野球の王子様3 VS習志野・練習試合

軽部雄二

文字の大きさ
上 下
13 / 22
第13章

タイタニックは沈まない?

しおりを挟む
 不破がバッターボックスに入ったのを見た三塁を守る久里は驚いた。
「不破じゃないか。」
 驚くのも無理はない。習志野は天才と名高い不破光をスカウトしていたのである。だが、不破は申し出を辞退した。その後、何処へ行ったのか消息が知れなかった。県外に行ったとばかり思っていたら、こんな所でまさかの邂逅である。これは面白い。久里はニヤリと笑った。天才と呼ばれ、習志野を蹴った不破と習志野1年生エースの激突は見物だ。久里は左手のミットをパンと叩いた。

 小川はスチールを警戒し、クイックモーションで初球ストレートから入る。1ボール。不破はピクリとも動かない。小川は強気にストレートで押し込んでいく。2球目・ストライク。3球目・ファウル。久里の目から見て、不破は振り遅れている様に見えた。どうやらぬるま湯に浸かった環境が、不破の能力を腐らせたように思えた。小川は追い込んでからも速い球で内角を攻めていく。4球目・ボール。5球目・ファウル。6球目・ボール。これでフルカウント。

 咲良の目にも不破が小川の速いボールに付いていけてないのは明らかだった。不破でも全国レベルの投手に苦戦するのか?胸の内に不安感が去来する。7球目に投じられたのは・・・・・角度の付いたカーブ。ストレートを意識させて緩急を使ったボールで打ち取りに来た。咲良は凡退を覚悟した。だが、不破は待っていたかの様なバットコントロールで流し打ち!ボールはレフト前に転がった。それを見た蛭田は3塁を蹴って、ホームに突入する。
「バックホーム!」
 久里が叫ぶ。レフトがボールを捕球すると、矢のような送球が帰って来る。蛭田は頭から滑り込んだ。判定は?
「アウト!」
「あ~~~っ!」
 ミカエルナインの叫び声がベンチに響く。不破のタイムリーで1点取ったと思ったのに・・・・・。好返球で刺殺されてしまった。消沈するベンチに捕殺された蛭田が戻って来る。
「済まん。ここまで肩が良いとは。」
 頭を搔く蛭田に、咲良は声を掛けた。
「ナイスファイト!ガンガン攻めて行こう。挑戦者なんだし。」
 咲良は必死にベンチの雰囲気を盛り上げる。まだ1アウト。しかも1,2塁である。
「結城君、まだ流れは失ってないよ。チャンスで一本でれば、一気に押し切れるよ。」
「分かってますって。俺に任せて下さい。船に乗ってる様なもんですよ。」
「?????。何?船に乗ってる?」
 桃太郎が意味不明な事を言うので、咲良は首を傾げた。それを見て丸が補足する。
「桃は大船に乗ったつもりで任せてくれって言いたいんです。」
「ああ、そういう事ね。」
 咲良はようやく桃太郎の言わんとしている事が分かった。それにしても語彙力が無さすぎるな。
「俺はタイタニックみたいなもんですから。安心して見ててください。」
「・・・・・・。」
 咲良は「ん?」と思った。桃はタイタニックに乗ったつもりで安心して見ててくれと言いたいのだろうか?だが、不沈艦と呼ばれたタイタニックはあえなく沈没してしまったのだが・・・・・。

 咲良の不吉な予感は的中した。桃は2球目のストレートを完全に捕らえたのだが、レフトポール際の大ファウル。小川は変化球主体に切り替え、桃を三振に斬って取った。やはりタイタニックは沈む運命であったのだ。これで2アウト。拙いな、これは。咲良は爪を噛んだ。ノーアウト1,2塁だったのにあっという間に2アウトだ。この回無得点だと試合の流れを手放してしまう。次の打者は王志明。王に対しては小川はストレートに緩急・変化球織り交ぜた攻めを展開。王は6球目を捉えたものの、バットの芯を外された打球はライトのグラブに収まった。ライトフライ。3アウトチェンジ。
「オーマイ・・・ゴッド!」
 咲良は頭を抱えた。まさかこの回1点も取れないとは・・・・・。不破のレフト前ヒットで捕殺されたのが痛かった。あれで向こうに流れが行ってしまったのか。だが今の所、向こうに手も足も出ないという感じではない。4回の裏をしっかり押さえて仕切り直しといきたい。咲良は4回の裏のマウンドに上がる越前に耳打ちする。
「越前君、思いっきり行きなさい。ボールが高いよ。力まないで低めに制球良くね。」
「うっす。」
 越前はいつもと変わらない様子でマウンドの向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。 父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です *進行速度遅めですがご了承ください *この作品はカクヨムでも投稿しております

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

ライオン転校生

散々人
青春
ライオン頭の転校生がやって来た! 力も頭の中身もライオンのトンデモ高校生が、学園で大暴れ。 ライオン転校生のハチャメチャぶりに周りもてんやわんやのギャグ小説!

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

亡き少女のためのベルガマスク

二階堂シア
青春
春若 杏梨(はるわか あんり)は聖ヴェリーヌ高等学校音楽科ピアノ専攻の1年生。 彼女はある日を境に、人前でピアノが弾けなくなってしまった。 風紀の厳しい高校で、髪を金色に染めて校則を破る杏梨は、クラスでも浮いている存在だ。 何度注意しても全く聞き入れる様子のない杏梨に業を煮やした教師は、彼女に『一ヶ月礼拝堂で祈りを捧げる』よう反省を促す。 仕方なく訪れた礼拝堂の告解室には、謎の男がいて……? 互いに顔は見ずに会話を交わすだけの、一ヶ月限定の不思議な関係が始まる。 これは、彼女の『再生』と彼の『贖罪』の物語。

野球の王子様2 芦田愛菜はマネージャーになりたい。

軽部雄二
青春
野球部の越前春馬が気になる芦田愛菜は距離を縮めるべくマネジャーに立候補。しかし、愛菜の悪逆非道な振る舞いに部員から総スカンを食らって・・・・・。

処理中です...