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7.一体どんな
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「いらっしゃいませ」
シーズン商会に入ってきたハイミャー達に秋はにこやかに挨拶をしたのじゃ。
「お久しぶりね、秋さん」
ハイミャーの方もにこやかなのじゃが、昨日リムに探らせて裏を知っている者からすれば、そのにこやかさを素直に受け止めることは出来ないのじゃよ。
「お久しぶりです、ハイミャーさん」
とはいえ、しっかりと腹芸も出来る秋はそんなことを表に出すことなく対応しているのじゃ。
とまあ、そんな2人の会話を従業員に紛れてワシは見ているのじゃが。
なんで会長であるはずのお前が対応してないのか?なんて疑問を投げかけられた気がするのじゃが、前にも言ったと思うのじゃが、ワシはすでに一線を退いておるからじゃよ。
今商会をメインで動かしているのは四季達じゃから、ハイミャーの対応を秋がするのが普通なのじゃよ。
なら、なぜお前が従業員としているのか?じゃと聞かれそうじゃが、それはやはり契約内容とかを聞いておきたいという思いがあるからじゃな。
昨日、リムが潜入して話を聞いてくれはしたが、その後にハイミャーの気が変わって契約内容を変えてくるかもしれないから、ちゃんとした契約内容を聞いておきたいのじゃよ。
というわけで従業員としてここにおるのじゃよ。
「そちらのお方がイビラチャさんの結婚相手ですか?」
イビラチャの結婚相手と言われ慣れているわけもないシャルフィムはビクッと反応したのじゃよ。
「そうだ。俺の嫁になるシャルフィムだ」
イビラチャは相変わらずの尊大な言い方でシャルフィムを紹介しているのじゃよ。
しかしじゃ。普段のイビラチャならこの商会にくれば女性陣に鼻の下を伸ばしておるのじゃが、今日は鼻の下を伸ばしてないのじゃよ。
これはここに来る前にハイミャーに「鼻の下を伸ばすな」とか言われたのじゃろうな。
結婚相手を連れてきたというのに商会の女性陣に鼻の下を伸ばしている、なんてことになれば確実に噂になるじゃろうな。
というか秋達が噂話として拡散するじゃろうな。
噂話とはいえ、外面を気にするハイミャーにとってはそれは許せないことなので、しっかりとイビラチャには釘を刺してきたのじゃろう。
しかし、イビラチャの態度から見るに、女性陣に鼻の下を伸ばしていないのはハイミャーに釘を刺されただけではなさそうじゃな。
これは………。
女性陣にシャルフィムを見せつけてドヤってるというよりも、漫画などでたまに出てくる勘違いイケメンみたいに彼女が出来たことを周りの女性達に見せつけて、お前達が逃がした魚はこれだけ大きいんだぞ、今からでも俺の彼女になれ、的な行動なのじゃろうな。
その行動の結果としては、その勘違いイケメンが周りの女性達からは一切相手にされないのと同じように、商会の女性陣は全く気にした素振りもなく普通に働いておるから全く意味のない行動なのじゃよ。
それに気づいていないイビラチャはまだ態度でアピールを続けておるのじゃ。
「それではこちらへどうぞ」
秋が応接室へと向かおうとしたのじゃが、
「秋さん」
「なんですか?」
「結婚式の段取りの話し合いは私1人でいいから、イビラチャ達は衣装の採寸を始めてもらえるかしら」
またおかしなことを言い出してきたのじゃよ。
イビラチャとシャルフィムの結婚式の段取りを決めるというのに、その主役の2人を採寸に行かせてハイミャー1人で段取りを決めるのは当然のことじゃがおかしなことじゃ。
つまり、シャルフィム、もしくは2人共に聞かれたくないことを話そうとしておるということなのじゃろうか。
もしそんな話をしようとしておるのなら聞き逃すわけにはいかないのじゃが、イビラチャの採寸のほうも気になるというか面倒なことが起こりそうなのでワシで対応しときたいのじゃよな。
さて、どっちに行くべきなのじゃろうか。
「わかりました。では採寸は」
「イビラチャさんの方はワシが対応するのじゃよ」
ハイミャーの話は後から聞けばよいので、イビラチャの対応をすることに決めたのじゃが、ワシがそう言うと秋や聞いていた従業員が一瞬驚きざわついた。
とはいえ、その驚きやざわつきも行動や声に出したわけではないので、ハイミャー達は全く気づいておらんかったがの。
「わかりました。イビラチャさんの方は夕に任せます」
すぐに気持ちを切り替えた秋の指示にワシは頷き返したのじゃ。
ちなみに、従業員として商会におる時はみんなはワシのことを夕と呼ぶように頼んでおるのじゃよ。
流石にここで「マスター」と呼ばれると確実にハイミャーにロックオンされるからの。
「シャルフィムさんの方はリトフィナにお願いしますね」
「わかりました」
秋から指名されたリトフィナはシャルフィムを連れて奥へと消えていったのでワシも働くとするかの。
「イビラチャさん。こちらへ」
「ふん」84
あきらかに機嫌が悪いイビラチャなのじゃよ。
理由はあれだけアピールしておったのに女性陣が誰一人として反応せんかったからじゃろうが、本当になぜそこまで自信があったのかを聞いてみたくもなるの。
しかし、機嫌が悪いながらもワシのあとを大人しくついてきておるのはハイミャーの前じゃからじゃろうな。
じゃからこそ、採寸のために個室に入った時に機嫌の悪さが爆発して当たり散らさないか心配じゃから、イビラチャの採寸の担当に立候補したのじゃよ。
「こちらです」
「ふん」
やはり機嫌の悪さを隠そうともせずにイビラチャは個室へ入ったのじゃよ。
「それじゃあ採寸を」
「チェンジだ」
「なんじゃと?」
この小僧、いきなりおかしなことを言いだしたのじゃよ。
「だからチェンジだと言ってるのだ」
「何をチェンジだと言うのじゃ?」
「採寸なら女性でも出来るだろうが。だから女性にチェンジだ」
本当に何を言い出しておるのじゃろうか。
「そういうサービスはしておらんから採寸を始めるのじゃよ」
「なっ!客の要望を叶えないというつもりか!」
「客の要望ではなくお主の欲望じゃろうが」
そんなもの叶えてやる必要がどこにあると言いたいのじゃよ。
「ほら、早く採寸を始めるのじゃよ」
メジャーを持ってイビラチャに近づくと、ぷるぷる震えておったイビラチャはワシを指さしてきたのじゃよ。
「お前!お客様は神様という言葉を知らないのか!?俺の要望を欲望とか言って叶えようとしないし!そもそも客をさん付けで呼ぶこと自体が店としてありえないだろうが!イビラチャ様と呼べ!イビラチャ様と!」
お客様は神様。
もちろんその言葉は知っておる。客商売をしておるのじゃからな。
しかし、ワシはこの言葉が好きではないのじゃよ。
売っている物が商品じゃろうとサービスじゃろうと客がいなければ商売が成り立たないのじゃが、じゃからといって客をそこまで崇めないといけないのか?という疑問があるのじゃよ。
もちろん一定の敬意と誠意と対応をしないといけないとは思っておるのじゃよ。
それすら無くした商売は最早商売とは言えぬからの。
なぜワシがこの言葉を好きではないのかと聞かれれば2つの理由をあげるのじゃよ。
1つは売り手側の企業・職人・生産者達もより良い商品を作るために努力をしているということじゃ。
それなのに初めから客の方が上という立場なのが間違っていると思うからじゃ。
じゃからシーズン商会では客には様付けはせずにさん付けで呼び、対等に近い関係性で信頼を育んでいきたいと思っておるのじゃよ。
そして2つ目の理由じゃが、それは目の前におるイビラチャみたいな人間がおるからじゃよ。
お客様は神様。
その考え方自体を否定するつもりはないのじゃよ。
さっきも言ったが、客が居なかったら商売は成り立たないのじゃよ。
しかし、じゃからといって客が何でもしてもいいわけではないのじゃよ。
店側にもルールがあり、出来ることと出来ないことがあるのじゃ。
それなのにイビラチャのようにお客様は神様じゃからと傲慢になり、何をしてもよいという考え方の客は最早客ではなくクレーマーじゃよ。
しかし、お客様は神様という言葉に守られておると思って無茶を言い、無理を押し付けようとしてくる客が一定数いるから嫌なのじゃよ。
「採寸はワシが行うので人の変更は出来ないのじゃよ。イビラチャさん」
わざと煽るように指定されたことを言ってやると、沸点の低いイビラチャはすぐに怒り、ワシに掴みかかってきたのじゃよ。
「何度も言わせるなよ!俺のことは様付けで呼べ!そしてさっさと女性に交代してこい!これでも聞かないと言うのなら、貴族への不敬罪としてその首切り落とすぞ!」
ふむ。全然怖くないの。
しかし、今までこういう脅しをしてきて上手いこといってきたのじゃろうな。
じゃからこそワシに対してもその脅しが通用すると思っておるのじゃろうが、今まで散々この商会にちょっかいをかけ、その度にやり返されているということを忘れておるのじゃろうか。
まさに、のど元過ぎれば熱さ忘れる、じゃな。
「はぁ」
ため息を吐いたワシをさらに睨んできたイビラチャを睨み返してやると、イビラチャはビクッとしたのじゃよ。
「黙れ小僧。交代はせぬし貴様のことも様付けで呼ぶことはせぬよ。それが気に食わぬのなら店から出ていけ」
「な、なんだと!」
「ほら、出ていくのじゃよ」
イビラチャの手をはたいて離させると、ワシはメジャーを置いて個室を出ていこうとしたのじゃが、
「ま、待て!」
「なんじゃ?この店の対応が気に食わなくて依頼を取り消すイビラチャさん」
煽る言葉を言いながら振り返ると、顔面蒼白のイビラチャが慌てておるのじゃよ。
それもそうじゃろうな。
なにせこの店に結婚式の段取りを依頼すると決めたのはハイミャーなのじゃ。
それなのにイビラチャが自分の要望が通らないからと騒いで依頼がキャンセルとなれば、後で確実にハイミャーに怒られるじゃろう。
それはイビラチャにとっては避けないといけないことじゃ。
だからこそ焦っているのじゃよ。
というか、ここまでイビラチャが顔面蒼白になるとは、ハイミャーは一体どんなお仕置きをしておるのか。
気になったので本当に依頼を取り消してやってやろうか、と考えてしまったが、そうするとシャルフィムを助け出しにくくなりそうじゃから止めておこうかの。
「だ、誰も依頼を取り消すとは言ってないぞ」
「採寸を拒否された以上は結婚式の依頼を受けることは出来ないのじゃよ。そしたら依頼はキャンセルになるのじゃよ」
「わかった。採寸するのはお前でいい」
「はぁ。しょうがないから採寸してやるからありがたく思うのじゃよ」
上から目線で返してやると、イビラチャは歯を食いしばりながら怒りを我慢しているのじゃよ。
その姿を見て少しスッキリしたので、ここからはしっかり仕事モードに入って採寸を始めるとするかの。
ワシは置いたメジャーを手にしてイビラチャの元へと戻ったのじゃよ。
シーズン商会に入ってきたハイミャー達に秋はにこやかに挨拶をしたのじゃ。
「お久しぶりね、秋さん」
ハイミャーの方もにこやかなのじゃが、昨日リムに探らせて裏を知っている者からすれば、そのにこやかさを素直に受け止めることは出来ないのじゃよ。
「お久しぶりです、ハイミャーさん」
とはいえ、しっかりと腹芸も出来る秋はそんなことを表に出すことなく対応しているのじゃ。
とまあ、そんな2人の会話を従業員に紛れてワシは見ているのじゃが。
なんで会長であるはずのお前が対応してないのか?なんて疑問を投げかけられた気がするのじゃが、前にも言ったと思うのじゃが、ワシはすでに一線を退いておるからじゃよ。
今商会をメインで動かしているのは四季達じゃから、ハイミャーの対応を秋がするのが普通なのじゃよ。
なら、なぜお前が従業員としているのか?じゃと聞かれそうじゃが、それはやはり契約内容とかを聞いておきたいという思いがあるからじゃな。
昨日、リムが潜入して話を聞いてくれはしたが、その後にハイミャーの気が変わって契約内容を変えてくるかもしれないから、ちゃんとした契約内容を聞いておきたいのじゃよ。
というわけで従業員としてここにおるのじゃよ。
「そちらのお方がイビラチャさんの結婚相手ですか?」
イビラチャの結婚相手と言われ慣れているわけもないシャルフィムはビクッと反応したのじゃよ。
「そうだ。俺の嫁になるシャルフィムだ」
イビラチャは相変わらずの尊大な言い方でシャルフィムを紹介しているのじゃよ。
しかしじゃ。普段のイビラチャならこの商会にくれば女性陣に鼻の下を伸ばしておるのじゃが、今日は鼻の下を伸ばしてないのじゃよ。
これはここに来る前にハイミャーに「鼻の下を伸ばすな」とか言われたのじゃろうな。
結婚相手を連れてきたというのに商会の女性陣に鼻の下を伸ばしている、なんてことになれば確実に噂になるじゃろうな。
というか秋達が噂話として拡散するじゃろうな。
噂話とはいえ、外面を気にするハイミャーにとってはそれは許せないことなので、しっかりとイビラチャには釘を刺してきたのじゃろう。
しかし、イビラチャの態度から見るに、女性陣に鼻の下を伸ばしていないのはハイミャーに釘を刺されただけではなさそうじゃな。
これは………。
女性陣にシャルフィムを見せつけてドヤってるというよりも、漫画などでたまに出てくる勘違いイケメンみたいに彼女が出来たことを周りの女性達に見せつけて、お前達が逃がした魚はこれだけ大きいんだぞ、今からでも俺の彼女になれ、的な行動なのじゃろうな。
その行動の結果としては、その勘違いイケメンが周りの女性達からは一切相手にされないのと同じように、商会の女性陣は全く気にした素振りもなく普通に働いておるから全く意味のない行動なのじゃよ。
それに気づいていないイビラチャはまだ態度でアピールを続けておるのじゃ。
「それではこちらへどうぞ」
秋が応接室へと向かおうとしたのじゃが、
「秋さん」
「なんですか?」
「結婚式の段取りの話し合いは私1人でいいから、イビラチャ達は衣装の採寸を始めてもらえるかしら」
またおかしなことを言い出してきたのじゃよ。
イビラチャとシャルフィムの結婚式の段取りを決めるというのに、その主役の2人を採寸に行かせてハイミャー1人で段取りを決めるのは当然のことじゃがおかしなことじゃ。
つまり、シャルフィム、もしくは2人共に聞かれたくないことを話そうとしておるということなのじゃろうか。
もしそんな話をしようとしておるのなら聞き逃すわけにはいかないのじゃが、イビラチャの採寸のほうも気になるというか面倒なことが起こりそうなのでワシで対応しときたいのじゃよな。
さて、どっちに行くべきなのじゃろうか。
「わかりました。では採寸は」
「イビラチャさんの方はワシが対応するのじゃよ」
ハイミャーの話は後から聞けばよいので、イビラチャの対応をすることに決めたのじゃが、ワシがそう言うと秋や聞いていた従業員が一瞬驚きざわついた。
とはいえ、その驚きやざわつきも行動や声に出したわけではないので、ハイミャー達は全く気づいておらんかったがの。
「わかりました。イビラチャさんの方は夕に任せます」
すぐに気持ちを切り替えた秋の指示にワシは頷き返したのじゃ。
ちなみに、従業員として商会におる時はみんなはワシのことを夕と呼ぶように頼んでおるのじゃよ。
流石にここで「マスター」と呼ばれると確実にハイミャーにロックオンされるからの。
「シャルフィムさんの方はリトフィナにお願いしますね」
「わかりました」
秋から指名されたリトフィナはシャルフィムを連れて奥へと消えていったのでワシも働くとするかの。
「イビラチャさん。こちらへ」
「ふん」84
あきらかに機嫌が悪いイビラチャなのじゃよ。
理由はあれだけアピールしておったのに女性陣が誰一人として反応せんかったからじゃろうが、本当になぜそこまで自信があったのかを聞いてみたくもなるの。
しかし、機嫌が悪いながらもワシのあとを大人しくついてきておるのはハイミャーの前じゃからじゃろうな。
じゃからこそ、採寸のために個室に入った時に機嫌の悪さが爆発して当たり散らさないか心配じゃから、イビラチャの採寸の担当に立候補したのじゃよ。
「こちらです」
「ふん」
やはり機嫌の悪さを隠そうともせずにイビラチャは個室へ入ったのじゃよ。
「それじゃあ採寸を」
「チェンジだ」
「なんじゃと?」
この小僧、いきなりおかしなことを言いだしたのじゃよ。
「だからチェンジだと言ってるのだ」
「何をチェンジだと言うのじゃ?」
「採寸なら女性でも出来るだろうが。だから女性にチェンジだ」
本当に何を言い出しておるのじゃろうか。
「そういうサービスはしておらんから採寸を始めるのじゃよ」
「なっ!客の要望を叶えないというつもりか!」
「客の要望ではなくお主の欲望じゃろうが」
そんなもの叶えてやる必要がどこにあると言いたいのじゃよ。
「ほら、早く採寸を始めるのじゃよ」
メジャーを持ってイビラチャに近づくと、ぷるぷる震えておったイビラチャはワシを指さしてきたのじゃよ。
「お前!お客様は神様という言葉を知らないのか!?俺の要望を欲望とか言って叶えようとしないし!そもそも客をさん付けで呼ぶこと自体が店としてありえないだろうが!イビラチャ様と呼べ!イビラチャ様と!」
お客様は神様。
もちろんその言葉は知っておる。客商売をしておるのじゃからな。
しかし、ワシはこの言葉が好きではないのじゃよ。
売っている物が商品じゃろうとサービスじゃろうと客がいなければ商売が成り立たないのじゃが、じゃからといって客をそこまで崇めないといけないのか?という疑問があるのじゃよ。
もちろん一定の敬意と誠意と対応をしないといけないとは思っておるのじゃよ。
それすら無くした商売は最早商売とは言えぬからの。
なぜワシがこの言葉を好きではないのかと聞かれれば2つの理由をあげるのじゃよ。
1つは売り手側の企業・職人・生産者達もより良い商品を作るために努力をしているということじゃ。
それなのに初めから客の方が上という立場なのが間違っていると思うからじゃ。
じゃからシーズン商会では客には様付けはせずにさん付けで呼び、対等に近い関係性で信頼を育んでいきたいと思っておるのじゃよ。
そして2つ目の理由じゃが、それは目の前におるイビラチャみたいな人間がおるからじゃよ。
お客様は神様。
その考え方自体を否定するつもりはないのじゃよ。
さっきも言ったが、客が居なかったら商売は成り立たないのじゃよ。
しかし、じゃからといって客が何でもしてもいいわけではないのじゃよ。
店側にもルールがあり、出来ることと出来ないことがあるのじゃ。
それなのにイビラチャのようにお客様は神様じゃからと傲慢になり、何をしてもよいという考え方の客は最早客ではなくクレーマーじゃよ。
しかし、お客様は神様という言葉に守られておると思って無茶を言い、無理を押し付けようとしてくる客が一定数いるから嫌なのじゃよ。
「採寸はワシが行うので人の変更は出来ないのじゃよ。イビラチャさん」
わざと煽るように指定されたことを言ってやると、沸点の低いイビラチャはすぐに怒り、ワシに掴みかかってきたのじゃよ。
「何度も言わせるなよ!俺のことは様付けで呼べ!そしてさっさと女性に交代してこい!これでも聞かないと言うのなら、貴族への不敬罪としてその首切り落とすぞ!」
ふむ。全然怖くないの。
しかし、今までこういう脅しをしてきて上手いこといってきたのじゃろうな。
じゃからこそワシに対してもその脅しが通用すると思っておるのじゃろうが、今まで散々この商会にちょっかいをかけ、その度にやり返されているということを忘れておるのじゃろうか。
まさに、のど元過ぎれば熱さ忘れる、じゃな。
「はぁ」
ため息を吐いたワシをさらに睨んできたイビラチャを睨み返してやると、イビラチャはビクッとしたのじゃよ。
「黙れ小僧。交代はせぬし貴様のことも様付けで呼ぶことはせぬよ。それが気に食わぬのなら店から出ていけ」
「な、なんだと!」
「ほら、出ていくのじゃよ」
イビラチャの手をはたいて離させると、ワシはメジャーを置いて個室を出ていこうとしたのじゃが、
「ま、待て!」
「なんじゃ?この店の対応が気に食わなくて依頼を取り消すイビラチャさん」
煽る言葉を言いながら振り返ると、顔面蒼白のイビラチャが慌てておるのじゃよ。
それもそうじゃろうな。
なにせこの店に結婚式の段取りを依頼すると決めたのはハイミャーなのじゃ。
それなのにイビラチャが自分の要望が通らないからと騒いで依頼がキャンセルとなれば、後で確実にハイミャーに怒られるじゃろう。
それはイビラチャにとっては避けないといけないことじゃ。
だからこそ焦っているのじゃよ。
というか、ここまでイビラチャが顔面蒼白になるとは、ハイミャーは一体どんなお仕置きをしておるのか。
気になったので本当に依頼を取り消してやってやろうか、と考えてしまったが、そうするとシャルフィムを助け出しにくくなりそうじゃから止めておこうかの。
「だ、誰も依頼を取り消すとは言ってないぞ」
「採寸を拒否された以上は結婚式の依頼を受けることは出来ないのじゃよ。そしたら依頼はキャンセルになるのじゃよ」
「わかった。採寸するのはお前でいい」
「はぁ。しょうがないから採寸してやるからありがたく思うのじゃよ」
上から目線で返してやると、イビラチャは歯を食いしばりながら怒りを我慢しているのじゃよ。
その姿を見て少しスッキリしたので、ここからはしっかり仕事モードに入って採寸を始めるとするかの。
ワシは置いたメジャーを手にしてイビラチャの元へと戻ったのじゃよ。
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