戦国ニート~さくは弥三郎の天下一統の志を信じるか~

軽部雄二

文字の大きさ
上 下
52 / 59
第52章

偵察

しおりを挟む
「さく、さく。起きよ。」
 何者かが体を揺すっている。さくは朦朧とする意識の中、酔った体をだるそうに起こした。目の前に居たのは弥三郎である。
「あっ、これは弥三郎様。どうされました。」
「出かけるぞ。供をせよ。」
「・・・・・・どちらへ?」
 弥三郎はさくの問いに答えず、傍に居た左月を起こす。さくが周りを見渡すと、皆、酔い潰れて前後不覚の状態である。もしもあの後、本山方が反攻に出ていたら、全員討たれていたであろうと、さくは気付き背筋が寒くなった。最も向こうにはその様な余力は無かったであろうが。弥三郎に起こされた左月もさくと同じ考えを抱いたようで、お互い顔を見合わせた。
「付いて参れ。」
 弥三郎はかなり酒に強い性質の様で、しっかりした足取りで広間を出て行く。さくと左月はフラフラしながら後を追った。

 弥三郎の馬をさくと左月の馬が追う。疾走する馬の背に揺られ、さくも左月も酔いが醒めてきた。頭がはっきりするにつれ、弥三郎が何処に向かっているのかが分かった。この方角にあるのは・・・・潮江城。本山方の最前線の城である。一体全体、何をしに行くつもりなのか?3人の騎馬は既に潮江城の領域内に入っていた。戦に敗れた本山方はこの城の防備を固めて、こちらの侵攻を警戒している筈である。にも関わらず、次期当主がわずか2人の護衛しか連れず、敵の領域内に侵入する等、危険すぎる。
「弥三郎様。引き返しましょう。我らだけでは危のう御座います。」
 さくは前方の弥三郎に呼び掛けた。弥三郎は馬を止めて下馬して言った。
「様子を見に行くだけだ。危なくなったら直ぐに逃げる。」
「何故、潮江城が気になるのですか?」
 さくの問いに弥三郎は驚くべきことを言い出した。
「私は潮江城を獲るつもりだ。潮江を獲って名誉を回復する。」
 さくも左月も咽喉から心の臓が飛び出るかと思うぐらいに驚いた。潮江城を落とすと簡単に言うが、そう一筋縄ではいかないだろう。本山方としてもあれだけの大敗を喫した後である。最大級の警戒と備えをしている筈だ。奇襲や夜討ちは難しい。誘き出そうとしても城から出てこないだろう。落とすには力攻めしかないのではないか?さくにはそう思えたが、弥三郎には何か策があるのだろうか?
「弥三郎様。あの城は容易くは落ちませぬぞ。」
「玄播の件は気にする事はありません。誰も非難するものは居ないではないですか。皆、弥三郎様の事を一目置いているのです。ここで潮江城攻めに失敗でもしたら、此度の功績が吹っ飛んでしまいます。潮江攻めは誰ぞに任せるのが宜しいかと。」
 左月、さくが翻意を促すが、弥三郎は首を縦に振らなかった。
「いや、何としても潮江を落とす。」
「・・・・・・・。何か策をお持ちなのですか?」
 弥三郎の武略に一目置いているさくは、弥三郎がどういう考えなのか探りを入れる。ところが弥三郎の答えは、
「今のところは、策と言えるものはまるで無いな。」
 悪びれる事無く言ってのけた。
「・・・・・。さくは呆れました。なんの策も無く、何故、そんな大言を吐くのです。」
「確信があるからだ。」
「確信?」
「私ならあの城を落とせる。」
「・・・・・。しかし、策も無い。城攻めの経験も無い。それで、何の確信ですか。」
「ハッハッハ。」
 弥三郎は笑って言った。
「さくよ。どの様にあの城を落とすかはこれから考える。その為の偵察よ。私には城攻めの経験は確かに無いが、それ故に固定観念に囚われない柔軟な発想が出来る。さくは私の武略を疑うのか?」
「・・・・・。いいえ。その様な事は。さく程、弥三郎様の力を信じている者は他におりませぬ。」
 さくは弥三郎の武略を信じていたが、不安でもあった。本当に弥三郎の武略でこの堅城を落とせるのだろうか。
「それならば、心配せずに付いて参れ。」
 弥三郎は馬を引いて、潮江城に向かう。さくと左月も同じように付き従った。
「あっ、弥三郎様。あれを!」
 左月が潮江城の方向を指差した。敵の一団が城から出てきたのだ。
「拙い。隠れるのです。」
 左月が小さく叫んだ。3人は急いで馬を引きながら近くの物陰に身を潜めた。
「見つかったのでしょうか?」
 左月は不安げにさくの顔を見やる。
「いいえ。見つかったのなら、一直線にこちらへやってきます。ですが・・・・。」
 城から出てきた兵士の一団はこちらと逆方向、本山方の本領へと向かっていく。見つかった訳ではなさそうだ。さく・左月は冷や汗を拭いながら一息付く。
「危ない所でした。さあ、早う引き返すのです。」
「・・・・・・。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...