戦国ニート~さくは弥三郎の天下一統の志を信じるか~

軽部雄二

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第41章

誤算

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 弥三郎の部隊の善戦を受けて、大殿や宮脇国安、その他諸将の部隊も果敢に2倍の兵数の本山軍に攻撃を仕掛ける。勢い対2倍の敵。戦は一進一退の攻防であった。勢力拮抗の中、さくは唇を噛みながら味方が敵の陣形を打ち破ってくれるのを待った。弥三郎軍が大軍を引き付けている間に、手薄になった陣形を突破すればこちらの勝ち。だが、吉報はなかなか訪れない。その内に拙い事が起きた。
「姫様、もう火薬も玉も次で最後です。」
 左月が無念そうに言った。さくは目を瞑る。田舎では火薬や鉛を手に入れるのが難しい。ここまでてつはうを運用したのは奇跡に近かった。
「皆、これが最後の射撃です。玉を無駄にせず、よく狙うのです。撃ち終わったら速やかに後ろに退きなさい。」
 さくは戦場でもよく通る声で女てつはう隊に最後の命を下す。
「そんな!私たちはまだ戦えます。」
「そうです。私達だけ逃げるなど出来ません。」
 女たちは口々に不満を述べたが、さくは穏やかに諭す。
「そなたたちは十分に役割を果たしました。これは逃げるのではなく、戦略的な撤退です。これからも戦はあります。その時にまた働いて貰う為、そなたたちを無駄死にさせる訳にはいかないのです。後はおのこに任せて、ここは退くのです。」
「・・・・・・。それが、弥三郎様の為になるので?」
「勿論、そうです。」
 女たちは顔を見合わせて、暫しの後、無念そうに言う。
「分かりました。その様に致します。」
 敵勢がまた、突撃してくる。
「さあ、皆、よく狙うのです。一人でも多くの者に手傷を与えるのですよ。」
 敵を充分に引き付けて、さくは号令を放った。
「撃て!」
 掃射。女てつはう隊は一発も玉を無駄にせんと見事な集中力を見せ、敵兵を薙ぎ払う。
「さあ、早う。退きなさい。」
 さくは女たちを退却させると、てつはう隊の背後に控えていた農民兵を叱咤した。
「おなごたちの働きで敵の先鋒は壊滅状態です。我らが優勢。もう一押し。そなたたちが敵に引導を渡すのです。手柄を立てれば恩賞は思いのまま。一気に掛かれ!」
「おう!」
 さくの号令と共に農民兵は歓声を上げて陣を飛び出していく。さくはそれを見送りながら左月に命じた。
「左月、そなたは弥三郎様と後ろに控えていなさい。乱戦になった今、ここは危険です。」
「しかし、姫様は?」
「さくはここで指揮を執ります。心配は要りません。早う、下がりなさい。」
「・・・・・はっ。」
 左月は蒼い顔をした弥三郎を伴い、自陣の後方に退いていった。さくはそこに留まり、戦況を注視する。てつはう隊の掃射で敵勢の多数を死傷させたとはいえ、いまだこちらの兵数よりも数倍多い。こちらの普通より多く動員した農民兵がどこまで機能するか。戦の主体は普通は農民だ。だが、かれらは利に聡い。勝ち戦では手柄欲しさに俄然勢いづくが、負け戦になれば命大事に我先に逃げ出す。弥三郎はそれを分かった上、農民兵を相手方より多く動員したのだ。兵の数で圧倒すれば農民も勢いづくとの計算だろうが、この戦は相手の方がこちらよりも兵の数が多いのだ。厳しい戦いになりそうだった。
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