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第4章
間者の影
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南国特有の強い日差しの下、さくは侍女のはるを連れて大殿の居城へ向かう。さくの目的は大殿の命で、後継者である弥三郎の養育である。だがもう一つ、主家には伏せられた目的がある。それは奇矯な振る舞いの多い若殿が、大殿亡き後にこの国を治めるに足る器であるかを見定めるという父の国安と謀った裏の目的である。場合によっては主家に弓引く事になるので、さくの見る目が問われるのであった。
「はてさて、弥三郎様とはどの様な方なのであろうか・・・・・・。」
さくの頭の中はまだ見ぬ若殿の事で一杯であった。若殿が甲斐性の無い男なら宮脇の家は今後の事を考えなくてはいけない。だが、補佐するに足る器であるならば、多少奇矯ではあってもそのまま仕え続ける方がよいだろうか?
「・・・・様。さく姫様。」
侍女のはるの呼びかける声で、さくは現実に引き戻された。さっきから幾度も呼びかけていたらしいのだが、考え事をしていたので全く聞こえなかった。
「どうしたのです?」
はるは声を殺して、さくにひそひそと耳元で囁いた。
「姫様。先程から妙な男が私共の後を着いて参ります。もしや追いはぎでは・・・・・。」
さくはぎくりとして後ろをそっと振り返るが、怪しい人影は無い。
「何処にいるのですか?」
「今は姿が見えませんが、館を出た時から、若い男が着いたり・離れたりしているのです。」
「その若い男の身なりは?」
「小綺麗な肩衣袴を着た若い男です。頭笠で顔までは・・・・。」
「それでは追いはぎではありませんね。」
その男の身なりからして武家の人間である。それにこの辺りの追いはぎ・山賊の類は父の国安が一掃していたからだ。
「それでは一体、何者でしょうか?」
はるは怯えたように言った。
「あなたの思い違いではないのですか?」
「いえ、それは絶対にありません。私どもの後を付けて来ているのは間違いないです。」
はるがそこまで言うのであれば、間違いなどではないだろう。さくは全く気付かなかった。その辺りが皆から不用心に過ぎると指摘される所なのだ。はてさて、何者であろうか?父の国安が護衛の為に付けた?しかし、それならばこっそりと跡など着けず、同行すれば良いだけの事である。その可能性は低いように思われる。そこで、ふとさくの頭に浮かんだ一つの可能性。、もしかすると・・・・・。間者か?大殿が常日頃から「共に天を抱かず」とまで言う宿敵本山氏との激突が迫っていた。大殿が重用する父の国安に間者の手が伸びているのであろうか?・・・・・・。
それとも・・・・・大殿の間者?大殿が宮脇家の身辺に常日頃から間者を潜ましていて、この前の話・・・・即ち、さくが若殿の器いかんに因っては身の振り方を考える等と言っていた事が、間者に密告されたという事も考えられるのではないか?大殿は人の良さそうな入道であるが、その実、権謀術数に長けた恐ろしいお方である。父の国安などではとても太刀打ち出来ないのだ。
「姫様、如何いたしました。物凄い汗で御座います。」
自分でも気付かないうちに脂汗が滲んでいる。さくは額の冷たい汗を手で拭った。これは拙い。
「はる、良く聞きなさい。」
「はい、なんでしょう?」
「その男がまだ、その辺りに潜んでいるかもしれません。探すのです。」
「え、探してどうするのですか?」
「捕まえなさい。それが無理ならこれを使うのです。」
さくははるの懐中に秘されている懐剣をポンポンと叩いた。それを聞いてギョッとするはる。
「つまり殺せと?」
「そうです。」
「何故で御座いますか?一刻も早くここを離れるべきでは?
はるは及び腰である。
「そうはいきません。理由があるのです。」
「・・・・理由とは・・・・?」
「本山の間者かもしれないのです。看過する訳にはいかないでしょう。」
さくはよもやすると、大殿が放った間者かもしれないという可能性は伏せておいた。
「そ、それならば、一度、館に戻り人を呼んだら如何ですか?」
「そんな素振りを見せようものならば、間者は逃げてしまいます。私達で対処するのです。」
「私めには無理で御座います。捕まえるにも力では敵いませぬし、殺すなどとはとてもとても。・・・・・怖う御座います。」
はるは蒼ざめた表情で声を振り絞って言った。まあ、仕方がない、はるはただの次女なのだから・・・・・。だが、今はそんな事は言ってはいられない。さくひとりでは無理だ。せめて間者の探索に力を借りなくては・・・・。
「それでは、間者を殺せとは言いません。近くに潜んでいるその者を探すのを手伝って下さい。」
「探すだけで宜しいのでしょうか?」
「そうです。それならば出来ますね。」
「はあ。探すだけなら。」
はるはほっとした様に言った。
さくははるを連れ、今まで歩いてきた道を戻って行く。だが、はるが言った様な怪しい肩衣袴に頭笠の男の姿は見えない。何処迄行っても・・・・。これ以上、探しても無意味か?やむなく引き返そうとした矢先に、はるが声を上げた。
「姫様。あれを。」
はるが指差した先を見ると、林の中にぼろぼろの小屋がある。農民が建てたものらしいが、打ち捨てられた小屋らしい。よく見ると黒い煙が中から上がっている。
「打ち捨てられた小屋から、煙が上がるのは可笑しゅう御座います。よもや、間者が潜んでいるのでは・・・・・。」
はると同じことを、さくも思っていた。どうにも怪しい。怪しい企みの臭いがぷんぷんとした。さくとはるは目を合わせ、互いに頷くとその小屋に近づいて行った。さくは素早い身のこなしで小屋ににじり寄ると、聞き耳を立てた。小屋の中からは話し声。小屋の中にはどうやら2人は居る様だ。
「中に少なくとも2人は居ます。」
さくは脇で聞き耳を立てるはるに静かに耳打ちをした。
「いくら何でも姫様お一人で2人を制圧するのは無理で御座います。お考え直しを。」
はるは必死にさくの突入を止めようと試みる。が、さくの考えは変わらない。
「あなたはここに居なさい。後は私が始末を付けます。」
そう言い残すとさくは裏の入り口に回った。入り口は固く閉じられ中を窺い知る事は出来ない。こんな真っ昼間から扉を閉め、中で火を起こし、こそこそ密談するのは何か陰謀を企む患者以外いないとさくには思えた。ここは彼奴等のあじとだと確信した。さて、これからだ。間者とその仲間は2人、それ以上居るやもしれない。その者たちをさく一人で制圧しなくてはならないのだ。だが、さくには自信があった。さくは武家の娘として一通りの武芸一般身に着けてある。女だとはいえ、間者の2・3人ぐらい何ほどの者ぞという自負がある。こちらは懐剣一本のみ。向こうはおそらく大刀を帯びているだろう。普通なら絶対不利の戦いであったが、さくは屋内での戦いに勝機を見出していた。屋内で大刀を抜いて振り回せば、天井に引っ掛かり、まともには戦えまい。そこを電光石火の体術で制圧すれば良いのだ。さくには懐剣一本あれば十分なのだ。さくは着物の裾を捲り上げ・紐で縛り突入の準備をしていると、はるが震えながらこちらにやって来た。
「姫様、私もお手伝いします。」
「あなたは隠れていなさい。大丈夫ですから。」
「そうはいきません。姫様を危険な目に遭わせ、私だけ隠れている訳には参りません。姫様に何かあれば、侍女として一生後悔いたします。はるにもお手伝いさせて下さい。」
はるは声を震わせながらも、はっきりとした意思表示をした。決意は固そうである。しかし、この場合は戦闘力の無いはるははっきり言って足手まとい以外の何物でも無い。しかし、さくは気持ちを汲んでこう命じた。
「では、はるに頼みます。私が今から突入し間者を捕えます。はるはここで待機して、入り口から飛び出てくるもの有れば、懐剣を喉に突き立てるのです。」
「ひえっ!そ、それはとても無理で御座います・・・・。」
さくは辟易した。今、自分から手伝わせてくれと言ったのにも関わらず、はるは人を殺すのに抵抗があるという。さくは頭を抱えた。どうしろというのだ。
「なら、仕方ありません。そこに薪が積んでありますね。」
さくは入り口脇に積んである薪の束を顎で示した。
「は、はい。」
「それで入り口から飛び出してくる者の頭をおもいっきり殴りなさい。殴ったら後ろを振り返らず、直ぐに逃げるのです。それならば出来ますか?」
「で、出来ます。」
はるは幾分かほっとした表情を見せた。人を殺さずに済むことに安堵した様だ。はるが薪の束を手に取り、入り口脇に身構えるのを確認してから、さくは懐剣を逆手に構えた。左手で戸に手を掛け、一気に引き開けると、間髪入れず小屋の中に突入した。
「逆らうでない。神妙にいた・・・・・。」
さくの掛け声の威勢の良いのは最初だけ。末尾は聞き取れないぐらいの小ささですぐにかき消された。さくはその場に立ち尽くし、固まった。小屋の中では若い女の上に男が覆い被さり腰を振っていた。何をやっていたのか?男女のまぐあい(性交渉)である。2人はまぐあいに没入し、こちらに気付かない。さくはただただ茫然とその場に立ち尽くしていた。鼻孔を男の精液と女の本気汁が混ぜ合わさった、まぐあい独特の香りが貫いた。男の腰の動きが激しくなる。女の小袖を割開いた下半身の陰部には男のものが抜き差しされているのがはっきり見えた。さくは魅入られたように呆然と息を呑んでそれを見ていると、男が「うお~~~」と、獣の様な声を発する。女も声を出してそれに応じた。男は激しい腰使いを五度・六度と女に打ち付けると動かなくなった。男が逝くのをさくは声も無く見つめていた。それにまぐあいに没頭していた女がようやく気付く。「あんた」と男に声を掛けると、男もようやくさくにまぐあいと逝く所を見られていた事に気付く。二人は瞳孔を開いて自分たちを見つめるさくに奇異の目を向けた。顔を見合わせ、何事か囁き合うと、男が体を起こし、さくのほうに起き上がった。
「あの、なにか?」
結合を解いたばかりのおとこのそれは、まだ勃起しており、浅黒く愛液と精液に塗れてぬめぬめと黒光りしていた。さくはそれを目のあたりにし、先程の気勢もすっかり無くし、慄いた態でやっと声を発する。
「い、いや、これは違うのです。こ、こちらの勘違いで。」
さくは男のぬめった矛(男性器)に恐れ戦き、後ずさりしながら距離を取った。
「はあ。」
2人はまぐあいを盗み見ていたさくに対し、びっくりしている様だ。それはそうであろう。お武家の娘が庶民のまぐあいを見て、立ち尽くしているのだから・・・・。
「あの、それで、何なのでしょうか?」
男は矛を隠しもせずに、さくの方に向かって来たので、さくは恐怖を感じて言った。
「いや、それが、人を探していて、ここに潜んでいるのではないかと・・・・。それでこの小屋に入っただけです。邪魔しました。」
さくは急いでそれだけ弁明すると、小屋の外に走り出た。瞬間、頭に火花が走り、気を失った。
「はてさて、弥三郎様とはどの様な方なのであろうか・・・・・・。」
さくの頭の中はまだ見ぬ若殿の事で一杯であった。若殿が甲斐性の無い男なら宮脇の家は今後の事を考えなくてはいけない。だが、補佐するに足る器であるならば、多少奇矯ではあってもそのまま仕え続ける方がよいだろうか?
「・・・・様。さく姫様。」
侍女のはるの呼びかける声で、さくは現実に引き戻された。さっきから幾度も呼びかけていたらしいのだが、考え事をしていたので全く聞こえなかった。
「どうしたのです?」
はるは声を殺して、さくにひそひそと耳元で囁いた。
「姫様。先程から妙な男が私共の後を着いて参ります。もしや追いはぎでは・・・・・。」
さくはぎくりとして後ろをそっと振り返るが、怪しい人影は無い。
「何処にいるのですか?」
「今は姿が見えませんが、館を出た時から、若い男が着いたり・離れたりしているのです。」
「その若い男の身なりは?」
「小綺麗な肩衣袴を着た若い男です。頭笠で顔までは・・・・。」
「それでは追いはぎではありませんね。」
その男の身なりからして武家の人間である。それにこの辺りの追いはぎ・山賊の類は父の国安が一掃していたからだ。
「それでは一体、何者でしょうか?」
はるは怯えたように言った。
「あなたの思い違いではないのですか?」
「いえ、それは絶対にありません。私どもの後を付けて来ているのは間違いないです。」
はるがそこまで言うのであれば、間違いなどではないだろう。さくは全く気付かなかった。その辺りが皆から不用心に過ぎると指摘される所なのだ。はてさて、何者であろうか?父の国安が護衛の為に付けた?しかし、それならばこっそりと跡など着けず、同行すれば良いだけの事である。その可能性は低いように思われる。そこで、ふとさくの頭に浮かんだ一つの可能性。、もしかすると・・・・・。間者か?大殿が常日頃から「共に天を抱かず」とまで言う宿敵本山氏との激突が迫っていた。大殿が重用する父の国安に間者の手が伸びているのであろうか?・・・・・・。
それとも・・・・・大殿の間者?大殿が宮脇家の身辺に常日頃から間者を潜ましていて、この前の話・・・・即ち、さくが若殿の器いかんに因っては身の振り方を考える等と言っていた事が、間者に密告されたという事も考えられるのではないか?大殿は人の良さそうな入道であるが、その実、権謀術数に長けた恐ろしいお方である。父の国安などではとても太刀打ち出来ないのだ。
「姫様、如何いたしました。物凄い汗で御座います。」
自分でも気付かないうちに脂汗が滲んでいる。さくは額の冷たい汗を手で拭った。これは拙い。
「はる、良く聞きなさい。」
「はい、なんでしょう?」
「その男がまだ、その辺りに潜んでいるかもしれません。探すのです。」
「え、探してどうするのですか?」
「捕まえなさい。それが無理ならこれを使うのです。」
さくははるの懐中に秘されている懐剣をポンポンと叩いた。それを聞いてギョッとするはる。
「つまり殺せと?」
「そうです。」
「何故で御座いますか?一刻も早くここを離れるべきでは?
はるは及び腰である。
「そうはいきません。理由があるのです。」
「・・・・理由とは・・・・?」
「本山の間者かもしれないのです。看過する訳にはいかないでしょう。」
さくはよもやすると、大殿が放った間者かもしれないという可能性は伏せておいた。
「そ、それならば、一度、館に戻り人を呼んだら如何ですか?」
「そんな素振りを見せようものならば、間者は逃げてしまいます。私達で対処するのです。」
「私めには無理で御座います。捕まえるにも力では敵いませぬし、殺すなどとはとてもとても。・・・・・怖う御座います。」
はるは蒼ざめた表情で声を振り絞って言った。まあ、仕方がない、はるはただの次女なのだから・・・・・。だが、今はそんな事は言ってはいられない。さくひとりでは無理だ。せめて間者の探索に力を借りなくては・・・・。
「それでは、間者を殺せとは言いません。近くに潜んでいるその者を探すのを手伝って下さい。」
「探すだけで宜しいのでしょうか?」
「そうです。それならば出来ますね。」
「はあ。探すだけなら。」
はるはほっとした様に言った。
さくははるを連れ、今まで歩いてきた道を戻って行く。だが、はるが言った様な怪しい肩衣袴に頭笠の男の姿は見えない。何処迄行っても・・・・。これ以上、探しても無意味か?やむなく引き返そうとした矢先に、はるが声を上げた。
「姫様。あれを。」
はるが指差した先を見ると、林の中にぼろぼろの小屋がある。農民が建てたものらしいが、打ち捨てられた小屋らしい。よく見ると黒い煙が中から上がっている。
「打ち捨てられた小屋から、煙が上がるのは可笑しゅう御座います。よもや、間者が潜んでいるのでは・・・・・。」
はると同じことを、さくも思っていた。どうにも怪しい。怪しい企みの臭いがぷんぷんとした。さくとはるは目を合わせ、互いに頷くとその小屋に近づいて行った。さくは素早い身のこなしで小屋ににじり寄ると、聞き耳を立てた。小屋の中からは話し声。小屋の中にはどうやら2人は居る様だ。
「中に少なくとも2人は居ます。」
さくは脇で聞き耳を立てるはるに静かに耳打ちをした。
「いくら何でも姫様お一人で2人を制圧するのは無理で御座います。お考え直しを。」
はるは必死にさくの突入を止めようと試みる。が、さくの考えは変わらない。
「あなたはここに居なさい。後は私が始末を付けます。」
そう言い残すとさくは裏の入り口に回った。入り口は固く閉じられ中を窺い知る事は出来ない。こんな真っ昼間から扉を閉め、中で火を起こし、こそこそ密談するのは何か陰謀を企む患者以外いないとさくには思えた。ここは彼奴等のあじとだと確信した。さて、これからだ。間者とその仲間は2人、それ以上居るやもしれない。その者たちをさく一人で制圧しなくてはならないのだ。だが、さくには自信があった。さくは武家の娘として一通りの武芸一般身に着けてある。女だとはいえ、間者の2・3人ぐらい何ほどの者ぞという自負がある。こちらは懐剣一本のみ。向こうはおそらく大刀を帯びているだろう。普通なら絶対不利の戦いであったが、さくは屋内での戦いに勝機を見出していた。屋内で大刀を抜いて振り回せば、天井に引っ掛かり、まともには戦えまい。そこを電光石火の体術で制圧すれば良いのだ。さくには懐剣一本あれば十分なのだ。さくは着物の裾を捲り上げ・紐で縛り突入の準備をしていると、はるが震えながらこちらにやって来た。
「姫様、私もお手伝いします。」
「あなたは隠れていなさい。大丈夫ですから。」
「そうはいきません。姫様を危険な目に遭わせ、私だけ隠れている訳には参りません。姫様に何かあれば、侍女として一生後悔いたします。はるにもお手伝いさせて下さい。」
はるは声を震わせながらも、はっきりとした意思表示をした。決意は固そうである。しかし、この場合は戦闘力の無いはるははっきり言って足手まとい以外の何物でも無い。しかし、さくは気持ちを汲んでこう命じた。
「では、はるに頼みます。私が今から突入し間者を捕えます。はるはここで待機して、入り口から飛び出てくるもの有れば、懐剣を喉に突き立てるのです。」
「ひえっ!そ、それはとても無理で御座います・・・・。」
さくは辟易した。今、自分から手伝わせてくれと言ったのにも関わらず、はるは人を殺すのに抵抗があるという。さくは頭を抱えた。どうしろというのだ。
「なら、仕方ありません。そこに薪が積んでありますね。」
さくは入り口脇に積んである薪の束を顎で示した。
「は、はい。」
「それで入り口から飛び出してくる者の頭をおもいっきり殴りなさい。殴ったら後ろを振り返らず、直ぐに逃げるのです。それならば出来ますか?」
「で、出来ます。」
はるは幾分かほっとした表情を見せた。人を殺さずに済むことに安堵した様だ。はるが薪の束を手に取り、入り口脇に身構えるのを確認してから、さくは懐剣を逆手に構えた。左手で戸に手を掛け、一気に引き開けると、間髪入れず小屋の中に突入した。
「逆らうでない。神妙にいた・・・・・。」
さくの掛け声の威勢の良いのは最初だけ。末尾は聞き取れないぐらいの小ささですぐにかき消された。さくはその場に立ち尽くし、固まった。小屋の中では若い女の上に男が覆い被さり腰を振っていた。何をやっていたのか?男女のまぐあい(性交渉)である。2人はまぐあいに没入し、こちらに気付かない。さくはただただ茫然とその場に立ち尽くしていた。鼻孔を男の精液と女の本気汁が混ぜ合わさった、まぐあい独特の香りが貫いた。男の腰の動きが激しくなる。女の小袖を割開いた下半身の陰部には男のものが抜き差しされているのがはっきり見えた。さくは魅入られたように呆然と息を呑んでそれを見ていると、男が「うお~~~」と、獣の様な声を発する。女も声を出してそれに応じた。男は激しい腰使いを五度・六度と女に打ち付けると動かなくなった。男が逝くのをさくは声も無く見つめていた。それにまぐあいに没頭していた女がようやく気付く。「あんた」と男に声を掛けると、男もようやくさくにまぐあいと逝く所を見られていた事に気付く。二人は瞳孔を開いて自分たちを見つめるさくに奇異の目を向けた。顔を見合わせ、何事か囁き合うと、男が体を起こし、さくのほうに起き上がった。
「あの、なにか?」
結合を解いたばかりのおとこのそれは、まだ勃起しており、浅黒く愛液と精液に塗れてぬめぬめと黒光りしていた。さくはそれを目のあたりにし、先程の気勢もすっかり無くし、慄いた態でやっと声を発する。
「い、いや、これは違うのです。こ、こちらの勘違いで。」
さくは男のぬめった矛(男性器)に恐れ戦き、後ずさりしながら距離を取った。
「はあ。」
2人はまぐあいを盗み見ていたさくに対し、びっくりしている様だ。それはそうであろう。お武家の娘が庶民のまぐあいを見て、立ち尽くしているのだから・・・・。
「あの、それで、何なのでしょうか?」
男は矛を隠しもせずに、さくの方に向かって来たので、さくは恐怖を感じて言った。
「いや、それが、人を探していて、ここに潜んでいるのではないかと・・・・。それでこの小屋に入っただけです。邪魔しました。」
さくは急いでそれだけ弁明すると、小屋の外に走り出た。瞬間、頭に火花が走り、気を失った。
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