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第58章
新しき世界へ
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「本当に出奔なさるので?」
前を歩く、さくに従いながら左月は恐る恐る話し掛けた。
「そのつもりです。」
さくは迷いなく即答する。左月にはさくがどういう人間か良く分かっていた。翻意させるのは難しそうだった。それならば選択肢は一つだ。
「私も一緒にお連れ下さい。」
「・・・・・。なりません。そなたは元親様の傍に付いて、あの方をお守りするのです。」
「もう、あの方をお守りする事は出来ません。」
「???。どういう事ですか?」
「元親様は全てに於いて、私を上回っておいでです。もうお守りする事は出来ません。逆に守られ、足を引っ張ってしまいます。」
「・・・・・・。」
「姫様もご覧になられたでしょう。あの槍捌き。槍先が全く見えないので、本当に怖いですよ。姫様はお見えになられましたか?」
振り向いたさくの顔には笑みが。
「本当の事を言うと・・・・・・、さくも怖かったです。」
左月もにっこり笑い、言った。
「松井玄播を討ち取った所を、はるに見せてやりとお御座いましたな。」
それを聞いたさくは遠い目をして言った。
「今の元親様をはるに見せてやりたかった。きっと草葉の陰から見ているでしょう。」
2人の間にしんみりした空気が流れた。すると廊下横の襖が勢いよく開き、女が飛び出て来る!
「姫様!草葉の陰からとは如何なる事で御座いますか。はるはこの通り元気です。何故、死んだ事にしようとなさるのですか!」
これにはさくも左月も大笑いした。
「そうでした、そうでした。はるは助かったのでしたね。まさか助かるとは思っていなかったものですから。つい。」
さくの毒舌に、はるはプリプリと頬を膨らませる。はるは奇跡的に一命を取り止めたのだ。
「それで、どういう事なのです?出奔するとは。」
地獄耳のはるは、しっかりと2人の話を盗み聞きしていた様だ。
「さくは国を捨て、諸国を巡る旅に出ます。海の外の国々にも参るつもりです。」
それを聞いたはるは、目を輝かせた。
「それは良い考えに御座います。是非、はるにもお供させて下さい。」
「そなたは残りなさい。」
「いいえ。是非ともお連れ下さい。はるはもう武家は怖いから嫌です。戦とは関係の無い生活が送りとう御座います。」
「・・・・・・。」
「それに・・・・左月も姫様と共に出奔するのでしょう・・・・・。」
はるの左月に送る艶めかしい視線。さくは全てを察した。そういう事か。
「・・・・仕方ありませんね。では、3人で参りましょうか。」
さくは明るく言った。
「そうしましょう、そうしましょう。」
「地の果てまでお供仕ります。」
はるも左月もどこか楽しげである。
「では、事は急ぎます。直ぐに荷物を纏めて出発です。」
これにははるも左月も驚いた。
「今すぐですか?」
「国安様に一言も話さずに行かれるので?」
さくの答えは徹底したものだった。
「話せば父上はお許しにならないでしょう。このまま発ちます。さくが居なくても、元親様が宮脇の家の事は粗略にはなさらない筈。役目は果たしました。」
「しかし・・・・・。」
「左月よ。さくはお家の事よりも、元親様の方が大事なのです。そなた達なら分かるでしょう。」
左月ははると顔を見合わせた。
「・・・・・・。元親様にも何も言わないで去るのですか?」
「会えば去り難くなるでしょう。女々しいのは御免です。」
さくはキッパリと言い切ると、手を叩いて急がせる。
「さあ、早う、早う。」
はると左月はさくの事を案じつつも、急かされるままに荷物を纏める為、駆けだした。それを見送りながら、さくは長く過ごした長曽我部の本城、岡豊城を眺めまわす。ここには色々な思い出がある。ここで元親と共に過ごせたらどんなに良いだろうか。そんな思いを振り払うように、頭を振って、頬を叩く。いかんいかん。女々しいのは嫌いと口では言いつつ、充分、感傷的になっているではないか。さくは元親の居室に向かった。そっと覗き込むと、元親が書を読み耽っている。大方、いかがわしい書であろう。仕方のないお方だ。そうは思いつつも、さくは微笑みを浮かべて見守った。引き籠りが春画を収集する事には万人が眉を顰めるだろうが、器量人が春画を好む事に関しては、皆、寛容であろう。英雄、色を好むと云う事になるのだから。もう元親を批判めいた目で見る事は無い。きっと元親は上方から迎えるおなごとの間に沢山の子を成すであろう。
「弥三郎様。・・・・お元気で。」
さくは小さく呟くと、元親の姿を目に焼き付け、その場を後にした。さくはこの時、元親の子を腹に宿していた事には気付いていなかった。
前を歩く、さくに従いながら左月は恐る恐る話し掛けた。
「そのつもりです。」
さくは迷いなく即答する。左月にはさくがどういう人間か良く分かっていた。翻意させるのは難しそうだった。それならば選択肢は一つだ。
「私も一緒にお連れ下さい。」
「・・・・・。なりません。そなたは元親様の傍に付いて、あの方をお守りするのです。」
「もう、あの方をお守りする事は出来ません。」
「???。どういう事ですか?」
「元親様は全てに於いて、私を上回っておいでです。もうお守りする事は出来ません。逆に守られ、足を引っ張ってしまいます。」
「・・・・・・。」
「姫様もご覧になられたでしょう。あの槍捌き。槍先が全く見えないので、本当に怖いですよ。姫様はお見えになられましたか?」
振り向いたさくの顔には笑みが。
「本当の事を言うと・・・・・・、さくも怖かったです。」
左月もにっこり笑い、言った。
「松井玄播を討ち取った所を、はるに見せてやりとお御座いましたな。」
それを聞いたさくは遠い目をして言った。
「今の元親様をはるに見せてやりたかった。きっと草葉の陰から見ているでしょう。」
2人の間にしんみりした空気が流れた。すると廊下横の襖が勢いよく開き、女が飛び出て来る!
「姫様!草葉の陰からとは如何なる事で御座いますか。はるはこの通り元気です。何故、死んだ事にしようとなさるのですか!」
これにはさくも左月も大笑いした。
「そうでした、そうでした。はるは助かったのでしたね。まさか助かるとは思っていなかったものですから。つい。」
さくの毒舌に、はるはプリプリと頬を膨らませる。はるは奇跡的に一命を取り止めたのだ。
「それで、どういう事なのです?出奔するとは。」
地獄耳のはるは、しっかりと2人の話を盗み聞きしていた様だ。
「さくは国を捨て、諸国を巡る旅に出ます。海の外の国々にも参るつもりです。」
それを聞いたはるは、目を輝かせた。
「それは良い考えに御座います。是非、はるにもお供させて下さい。」
「そなたは残りなさい。」
「いいえ。是非ともお連れ下さい。はるはもう武家は怖いから嫌です。戦とは関係の無い生活が送りとう御座います。」
「・・・・・・。」
「それに・・・・左月も姫様と共に出奔するのでしょう・・・・・。」
はるの左月に送る艶めかしい視線。さくは全てを察した。そういう事か。
「・・・・仕方ありませんね。では、3人で参りましょうか。」
さくは明るく言った。
「そうしましょう、そうしましょう。」
「地の果てまでお供仕ります。」
はるも左月もどこか楽しげである。
「では、事は急ぎます。直ぐに荷物を纏めて出発です。」
これにははるも左月も驚いた。
「今すぐですか?」
「国安様に一言も話さずに行かれるので?」
さくの答えは徹底したものだった。
「話せば父上はお許しにならないでしょう。このまま発ちます。さくが居なくても、元親様が宮脇の家の事は粗略にはなさらない筈。役目は果たしました。」
「しかし・・・・・。」
「左月よ。さくはお家の事よりも、元親様の方が大事なのです。そなた達なら分かるでしょう。」
左月ははると顔を見合わせた。
「・・・・・・。元親様にも何も言わないで去るのですか?」
「会えば去り難くなるでしょう。女々しいのは御免です。」
さくはキッパリと言い切ると、手を叩いて急がせる。
「さあ、早う、早う。」
はると左月はさくの事を案じつつも、急かされるままに荷物を纏める為、駆けだした。それを見送りながら、さくは長く過ごした長曽我部の本城、岡豊城を眺めまわす。ここには色々な思い出がある。ここで元親と共に過ごせたらどんなに良いだろうか。そんな思いを振り払うように、頭を振って、頬を叩く。いかんいかん。女々しいのは嫌いと口では言いつつ、充分、感傷的になっているではないか。さくは元親の居室に向かった。そっと覗き込むと、元親が書を読み耽っている。大方、いかがわしい書であろう。仕方のないお方だ。そうは思いつつも、さくは微笑みを浮かべて見守った。引き籠りが春画を収集する事には万人が眉を顰めるだろうが、器量人が春画を好む事に関しては、皆、寛容であろう。英雄、色を好むと云う事になるのだから。もう元親を批判めいた目で見る事は無い。きっと元親は上方から迎えるおなごとの間に沢山の子を成すであろう。
「弥三郎様。・・・・お元気で。」
さくは小さく呟くと、元親の姿を目に焼き付け、その場を後にした。さくはこの時、元親の子を腹に宿していた事には気付いていなかった。
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