戦国ニート~さくは弥三郎の天下一統の志を信じるか~

軽部雄二

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第51章

帰還

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 弥三郎・さく・左月は退却する本山勢を散々に蹴散らし、大打撃を与えると、残兵を率いて大殿のいる本陣へと帰還した。皆、今回の戦の大勝利の立役者である弥三郎を誉めそやした。大殿は我が事のように喜び、満面の笑みで弥三郎を迎えた。
「弥三郎。此度の働き、見事であったぞ。」
「お褒め頂き、恐縮に御座います。」
 弥三郎は浮かぬ顔である。
「そなたが、あの、松井玄播を討ち取ったと皆が話しているが誠なのか?」
「・・・・・・・。」
 弥三郎に代わって、さくが答える。
「松井玄播の首、此処に。弥三郎様が討ち果たしまして御座います。」
 さくが首桶を掲げると、諸将から感嘆の声が上がった。
「さく、誠か?誠に弥三郎が玄播めの首を取ったのか?」
「はい、さくがしかとこの目で見届けまして御座います。」
「信じられぬ。あの、松井玄播の首を。弥三郎が・・・・・。」
「それは見事なお働きで御座いました。」
「見事じゃ!ようやった。弥三郎。」
 大殿は膝を何度も叩いて、夢では無い事を確認している様だった。だが、空気の読めない弥三郎が水を差す。
「その事に付いて、父上にお詫びしなければなりません。」
 さくは小さく舌打ちした。弥三郎は馬鹿正直に松井玄播を不意打ちした事を話すつもりらしかった。味方に弥三郎のやり口を中傷するものはいない。現場を見ていた敵方の兵士たちは壊滅している。死人に口なしなのだ。黙っていれば大殿の耳に入る事はないのに・・・・・。尻拭いするこちらの身になれよ。さくは小さく息を吐いた。
「お詫び?何の詫びじゃ?」
 大殿は弥三郎の言葉に些かの不安を覚えた様子だ。
「実は、恥ずかしい事に私は戦場の習いを知らず、一騎打ちの名乗りをせぬままに、不意を衝いて松井某を討ち取ってしまった次第、秦の始皇帝の末裔でもある我が家の家名を汚してしまいました。申し訳ありません。」
 弥三郎は肩を落として頭を垂れた。それを見たさくは責任を被ろうと大殿に釈明をする。
「お待ち下さい。これには・・・・・・。」
 さくの釈明は大殿の笑い声で遮られた。呆気に取られるさくを横目に、大殿は笑い転げる。そして言った。
「ハッハッハッ。名乗りもせずに不意を衝いたのか。それは、玄播の奴も泡食っただろうな。ハッハッハッ。」
「お怒りにならないのですか?」
 弥三郎は大殿の意外な反応に驚いた表情を見せた。
「そんな事、全く気にする事は無い。油断する方が悪いのだ。確かに我が家は始皇帝の末裔ではあるが、そんなのは乱世にあっては、何の意味も為さぬ。我が家などは唯の田舎大名だ。家名など鼻糞よ。」
「・・・・・・・。」
「生き残れば良いのじゃ。どんな手を使っても。正しいやり口でも負けてしまっては元も子もない。汚いやり口でも勝てば正義じゃ。今後、一騎打ちを挑まれたら、応じるふりをしておいて数人掛かりで襲い掛かって首を取ってしまえ。」
「・・・・・。それで、宜しいので・・・。」
「構わん構わん。のう、さく。」
「・・・・・その通りで御座います。」
 不意を衝かれたさくはそう答えるより他なかった。
「なんなら、てつはうで撃ち殺してしまえば良い。」
 なんと、大殿はさくが考えていた事と、全く同じ事を言い出した。
「それは余りに酷すぎるのでは・・・・。」
 大殿の下衆な考えに引く弥三郎を見て、さくは玄播に脇差てつはうを使わなくて良かったと心から思った。
「まあ、よいよい。今日は飲もうではないか。皆の者、祝杯じゃ。」
 大殿の一言に皆、歓声で応じた。一瞬の内にどんちゃん騒ぎの宴会である。宿老諸将は弥三郎の杯に酒を注ぎ、上へ下への大騒ぎである。弥三郎は殊勝にも嫌な顔一つせずに継がれた酒を飲み干した。以前ならば皆と盃を傾ける等とは考えられなかった。さくも考え深げに盃を飲み干した。さくの晒した醜態についても噂になっていない。あの時周りにいた敵兵たちも体よく殲滅させたからだろう。醜態を知ってる者どもを皆殺しに出来た。弥三郎も順調に成長しているし、万時上手くいっている。安心感からさくは深酒をし、いつの間にか酔いつぶれてしまった・・・・・。
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