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第22章

穴川・カナディアンステーキハウスにて・・・(終)

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 蛭田の提案に皆、乗った。
「穴川のカナディアンステーキハウスなんてどうだ?」
「ああ、あの丸太小屋の様な建物ですよね。行って見たかったんです。」
 中沢には気になっていた店らしい。古参の部員たちにとっては、行きつけの店である
「何か高そうな感じだな。」
「大丈夫。千円ステーキってのがあるから。本格的だよ。ステーキ専門店のお肉だから。」
 丸の心配に、咲良は得意げに答えた。
「コスパが良いですね。日本ハ物価が安いから住みやすい。」
「そうでもないさ。物価が安いが賃金が上がらない。こんな国、先進国で恐らく日本だけだろう。」
 王の日本の見方に、黒田が異を唱える。
「日本は独特だと思います。企業の淘汰が進まない。和を以って貴しとなすって言うんですよね。そういう国があっても良いと俺は思いますけど。」
 越前が持論を話している最中に、愛菜の腹がぐう~~と鳴った。
「なんだい。お腹で返事したの?」
 不破の言葉に愛菜は顔を真っ赤にしながら言った。
「愛菜は難しい話は分かりません。早くステーキ食べに行きましょう。」

 千葉市モノレール・穴川駅から歩いて5分の立地にカナディアンステーキハウスはあった。丁度夕食時、2階はミカエルの部員で貸し切りの様な状態だった。
「皆、あまり羽目を外さないで、他のお客さんもいるんだから。」
 乱痴気騒ぎの部員たちに咲良は神経を尖らせた。
「2階は貸し切りみたいな感じなんですから、そんなに目くじらを立てなくても大丈夫じゃないっすか。」
 越前は他人事の様に言う。
「本当にうちの部員は幼稚園児みたいに騒いで・・・・・・。もう来るなって言われるよ。」
 咲良はプリプリと怒った。
「ところで何で習志野からの再戦の申し出を断ったんですか。」
 越前は心に引っ掛かっていた疑問を手塚にぶつけた。それは咲良も聞きたかった事だ。
「・・・・・・。習志野とミカエルでは地力が違う。こちらのデータを与えたくなかった。それだけだ。」
 手塚は簡潔にそう言うと、ソーダ水を口に含んだ。
「でも、こちらも夏の大会前に向こうのデータを取れるんじゃない?」
 咲良は習志野のデータを取っておいた方が有益だと思っていたのだ。
「こちらが向こうのデータを取る前に、こちらが丸裸にされる。そうなったら勝ち目は無い。地力が違うから。」
 成程、そういう事か。地力が違う強豪校相手と試合を繰り返すのはリスクがあるという事らしい。底を知られてしまえば、今日の試合の様な優位性などあっという間に吹っ飛んでしまう。
「・・・・・確かに。手塚君の言う事は分かるけど、今後の練習試合はどうするの?」
 咲良の疑問は尽きない。もう、夏の県予選まで試合をしないつもりなのだろうか?
「心配ない。話は付けてある。」
「えっ、もう決めてあるの?」
「ああ。」
 手塚は手回しよく練習相手を見つけてあるそうだ。
「何処ですか?」
 越前が喰い付く。咲良も次は何処と試合が出来るのかとワクワクしたのだが、手塚の言葉は耳を疑うものだった。
「市内の草野球チームだ。」
「草野球チーム?」
「草野球チーム?」
 咲良も越前も思わず聞き返すと、顔を見合わせた。手塚は微笑んで言った。
「稲毛ホワイトタイガースというチームだ。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
 咲良も越前も二の句が継げずにいると、
「草野球と言っても元プロ野球選手もいれば、大学野球の選手もいる。高校で甲子園に行った人も。習志野とは違った手強さがあるぞ。」
 手塚はこう言うのだが、越前は納得できない。
「草野球って、ほとんど年配の人達ですよね。」
「まあな。」
「・・・・・・。試合になりませんよ。」
「まあ、そう言うな。試合をして見れば分かる。ハッキリ言っていきなりは勝てない筈だ。」
「じじいじゃないですか。何で勝てないんですか?」
「エースの笛吹さんは、元プロ野球のピッチャーだ。君には無いものを沢山持っている。うちのバッターもなかなか点は取れないだろうと思う。」
「・・・・・・・。嫌ですよ。じじいと試合なんて・・・・・。」
「年は関係ない。確かに歳を取れば体力は衰える。だが、それにより得られるものもあるんだ。」
「・・・・・。何っすか?得られるものって?」
「経験。それに伴う洞察力などだ。」
「・・・・・・・・。」
「君には必ず良い経験になる。もし、ミカエルがホワイトタイガースを圧倒したら、その時は君の戦いたい相手と試合を組もう。」
「・・・・・・。どこでも良いんですか?」
「ああ、君の希望のチームと練習試合を組もう。」
「間違いないですね。」
「ああ。」
 手塚は二つ返事で約束した。咲良は手塚に耳打ちする。
「越前君は、絶対に習志野ともう一回試合をさせろって言うよ。」
「構わない。タイガースにいきなり勝てる力があるのなら、習志野とそれ程、地力に違いがないという事だ。それなら試合をしよう。」
 それを聞いた越前は手塚に訊ねた。
「そのタイガースにミカエルは勝てないって思ってるんですね?」
「今のままでは勝てない。だから試合を組んだ。」
 手塚は断言した。越前の体の内部に湧き上がる熱血する闘志。部長がここまで言う稲毛ホワイトタイガースってどんなチームなのか?完膚なきまでに打ちのめして、自分の力を認めて貰いたかった。
「それじゃあ、やります。絶対にこっちが勝ちますけどね。」
 手塚も咲良もそれを聞いて微笑んだ。
                        野球の王子様3 完 (続く)
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