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第15章
5回の表・・・
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4回のイニングはお互いに無得点。5回の表、ミカエルの攻撃は6番の越前から。小川はテンポよく緩急を使い、越前を追い込んでいく。だが、越前も負けてはいない。追い込まれながらもコンパクトなスイングで食い下がる。フルカウントでの9球目、小川が投げ込んだボールは僅かに外れた。フォアボール。ノーアウトでの出塁である。越前はピッチングの好調がバッテングにも好影響を及ぼした感じだ。愛菜は又もビデオカメラをそっちのけで歓声を送っている。
「愛菜ちゃん、ビデオを撮って・・・・・。」
咲良は皆まで言うのを止めた。愛菜は聞いちゃいないからである。
「会長、ビデオ廻して貰えますか。」
「あっ、うん。分かったよ。」
咲良はビデオを石井会長に託すと、またもやアクエリアスを一口飲んで喉を湿らせた。血が湧きたって、喉が渇いて仕方ない。野球ジャンキーの咲良はこの様な血沸き肉躍る体験は初めてだった。
「いけいけ。何とか1点取れ。」
心の中で咲良は念を送った。次のバッターは7番の丸だ。丸は早速、バントの構え。手塚は手堅く1点を習志野1軍からもぎ取りに行くつもりらしい。習志野の1塁手と3塁手もそこは手慣れたもの、ピッチャーが投げると同時に守備位置から前進、攻撃的アタックを掛ける。越前を2塁に送れるか送れないか。ここはこの回の重要な局面。手に汗を握る展開。咲良は声を出しながら固唾を飲んで見守った。この勝負、勝ったのは・・・・・。丸。丸は1塁手とピッチャーの間に絶妙な送りバント。越前を余裕を持ってセカンドに送るのに成功した。
「ナイスバント!」
ベンチに戻って来た丸に皆、口々に声を掛けた。よしよし、これで1アウト2塁。次打者の菊池がバッターボックスに入る。9番は黒田である。何とかランナーを溜めて、上位打線に廻したい。菊地対小川。何とかワンヒット欲しかった。
菊池は簡単にポンポンと追い込まれる。遂こないだまで中学生だった菊池には、小川の速球は荷が重い。必死に食らいつく菊池はバットを短く構え応戦。小川の球に喰らい付いた。打球は1,2塁間を・・・・。抜けた。ライト前ヒットだ。越前はホームを窺うそぶりを見せはしたが、3塁ストップ。これで1アウト1塁、3塁。ここでミカエルが誇る頭脳派キャッチャー・黒田の出番だ。
「黒田君。外野フライで良いから。肩の力を抜いて。歴史的な1点を頂くよ。」
咲良は黒田に声を掛けた。黒田の打率はそれ程ではないが、ランナーを置いた状態などでは無類の勝負強さを誇る。何とかここで1点を取りたい。習志野から1点を取れれば、皆の大いなる自信になる。負け犬軍団を覚醒させるには、習志野1軍から1点をもぎ取る事が重要なのだ。
習志野ピッチャー・小川はミカエルの手強さを肌で感じ取っていた。
「しぶといな。」
それが率直な印象である。だが、習志野とミカエルなんとか高校では格が違うのだ。2軍の連中は9点も取られたが、自分は1点もやるつもりは無い。それがプライドだった。小川はギアを一段階上げる。黒田には外野フライすら打たせたくない。出来ればダブルプレーでこの回を終わらせたかった。ボールを低めに集めてゴロを打たせに行く。だが、その心理をミカエルの司令塔を務める黒田は読んでいた。
「低めにボールを集めて来ているな。ゴロを打たせたいのか。追い込まれるまで、低めには手を出さない方が良いな。」
対する小川も低めに手を出さない黒田の狙いを読み取った。
「高めに狙い球を絞っている。そちらの狙いはお見通しだ。」
小川は低めの球を引っ掛けさせようと抜群の制球を見せた。黒田は絶対に高めには投げないという小川の考えを察した。来るのは低めだけ。ならば・・・・・。フルカウントから小川の投じた9球目、低めの変化球を黒田はアッパースイングで掬い上げた。打球は左中間に高く舞い上がる。ミカエルベンチから皆が身を乗り出して打球の行方を見上げた。レフトの守備範囲だ。だが、犠牲フライにはなる筈だ。越前はタッチアップの体勢に入る。打球がレフトのミットに収まるのを確認し、越前はホームを突いた。レフトは強肩だ。矢のような返球がキャッチャーに返される。ホームに滑り込む越前。一瞬の静寂の後、アンパイアが腕を水平に示してコールした。
「セーフ。」
やった。1点取った。湧き上がるミカエルベンチ。咲良は何度もガッツポーズ。ミカエルが習志野の1軍から点を取るなんて信じられない事だった。
「ナイスラン。良くやった越前!」
桃太郎の称賛に越前は素っ気ない。
「別に。普通でしょ。これ位なら。」
咲良も殊勲の犠牲フライを放った黒田に声を掛けた。
「ピッチャー心理を読み切ったね。さすが。」
「いや、向こうがこちらを甘く見てた。それだけだ。」
口ぶりは冷静だったが、黒田も手ごたえを感じてる様に見えた。
「大丈夫か?」
久里は三流高校・ミカエルに失点した小川に声を掛けた。
「大丈夫です。けど・・・・・。」
「けど・・・何だ?」
「この高校、かなりやりますよ。なんでこんな高校が無名なんです?」
「さあな。俺にも分からん。だが今日、試合が出来て良かった。夏の本選でいきなり当たったりしたら、もしもという事もある。」
「・・・・・・。それは無いと思いますが。」
「現にうちは0対10で負けているんだぞ。お前も点を許した。」
「・・・・・・。」
「油断しすぎだ。夏の大会・決勝のつもりで厳しく行け。お前のやり方だと相手に自信を付けさせるだけだ。新興勢力に格の違いを教え込んで、心を折っておくのが一番。プロ野球の日韓対決でもレベルの低い韓国が結構、日本と渡り合えるのも余裕をコキすぎて相手に自信を与えるからだ。向こうに刷り込むんだ。自分たちは習志野には絶対、敵わないと。」
「はい。」
小川は小さく頷いた。続くバッターは1番の蛭田だったが、厳しく攻める小川のピッチングの前にサードゴロに倒れた。3アウトチェンジ。だが、この回、ミカエルは大きい大きい追加点を遂に1軍のピッチャーから奪う事に成功する。これで10対0。5回の裏・習志野の攻撃は4番・サードの久里からだ。
「愛菜ちゃん、ビデオを撮って・・・・・。」
咲良は皆まで言うのを止めた。愛菜は聞いちゃいないからである。
「会長、ビデオ廻して貰えますか。」
「あっ、うん。分かったよ。」
咲良はビデオを石井会長に託すと、またもやアクエリアスを一口飲んで喉を湿らせた。血が湧きたって、喉が渇いて仕方ない。野球ジャンキーの咲良はこの様な血沸き肉躍る体験は初めてだった。
「いけいけ。何とか1点取れ。」
心の中で咲良は念を送った。次のバッターは7番の丸だ。丸は早速、バントの構え。手塚は手堅く1点を習志野1軍からもぎ取りに行くつもりらしい。習志野の1塁手と3塁手もそこは手慣れたもの、ピッチャーが投げると同時に守備位置から前進、攻撃的アタックを掛ける。越前を2塁に送れるか送れないか。ここはこの回の重要な局面。手に汗を握る展開。咲良は声を出しながら固唾を飲んで見守った。この勝負、勝ったのは・・・・・。丸。丸は1塁手とピッチャーの間に絶妙な送りバント。越前を余裕を持ってセカンドに送るのに成功した。
「ナイスバント!」
ベンチに戻って来た丸に皆、口々に声を掛けた。よしよし、これで1アウト2塁。次打者の菊池がバッターボックスに入る。9番は黒田である。何とかランナーを溜めて、上位打線に廻したい。菊地対小川。何とかワンヒット欲しかった。
菊池は簡単にポンポンと追い込まれる。遂こないだまで中学生だった菊池には、小川の速球は荷が重い。必死に食らいつく菊池はバットを短く構え応戦。小川の球に喰らい付いた。打球は1,2塁間を・・・・。抜けた。ライト前ヒットだ。越前はホームを窺うそぶりを見せはしたが、3塁ストップ。これで1アウト1塁、3塁。ここでミカエルが誇る頭脳派キャッチャー・黒田の出番だ。
「黒田君。外野フライで良いから。肩の力を抜いて。歴史的な1点を頂くよ。」
咲良は黒田に声を掛けた。黒田の打率はそれ程ではないが、ランナーを置いた状態などでは無類の勝負強さを誇る。何とかここで1点を取りたい。習志野から1点を取れれば、皆の大いなる自信になる。負け犬軍団を覚醒させるには、習志野1軍から1点をもぎ取る事が重要なのだ。
習志野ピッチャー・小川はミカエルの手強さを肌で感じ取っていた。
「しぶといな。」
それが率直な印象である。だが、習志野とミカエルなんとか高校では格が違うのだ。2軍の連中は9点も取られたが、自分は1点もやるつもりは無い。それがプライドだった。小川はギアを一段階上げる。黒田には外野フライすら打たせたくない。出来ればダブルプレーでこの回を終わらせたかった。ボールを低めに集めてゴロを打たせに行く。だが、その心理をミカエルの司令塔を務める黒田は読んでいた。
「低めにボールを集めて来ているな。ゴロを打たせたいのか。追い込まれるまで、低めには手を出さない方が良いな。」
対する小川も低めに手を出さない黒田の狙いを読み取った。
「高めに狙い球を絞っている。そちらの狙いはお見通しだ。」
小川は低めの球を引っ掛けさせようと抜群の制球を見せた。黒田は絶対に高めには投げないという小川の考えを察した。来るのは低めだけ。ならば・・・・・。フルカウントから小川の投じた9球目、低めの変化球を黒田はアッパースイングで掬い上げた。打球は左中間に高く舞い上がる。ミカエルベンチから皆が身を乗り出して打球の行方を見上げた。レフトの守備範囲だ。だが、犠牲フライにはなる筈だ。越前はタッチアップの体勢に入る。打球がレフトのミットに収まるのを確認し、越前はホームを突いた。レフトは強肩だ。矢のような返球がキャッチャーに返される。ホームに滑り込む越前。一瞬の静寂の後、アンパイアが腕を水平に示してコールした。
「セーフ。」
やった。1点取った。湧き上がるミカエルベンチ。咲良は何度もガッツポーズ。ミカエルが習志野の1軍から点を取るなんて信じられない事だった。
「ナイスラン。良くやった越前!」
桃太郎の称賛に越前は素っ気ない。
「別に。普通でしょ。これ位なら。」
咲良も殊勲の犠牲フライを放った黒田に声を掛けた。
「ピッチャー心理を読み切ったね。さすが。」
「いや、向こうがこちらを甘く見てた。それだけだ。」
口ぶりは冷静だったが、黒田も手ごたえを感じてる様に見えた。
「大丈夫か?」
久里は三流高校・ミカエルに失点した小川に声を掛けた。
「大丈夫です。けど・・・・・。」
「けど・・・何だ?」
「この高校、かなりやりますよ。なんでこんな高校が無名なんです?」
「さあな。俺にも分からん。だが今日、試合が出来て良かった。夏の本選でいきなり当たったりしたら、もしもという事もある。」
「・・・・・・。それは無いと思いますが。」
「現にうちは0対10で負けているんだぞ。お前も点を許した。」
「・・・・・・。」
「油断しすぎだ。夏の大会・決勝のつもりで厳しく行け。お前のやり方だと相手に自信を付けさせるだけだ。新興勢力に格の違いを教え込んで、心を折っておくのが一番。プロ野球の日韓対決でもレベルの低い韓国が結構、日本と渡り合えるのも余裕をコキすぎて相手に自信を与えるからだ。向こうに刷り込むんだ。自分たちは習志野には絶対、敵わないと。」
「はい。」
小川は小さく頷いた。続くバッターは1番の蛭田だったが、厳しく攻める小川のピッチングの前にサードゴロに倒れた。3アウトチェンジ。だが、この回、ミカエルは大きい大きい追加点を遂に1軍のピッチャーから奪う事に成功する。これで10対0。5回の裏・習志野の攻撃は4番・サードの久里からだ。
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