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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ミスト編

第二部・ジンの過去 4話

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「――やっと見つけたぞ、ミリー」

 ミリーがジンの元から逃げ出してから数時間後。既に日は暮れ、辺りを闇と小さな火の揺らめきが彩る世界の中、ジンは探していた人物を発見する。
 ジンに見つかった少女は、ばつが悪そうにしながらジンの方を向く。

「・・・来ないで」

 ジンを見た少女が彼を拒絶する。その姿はまるで、自分から殻に籠ろうとしているようだった。
 だがジンは、彼女に手を差し伸べる。

「大丈夫だ。何があったかは知らないが、時間が過ぎれば忘れる。――それまで俺が一緒にいてやるから」

 ジンはそう言いながら微笑みかける。
 そこに希望を感じたのか、少女の曇った翡翠色の瞳に、わずかに光が灯った。
 しかし、少女は首を振る。

「駄目。私といると、あなたを不幸にするから」

「それがどうした?俺は不幸なんざ気にしない。・・・なにより、お前と居たいしな」

 ジンが真面目な表情で、ミリーの不安を打ち消すように告げる。
 一瞬、息を飲むミリー。やがて観念したのか、目の前にあるジンの手を掴んだ。



 それから数日後。ジンは一人でギルドへと呼び出されていた。ミサトから大事な話があるのでギルドへ来てほしいと連絡があったからだった。
 現在ミサトは、皇国の大臣の一人と話し込んでいる最中だった。
 やがて、ギルドの一室から大臣が姿を現す。

「それでは、私はこれで失礼いたします。機関については、貴女の証言で再び威信を取り戻すでしょう」

 そう言い残し、大臣はギルドをあとにする。
 そんな大臣に頭を下げながら見送るミサト。彼が居なくなると、疲弊しきった表情でジンに声をかけた。

「はあ、貴族って本当に面倒くさいわ」

 本音と共に溜め息をつく。

「まあ、そう言うなよ。・・・で、話ってのはなんなんだ?」

「ああ、そうだったわね。――入って」

 ミサトは先ほどまで大臣と話していた部屋に入るようにジンを促す。
 ジンが部屋に足を踏み入れると、そこにはギルドを管理する人物であるギルドマスターの男性が既に着席していた。

「・・・来たか。ミサト君、疲れているところすまない」

「いいえ。これは私から説明した方がいいでしょうし」

 そうして、ミサトがジンを呼んだ理由を伝える。

「わざわざ呼んだのはほかでもないわ。・・・ミリーのことよ」

「ミリーのこと?」

「ええ。彼女が負った心の傷について、今後一緒に行動するであろうあなたには話しておく必要があるから」

 少女はそう前置きし、ポケットから記憶装置を取り出し、ギルドマスターの男性にしたとおりにジンに説明していく。

「おい、機関ってのは《俊閃の女王》マーダークイーンが暗殺技能を継承するために子供を集めたんじゃないのかよ!?」

 やがてミサトの説明が終わり、すべてを知ったジンが叫ぶ。

「表向きは、ね。裏の顔はあなたが今見聞きした通りよ。――もっとも、私だけはそのつもりだったんでしょうけど」

 機関。それは《俊閃の女王》が、自らの極めた対人技術を後世に伝えるために創立された、暗殺者養成機関だった。
 だが本当の顔は、幼い子供たちに復讐をさせただけの機関であった。
 その復讐の結果、教え子の一人の少女――ミリーは理由は分からないが心に傷を負った。

「じゃあ何か?あんたはそれを知ってて――」

「あなたにあの子を押し付けたわけじゃないわ。私ではあの子を支えることは出来ないの。自分自身のことで手一杯なのよ」

 ジンの言いたいことを先読みするようにミサトが言葉をかぶせる。だが、ジンはそう思っていなかった。

「違う。あんたは知ってて《俊閃の女王》に協力したのか?それとも・・・」

「あの時の私は知らなかったわ。私も聞いたのは、彼女が死ぬ前よ。・・・正確には、死ぬ覚悟を決めた時かしらね」

 そうか、と言いながらジンが思考を巡らせる。

「少し話が脱線したが、それとミリーの傷についてどう関係してくるんだ?」

「簡単よ。彼女の傷は二つあるわ。一つ目は虐待によるものよ。彼女は物心ついた時から、特に父親に疫病神扱いされてきたみたいだから」

 ミサトはそこで一旦言葉を切る。自身も昔、同じような扱いをされたことを思い出したのだろう。その表情には怒りと無念が混ざったような感情が現れていた。
 それから十秒ほどの時間を置き、彼女は再び口を開いた。

「二つ目は人を殺したこと。自分を疫病神扱いした人たちを殺したの。ちょうどそのときね、あの子が完全に感情を失ったのは」

 ミサトがそのあとの日々を懐かしむように話していく。
 何年もの時間をかけ、なんとか感情を取り戻した少女。だが、その感情は、再び奪われかけた。《俊閃の女王》の死によって。

「ちょうどいいから、ついでに話しておくわ。彼女の最期について」

 ミサトの言葉を簡潔に纏めれば「罪の償い」だろう。
 ミリーの姿をみた「彼」は自身のしたことを悔やみ、少女たちに寄り添おうとした。
 だが、すでに「彼」の心は廃人同然だった。それに加え、彼らには復讐により負担をかけていたという事実を知った。
 それを理解した「彼」はミサトに思い描いていた計画を話した。自らの死。そして時間をあけ、機関が調査される噂を流し、存在を抹消させる。
 そして教え子たちが生きていけるように、冒険者に引き取らせる――「彼」の計画は、ミサトが承諾した瞬間に始まったのだった。

「そして、彼女の死はあの子の傷を広げることになったわ。お陰で三年も彼女のフリをしたんだもの」

「稀代の暗殺者の人生は後継者の手で幕を閉じたってか」

 ジンが乾いた笑いを零す。不憫とも自業自得ともいえる人生に、なんと言うべきか分からなかったからである。

「で、ミリーについてだが」

「ええ、あの子には彼女や過去の話はしないで。それと、なるべく怒ったりしないであげて。私の経験だとそれらで過去のことを思い出すことが多いようだから」

「ああ、わかった」

 ジンが頷く。

「・・・これで話は終わりよ。このあとは何か食べに行きましょうか、ほかの三人も一緒に」

 そう言いながらミサトがジンの手を引き、部屋を後にする。
 ミサトに引かれるがまま、ジンも部屋を後にした。



 それから十分後。町の食堂に、二人の冒険者と三人の少年少女たちの姿があった。
 それぞれ思い思いの料理を頼み、胃の中へと入れていく。

「うまいか?」

 赤毛の冒険者・ジンが向かいに座る少年と少女に尋ねる。

「ああ、うまい。おっちゃんとだと不味い飯しか食えないからな」

「おい、まるで人が美味いもん食わしてないみたいじゃねえか」

 少年の言葉に、ジンの右隣に座る男性が反論する。

「へへ、冗談冗談」

「だと思ったぜ」

 そう言って、少年は料理を口に運ぶ。既に二人は冗談を言い合えるほどになったようだ。
 対する少女の方は――

「・・・」

 そんな二人を鬱陶し気に眺めていた。

「ひとまずは大丈夫そうね」

「ああ、数日前にあんなことがあったからな・・・」

 そんな少女を、ジンとその左隣に座る黒髪の少女が見つめる。彼らが合流する前、ジンが数日前にあった出来事を話していたのだ。

(ミリーの話を聞いた後だと、あの行動も納得か)

 ジンが内心で呟く。数日前、男性と少年を見ていた時の少女の態度。それがもしも、自分の辛い過去と重なる部分があったとしたら、ジンでも同じような言動をしていたと感じたからだ。

(これからミリーが頼れるのは俺だけになるのか。・・・しっかりしないとな)

 決意を固めるジン。彼らとの別れの日が訪れたのは、この日から三日後のことだった。
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