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第52章
偵察
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「さく、さく。起きよ。」
何者かが体を揺すっている。さくは朦朧とする意識の中、酔った体をだるそうに起こした。目の前に居たのは弥三郎である。
「あっ、これは弥三郎様。どうされました。」
「出かけるぞ。供をせよ。」
「・・・・・・どちらへ?」
弥三郎はさくの問いに答えず、傍に居た左月を起こす。さくが周りを見渡すと、皆、酔い潰れて前後不覚の状態である。もしもあの後、本山方が反攻に出ていたら、全員討たれていたであろうと、さくは気付き背筋が寒くなった。最も向こうにはその様な余力は無かったであろうが。弥三郎に起こされた左月もさくと同じ考えを抱いたようで、お互い顔を見合わせた。
「付いて参れ。」
弥三郎はかなり酒に強い性質の様で、しっかりした足取りで広間を出て行く。さくと左月はフラフラしながら後を追った。
弥三郎の馬をさくと左月の馬が追う。疾走する馬の背に揺られ、さくも左月も酔いが醒めてきた。頭がはっきりするにつれ、弥三郎が何処に向かっているのかが分かった。この方角にあるのは・・・・潮江城。本山方の最前線の城である。一体全体、何をしに行くつもりなのか?3人の騎馬は既に潮江城の領域内に入っていた。戦に敗れた本山方はこの城の防備を固めて、こちらの侵攻を警戒している筈である。にも関わらず、次期当主がわずか2人の護衛しか連れず、敵の領域内に侵入する等、危険すぎる。
「弥三郎様。引き返しましょう。我らだけでは危のう御座います。」
さくは前方の弥三郎に呼び掛けた。弥三郎は馬を止めて下馬して言った。
「様子を見に行くだけだ。危なくなったら直ぐに逃げる。」
「何故、潮江城が気になるのですか?」
さくの問いに弥三郎は驚くべきことを言い出した。
「私は潮江城を獲るつもりだ。潮江を獲って名誉を回復する。」
さくも左月も咽喉から心の臓が飛び出るかと思うぐらいに驚いた。潮江城を落とすと簡単に言うが、そう一筋縄ではいかないだろう。本山方としてもあれだけの大敗を喫した後である。最大級の警戒と備えをしている筈だ。奇襲や夜討ちは難しい。誘き出そうとしても城から出てこないだろう。落とすには力攻めしかないのではないか?さくにはそう思えたが、弥三郎には何か策があるのだろうか?
「弥三郎様。あの城は容易くは落ちませぬぞ。」
「玄播の件は気にする事はありません。誰も非難するものは居ないではないですか。皆、弥三郎様の事を一目置いているのです。ここで潮江城攻めに失敗でもしたら、此度の功績が吹っ飛んでしまいます。潮江攻めは誰ぞに任せるのが宜しいかと。」
左月、さくが翻意を促すが、弥三郎は首を縦に振らなかった。
「いや、何としても潮江を落とす。」
「・・・・・・・。何か策をお持ちなのですか?」
弥三郎の武略に一目置いているさくは、弥三郎がどういう考えなのか探りを入れる。ところが弥三郎の答えは、
「今のところは、策と言えるものはまるで無いな。」
悪びれる事無く言ってのけた。
「・・・・・。さくは呆れました。なんの策も無く、何故、そんな大言を吐くのです。」
「確信があるからだ。」
「確信?」
「私ならあの城を落とせる。」
「・・・・・。しかし、策も無い。城攻めの経験も無い。それで、何の確信ですか。」
「ハッハッハ。」
弥三郎は笑って言った。
「さくよ。どの様にあの城を落とすかはこれから考える。その為の偵察よ。私には城攻めの経験は確かに無いが、それ故に固定観念に囚われない柔軟な発想が出来る。さくは私の武略を疑うのか?」
「・・・・・。いいえ。その様な事は。さく程、弥三郎様の力を信じている者は他におりませぬ。」
さくは弥三郎の武略を信じていたが、不安でもあった。本当に弥三郎の武略でこの堅城を落とせるのだろうか。
「それならば、心配せずに付いて参れ。」
弥三郎は馬を引いて、潮江城に向かう。さくと左月も同じように付き従った。
「あっ、弥三郎様。あれを!」
左月が潮江城の方向を指差した。敵の一団が城から出てきたのだ。
「拙い。隠れるのです。」
左月が小さく叫んだ。3人は急いで馬を引きながら近くの物陰に身を潜めた。
「見つかったのでしょうか?」
左月は不安げにさくの顔を見やる。
「いいえ。見つかったのなら、一直線にこちらへやってきます。ですが・・・・。」
城から出てきた兵士の一団はこちらと逆方向、本山方の本領へと向かっていく。見つかった訳ではなさそうだ。さく・左月は冷や汗を拭いながら一息付く。
「危ない所でした。さあ、早う引き返すのです。」
「・・・・・・。」
何者かが体を揺すっている。さくは朦朧とする意識の中、酔った体をだるそうに起こした。目の前に居たのは弥三郎である。
「あっ、これは弥三郎様。どうされました。」
「出かけるぞ。供をせよ。」
「・・・・・・どちらへ?」
弥三郎はさくの問いに答えず、傍に居た左月を起こす。さくが周りを見渡すと、皆、酔い潰れて前後不覚の状態である。もしもあの後、本山方が反攻に出ていたら、全員討たれていたであろうと、さくは気付き背筋が寒くなった。最も向こうにはその様な余力は無かったであろうが。弥三郎に起こされた左月もさくと同じ考えを抱いたようで、お互い顔を見合わせた。
「付いて参れ。」
弥三郎はかなり酒に強い性質の様で、しっかりした足取りで広間を出て行く。さくと左月はフラフラしながら後を追った。
弥三郎の馬をさくと左月の馬が追う。疾走する馬の背に揺られ、さくも左月も酔いが醒めてきた。頭がはっきりするにつれ、弥三郎が何処に向かっているのかが分かった。この方角にあるのは・・・・潮江城。本山方の最前線の城である。一体全体、何をしに行くつもりなのか?3人の騎馬は既に潮江城の領域内に入っていた。戦に敗れた本山方はこの城の防備を固めて、こちらの侵攻を警戒している筈である。にも関わらず、次期当主がわずか2人の護衛しか連れず、敵の領域内に侵入する等、危険すぎる。
「弥三郎様。引き返しましょう。我らだけでは危のう御座います。」
さくは前方の弥三郎に呼び掛けた。弥三郎は馬を止めて下馬して言った。
「様子を見に行くだけだ。危なくなったら直ぐに逃げる。」
「何故、潮江城が気になるのですか?」
さくの問いに弥三郎は驚くべきことを言い出した。
「私は潮江城を獲るつもりだ。潮江を獲って名誉を回復する。」
さくも左月も咽喉から心の臓が飛び出るかと思うぐらいに驚いた。潮江城を落とすと簡単に言うが、そう一筋縄ではいかないだろう。本山方としてもあれだけの大敗を喫した後である。最大級の警戒と備えをしている筈だ。奇襲や夜討ちは難しい。誘き出そうとしても城から出てこないだろう。落とすには力攻めしかないのではないか?さくにはそう思えたが、弥三郎には何か策があるのだろうか?
「弥三郎様。あの城は容易くは落ちませぬぞ。」
「玄播の件は気にする事はありません。誰も非難するものは居ないではないですか。皆、弥三郎様の事を一目置いているのです。ここで潮江城攻めに失敗でもしたら、此度の功績が吹っ飛んでしまいます。潮江攻めは誰ぞに任せるのが宜しいかと。」
左月、さくが翻意を促すが、弥三郎は首を縦に振らなかった。
「いや、何としても潮江を落とす。」
「・・・・・・・。何か策をお持ちなのですか?」
弥三郎の武略に一目置いているさくは、弥三郎がどういう考えなのか探りを入れる。ところが弥三郎の答えは、
「今のところは、策と言えるものはまるで無いな。」
悪びれる事無く言ってのけた。
「・・・・・。さくは呆れました。なんの策も無く、何故、そんな大言を吐くのです。」
「確信があるからだ。」
「確信?」
「私ならあの城を落とせる。」
「・・・・・。しかし、策も無い。城攻めの経験も無い。それで、何の確信ですか。」
「ハッハッハ。」
弥三郎は笑って言った。
「さくよ。どの様にあの城を落とすかはこれから考える。その為の偵察よ。私には城攻めの経験は確かに無いが、それ故に固定観念に囚われない柔軟な発想が出来る。さくは私の武略を疑うのか?」
「・・・・・。いいえ。その様な事は。さく程、弥三郎様の力を信じている者は他におりませぬ。」
さくは弥三郎の武略を信じていたが、不安でもあった。本当に弥三郎の武略でこの堅城を落とせるのだろうか。
「それならば、心配せずに付いて参れ。」
弥三郎は馬を引いて、潮江城に向かう。さくと左月も同じように付き従った。
「あっ、弥三郎様。あれを!」
左月が潮江城の方向を指差した。敵の一団が城から出てきたのだ。
「拙い。隠れるのです。」
左月が小さく叫んだ。3人は急いで馬を引きながら近くの物陰に身を潜めた。
「見つかったのでしょうか?」
左月は不安げにさくの顔を見やる。
「いいえ。見つかったのなら、一直線にこちらへやってきます。ですが・・・・。」
城から出てきた兵士の一団はこちらと逆方向、本山方の本領へと向かっていく。見つかった訳ではなさそうだ。さく・左月は冷や汗を拭いながら一息付く。
「危ない所でした。さあ、早う引き返すのです。」
「・・・・・・。」
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