サミュエルに向ける眼差しは険しいままだった。――彼が義父となっても、打ち解ける日は遠そうだ。
 だが、ティアナの発言に対してリオが口を開く。

「まだお父さんは生きてるはずだから、養子・・・?にはならない」



 ミストから伸びる街道で、ジンが倒れた男性を揺すっていた。

「・・・だめだ、死んでる」

 血まみれの衣服を揺すっていたジンが呟いた。
 死体の元を離れたジンは、一度町に戻ることを提案する。

「俺は反対だ。このまま生存者を見過ごしたとなったら気に食わん」

「僕もだよ。救える人を救えないのは嫌だ」

「そうね、私も反対。少なくともまだ諦める時じゃないわ」

 オーガス、ミリー、エレナが反対する。だが、アッガスだけは賛成意見を述べた。

「俺は賛成。グルセリアの爺さんが言ってたろ?生存者は居ないに等しいって。さっさと「生存者は居ませんでした」って言ったほうがほかの奴らのためにもなる」

 昨日、リオを開放したユリアナ村の村人の一人であるグルセリアの言葉を持ち出す。
 それを聞いた三人はわずかな可能性でも賭けるべきだと主張する。

「――アッガス。悪いがもう少し周辺を捜索する。・・・一時間だ。その間に見つけられなかったら素直に町に帰るぞ。―――また魔物が襲ってきたらたまらんからな」

 ジンが撤退を進言した理由。それが魔物の存在だった。
 リオが魔人を倒してから、司令塔を失った魔物がよく街道に出現するようになったのだ。
 彼らほどの実力があれば、魔物程度であれば命を落とすなど、万が一という可能性すらもないが、生存者を探すために神経を張り詰めている以上、一%に満たない確率でも十分起こりえた。
 それを理解したうえでジンは判断を下したのだ。
 だがその後、一時間どころか三時間近く周囲を探索した彼らだったが、ついに生存者を見つけることはできなかった。
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