戦国ニート~さくは弥三郎の天下一統の志を信じるか~

軽部雄二

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第45章

絶体絶命

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 薙刀が敵兵の首元を薙いだ。噴き出る鮮血を浴びながら、さくは叫んだ。
「怯むでない。突き崩すのです。」
 さくを中心とした軍勢は一丸となり、敵勢の中に斬り込んだ。特にさくの働きは目覚ましく、立ち塞がる者は皆、斬られた。
「女武者が来た!鬼武者じゃ!」
 数で勝る本山勢もその勢いに押され、皆、次々と退却する。その期を逃さず追撃を仕掛けたさくの軍勢は敵の陣地の目前にまで迫ったのだが・・・・・・。そこまでであった。兵の数で勝る本山勢は次々と兵力を投入。さくの周りを固めていた兵たちは、次々と討ち取られ、塵尻になった。気付くとさくの周りには誰も居らず、周りは全て敵だらけという状況に陥った。真ん中にさく。周囲は全て囲まれている。この状況に陥ってもさくは全く臆する事無く、薙刀を振り回し、敵が近づくのを許さない。血塗れの女武者の勇猛さをまざまざと見せつけられた本山の兵士たちは遠巻きに包囲して、さくに投降を呼びかけた。
「おい女。諦めて降参しろ。降参すれば命は取らぬ。」
「・・・・・・・。断る。死んでも本山ごときに降るつもりは無い。」
 さくは投降の呼びかけを突っぱねた。とはいえこの状況はどうしようもない。幾らさくと云えども、周りを何重にも包囲されている状況ではもはや手も足も出なかった。先程まではさくに恐れ、逃げまどっていた男達は余裕を持って舐め回すような視線でさくを見る。
「諦めろ。お前が幾ら腕が立つと言っても、こうなれば何も出来はしねえ。おれらもお前を殺したくはない。仲良くしようじゃねえか。」
 そう言った兵士が鎧と小袖を脱ぎ、褌一枚になった。さくはその意味を悟り、表情を引き攣らせた。この者たちは皆で、さくの事を嬲り者にしようとしているのだ。
「大人しくしていれば、優しくしてやる。逆らったら痛い目見るぜ。」
 そう言うと男は自分の褌を引っぺがした。男の天を衝いた矛が露わになる。皆がヤンヤヤンヤと囃し立てる中、さくは躊躇せず、間合いを詰めると、全裸の男の首を薙刀で一閃した。男の首が宙を舞う。囃し立てた男達の声が一瞬にして止んだ。さくは大音声に叫んだ。
「私の名は宮脇さく。宮脇国安の娘ぞ。おなごが乱取りされるのは戦場の常なれど、私をそう簡単に弄れると思うでない。貴様ら如きにおなごの処女をそう簡単に奪われるものか。」
 そう簡単に嬲り者にはならない。乱取りしたければ死ぬ覚悟で来い。と、さくの徹底抗戦するという心情を知らしめることで、敵を牽制するつもりであったのだが・・・・・・。
「このおなご、宮脇の娘なのか。」
「お姫様じゃねえか。」
「しかも、この年で処女だとよ。」
 さくの意図に反して、男達は欲情を昂らせた。お姫様の処女を何としても奪ってやりたいと皆で矛をおっ立てたのである。
「処女は俺のモンだ。」
 背後から飛び掛かって来る男の気配を感じ取り、さくは瞬時に振り向くと首を薙いだ。喉を切られ悲鳴を発する事も無く、崩れ落ちる男。普通ならば警戒して飛び掛かって来るのを躊躇しそうなものだが、命の危険よりも性欲の昂ぶりが上回る男達は、さくを凌辱せんと次々に飛び掛かって来る。
「卑怯者、おなご一人に皆で掛かって来るとは、恥を知らぬか!」
 さくは一対一の戦いに持ち込みたいのだが、男達はその挑発には乗って来ない。3人、4人同時に飛び掛かって来る。さくは小回りの利かない薙刀を捨てると、刀を抜き、流れるような太刀捌きで男達を斬り伏せる。バタバタと斬り捨てられる仲間を見て男達は攻撃の手を止めた。これはいかん。只者ではないと悟り、どうするかヒソヒソと密談を始めた。さくは周囲に気を配りながら息を整える。体が重い。それもその筈、今日の戦でさくは一人で何十人も斬っていた。残念だがここまでだ。敵の兵士に輪姦される様な恥辱を受けるぐらいなら、潔く自害しよう。
「さらばです。父上、弥三郎様。」
 さくは小さく呟くと、刀で自らの首を切り落とそうとしたのだが・・・・・・。その時、火縄が燃える匂いがした。てつはうか。さくが後ろを向こうとするのと同時に、パーンと空気が裂かれる音がした。瞬間、右腕に鋭い痛みが走り、さくは刀を取り落とす。玉が背後からさくの右腕を貫いたのだ。
「それ、今だ。飛び掛かれ。」
 男達6,7人が一斉に飛び掛かる。
「あっ!や、止めるのです。卑怯者。」
 さくはあっという間に男達に組み伏せられてしまった。手も足も抑え込まれ、身動き一つできない。
「汚らわしい。触るでない。この下郎。」
 喚くさくを何十人の男達が淫靡な目で眺めていた。恐れていた事態になってしまった。こんな事ならもっと早くに自害しておけばよかったと思っても後の祭りだ。もはやどうにもならない。さくは目を瞑って覚悟を決めた。
「好きにするがよい。」
 それを聞いた男達は先を競ってさくの着ていた鎧や小袖を毟り取る。さくは大勢の敵兵の中で全裸を晒す事になった。
「うひょ~~。堪んねえ。綺麗な体をしておるではないか。」
 そう言った男がさくの乳房にしゃぶり付いた。大勢の男達の手がさくの体を這い回る。さくは目を瞑って耐えた。いつも一人で戦に敗れ、男達に囚われ、廻されて処女を奪われる自分を想像して火処を擦ってはいたが、いざそれが現実になると最悪な気分であった。男達皆に精を注ぎ込まれ、誰の種かさえ分からぬ子を孕まされるなどという事は宮脇の娘として恥辱であり、父の国安に顔向けが出来なかった。もう死にたかったが、この状況ではそれもままならない。男達の気が済むまでさくは廻され続けるのだ。
「痛い!」
 さくは悲鳴を上げた。男達の指がまだ、準備の出来ていない火処に侵入したからだ。さくが目を開けると、一人の男が無遠慮に火処を指で抉っていた。
「痛いか?少し我慢していろ。ここを擦れば気持ち良くなる。」
 そう言うと男は肉芽を擦り始めた。
「あっ!駄目。そこは!」
 さくの哀願を聞き流した男は、指を鋭く動かしながら言った。
「姫様は処女でいらっしゃるにも関わらず、ここを擦られると気持ち良くなるのを何故か知っておられる。何故なのかのう。」
 さくが何も答えずにいると、別の男がさくの火処を指で開いて覗き込む。
「みな、見てみろ。肉芽がこんなに肥大化しておる。姫様はしょっちゅう自分で火処を慰めておいでだ。」
 さくを取り囲んでいる群衆からドッと笑い声が漏れた。皆が身動きを封じられたさくの火処を指で開いて覗き込む。
「無礼者!その様な事をする訳がないでしょう!」
 さくは必死になって否定した。それは図星であったが、認める訳には断じていかない。
「惚けるなよ。おなごの火処を見れば、一目瞭然だ。なあ、皆。」
「おおよ。こんなにも肉芽のでかい処女は見た事が無いわ!」
 またもやさくの周りで嘲笑が起きた。
「痴れ者め。そなたの汚らしい口に刀を突っ込んで黙らせてやるから覚悟せよ。」
 さくは当たり散らすが、男達はヘラヘラと笑いながら受け流す。1対1ではさくには勝てないが、大人数ならば押さえ付けて辱める事が出来る。美しいさくの全裸姿を見て、その場にいる男達は加虐感に支配され、徹底的に凌辱してやりたくなった。
「へえ~~。口に刀を突き刺されたら敵わんな。なあ。」
 周りに呼び掛けると、男が口を開いた。
「それならば、やられる前にやるしかないだろう。」
 男がさくに止めを刺すような事を言った。
「そうじゃ。早う止めを刺せ。今のうちに止めを刺さなければ後悔する事になるぞ。」
 さくは叫びながら、これでようやく死ねる。殺される事で辱めから逃れられると思った・・・・・のだが、一人の男が小袖と褌を脱ぎ捨てて全裸になったのを見て、悲鳴を上げた。
「な、何をしているのです!」
 男の矛は天に向かって起立している。さくはそれから目を離せない。
「決まっているだろう。口の減らないお姫様の火処にこいつをぶち込んで黙らせてやるのさ。」
 ああ。さくは顔を引き攣らせた。何という事だ。何百人という下卑た男達の監視下で処女を散らされるとは・・・・・・。さくは目に涙を溜めながら訴えた。
「一思いに殺しなさい。おなごを大勢で辱めて恥ずかしくないのですか。本山方には漢はおらぬのか。」
 だが、本山の雑兵たちにはその様な言葉は響かない。彼らからすれば、戦に乱取りは付き物。この様な時でしかさくの様な上玉と交わる事は出来ないのだ。誰しもが役得に預かりたくて当然と云えた。これが戦国である。
「はいはい、お姫様。言いたい事は分かりましたよ。普通に廻されるぐらいなら、一思いに殺せという事ですね。そうはいきませんよ。俺達は勝気なお姫様がぐちゃぐちゃにされる所が見たいんです。お姫様が軽蔑している俺達に嵌められて逝き捲る所がね。」
 一斉に笑い声が起こる。
「だ、誰が犯されて逝くものか。嫌悪感しか感じぬわ。」
 さくは気丈に振舞いながらも恐れていた。自分が犯されて逝く事にである。男達の腹の下ではしたなく声を上げでもしたら・・・・・。敵方にも味方にも宮脇の姫は犯されて逝く女だと噂されてしまう・・・・・。それが一番の恐怖だった。
「俺達はそう言うおなごを逝かせるのが得意でな。今まで廻した女たちは最後には皆、逝くんだ。お姫様もきっとそうなりますよ。」
「・・・・・・・。」
 さくは恐怖で声が出なかった。兎の様に縮こまるさくの両足を男達が無理やり開かせると、全裸の男がさくの足元に跪き、火処に唾をペッと吐き掛けた。そして矛を宛がう。ああっ。遂にその時が来てしまった。緊張で体を固くするさく。男は矛をゆっくりと火処に埋めていった。その瞬間、激痛が走った。
「い、痛い。止めて、止めて。」
 さくが苦痛に呻くが、そんなことはお構いなしとばかり男は強引に矛を埋めていく。
「ど、どんな感じだ?」
 さくに挿入している男の肩を叩いて、男達が火処の感想を尋ねる。
「きちい・・・・・・。」
「きちい、とは何だ?」
「お姫様の火処がきつくて・・・・・。矛が入らん。」
 男が挿入を諦めて、火処から矛を抜く。激痛から解放されてさくは安堵した。だが、それも一瞬だ。
「それなら、俺にやらせろ。」
 次の男がさくに挑みかかる。又、激痛。だが入らない。又抜く。次の男、激痛。又抜く。5人繰り返して、誰の矛もきつくて入らない。
「おい。入らないぞ。」
「焦るな。もっと濡らすんだ。前戯に時間を掛ければ入る。」
 3番目に挿入しようとして入らなかった男が、さくの口に吸い付いて言った。
「まずは、お姫様を逝かせてやるか。」
 そう言うと肉芽を擦り上げた。さくの頭の中に稲妻が走った。
「止めなさい。止めて、止めて!」
 その様子を見て皆が囃し立てた。
「お姫様。どうしたんですか。そんな大声を上げて。」
「おい、見ろよ。火処がヒクヒクしてやがる。」
「気持ち良いんですか、お姫様。逝っても良いんですよ。我慢しないで本気汁をたっぷり出して下さい。そうすれば痛くないですよ。」
 男達が口々に卑猥な事を言ってさくを辱める。この時代は言葉攻めは普通の事。敢えて女が恥ずかしがる事を言いながら、前戯で濡れさせる。百戦錬磨の男達の策にさくはまんまと嵌った。言葉責めと火処の中まで皆に見られる視姦。それと巧みな前戯が、さくの生来の被虐性に火を点けた。元々、いくさ場での乱取りで犯される事を想像して自慰に耽っていたさくが堕ちるのは当然の成り行きだった。
「あっ、あっ、あっ。・・・待って下さい。お願いだから止めて下さい。」
 先程までの毅然とした態度は何処へやら。さくは男達に哀願した。
「お願いです。もう止めて下さい・・・。」
「止めて欲しいだと。もっとして下さいの間違いではないのか。この手を見てみろ。」
 肉芽を擦っていた男が、さくと周りの男達にその指を示した。周りからワッと歓声が起こる。その指はさくが感じている証である本気汁で滑っていた。指と指の間に糸が引いている。さくの陥落が近い事の証。いや、もう堕ちていた。
「さあ、お姫様。逝く所を皆に見せて下さいよ。」
 男は火処を激しく掻き回す。
「あっ、駄目。止めて。皆に見られて逝くなんて嫌っ。」
「馬鹿野郎。いつまでお高く止まってやがる。火処はこんなにビショビショじゃねえか。本当に嫌だったらこんなに濡れねえだろ。」
「そうだそうだ。お姫様がいくさ場にまでわざわざ出てきたのは俺達に犯されたかったからだろう。」
「これから何百本の矛を突っ込まれるのに、恥ずかしがってどうする。」
「良い所のお姫様がいくさ場で廻されて、誰の子か分からない種を孕まされるんだ。ざまあねえな。しっかり育てるんだぞ。」
 周りの男達は楽しくて堪らないという態で、口々にさくを囃し立てる。
「ああああ・・・・・。誰か助けて・・・・。」
 さくはか弱い乙女の様にざめざめと泣いたが、それも周りの男達の加虐心を煽り立てただけであった。火処を掻き回している指が、肉芽を激しく嬲る。さくの脳内を稲妻が貫く。逝く所を周りで男達が囃し立てながら見ているという状況に、背筋に震えが走った。その瞬間、目の前が真っ白になった。ビュッビュッとさくの火処から液体が吹いた。
「おいおい、お姫様が・・・・・し、潮を吹いたぜ。」
 さくの火処を弄っていた男が驚いたように言うと、周りの者たちはヤンヤヤンヤの歓声を上げた。押さえ付けられていたさくは、がっくりと頭を後ろの地面に付けた。遂に皆の前で絶頂を迎えさせられた事で放心状態に陥ったさく。我慢していた緊張の糸が切れ、膀胱が緩んだ。ジョロジョロと小便が火処から流れ出る。おー。と皆が歓声を上げたが、虚ろな目のさくにはそれは届かなかった。無気力・無反応で完全に堕ちたさくに男が覆い被さった。さくの口を吸いながら、矛を火処に宛てがった。
「ヘッヘッヘ。それじゃあ、お姫様の処女を頂きますか。」
 男が挿入しようとしたその時だ。何者かが男を殴り付け、突き飛ばす。
「痛てっ。何をするんだ。」
「黙れ。」
 2人の男がさくの処女を巡って、争い始めた。さくはそれを無感情に見ていた。乱入して来た男にはどこか見覚えがあった。弥三郎・・・・・・ではない。何者かは分からないが、助けてくれたことにさくはホッとした。乱入して来た男は強かった。飛び掛かって来る者どもを殴りつけ、蹴散らす。皆、敵わぬと見ると、静かになった。男はゆっくりとさくに近づくと、悠然と裸体を見下ろした。この男からは欲情の匂いは漂っては来ない。凌辱するのが目的ではなさそうだ。誰かは分からないが、この場から救い出してくれるのだと、さくは思った。これこそ御仏の化身の様に思えてならなかった。仏法はあるのだ。
「仏様。お助け下さり、ありがとう御座います。」
 さくは小さい声で男に告げた。男は無表情で目の前に顔を近づける。
「助ける?儂が?そんな訳なかろう。儂の事を見忘れたのか。」
 男が物凄い形相で顔を歪めた。その醜悪な表情を見て誰だか分かった。
「あっ!お主は。」
 正気に戻ったさくは驚きの声を上げた。その男は城下で無差別に若いおなごを凌辱し、殺害していた本山の間者の一人であった。間者は全員、誅殺した筈であったが、一人遺体を確認出来なかった者がいた。さくが矛を切断した男である。逃げ出したものの、あの傷では助かるまいと思っていた男が生きていたのである。
「ようやく思い出したか。宮脇の娘。」
「生きておったのか・・・・・・。何故、助けたのです。」
「助ける?何を馬鹿な。お前には俺と同じ苦しみを味合わせてやる。」
 男は脇差を抜くと、さくの火処に宛てがった。
「あっ!何をするつもりなのです!」
 悲鳴を上げるさく。
「俺はお前のお陰で二度とおなごと交わる事が出来ん。それなのにお前は潮まで吹いて。絶対に許さん。貴様の割れ目にこいつをぶち込んでやる。まぐわう事も、子供を持つ事も出来ないようにしてやる。」
 男は火処を切り裂いて、さくへの恨みを晴らそうとしている・・・・。さくは恐怖に恐れ慄いた。
「ヘッヘッヘ。怖いか?なら命乞いしろ。止めて下さいと泣いて頼め。」
「・・・・・・・・。」
 怖かった。助けて貰えるのであれば、泣いて許しを請いたかった。しかし、武家の娘の矜持が有る。先程は皆の前で潮を吹かされたばかりか、泣いて助けまで求めた。我に返ったさくにはそれが許せない失態であった。もうこれ以上、無様な真似は出来ない。
「お・・・そ・・・ほ・・・・。」
 さくは小さく何事か呟いた。男はさくの命乞いが聞けると思い、口元に耳を近づける。覚悟を決めたさくははっきりと喋った。
「お主の粗末な矛を入れられるよりか、脇差を入れられる方が遥かにましです。矛を切られた仕返しがしたいのでしょうが、切られても前と大して変わらないでしょう。お主の矛はそれは粗末なもので、有って無い様なモノでした。犯したおなごを皆、殺したのも短小の矛を馬鹿にされたからでしょうね。」
 さくは自分でもびっくりするような悪態を付くと、男の顔を目掛けてペッと唾を吐き掛けた。我ながらこの期に及んでここまで言ってのける事に感心した。だが、これで良い。さくが宮脇の娘である限り、二度と命乞いなど出来ないのだ。男は呆気に取られた表情をしたが、それも一瞬、すぐに怒気を含んだ真っ赤な顔で叫んだ。
「この、糞女が。」
 男は吐き掛けられた唾を手で拭う。
「そうかそうか。そこまで言うか。なかなか胆力があるじゃないか。」
 男は右手に握っていた脇差を投げ捨てると、腰に差していた大刀を抜いた。
「脇差じゃ駄目だ。この大刀を火処に刺してやる。」
 さくは男の血走った眼を見て、自分は女として最も残酷な殺され方をするのだと悟った。せめて一太刀浴びせてやりたいが、全裸で得物も無く、両手両足を押さえ付けられている状態では何も出来ない。無念だったが、戦で死ぬる人は皆、無念なのだと覚悟を決めた。
「やれ。早う殺せ。」
 男はニヤニヤと笑いながら、余裕ぶった態度で言った。
「最期に言い残す事はないか、お姫様。あるなら今の内に聞いてやるぜ。」
「・・・・・・一つあります。」
「なんだ?」
「そなたはきっと弥三郎様に殺されるであろう。」
 自分が残虐な殺され方をしたと伝われば、きっと弥三郎が仇を取ってくれるという確信がさくにはあった。男は笑い出した。
「馬鹿らしい。あんな腰抜けに何が出来る。仇討ちを期待しても無駄だ。」
「出来ます。弥三郎様なら。」
 男はせせら笑いながら、さくの火処に大刀を宛がう。
「そうかい。それじゃあ、お姫様の無残な死に様を伝えてやるよ。必ずな。」
 火処の入り口に大刀がゆっくりと侵入してくる冷たさがあった。さくは目を瞑って覚悟を決めた。
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