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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第0章ユリアナ村編

ユリアナ村編 3話・前編

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 ハヤトが村を発ってから数日が経過した。
 普段なら、部屋に差し込んでくる朝日で目を覚ますリオだったが、この日はいつもと異なる嫌な感覚で目が覚めた。
 布団の上で上半身を起こすリオ。

(・・・なんだか外がうるさい・・・?)

 ユリアナ村は、ほとんどの家庭が畜産によって生計を立てている村である。そのため、朝早くから家畜たちの世話で騒がしいことは、何も不思議ではない。
 だが、今リオが感じている喧騒はそれとはまったく異なるものであった。――なにより、部屋に差し込んでくる光が太陽のそれではなかった。

(何かが燃えてる?)

 それはほぼリオの直観に近かった。真偽を確かめるために玄関から外を覗くと――
 そこに広がっていたのは、天まで立ち上る赤い炎。そこから立ち上る煙と村人たちの悲鳴だった。



 リオは反射的に玄関から離れ、ミサトの姿を探す。
 しかし、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。その代わり――

「リオへ。これを読んだらすぐに逃げなさい。あなたがお父さんからもらった短剣と、台所に食べ物があります。それを持ってミストの叔母――お母さんの妹ティアナを探しなさい」

 そう書かれた書き置きを見つけた。

 そこからのリオの行動は早かった。
 ミサトの書き置き通り、台所にあるこの世界では一般的な保存食であるパン。それとハヤトから貰った短剣に偶然見つけたミサトの髪留め。
 それらを持ち、リオは外へと繰り出した。

「リオ!おまえ、無事だったんだな!」

 リオが家を出て街道を目指し逃げること数分。リオと同じように村の外へと向かっていたオレンジ色の髪の少年と出会う。
 その服は土や泥で汚れ、普段から衣服の汚れを気にする少年らしくない格好となっていた。

「ベラ君!よかった、無事で。・・・ベラ君も外に行くんだよね?」

 リオが期待を込めた眼差しで上目遣いにベラを見つめる。
 一瞬、ベラが顔を赤くしながら息を飲む。ベラの方が年上のため、どうしても身長の差からリオが上目遣い気味になってしまうのだが、その行動はまだあまり異性に関心のない年代であるベラでも思わず顔を赤らめてしまうほどだった。
 おそらく、紳士の方々が見れば一瞬でおちることだろう。

「っ・・・、ああ。リオもか?」

 ベラに尋ねられたリオが頷く。

「そっか。なら一緒に行こう」

 そういってベラがリオの手を引いて歩き出そうとした瞬間、近くの茂みから漆黒の闇にその体を覆われた魔物が姿を現した。

「グルウオオオォォォォ・・・・・・!!!」

 魔物はこの世のものとは思えない雄たけびを上げながら、リオ達をめがけて突進してくる。
 が、その魔物は突如飛来した刃により、塵のように四散する。
 刃が飛んできた方向にリオが目をやると、そこには1人の老人の姿があった。

「グルセリアさん!」

 ベラが声をあげる。普段リオ達の遊びを見守っていた老人・グルセリアであった。グルセリアは地面に落ちた自身の愛剣である長剣を手に持つと、リオ達のほうを向き、

「ほれ、急いでいくぞ。ささっとここから逃げるぞい」

 そう声をかけた。



 そのままグルセリアに連れられ、村の外を目指すリオ達。辺りは村が魔物に襲われたとは思えないほど静まり返っており、時折姿を現す小動物たちがここが平和な森であることを示していた。
 だが、そんな平和な空間は一瞬にして地獄絵図へと変化していく。

「・・・どう、して?」

 ひたすら森の中を歩いていたリオ達は、突如飛び込んできた光景に目を疑ってしまう。
 それもそのはずであった。今彼らの視界に映る場所は――ユリアナ村の中心部である広場だったからだ。
 ついさきほどまで歩いていた森とは異なり、魔物という名の狩人が村人という名の獲物を仕留めるために動き回る。何とか抵抗しようともがく村人は、もれなく複数の魔物によってその骨身を食されていた。

「見るな!・・・といっても、もう遅いかのう」

 グルセリアがリオ達の目を塞ごうと試みるが、時すでに遅し。凄惨な光景は余すことなく彼らの脳裏に焼き付いていたのである。
 あまりの光景に2人は膝から崩れ落ちてしまう。
 次の瞬間、魔物達はリオ達の恐怖心を察したのか、リオ達の方へと向き直る。

「・・・っ、リオ、ベラ!すぐにここから逃げい!」

 グルセリアが声を張り上げてリオ達の意識を彼らの体に引き戻す。と同時にグルセリアが長剣を振るい、魔物の注意を引くために突進する。

「リオ、逃げよう」

 そう言いながらベラがなんとか立ち上がる。それに続いてリオも立ち上がろうとした、その時。

「グルウガァァァアア―――!!」

「なっ・・・、ひ、やめ・・っ」

 ベラの背後から一体の魔物が彼に襲い掛かった。魔物は、ベラを痛めつけるかのように少しずつその小さな体を切り刻み、鋭い牙で骨ごと噛み砕いていく。痛みと恐怖に歪んだ少年の顔は、やがて動かなくなり、その目から光が消えていった。
 目の前で繰り広げられた光景に、リオは完全に腰を抜かしてしまい、ベラを惨殺した魔物に絶好の獲物と認定された。

「こ、こないで・・・くるなああ!」

 次は自分の番。間違いないという確信からくる恐怖心がリオに短剣を抜かせた。そして、無我夢中のまま無茶苦茶に振り回す。
 対する魔物は、軌道の読めない剣先を避けながらリオの一瞬の隙を伺い――駆け出した。

「うあああ!」

 リオが目を瞑りながら短剣を横なぎに振るった。果たしてその剣は――

「・・・・・・え?」

 何かを切り裂いた。その直後、リオの体に何かがのしかかる。
 ドサッという慣れない感触に恐る恐る目を開くと、彼の体を覆うように魔物が倒れていた。リオが魔物の頭部の方に視線を移すと、魔物の喉に刃物で切り裂かれた跡ができていた。
 そのまま魔物は塵になって消滅していく。

「たお、した・・?」

 消滅していく魔物を見守りながらリオが呟く。右手に持った短剣に視線を移すと、なんとなく、ぼんやりと輝いているような気がした。



「ウグルウォォォオオオッ!」

 リオが魔物に襲われていたちょうどその頃。村のはずれでは1人の女性が複数の魔物相手に戦っていた。
 見た目20歳くらいの彼女は、手にした短剣を振るいながら魔物を屠っていく。魔物を屠る度に舞う黒髪は彼女の動きと相まって、剣舞を舞う巫女のように神々しい。
 そんな彼女の背後では、生き残っている村の男衆が包丁やすきなどを手にし無防備な村人を守るために周囲を固めていた。

「また現れたぞ!」「ミサトさん、これ以上は持ちませんぜ!」

 男共から悲痛な叫びにも似た声があがる。彼らの背後から新たに魔物が姿を現したのだ。

「私がまとめて相手をします。貴方達は彼らを連れて早く!」

 短剣を振るい新たに3体の魔物を屠ったミサトが指示を出す。だが、彼女の意識は直後視界に映った存在に奪われてしまう。

「グルセリアさん・・・?」

 なぜか広場の方から魔物を蹴散らしながらやってくる人影。手にした長剣を手足のように振るいながら縦横無尽に魔物を屠っていく。既に何十年も前に剣を手放したはずの老人は、現役の頃と同じような鬼神のごとき勢いで魔物を蹴散らしながらこちらに迫ってきていた。

「ミサトや!うしろの輩はわしにまかせい」

 あっという間にミサトとの距離を詰め、そのまま通り過ぎていく老人・グルセリア。

「わかりました!グルセリアさん、お願いします」

「任されたぞい。――リオが広場の方におるはずじゃ。おそらくベラと共に彷徨っておるはずじゃから急いで向かえい」

 グルセリアはそれだけ言い残すと背後に現れた魔物達を一瞬の内に蹴散らす。

「ほれ、おぬしら。老人と女に仕事をさせるつもりか?さっさと奮い立たんか!!」

 そして村の男衆を一喝し、再び魔物を屠る。そんなグルセリアの雄姿に奮い立つ男衆。

(さすが元「聖騎士団」の部隊長ね、頼りになるわ)

 天を衝かんばかりに跳ね上がった士気と共にみるみるうちに数を減らしていく魔物達。
 あとは勝手に魔物の数が減っていくだろう。この場の優劣は決したも同然だった。

(そうしたら私はリオを探さないと)

 ミサトはその場を後にしリオを探しに広場へと戻っていった。
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