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第6章
白痴の男
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無駄な時間を過ごした。気を取り直し、さくははるを伴って大殿の元へ赴くべく出発した。この国は南海僻地の国である。三面に海を巡らし、遮るものなく雄大な太平洋を臨む。南は長い海岸線、北に険しい山脈を背負い、その事により「遠流の地」と長い間されてきた。父・国安の領地は大殿から見て北にあるので、道は少々荒いものの、平野に下る行路は比較的楽であった。
「姫様、歩くのが少し・・・・・早う御座います。もうちょっと、ゆっくり・・・・。」
はるは息も絶え絶えに言う。
「はる。いい若い者が、これしきの道でへばっている様では思いやられますね。」
さくは苦笑いして言った。はるは肩で息をしている。仕方ないな。
「この峠を下りた先に茶屋がありますよ。そこで休憩しましょう。頑張れますか?」
「は、はい。」
はるはぜいぜいはあはあ言いながら、さくの後を小半刻ほど付いてきたが遂に値を上げた。
「ま、まだですか?もう限界です・・・。」
休ませてやりたいが、間者騒動でだいぶ時間を浪費した事もあり、急がなければ日が暮れる。さくは叱咤した。
「もう少しです。後、息を40回するぐらいですから。」
「ほ、本当ですか・・・・。先程から、もう少し・もう少しと仰ってばかりではないですか・・・・。」
「では、一緒に数えましょう。い~ち、に~、さ~ん。」
「よ、よ~ん。ご、ご~。」
20を数え終わった頃に、峠の麓に赤い野点傘が差してあるのが見えた。
「あっ、茶屋です。着きましたよ。」
さくがそう伝えると、先程まで息も絶え絶えだったはるが走り出した。
「姫様、はるは団子が食べとう御座います。早く行きましょう。」
先程までの死人歩きは何処へやら。さくは微笑みを浮かべながら後を追った。やれやれである。さくは茶屋の主人にはるの為に熱い茶と団子を頼んでやった。遠慮のないはるは団子のお代わりをねだるのでそれを許し、それを食べている間に、さくは席を外した。
「姫様、どちらへ?」
「ちょっと・・・・・。」
それだけでさくの心中を察したはるは、さくの後ろ姿に声を掛ける。
「お手伝いしましょうか?」
「大丈夫です。あなたはそれを食べていなさい。」
そう言うと、さくは茶屋の裏にある茂みに姿を消した。はるは団子を食べながら満足そうにそれを見送った。
さくは草を掻き分けて先へ先へと進む。茂みが開けた場所に出ると、周りを見渡した。ここなら良い。そう判断したさくは着物の裾を割り、お腹の上まで捲り上げた。肌の白い、陶器のような滑らかな形の良い小さい尻を剥き出しにすると、その場にしゃがみ込んだ。用便である。つまりトイレ。青空便所である。さくは今まで我慢していた小水をじょろじょろと吐き出した。ふう~と溜息を付く。なんとも言われぬ解放感である。さくは用を足しながら後始末をする為の草を毟ろうと手を伸ばした時である。動きが固まった。何故か。背後に視線を感じたからである。何者かが背後からさくの様子を窺っている気配が確かにある。まさか間者か?用便を足す事に気を取られ、気配に気付かなかった、さくの失策である。どうするか?さくは尻を剥き出しにしながら、背後の気配を相手方に気付かれない様に窺う。しゃがんでいる、さくの背後10尺(約3メートル)程の所に丁度、人ひとりが隠れられる程の草木が茂っている。そこからちらちらと頭笠が見え隠れしているのが窺い知れた。さくは動けない。最も無防備な姿の背後を取られているのだから。既に小水は収まっていたが、さくは尻を剥き出しにしたまま、しゃがんだ状態。どうするか?こんな事になるなら、はるを連れて来るのだったと思ったが後の祭りである。自分一人で何とかするしかない。向こうの目的は何か?襲ってくる気配はない。向こうが殺す気なら無防備状態で後ろを取られた時点で殺されていた。考えられる可能性は監視か?付けられている事に気付かず、小水をする所を覗かれるとは何たる不覚。さくは臍を噛んだ。何とかこの状況を挽回しなくては。さくは素知らぬふりで近くの草を毟ると、女陰を拭いた。ゆっくりと立ち上がりながら着物の裾を下ろすと、着物の乱れを直すふりをしながら、懐の懐剣を抜くと、間髪入れずに背後の草木に走り寄る。
「何者です・・・・か・・・・。」
さくは固まった。草木の後ろには頭笠を被った男が。その男はなんと・・・・・・自分の袴から、自分の分身・・・・・矛を取り出し・・・・・こいていたのである!その状況から男は、さくの放尿姿を見ながら自慰に耽っていた事は明々白々である。さくは全身の血が顔に上がっていく感覚を覚えた。羞恥心でわなわな震えながら、金切り声を上げるさく。
「何をしているのですか!」
男の顔は頭笠に隠れて見えない。さくは勢いよく右の手で笠を引っ手繰った。
「!!!!!!!!。」
さくはその男の顔を見て驚愕の表情を浮かべた。その男の顔に見覚えがあった。その男は先程、はるに殴られ昏倒していた際に、白日夢で見たその男に間違いなかったのだ!これはどういう事なのか?さくは現実の事なのか、また夢なのかが分からなくなった。二人は無言で互いを見つめ合う。
「あなたは誰?」
「・・・・・・・・・。」
男はさくの問いに無言を貫いた。さくは男の顔をしげしげと見つめる。夢の男と瓜二つ。というか本人である。色は白く、柔和な顔立ち。育ちの良さを感じさせる若者である。さくよりも幾何か年上であろう。間者には見えなかった。男が発する雰囲気もそうであるし、なにより間者だったら使命をほっぽり出して、自慰に耽るという事は考えられないからである。一体、何者であろうか?
「答えなさい。そなたは何者ですか?」
男は答えない。そればかりか矛を扱く手を止めない。じーっとさくの顔を見て矛を扱いている。
「ちょっ、何をしているのです!」
「・・・・・・・・・。」
男は無言で矛を扱く手を速める。
「止めなさい。その、ほ、矛を早うしまうのです。」
「・・・・・・・・。」
男は手を止めない。なんだこの男は?さくは対応に困った。多分、この男こそがさく達を付け回していた男なのだろう。女子に付き纏い、用便を覗く。それで自慰に及び、見つかっても恥ずかしげもなく矛を扱き続ける。恥は無いのか?
「やめろと言うとるであろう。」
「・・・・・・・・。」
さくは思った。この男は先程から一言も言葉を発さない。こちらの言う事も理解できない様だ。考えられる事としては、この男は唖、そして白痴なのではないか。性的な欲求から偶然見かけたさくたちの後を着いてきて、用便足す所を見て、欲情し、自慰に及んだ。そのように考えるのが自然だ。だとすればこの様な気の毒な輩は、保護してやらなくてはならない。さくは右手の抜き身の懐剣を鞘に納める。さて、どうしたものか・・・・。
さくはふと、一生懸命さくの顔を見ながら矛を扱く男の股間に目が行った。その赤銅色をした肉塊は天を衝き、粘ついた粘液に塗れている。さくは呼吸が詰まる様な感覚を覚えた。おのこの勃起した矛を生で目にするのは初めてであったからだ。
「これがおのこの・・・・・・。」
さくは白日夢でこの男とまぐあおうとしていた事を思い出した。去来するのは夢の中での甘美な感覚。火処は濡れていた。さくは自分の体に起きた異変が自分でも信じられない。理性で必死に邪まな欲情を抑えた。さくの心の内を知ってか知らずか、男は快感を貪っている。さくはこの気の毒な男が自分に対して欲情を覚えている事に2つの感情を覚えた。興奮と憐れみである。さくは興奮を抑え込みながら、男に憐れみを掛けた。
「思えばこの男も気の毒な事よ。こんなにも女子を求めているのにも関わらず、一生、まぐあうことは叶わないのだから・・・・・。」
さくは一生女子から相手にされないであろう白痴の男の分身にそっと手を伸ばした。擦ってやる。男はびっくりして矛を擦る手を止めた。男に代わってさくがその分身を擦り上げる。矛に塗れた粘液が手にぬちゃりとした感触を伝える。脈動する男の分身は今にも破裂しそうだ。さくはこの白痴の男を人間としてというよりはおもちゃとして見ていた。だからこの様な行動に出たのだ。男と交わった事の無いさくは、この白痴の男で性的な好奇心を満たそうとしていた。
「うう~~~~~。」
男が唸り声を上げた。野獣の咆哮の様であった。
「気持ち良いのですか。我慢する事はありません。逝って良いのですよ。」
さくは期待の入り混じった声を掛けた。男の逝く所が見てみたかった。自分がおなごとしておのこを満足させる事が出来るか試したかった。その時、男が想定外の行動を取った。さくに襲い掛かって来たのである。さくを押し倒すと馬乗りになりながら、激しく矛を擦り出したのである。
「ちょっ、何をするのです!」
さくの言葉を全く無視して、男は腰を前後に動かしながら矛を扱く。仰向けに倒れたさくの顔の前に男の其れがあった。息を呑むさく。男の物をこんなに至近距離で見た事はなかった。興味を持ってまじまじと見つめる。矛がびくびくと何かを求める様はまるで化け物の様だった。その瞬間、目の前の異物はさくの顔に向かって、白いマグマを吐き出した。ぴゅっぴゅっと何度も何度も断続的にさくの顔面に飛び散る。
「あっ、あ~~あ~~。」
男が歓喜の声を上げた。射精したのだ。さくは全ての精液を黙って顔面で受け止めた。火処が痺れ、男と実際にまぐわった様な感覚を覚えた。男とさくは互いに恍惚感に浸り、動かなかった。暫くして男はさくを悠然と見下ろしながら懐紙で自らの矛を拭いた。その様をさくは黙って見上げているとふと、男と目が合った。すると男は矛を拭いた懐紙で、さくの顔に吐き出された白いものを拭ってくれる。本来ならば拭く順番が逆だろうと思ったが、白痴の男におなごへの配慮を求めるのは酷である。顔を拭いてくれるだけ、幾分かの優しさを持ち合わせているのだろう。男はさくの顔を綺麗にすると、馬乗りになっていた体を起こし、仰向けに寝ているさくの足元に膝を着いた。そして着物の裾を割り、中を覗き込む。その血走った眼は男の更なる欲望を感じさせた。だが、さくは白痴ずれの男などに体を許すつもりは無い。火処を見せてやるだけのつもりでいた。男が自分のものを見て、どの様な反応を示すのか。それが見たかった。男が普通の男ではなく、何も分からない白痴だという安心感がさくに被虐的な冒険心を喚起させたのである。男が火処を覗き込んでいる様を見て、背筋が寒くなる様な背徳感を感じていると、男が唐突にぼそりと言った。
「さくは処女か?」
さくは飛び上がりそうになるぐらい、驚いた。この男・・・・・唖でも白痴でもない!普通の男である!
「そ、そなた、白痴ではないのですか?」
さくは余りの驚きに息も絶え絶えに男に訊ねた。
「誰が白痴なのだ。私は白痴ではない。」
男はぼそぼそと囁くような声であったが、はっきりと言った。さくはそれを聞いて全身の血が顔に上がっていく様な感覚を覚えずにはいられなかった。何も分からない白痴だと思っていた男は普通の男だったのだ。それを勘違いして矛を扱いたり、顔に精を浴びせるのを許したり、火処を覗かせたり。さくの顔は真っ赤になった。
「処女か?どうなのだ、さく?」
男はさくの恥じらいを無視して、尚もしつこく聞いてくる。自分の恥部を曝け出してしまった男にどう答えていいか分からず、口籠っていると、不意に気付いた。男が自分の名を知っている事に。何故、今日初めて会うこの男は、自分の名を知っている?
「な、何故、私の名を知っているのです?」
それに対して男はぼそぼそと小さな声で狂気に満ちた事を言った。
「この前、闘鶏の蹴合いの際に水浴みしていたそなたを見て、調べたのじゃ。」
男は得意げに言った。それを聞いてさくは思い返す。蹴合いの日の水浴み?そういえば水浴みを覗いて矛を扱いていた輩が居た。まさかその時の輩が目の前にいるこの男なのか?そうとしか考えられない。水浴みをしていた、さくを見初めて、それから付きまとっていたという事なのか?さくは戦慄した。現在でいえば完全なストーカー。かなり危ない部類である。さくは急いで起き上がると身構えた。
「何の為に私の事を調べるのですか。」
「決まっておろう。」
「???????。」
「ひと目見た時から、そなたは処女ではないかと目を付けておった。」
「・・・・・・・。」
「私には分かるのだ。立ち居振る舞いで生娘かどうかが。」
「・・・・・、き、生娘だったらどうだというのですか?」
「さくの初めてを私にくれ。」
なんだこの男は。この時代、戦国の世では一般に処女=純潔という考えはない。その様な考えが広まったのは、貞操を未婚女性の最大の栄誉としたキリスト教の影響に因る。もっと時代が下ってからだ。では戦国の世ではどうだったか?この時代に日本に訪れた宣教師・イエズス会のルイス・フロイスの記した「日本史」によれば「日本の女性は処女の純潔を少しも重んじる事無く、処女でなくとも名誉を失わなければ、結婚できる。」と、イエズス会に驚きの報告をしている。この時代はフリーセックスの時代だったのである。行きずりの男とのセックスは当たり前。皆、結婚前に性交渉を済ませていた。10歳に満たぬ年齢での結婚もざらにあり、その場合、知識を持たぬ子供を、侍女たちが押さえ付けて無理やりまぐわせるという事も珍しくなく、9歳で子供を産んだものもいると、さくは聞いた事があった。そんな中でさくは希少種であった。さくは後れているとも言えたし、時流に流されぬ奥ゆかしさを備えていたとも言えた。さくは心に決めたおのこが現れるまで処女を守るという誓いを立てていた訳だが、周りが皆、まぐわり放題なので、独りで悶々とした日々を送っていたというのが本当の所である。だから相手が白痴だと思い、何も分からぬ男に悪戯をしてしまった訳だ。それがまさかこの様な男だったとは・・・・・・。勿論、この様な男とまぐわうとはまっぴら御免である。
「嫌です。」
さくは二つ返事で男の要求を拒絶した。だが、付け狙っていたさくの火処を見た男は収まりが付かない。矛を丸出しにしたまま、さくににじり寄って来る。男の矛は先程たんまりとさくの顔に精を放ったばかりだというのに、もう青天を衝いていた。青狼を目の前にしたさくは蛇に睨まれた蛙であった。火処に男のそそり立った矛を捻じ込まれる様が脳裏に過ったさくは悲鳴を上げた。
「誰か~~~。」
「静かにするのだ!」
黙らせようと、間髪入れず男はさくに飛び掛かって来た。逃げようとするさくの左手を抑え、右手を後ろから首に回して助けを呼ばせまいとする。さくは首に回された腕を無我夢中で掴むと、えいと思いっきりぶん投げた。
「うわっ!」
男は一回転すると背中から地面に叩きつけられた。さくはびっくりした。男の軽さにである。この男は上背はあるが、女の様に軽い。華奢で非力・武芸の嗜みがまるで無いのである。そうと分かれば恐れるに足らず。さくは大の字の男の首の上に膝を置いて押さえ付けると、拳の鉄槌を3発・4発と顔面に落とした。男の鼻からは鮮血が迸った。
「参った。降参じゃ。もう止めてくれ。」
戦意を喪失した男は哀願する。
「もう馬鹿な真似はしませんか?」
「しない。しない。」
「本当ですね?」
「今日はもうしない。」
「今日は?それはどういう意味ですか?」
「続きはまた今度にする。」
さくは男の顔面に拳を落とした。
「ぎゃっ!」
「ふざけるでない。もう二度と付き纏われては困ります。」
「私は付き纏い等してはおらぬ。さくが私の事を誘惑しているのではないか。」
男は意味不明の事を言い放った。一体、何の話なのか?
「私が何時、そなたを誘惑したというのですか?」
「館で私に見せ付ける様に水浴みをしておった。」
「それは、そなたが勝手に覗いたのではないですか。矛まで扱いて。」
「先程も儂の目の前で見せ付ける様に用便をしおったではないか。」
「それもそなたが一方的に覗いたのでしょう。」
さくは男の都合の良い一方的な解釈に呆れた。
「それならば聞くが、何故、そなたは私の矛を扱いてくれたのじゃ。矛を扱きながら私に逝っても良いとまで言ったぞ。」
「・・・・・・・・・。」
さくは痛い所を突かれ、言葉が無かった。何か反論しなければと思ったが、それは事実であるので何も言えない。
「それ、即ちさくが私を誘惑する気があったという事ではないか。違うか?」
「・・・・・・・・。」
何も言えないさくに対し、男は勝ち誇った様な顔を見せた。
「ほれ見ろ。何も言えぬではないか。」
「・・・・・・。今日の事はお互い忘れましょう。そなたも身なりからしてひとかどの家の出なのでしょう。今日の事が明るみになれば、そちらも家の名誉を著しく損ねる筈。お互い今日の事は黙っておくというのはどうですか。」
さくは男に対し懐柔策を取った。自分も男もお互いが公になれば恥になる行動を取っているのだ。痛み分けで双方黙っていようと提案したのであるが・・・・・・。
「嫌じゃ。」
男はさくの提案をあっさりと撥ね付けた。
「儂は別に暴露されても構わん。何とも思わん。」
「・・・・・・・・。」
「困るのはお主だ。宮脇の娘は淫乱だ。国安はふしだらな娘を育てたと言いふらされたくなかったら、儂の言う事を聞け。」
「・・・・・・・・。」
男は完全に開き直っている。それどころか逆手に取ってさくを脅迫しに来ていた。どうするか。さくは思案を巡らせた。宮脇の家の名誉を守る為に何とかこの男の口を塞がなくては・・・・・・。さくは懐から懐剣を出し、馬乗りになっている男の鼻先に突き付けた。
「そうですか。そうなればそなたが今日の事を口外しない様に、ここで口を封ずるほかありませんね。」
男はぎょっとした表情を見せたが、それも一瞬であった。
「ほう、そなたが私を殺すというのか?面白い。やれるものならやってみるがよい。」
男は勝ち誇ったように言った。さくは間髪入れず、男の右肩に懐剣を突き刺した。
「ぎゃっ!」
男が悲鳴を上げるのを、さくは冷徹に見下ろしながら言った。
「私は冗談は嫌いです。宮脇の家の名誉を貶める噂を広める輩は、今ここで息の根を止めるしかありません。」
さくの事を甘く見ていた男は、目の前の女の容赦ない一面を見て慄いた。
「ま、待て、待て。冗談じゃ。殺してみろと言ったからといって、本当に殺そうとする奴があるか。」
本当に殺されるかもしれないと悟った男は慌てふためく。
「そなたを生かしておいては何を言われるか分かったものではありません。死んでもらうしかないのです。残念ですが。」
さくは懐剣を振りかぶった。
「い、言わん。今日の事は絶対に喋らない。だから勘弁してくれ。」
男は遂にさくに屈服した。さくはやれやれとばかりに、仰向けの男の首から膝を除けると立ち上がった。男も血に滲んだ右肩を抑えながらゆっくりと立ち上がった。さすがにこの男も懲りただろう。さくは懐剣に付いた男の血を懐紙で拭いながら言った。
「少しは懲りましたか。今後、私に付き纏う事があったら、容赦はしませんよ。」
男は肩の傷口を抑えながら。血塗れの鼻を拭う事もせず、ふらふらと茶屋への道を引き返していく。もうこの男はさくのまえに二度と現れる事はないであろう。そう思い、さくは男から目線を切った。するとそれを待っていたかの様に男はさくの背後から襲い掛かった。
「うりゃ!」
男はさくの着物の裾を後ろから捲り上げる。
「きゃっ!」
さくの尻は男の目の前で剥き出しになった。絹の様に真っ白で瑞々しい尻が露わになる。後ろから力一杯、着物の裾を捲り上げられた反動で、前につんのめって倒れたさくの美尻に男は血塗れの顔を歪ませて歓喜の声を上げた。
「良い尻じゃ。尻の合間から火処が覗いているのが堪らんのう。」
さくは男に一番羞恥的な姿を見られた事になる。さくは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしながら、着物を直すと起き上がった。だが、そこには既に男の姿はない。
「何処です。出て来なさい!」
それに答えるものは居ない。男は退散間際の置き土産にさくの美尻を愛でて行ったのである。この勝負は男の作戦勝ち。さくは屈辱にわなわなと体を震わせながら、怒りを爆発させた。
「待て!この変態!」
さくは懐剣を握りしめながら、茶屋への道を駆けだした。あの男、絶対捕まえてやる。走って来た道を戻ると、茶屋の縁台に腰掛けて呑気に団子を食べている、はると目が合った。はるはさくの姿を見て呆気に取られている。顔を真っ赤に懐剣を振り上げて草叢から走り出てきたのだから無理もない。
「姫様、一体、どうなされたのですか?」
はるは団子を片手に持ちながら駆け寄って来るなりそう言った。
「今、ここへ顔が血塗れの男が来ませんでしたか?」
「え、誰も来ませんが・・・・・。」
はるは訳が分からず呆然としている。どうやら男は違う道を通って逃走した様だ。どうやらさくよりもこの辺の地理に精通している様だ。男をまんまと逃がしてしまった事に、さくは地団駄を踏んだ。はるはさくの着ていた着物に乱れがある事に気付いた。慌ててさくに問う。
「まさか、男に襲われたのですか?」
「それは・・・・・。」
さくは口籠る。襲われたと言えば襲われた事になるのか?しかし、言い様によっては、さくが誘ったとも言えた。
「まさか、操を奪われたのですか?」
「・・・・・・。いえ、大丈夫でした。」
「では、何故、懐剣を抜いて走り出て来たのですか?お召し物も乱れております。はるには本当の事を仰って下さい。」
はるが血相を変えて詰め寄って来るので、さくは何らかの説明をしなくてはならなくなった。何と言えば良いのか。
「そうではありません。用便を足してる所を男が覗いて矛を扱いておったのです。」
「え、矛をですか?・・・・・・。確か、前も水浴みしている所を覗いておった男が矛を扱いていたとか言っておられませんでしたか?」
「そうです。その時の男です。」
「え、同じ男なのですか?」
「だから、捕まえてやろうと思って追っかけてきたのです。それだけです。大事ありません。」
さくは自分に都合の悪い所を、はるには摘まんで話したのであった。
「そうでしたか。災難ではありましたが、大事無くて何よりです。」
はるは話を疑いなく信じた様なので、さくは胸を撫で下ろした。
「つまり、その男は姫様を慕っているという事ですね。」
「・・・・・‥慕っていると言いますか・・・・・、水浴みを覗いた時から目を付けていたみたいな事を・・・。」
「ということは、姫様は想われ人という事になりますね。」
「そんな事ではないのです。ただの色欲に塗れた男です。」
さくは苦笑いしたが、はるは真剣な面持ちで、
「いえ、たとえ色欲からきたものであったも、立派な想いです。おなごからすれば、おのこから想いを寄せられ性の対象と見て貰いますことは栄誉という事になります。」
「性の対象として見られる事のどこが栄誉なのですか?おのこはおなごなら誰でも良いのです。おのこは誰これ構わずおなごを凌辱するではありませんか。」
「だからこそです。」
はるは真剣な面持ちである。
「どういう事です?」
「今の世は明日どうなるか分からぬ世。だからこそ、出会いを大切にしなくては。いつ殺されるやも犯されるやもしれないのです。自分の事を想ってるおのこが居たら、とりあえずまぐわう。皆、やってる事ではありませんか。」
「つまり、さっきの男とまぐあえと?」
「はい。本来ならとっくに経験しなくてはならぬ年頃で御座います。」
はるの言う事はこの戦国の世の風潮そのものであった。だが、さくは
「冗談でしょう。私の事を覗いて矛を扱いていた下卑た男とまぐあえなどと・・・・。」
きっぱり拒絶した。
「下卑た男かも知れませんが、そういう男の方が床上手なのです。真面目な男は淡白でつまらないとよく聞きます。」
はるの生々しい話に、さくは何とも言えない恥ずかしさを覚えた。
「では聞きますが・・・・、そなたはどうなのですか?」
「どうなのかとは?」
「そ、それは、そなたは経験があるのですか?」
「ありませんよ。」
「そなたもおのことまぐわった事が無いのではありませんか。自分の事を棚に置いて何故、私にだけ交わらそうとするのですか。」
さくは鬼の首を取ったように勝ち誇って言った。
「それは戦略で御座いますよ。」
「戦略?」
「私の場合は家柄の良い所に嫁げます様に、操を守っているだけに御座います。」
「????。何故、操を守ると家柄の良い所に嫁げるのですか?」
「身分の高い家柄のおのこは、おなごの初めてに弱いのです。自分の味だけしか知らぬおなごにひとかたならぬ愛情を抱くもの。」
「馬鹿らしい。」
「では、姫様は初めてまぐあうおのこが、方々でおなごと交わってる者と、経験の無いものならば、どちらがよう御座いますか?」
「考えた事もありません。」
「では、考えて見て下さい。愛するおのこの初めてが、自分であったなら・・・・嬉しくお思いになりませんか?」
「それは・・・・・・。」
さくは口籠った。まぐわう男の初めてが、自分だったとしたならば、嬉しいと思ったからだ。先程の男に対して積極的な行動を取ってしまったのも、白痴の男はおなごとの経験が無いだろうから、教えてやりたいという心理が働いたからだ。つまり男の初めてを奪いたかったのである。はるの言わんとしていた事が、さくにはなんとなく理解できた。さくと同じような感覚がおのこにもあるらしい。
「これから会う弥三郎様も処女がお気に入りな事は間違いありません。もしかすると、姫様も私もお手付きになるやもしれませぬぞ。」
はるは妄想とも願望ともつかぬ事を口にした。さくはそれを嗜める。
「はる。若殿はお家の跡継ぎぞ。そんな処女だとかそうでないとか言う事より、丈夫な子を沢山産めるおなごを大事にします。そなたにお鉢は回っては来ませんよ。」
それを聞いたはるはしゅんとする。さくは弥三郎の教育係にこれからなるのだ。年頃の若殿には出産経験のある年上の女が合うのではないかと考えていた。変わり者の様だし、包容力のあるおなごが良い。大殿に進言しようと漠然と考えていた。考えながら、さくは先程の男の矛を思い出す。あの男は間違いなくおなごの経験がなさそうだった。何故、そう思うのか?それは男がさくの事を覗いて、自慰に耽っていたからである。経験があるのなら、さくに襲い掛かって無理やり犯しただろう。自ら慰めたのは、まぐあいに興味が有るものの、経験が無いのだと思えた。はるの言う通り、さくは男の初めてを奪いたかったのだ。自分では気付かなかった想いに気付かされた今、夢の中の男が無性に恋しく思えた。
「姫様、歩くのが少し・・・・・早う御座います。もうちょっと、ゆっくり・・・・。」
はるは息も絶え絶えに言う。
「はる。いい若い者が、これしきの道でへばっている様では思いやられますね。」
さくは苦笑いして言った。はるは肩で息をしている。仕方ないな。
「この峠を下りた先に茶屋がありますよ。そこで休憩しましょう。頑張れますか?」
「は、はい。」
はるはぜいぜいはあはあ言いながら、さくの後を小半刻ほど付いてきたが遂に値を上げた。
「ま、まだですか?もう限界です・・・。」
休ませてやりたいが、間者騒動でだいぶ時間を浪費した事もあり、急がなければ日が暮れる。さくは叱咤した。
「もう少しです。後、息を40回するぐらいですから。」
「ほ、本当ですか・・・・。先程から、もう少し・もう少しと仰ってばかりではないですか・・・・。」
「では、一緒に数えましょう。い~ち、に~、さ~ん。」
「よ、よ~ん。ご、ご~。」
20を数え終わった頃に、峠の麓に赤い野点傘が差してあるのが見えた。
「あっ、茶屋です。着きましたよ。」
さくがそう伝えると、先程まで息も絶え絶えだったはるが走り出した。
「姫様、はるは団子が食べとう御座います。早く行きましょう。」
先程までの死人歩きは何処へやら。さくは微笑みを浮かべながら後を追った。やれやれである。さくは茶屋の主人にはるの為に熱い茶と団子を頼んでやった。遠慮のないはるは団子のお代わりをねだるのでそれを許し、それを食べている間に、さくは席を外した。
「姫様、どちらへ?」
「ちょっと・・・・・。」
それだけでさくの心中を察したはるは、さくの後ろ姿に声を掛ける。
「お手伝いしましょうか?」
「大丈夫です。あなたはそれを食べていなさい。」
そう言うと、さくは茶屋の裏にある茂みに姿を消した。はるは団子を食べながら満足そうにそれを見送った。
さくは草を掻き分けて先へ先へと進む。茂みが開けた場所に出ると、周りを見渡した。ここなら良い。そう判断したさくは着物の裾を割り、お腹の上まで捲り上げた。肌の白い、陶器のような滑らかな形の良い小さい尻を剥き出しにすると、その場にしゃがみ込んだ。用便である。つまりトイレ。青空便所である。さくは今まで我慢していた小水をじょろじょろと吐き出した。ふう~と溜息を付く。なんとも言われぬ解放感である。さくは用を足しながら後始末をする為の草を毟ろうと手を伸ばした時である。動きが固まった。何故か。背後に視線を感じたからである。何者かが背後からさくの様子を窺っている気配が確かにある。まさか間者か?用便を足す事に気を取られ、気配に気付かなかった、さくの失策である。どうするか?さくは尻を剥き出しにしながら、背後の気配を相手方に気付かれない様に窺う。しゃがんでいる、さくの背後10尺(約3メートル)程の所に丁度、人ひとりが隠れられる程の草木が茂っている。そこからちらちらと頭笠が見え隠れしているのが窺い知れた。さくは動けない。最も無防備な姿の背後を取られているのだから。既に小水は収まっていたが、さくは尻を剥き出しにしたまま、しゃがんだ状態。どうするか?こんな事になるなら、はるを連れて来るのだったと思ったが後の祭りである。自分一人で何とかするしかない。向こうの目的は何か?襲ってくる気配はない。向こうが殺す気なら無防備状態で後ろを取られた時点で殺されていた。考えられる可能性は監視か?付けられている事に気付かず、小水をする所を覗かれるとは何たる不覚。さくは臍を噛んだ。何とかこの状況を挽回しなくては。さくは素知らぬふりで近くの草を毟ると、女陰を拭いた。ゆっくりと立ち上がりながら着物の裾を下ろすと、着物の乱れを直すふりをしながら、懐の懐剣を抜くと、間髪入れずに背後の草木に走り寄る。
「何者です・・・・か・・・・。」
さくは固まった。草木の後ろには頭笠を被った男が。その男はなんと・・・・・・自分の袴から、自分の分身・・・・・矛を取り出し・・・・・こいていたのである!その状況から男は、さくの放尿姿を見ながら自慰に耽っていた事は明々白々である。さくは全身の血が顔に上がっていく感覚を覚えた。羞恥心でわなわな震えながら、金切り声を上げるさく。
「何をしているのですか!」
男の顔は頭笠に隠れて見えない。さくは勢いよく右の手で笠を引っ手繰った。
「!!!!!!!!。」
さくはその男の顔を見て驚愕の表情を浮かべた。その男の顔に見覚えがあった。その男は先程、はるに殴られ昏倒していた際に、白日夢で見たその男に間違いなかったのだ!これはどういう事なのか?さくは現実の事なのか、また夢なのかが分からなくなった。二人は無言で互いを見つめ合う。
「あなたは誰?」
「・・・・・・・・・。」
男はさくの問いに無言を貫いた。さくは男の顔をしげしげと見つめる。夢の男と瓜二つ。というか本人である。色は白く、柔和な顔立ち。育ちの良さを感じさせる若者である。さくよりも幾何か年上であろう。間者には見えなかった。男が発する雰囲気もそうであるし、なにより間者だったら使命をほっぽり出して、自慰に耽るという事は考えられないからである。一体、何者であろうか?
「答えなさい。そなたは何者ですか?」
男は答えない。そればかりか矛を扱く手を止めない。じーっとさくの顔を見て矛を扱いている。
「ちょっ、何をしているのです!」
「・・・・・・・・・。」
男は無言で矛を扱く手を速める。
「止めなさい。その、ほ、矛を早うしまうのです。」
「・・・・・・・・。」
男は手を止めない。なんだこの男は?さくは対応に困った。多分、この男こそがさく達を付け回していた男なのだろう。女子に付き纏い、用便を覗く。それで自慰に及び、見つかっても恥ずかしげもなく矛を扱き続ける。恥は無いのか?
「やめろと言うとるであろう。」
「・・・・・・・・。」
さくは思った。この男は先程から一言も言葉を発さない。こちらの言う事も理解できない様だ。考えられる事としては、この男は唖、そして白痴なのではないか。性的な欲求から偶然見かけたさくたちの後を着いてきて、用便足す所を見て、欲情し、自慰に及んだ。そのように考えるのが自然だ。だとすればこの様な気の毒な輩は、保護してやらなくてはならない。さくは右手の抜き身の懐剣を鞘に納める。さて、どうしたものか・・・・。
さくはふと、一生懸命さくの顔を見ながら矛を扱く男の股間に目が行った。その赤銅色をした肉塊は天を衝き、粘ついた粘液に塗れている。さくは呼吸が詰まる様な感覚を覚えた。おのこの勃起した矛を生で目にするのは初めてであったからだ。
「これがおのこの・・・・・・。」
さくは白日夢でこの男とまぐあおうとしていた事を思い出した。去来するのは夢の中での甘美な感覚。火処は濡れていた。さくは自分の体に起きた異変が自分でも信じられない。理性で必死に邪まな欲情を抑えた。さくの心の内を知ってか知らずか、男は快感を貪っている。さくはこの気の毒な男が自分に対して欲情を覚えている事に2つの感情を覚えた。興奮と憐れみである。さくは興奮を抑え込みながら、男に憐れみを掛けた。
「思えばこの男も気の毒な事よ。こんなにも女子を求めているのにも関わらず、一生、まぐあうことは叶わないのだから・・・・・。」
さくは一生女子から相手にされないであろう白痴の男の分身にそっと手を伸ばした。擦ってやる。男はびっくりして矛を擦る手を止めた。男に代わってさくがその分身を擦り上げる。矛に塗れた粘液が手にぬちゃりとした感触を伝える。脈動する男の分身は今にも破裂しそうだ。さくはこの白痴の男を人間としてというよりはおもちゃとして見ていた。だからこの様な行動に出たのだ。男と交わった事の無いさくは、この白痴の男で性的な好奇心を満たそうとしていた。
「うう~~~~~。」
男が唸り声を上げた。野獣の咆哮の様であった。
「気持ち良いのですか。我慢する事はありません。逝って良いのですよ。」
さくは期待の入り混じった声を掛けた。男の逝く所が見てみたかった。自分がおなごとしておのこを満足させる事が出来るか試したかった。その時、男が想定外の行動を取った。さくに襲い掛かって来たのである。さくを押し倒すと馬乗りになりながら、激しく矛を擦り出したのである。
「ちょっ、何をするのです!」
さくの言葉を全く無視して、男は腰を前後に動かしながら矛を扱く。仰向けに倒れたさくの顔の前に男の其れがあった。息を呑むさく。男の物をこんなに至近距離で見た事はなかった。興味を持ってまじまじと見つめる。矛がびくびくと何かを求める様はまるで化け物の様だった。その瞬間、目の前の異物はさくの顔に向かって、白いマグマを吐き出した。ぴゅっぴゅっと何度も何度も断続的にさくの顔面に飛び散る。
「あっ、あ~~あ~~。」
男が歓喜の声を上げた。射精したのだ。さくは全ての精液を黙って顔面で受け止めた。火処が痺れ、男と実際にまぐわった様な感覚を覚えた。男とさくは互いに恍惚感に浸り、動かなかった。暫くして男はさくを悠然と見下ろしながら懐紙で自らの矛を拭いた。その様をさくは黙って見上げているとふと、男と目が合った。すると男は矛を拭いた懐紙で、さくの顔に吐き出された白いものを拭ってくれる。本来ならば拭く順番が逆だろうと思ったが、白痴の男におなごへの配慮を求めるのは酷である。顔を拭いてくれるだけ、幾分かの優しさを持ち合わせているのだろう。男はさくの顔を綺麗にすると、馬乗りになっていた体を起こし、仰向けに寝ているさくの足元に膝を着いた。そして着物の裾を割り、中を覗き込む。その血走った眼は男の更なる欲望を感じさせた。だが、さくは白痴ずれの男などに体を許すつもりは無い。火処を見せてやるだけのつもりでいた。男が自分のものを見て、どの様な反応を示すのか。それが見たかった。男が普通の男ではなく、何も分からない白痴だという安心感がさくに被虐的な冒険心を喚起させたのである。男が火処を覗き込んでいる様を見て、背筋が寒くなる様な背徳感を感じていると、男が唐突にぼそりと言った。
「さくは処女か?」
さくは飛び上がりそうになるぐらい、驚いた。この男・・・・・唖でも白痴でもない!普通の男である!
「そ、そなた、白痴ではないのですか?」
さくは余りの驚きに息も絶え絶えに男に訊ねた。
「誰が白痴なのだ。私は白痴ではない。」
男はぼそぼそと囁くような声であったが、はっきりと言った。さくはそれを聞いて全身の血が顔に上がっていく様な感覚を覚えずにはいられなかった。何も分からない白痴だと思っていた男は普通の男だったのだ。それを勘違いして矛を扱いたり、顔に精を浴びせるのを許したり、火処を覗かせたり。さくの顔は真っ赤になった。
「処女か?どうなのだ、さく?」
男はさくの恥じらいを無視して、尚もしつこく聞いてくる。自分の恥部を曝け出してしまった男にどう答えていいか分からず、口籠っていると、不意に気付いた。男が自分の名を知っている事に。何故、今日初めて会うこの男は、自分の名を知っている?
「な、何故、私の名を知っているのです?」
それに対して男はぼそぼそと小さな声で狂気に満ちた事を言った。
「この前、闘鶏の蹴合いの際に水浴みしていたそなたを見て、調べたのじゃ。」
男は得意げに言った。それを聞いてさくは思い返す。蹴合いの日の水浴み?そういえば水浴みを覗いて矛を扱いていた輩が居た。まさかその時の輩が目の前にいるこの男なのか?そうとしか考えられない。水浴みをしていた、さくを見初めて、それから付きまとっていたという事なのか?さくは戦慄した。現在でいえば完全なストーカー。かなり危ない部類である。さくは急いで起き上がると身構えた。
「何の為に私の事を調べるのですか。」
「決まっておろう。」
「???????。」
「ひと目見た時から、そなたは処女ではないかと目を付けておった。」
「・・・・・・・。」
「私には分かるのだ。立ち居振る舞いで生娘かどうかが。」
「・・・・・、き、生娘だったらどうだというのですか?」
「さくの初めてを私にくれ。」
なんだこの男は。この時代、戦国の世では一般に処女=純潔という考えはない。その様な考えが広まったのは、貞操を未婚女性の最大の栄誉としたキリスト教の影響に因る。もっと時代が下ってからだ。では戦国の世ではどうだったか?この時代に日本に訪れた宣教師・イエズス会のルイス・フロイスの記した「日本史」によれば「日本の女性は処女の純潔を少しも重んじる事無く、処女でなくとも名誉を失わなければ、結婚できる。」と、イエズス会に驚きの報告をしている。この時代はフリーセックスの時代だったのである。行きずりの男とのセックスは当たり前。皆、結婚前に性交渉を済ませていた。10歳に満たぬ年齢での結婚もざらにあり、その場合、知識を持たぬ子供を、侍女たちが押さえ付けて無理やりまぐわせるという事も珍しくなく、9歳で子供を産んだものもいると、さくは聞いた事があった。そんな中でさくは希少種であった。さくは後れているとも言えたし、時流に流されぬ奥ゆかしさを備えていたとも言えた。さくは心に決めたおのこが現れるまで処女を守るという誓いを立てていた訳だが、周りが皆、まぐわり放題なので、独りで悶々とした日々を送っていたというのが本当の所である。だから相手が白痴だと思い、何も分からぬ男に悪戯をしてしまった訳だ。それがまさかこの様な男だったとは・・・・・・。勿論、この様な男とまぐわうとはまっぴら御免である。
「嫌です。」
さくは二つ返事で男の要求を拒絶した。だが、付け狙っていたさくの火処を見た男は収まりが付かない。矛を丸出しにしたまま、さくににじり寄って来る。男の矛は先程たんまりとさくの顔に精を放ったばかりだというのに、もう青天を衝いていた。青狼を目の前にしたさくは蛇に睨まれた蛙であった。火処に男のそそり立った矛を捻じ込まれる様が脳裏に過ったさくは悲鳴を上げた。
「誰か~~~。」
「静かにするのだ!」
黙らせようと、間髪入れず男はさくに飛び掛かって来た。逃げようとするさくの左手を抑え、右手を後ろから首に回して助けを呼ばせまいとする。さくは首に回された腕を無我夢中で掴むと、えいと思いっきりぶん投げた。
「うわっ!」
男は一回転すると背中から地面に叩きつけられた。さくはびっくりした。男の軽さにである。この男は上背はあるが、女の様に軽い。華奢で非力・武芸の嗜みがまるで無いのである。そうと分かれば恐れるに足らず。さくは大の字の男の首の上に膝を置いて押さえ付けると、拳の鉄槌を3発・4発と顔面に落とした。男の鼻からは鮮血が迸った。
「参った。降参じゃ。もう止めてくれ。」
戦意を喪失した男は哀願する。
「もう馬鹿な真似はしませんか?」
「しない。しない。」
「本当ですね?」
「今日はもうしない。」
「今日は?それはどういう意味ですか?」
「続きはまた今度にする。」
さくは男の顔面に拳を落とした。
「ぎゃっ!」
「ふざけるでない。もう二度と付き纏われては困ります。」
「私は付き纏い等してはおらぬ。さくが私の事を誘惑しているのではないか。」
男は意味不明の事を言い放った。一体、何の話なのか?
「私が何時、そなたを誘惑したというのですか?」
「館で私に見せ付ける様に水浴みをしておった。」
「それは、そなたが勝手に覗いたのではないですか。矛まで扱いて。」
「先程も儂の目の前で見せ付ける様に用便をしおったではないか。」
「それもそなたが一方的に覗いたのでしょう。」
さくは男の都合の良い一方的な解釈に呆れた。
「それならば聞くが、何故、そなたは私の矛を扱いてくれたのじゃ。矛を扱きながら私に逝っても良いとまで言ったぞ。」
「・・・・・・・・・。」
さくは痛い所を突かれ、言葉が無かった。何か反論しなければと思ったが、それは事実であるので何も言えない。
「それ、即ちさくが私を誘惑する気があったという事ではないか。違うか?」
「・・・・・・・・。」
何も言えないさくに対し、男は勝ち誇った様な顔を見せた。
「ほれ見ろ。何も言えぬではないか。」
「・・・・・・。今日の事はお互い忘れましょう。そなたも身なりからしてひとかどの家の出なのでしょう。今日の事が明るみになれば、そちらも家の名誉を著しく損ねる筈。お互い今日の事は黙っておくというのはどうですか。」
さくは男に対し懐柔策を取った。自分も男もお互いが公になれば恥になる行動を取っているのだ。痛み分けで双方黙っていようと提案したのであるが・・・・・・。
「嫌じゃ。」
男はさくの提案をあっさりと撥ね付けた。
「儂は別に暴露されても構わん。何とも思わん。」
「・・・・・・・・。」
「困るのはお主だ。宮脇の娘は淫乱だ。国安はふしだらな娘を育てたと言いふらされたくなかったら、儂の言う事を聞け。」
「・・・・・・・・。」
男は完全に開き直っている。それどころか逆手に取ってさくを脅迫しに来ていた。どうするか。さくは思案を巡らせた。宮脇の家の名誉を守る為に何とかこの男の口を塞がなくては・・・・・・。さくは懐から懐剣を出し、馬乗りになっている男の鼻先に突き付けた。
「そうですか。そうなればそなたが今日の事を口外しない様に、ここで口を封ずるほかありませんね。」
男はぎょっとした表情を見せたが、それも一瞬であった。
「ほう、そなたが私を殺すというのか?面白い。やれるものならやってみるがよい。」
男は勝ち誇ったように言った。さくは間髪入れず、男の右肩に懐剣を突き刺した。
「ぎゃっ!」
男が悲鳴を上げるのを、さくは冷徹に見下ろしながら言った。
「私は冗談は嫌いです。宮脇の家の名誉を貶める噂を広める輩は、今ここで息の根を止めるしかありません。」
さくの事を甘く見ていた男は、目の前の女の容赦ない一面を見て慄いた。
「ま、待て、待て。冗談じゃ。殺してみろと言ったからといって、本当に殺そうとする奴があるか。」
本当に殺されるかもしれないと悟った男は慌てふためく。
「そなたを生かしておいては何を言われるか分かったものではありません。死んでもらうしかないのです。残念ですが。」
さくは懐剣を振りかぶった。
「い、言わん。今日の事は絶対に喋らない。だから勘弁してくれ。」
男は遂にさくに屈服した。さくはやれやれとばかりに、仰向けの男の首から膝を除けると立ち上がった。男も血に滲んだ右肩を抑えながらゆっくりと立ち上がった。さすがにこの男も懲りただろう。さくは懐剣に付いた男の血を懐紙で拭いながら言った。
「少しは懲りましたか。今後、私に付き纏う事があったら、容赦はしませんよ。」
男は肩の傷口を抑えながら。血塗れの鼻を拭う事もせず、ふらふらと茶屋への道を引き返していく。もうこの男はさくのまえに二度と現れる事はないであろう。そう思い、さくは男から目線を切った。するとそれを待っていたかの様に男はさくの背後から襲い掛かった。
「うりゃ!」
男はさくの着物の裾を後ろから捲り上げる。
「きゃっ!」
さくの尻は男の目の前で剥き出しになった。絹の様に真っ白で瑞々しい尻が露わになる。後ろから力一杯、着物の裾を捲り上げられた反動で、前につんのめって倒れたさくの美尻に男は血塗れの顔を歪ませて歓喜の声を上げた。
「良い尻じゃ。尻の合間から火処が覗いているのが堪らんのう。」
さくは男に一番羞恥的な姿を見られた事になる。さくは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしながら、着物を直すと起き上がった。だが、そこには既に男の姿はない。
「何処です。出て来なさい!」
それに答えるものは居ない。男は退散間際の置き土産にさくの美尻を愛でて行ったのである。この勝負は男の作戦勝ち。さくは屈辱にわなわなと体を震わせながら、怒りを爆発させた。
「待て!この変態!」
さくは懐剣を握りしめながら、茶屋への道を駆けだした。あの男、絶対捕まえてやる。走って来た道を戻ると、茶屋の縁台に腰掛けて呑気に団子を食べている、はると目が合った。はるはさくの姿を見て呆気に取られている。顔を真っ赤に懐剣を振り上げて草叢から走り出てきたのだから無理もない。
「姫様、一体、どうなされたのですか?」
はるは団子を片手に持ちながら駆け寄って来るなりそう言った。
「今、ここへ顔が血塗れの男が来ませんでしたか?」
「え、誰も来ませんが・・・・・。」
はるは訳が分からず呆然としている。どうやら男は違う道を通って逃走した様だ。どうやらさくよりもこの辺の地理に精通している様だ。男をまんまと逃がしてしまった事に、さくは地団駄を踏んだ。はるはさくの着ていた着物に乱れがある事に気付いた。慌ててさくに問う。
「まさか、男に襲われたのですか?」
「それは・・・・・。」
さくは口籠る。襲われたと言えば襲われた事になるのか?しかし、言い様によっては、さくが誘ったとも言えた。
「まさか、操を奪われたのですか?」
「・・・・・・。いえ、大丈夫でした。」
「では、何故、懐剣を抜いて走り出て来たのですか?お召し物も乱れております。はるには本当の事を仰って下さい。」
はるが血相を変えて詰め寄って来るので、さくは何らかの説明をしなくてはならなくなった。何と言えば良いのか。
「そうではありません。用便を足してる所を男が覗いて矛を扱いておったのです。」
「え、矛をですか?・・・・・・。確か、前も水浴みしている所を覗いておった男が矛を扱いていたとか言っておられませんでしたか?」
「そうです。その時の男です。」
「え、同じ男なのですか?」
「だから、捕まえてやろうと思って追っかけてきたのです。それだけです。大事ありません。」
さくは自分に都合の悪い所を、はるには摘まんで話したのであった。
「そうでしたか。災難ではありましたが、大事無くて何よりです。」
はるは話を疑いなく信じた様なので、さくは胸を撫で下ろした。
「つまり、その男は姫様を慕っているという事ですね。」
「・・・・・‥慕っていると言いますか・・・・・、水浴みを覗いた時から目を付けていたみたいな事を・・・。」
「ということは、姫様は想われ人という事になりますね。」
「そんな事ではないのです。ただの色欲に塗れた男です。」
さくは苦笑いしたが、はるは真剣な面持ちで、
「いえ、たとえ色欲からきたものであったも、立派な想いです。おなごからすれば、おのこから想いを寄せられ性の対象と見て貰いますことは栄誉という事になります。」
「性の対象として見られる事のどこが栄誉なのですか?おのこはおなごなら誰でも良いのです。おのこは誰これ構わずおなごを凌辱するではありませんか。」
「だからこそです。」
はるは真剣な面持ちである。
「どういう事です?」
「今の世は明日どうなるか分からぬ世。だからこそ、出会いを大切にしなくては。いつ殺されるやも犯されるやもしれないのです。自分の事を想ってるおのこが居たら、とりあえずまぐわう。皆、やってる事ではありませんか。」
「つまり、さっきの男とまぐあえと?」
「はい。本来ならとっくに経験しなくてはならぬ年頃で御座います。」
はるの言う事はこの戦国の世の風潮そのものであった。だが、さくは
「冗談でしょう。私の事を覗いて矛を扱いていた下卑た男とまぐあえなどと・・・・。」
きっぱり拒絶した。
「下卑た男かも知れませんが、そういう男の方が床上手なのです。真面目な男は淡白でつまらないとよく聞きます。」
はるの生々しい話に、さくは何とも言えない恥ずかしさを覚えた。
「では聞きますが・・・・、そなたはどうなのですか?」
「どうなのかとは?」
「そ、それは、そなたは経験があるのですか?」
「ありませんよ。」
「そなたもおのことまぐわった事が無いのではありませんか。自分の事を棚に置いて何故、私にだけ交わらそうとするのですか。」
さくは鬼の首を取ったように勝ち誇って言った。
「それは戦略で御座いますよ。」
「戦略?」
「私の場合は家柄の良い所に嫁げます様に、操を守っているだけに御座います。」
「????。何故、操を守ると家柄の良い所に嫁げるのですか?」
「身分の高い家柄のおのこは、おなごの初めてに弱いのです。自分の味だけしか知らぬおなごにひとかたならぬ愛情を抱くもの。」
「馬鹿らしい。」
「では、姫様は初めてまぐあうおのこが、方々でおなごと交わってる者と、経験の無いものならば、どちらがよう御座いますか?」
「考えた事もありません。」
「では、考えて見て下さい。愛するおのこの初めてが、自分であったなら・・・・嬉しくお思いになりませんか?」
「それは・・・・・・。」
さくは口籠った。まぐわう男の初めてが、自分だったとしたならば、嬉しいと思ったからだ。先程の男に対して積極的な行動を取ってしまったのも、白痴の男はおなごとの経験が無いだろうから、教えてやりたいという心理が働いたからだ。つまり男の初めてを奪いたかったのである。はるの言わんとしていた事が、さくにはなんとなく理解できた。さくと同じような感覚がおのこにもあるらしい。
「これから会う弥三郎様も処女がお気に入りな事は間違いありません。もしかすると、姫様も私もお手付きになるやもしれませぬぞ。」
はるは妄想とも願望ともつかぬ事を口にした。さくはそれを嗜める。
「はる。若殿はお家の跡継ぎぞ。そんな処女だとかそうでないとか言う事より、丈夫な子を沢山産めるおなごを大事にします。そなたにお鉢は回っては来ませんよ。」
それを聞いたはるはしゅんとする。さくは弥三郎の教育係にこれからなるのだ。年頃の若殿には出産経験のある年上の女が合うのではないかと考えていた。変わり者の様だし、包容力のあるおなごが良い。大殿に進言しようと漠然と考えていた。考えながら、さくは先程の男の矛を思い出す。あの男は間違いなくおなごの経験がなさそうだった。何故、そう思うのか?それは男がさくの事を覗いて、自慰に耽っていたからである。経験があるのなら、さくに襲い掛かって無理やり犯しただろう。自ら慰めたのは、まぐあいに興味が有るものの、経験が無いのだと思えた。はるの言う通り、さくは男の初めてを奪いたかったのだ。自分では気付かなかった想いに気付かされた今、夢の中の男が無性に恋しく思えた。
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