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第12章
叱咤激励
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さくが弥三郎の部屋に戻ると、彼の人は部屋に寝そべっていた。ふて腐れている様子だ。さくは弥三郎の傍に片膝を付いた。
「弥三郎様。」
「・・・・・・・。」
返事は無い。さくは気にせず話し続ける。
「大殿に悪気はないのです。ただ、弥三郎様の話される内容が俄には理解できず、びっくりされただけです。」
「私はそうは思わん。父上は私の事を軽んじておるのだ。」
「その様な事は御座いませぬ。さくが大殿に弥三郎様の言ってることは全て本当の事だと説明しましたら、素晴らしい見識だと。自分が未熟であったので謝りたいと。他にも話を聞きたいそうです。」
「父上がそう仰ったのか?」
「はい。」
「信じられぬ。」
「本当です。夕餉の際に直に聞いてみるのが良いかと。」
「もう、一緒には食事はせぬ。」
頑なな弥三郎はぼそりと呟いた。どうやら大殿の一言で深く傷ついたらしかった。さくは目の前の情けない青年を叱咤した。
「情けない事を申されますな。たかがあれしきの事で。親と子の行き違いなど良くある事ではありませんか。」
「・・・・・・・・。私は将来、上方に討って出る覚悟がある。しかし、父上は私にはその様な事は無理じゃと思っておられる・・・・・・。」
「傷つかれましたか?」
「傷ついた。」
「・・・・・・。弥三郎様の心構え、さくは立派だと思います。その志を笑われましたら、傷つかれますのは分かります。」
「そうか。さくは分かってくれるか!」
好意を持つさくの言葉に弥三郎は嬉しそうだ。が、さくは更に続ける。
「しかし、さくは大殿の気持ちも分かります。弥三郎様は志は大きいですが、中身が伴っていません。部屋に引き籠って本を読んでいるだけ。挨拶も出来ない。話もしない。武芸も駄目。奇行は城下に知れ渡っている。この様な状況で大言吐いても誰からも相手にされませぬ。」
「・・・・・・・。」
「弥三郎様が大殿の立場であったならば、如何致します。心配になりませんか?」
「・・・・・・・?それは・・・・なるな。」
弥三郎はぼそりと呟いた。
「大殿は弥三郎様の事を理解してない。弥三郎様も大殿のお考えに思慮が及ばない。・・・・・会話が必要です。少しずつで構いません。お互いの事を理解していきましょう。」
「・・・・・・・。」
「家族ではありませんか。」
「・・・・・・・。」
「将来、上方に討って出られる志があるのであれば、それ位出来ないと、とても無理で御座います。」
「・・・・・・・。」
「話をして認めて貰うのです。この家の跡目を継ぐのは弥三郎様しかおらぬと。」
「・・・・・・・。」
弥三郎は黙ったままだ。煮え切らない男だと、さくは切歯扼腕した。逞しいのは矛だけの様である。
「さくはうじうじした、女々しい男は嫌いに御座います。」
「・・・・私は女々しくない。色々と考えているだけだ。思慮深いのだ。」
弥三郎は言い訳をしたが、それがさくを苛立たせている事に気付かない。
「何を考える事があるのですか?今日の夕餉も皆で食べる。話をしながら。それだけの事ではないのですか。」
「・・・・まあ、そうだ。」
「では、出来ますね。」
さくの圧に、弥三郎は折れた。
「やってみる。」
さくとはるは顔を見合わせて笑みを見せた。やれやれと。世話の掛かる餓鬼である。家族で顔を合わせて食事をする。たかがこれだけの事であるのに、お膳立てするのにこの苦労であった。だが、ようやく一歩を踏み出せそうだ。これからである。さくは自らの重責に凝った肩をトントンと叩いて凝りをほぐした。
「弥三郎様。」
「・・・・・・・。」
返事は無い。さくは気にせず話し続ける。
「大殿に悪気はないのです。ただ、弥三郎様の話される内容が俄には理解できず、びっくりされただけです。」
「私はそうは思わん。父上は私の事を軽んじておるのだ。」
「その様な事は御座いませぬ。さくが大殿に弥三郎様の言ってることは全て本当の事だと説明しましたら、素晴らしい見識だと。自分が未熟であったので謝りたいと。他にも話を聞きたいそうです。」
「父上がそう仰ったのか?」
「はい。」
「信じられぬ。」
「本当です。夕餉の際に直に聞いてみるのが良いかと。」
「もう、一緒には食事はせぬ。」
頑なな弥三郎はぼそりと呟いた。どうやら大殿の一言で深く傷ついたらしかった。さくは目の前の情けない青年を叱咤した。
「情けない事を申されますな。たかがあれしきの事で。親と子の行き違いなど良くある事ではありませんか。」
「・・・・・・・・。私は将来、上方に討って出る覚悟がある。しかし、父上は私にはその様な事は無理じゃと思っておられる・・・・・・。」
「傷つかれましたか?」
「傷ついた。」
「・・・・・・。弥三郎様の心構え、さくは立派だと思います。その志を笑われましたら、傷つかれますのは分かります。」
「そうか。さくは分かってくれるか!」
好意を持つさくの言葉に弥三郎は嬉しそうだ。が、さくは更に続ける。
「しかし、さくは大殿の気持ちも分かります。弥三郎様は志は大きいですが、中身が伴っていません。部屋に引き籠って本を読んでいるだけ。挨拶も出来ない。話もしない。武芸も駄目。奇行は城下に知れ渡っている。この様な状況で大言吐いても誰からも相手にされませぬ。」
「・・・・・・・。」
「弥三郎様が大殿の立場であったならば、如何致します。心配になりませんか?」
「・・・・・・・?それは・・・・なるな。」
弥三郎はぼそりと呟いた。
「大殿は弥三郎様の事を理解してない。弥三郎様も大殿のお考えに思慮が及ばない。・・・・・会話が必要です。少しずつで構いません。お互いの事を理解していきましょう。」
「・・・・・・・。」
「家族ではありませんか。」
「・・・・・・・。」
「将来、上方に討って出られる志があるのであれば、それ位出来ないと、とても無理で御座います。」
「・・・・・・・。」
「話をして認めて貰うのです。この家の跡目を継ぐのは弥三郎様しかおらぬと。」
「・・・・・・・。」
弥三郎は黙ったままだ。煮え切らない男だと、さくは切歯扼腕した。逞しいのは矛だけの様である。
「さくはうじうじした、女々しい男は嫌いに御座います。」
「・・・・私は女々しくない。色々と考えているだけだ。思慮深いのだ。」
弥三郎は言い訳をしたが、それがさくを苛立たせている事に気付かない。
「何を考える事があるのですか?今日の夕餉も皆で食べる。話をしながら。それだけの事ではないのですか。」
「・・・・まあ、そうだ。」
「では、出来ますね。」
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「やってみる。」
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