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第55章
新しき名
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「大殿。お待ち申しておりました。」
さくと弥三郎は潮江城に主だった諸将を連れてやって来た大殿を迎えた。
「こ、これは・・・・。本当にこの城を・・・・、お主たちだけで獲ったのか?」
皆、潮江城をキョロキョロと見渡し、信じられぬと云った表情である。
「はい。全て弥三郎様の武略の賜物かと。」
「どういう事なのだ、さくよ。」
父の国安が目をパチクリさせながらさくに詰め寄った。
「父上、弥三郎様がやって下さいましたぞ。」
さくは笑顔で応じた。
「兎にも角にもここでは何です。取り敢えず皆さま、中へお入りください。」
潮江城。大広間。
さくは本山方がこの城を捨て、撤退した事。それを弥三郎が見抜いて、無血で城を奪取した事を諸将居並ぶ中で説明した。皆の疑問は何故、この城が空城だと分かったのかと云う事だった。さくはその事を弥三郎の尻を突いて説明させた。これは大きな得点となる為、弥三郎本人に説明させた方が良いと判断したからである。弥三郎は淡々と見抜いた4つの理由を述べた。皆は大いに驚き、弥三郎の勇気と智謀を称賛した。
「皆の者、弥三郎の働きを見るに、儂の後継者として不都合ないのは明らかであろう。再度、皆に諮りたい。後継者は弥三郎で是が非か?」
「是。」
「是。」
「是。」
満場一致の賛成。今度は居並ぶ諸将が弥三郎に心服しての賛成である。もはや誰も後継者としての適性を疑うものは居なかった。大殿は弥三郎に向き直って言った。
「弥三郎。儂の後継者のそなたに新しい名を与える。本日からこの名を名乗れ。」
大殿は予め用意していたと思われる折り畳んだ半紙を懐から取り出し、皆に開いて見せた。その紙には
「元親」
とあった。
「そなたの新たな名は「もとちか」じゃ。」
「元親?」
弥三郎は未だピンと来ない様子である。
「そうじゃ。今日からそなたは長曽我部元親じゃ。」
「・・・・・・・。」
黙りこくっている元親を見る大殿こと、長曽我部国親の表情は優しい。さくは元親に耳打ちする。
「弥三郎・・・・いや、元親様。何か仰って下さい。」
「何かとは?」
「今後の抱負と云うか、目標を。」
さくに促され、元親は諸将居並ぶ前で、立ち上がって宣言した。
「まず、仇敵、本山を屈服させる。」
国親はにこやかに頷いた。
「次いで四国を統一。」
おー。と、諸将が騒めき立った。
「そして、四国全土の兵を率いて、上方に撃って出る。」
さくは微笑んだ。言うだろうなと思っていたからだ。以前なら何という大ボラを拭くのかと思っていたが、元親ならやってくれそうな気がした。
「天下を平定し、堺の富と貿易を一手に握り、日の本を平定するつもりだ。」
一斉にその場が静まり返る。さくも顔を引き攣らせた。天下。つまり、畿内を制圧した後は日の本、つまりこの国全土を屈服させるとは・・・。何と大それた事を。だが、元親はこれだけには止まらない。
「日の本を平定した後は、海の外に撃って出る。」
狂っている。元親は狂人だと諸将に思われてしまう。さくは慌てて元親を制止しようとする。
「元親様。志が大きいのは良い事だと思いますが、日の本だとか海の外だとか言われましても、皆、付いていけませぬ。」
すると、元親は皆を見渡しこう言った。
「皆、聞くがよい。私の事を狂人だと思うものも居るだろうが、そうではない。人間と云うものは10の志を抱いて、やっと1か2かの志を達成できるもの。初めから本山風情の事だけしか考えられぬ者に、大事を成し遂げられる訳がなかろう。日の本の事、海の外の事まで十分考えて、ようやく一国得られるかどうかだ。志の小さき人間は私の下には要らん。小さく纏まるな。志は大きく持つのだ。」
これを聞いた者、元親の器の大きさに大いに感動した。大殿もさくも。
「元親、よう言うた。儂は生涯、本山氏への復讐だけを考えてきた。器が小さかったわ。これからは日の本や海の外の事まで考えるそなたの時代じゃ。しっかり頼むぞ。」
弥三郎はにっこりと笑った。さくはホッと胸を撫で下ろす。そういえば、今言った事は以前に聞いた事がある。その時から志をぶれずに貫き通した弥三郎。これは元親になってからも変わらないだろうなと思った。元親は自分の力で家中の皆を心服させたのだ。もう一人で大丈夫だろう。
さくと弥三郎は潮江城に主だった諸将を連れてやって来た大殿を迎えた。
「こ、これは・・・・。本当にこの城を・・・・、お主たちだけで獲ったのか?」
皆、潮江城をキョロキョロと見渡し、信じられぬと云った表情である。
「はい。全て弥三郎様の武略の賜物かと。」
「どういう事なのだ、さくよ。」
父の国安が目をパチクリさせながらさくに詰め寄った。
「父上、弥三郎様がやって下さいましたぞ。」
さくは笑顔で応じた。
「兎にも角にもここでは何です。取り敢えず皆さま、中へお入りください。」
潮江城。大広間。
さくは本山方がこの城を捨て、撤退した事。それを弥三郎が見抜いて、無血で城を奪取した事を諸将居並ぶ中で説明した。皆の疑問は何故、この城が空城だと分かったのかと云う事だった。さくはその事を弥三郎の尻を突いて説明させた。これは大きな得点となる為、弥三郎本人に説明させた方が良いと判断したからである。弥三郎は淡々と見抜いた4つの理由を述べた。皆は大いに驚き、弥三郎の勇気と智謀を称賛した。
「皆の者、弥三郎の働きを見るに、儂の後継者として不都合ないのは明らかであろう。再度、皆に諮りたい。後継者は弥三郎で是が非か?」
「是。」
「是。」
「是。」
満場一致の賛成。今度は居並ぶ諸将が弥三郎に心服しての賛成である。もはや誰も後継者としての適性を疑うものは居なかった。大殿は弥三郎に向き直って言った。
「弥三郎。儂の後継者のそなたに新しい名を与える。本日からこの名を名乗れ。」
大殿は予め用意していたと思われる折り畳んだ半紙を懐から取り出し、皆に開いて見せた。その紙には
「元親」
とあった。
「そなたの新たな名は「もとちか」じゃ。」
「元親?」
弥三郎は未だピンと来ない様子である。
「そうじゃ。今日からそなたは長曽我部元親じゃ。」
「・・・・・・・。」
黙りこくっている元親を見る大殿こと、長曽我部国親の表情は優しい。さくは元親に耳打ちする。
「弥三郎・・・・いや、元親様。何か仰って下さい。」
「何かとは?」
「今後の抱負と云うか、目標を。」
さくに促され、元親は諸将居並ぶ前で、立ち上がって宣言した。
「まず、仇敵、本山を屈服させる。」
国親はにこやかに頷いた。
「次いで四国を統一。」
おー。と、諸将が騒めき立った。
「そして、四国全土の兵を率いて、上方に撃って出る。」
さくは微笑んだ。言うだろうなと思っていたからだ。以前なら何という大ボラを拭くのかと思っていたが、元親ならやってくれそうな気がした。
「天下を平定し、堺の富と貿易を一手に握り、日の本を平定するつもりだ。」
一斉にその場が静まり返る。さくも顔を引き攣らせた。天下。つまり、畿内を制圧した後は日の本、つまりこの国全土を屈服させるとは・・・。何と大それた事を。だが、元親はこれだけには止まらない。
「日の本を平定した後は、海の外に撃って出る。」
狂っている。元親は狂人だと諸将に思われてしまう。さくは慌てて元親を制止しようとする。
「元親様。志が大きいのは良い事だと思いますが、日の本だとか海の外だとか言われましても、皆、付いていけませぬ。」
すると、元親は皆を見渡しこう言った。
「皆、聞くがよい。私の事を狂人だと思うものも居るだろうが、そうではない。人間と云うものは10の志を抱いて、やっと1か2かの志を達成できるもの。初めから本山風情の事だけしか考えられぬ者に、大事を成し遂げられる訳がなかろう。日の本の事、海の外の事まで十分考えて、ようやく一国得られるかどうかだ。志の小さき人間は私の下には要らん。小さく纏まるな。志は大きく持つのだ。」
これを聞いた者、元親の器の大きさに大いに感動した。大殿もさくも。
「元親、よう言うた。儂は生涯、本山氏への復讐だけを考えてきた。器が小さかったわ。これからは日の本や海の外の事まで考えるそなたの時代じゃ。しっかり頼むぞ。」
弥三郎はにっこりと笑った。さくはホッと胸を撫で下ろす。そういえば、今言った事は以前に聞いた事がある。その時から志をぶれずに貫き通した弥三郎。これは元親になってからも変わらないだろうなと思った。元親は自分の力で家中の皆を心服させたのだ。もう一人で大丈夫だろう。
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