野球の王子様3 VS習志野・練習試合

軽部雄二

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第11章

習志野1軍の登場

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 習志野の1軍は2軍とミカエルの試合の合間、マシンルームで筋トレをしながら、グラウンドが空くのを待っていた。そこへマネージャーの林が半泣きの状態で掛け込んで来る。
「久里さん、久里さん。」
 部長の久里はバーベルを上げながら、応じた。
「やっと、片を付けたのか。案外、時間を掛けたな。」
「そ、それが・・・・・。」
「ミカエルとかいう高校も納得して帰ったんだろうな。」
「・・・・・・。」
「どうした?」
 黙りこくっている林を不審に思い、久里は林を注視した。
「済みません。片を付けられないんです。」
「???。それはどういう意味だ。」
「2軍の奴らが・・・・・・負けています。」
「何をやっているんだ。早く片を付けさせろ。」
「無理なんです。2軍の奴らでは、とても敵わない・・・・。」
「・・・・・。スコアは?何対何で負けているんだ。」
「・・・・・・・。」
 林は答えるのを躊躇する。2軍の統率を任されていたのにも関わらず、圧倒されているスコアをとても報告できない。
「林、答えろ!何対何で負けているんだ!」
 叱責された林はか細い声で答えた。
「・・・・・対・・・・です。」
「何?聞こえないぞ。はっきり喋れ!」
「0対9で・・・・負けています。」
「なんだと!」
 2軍が大差を付けられて負けている事を知り、トレーニングルームにざわめきが拡がった。」
「・・・今、何イニング目だ?」
「3イニング目の裏の攻撃を終えた所です。」
「3回で9点も取られたのか?何故、そんな事になっているんだ。」
「・・・・・・。打線に繋がりがあり、切れ目のない攻撃です。タレントが揃ってます。」
「しかし、聞いた事の無い高校だぞ。」
「一度、見て下さい。俺にも何でこんな事になるのか、よく分からない。」
 林の情けない鼻声を聞いた久里はミカエルという高校に興味を抱いた。
「小川、見に行くぞ。付いて来い。」

 久里が小川と林を伴ってグラウンドに出向くと、試合は4回の表のミカエルの攻撃中だった。一塁に蛭田が出塁し、バッターボックスに中沢が入っていた。
「あの女です。あの女に2安打されています。」
 林は中沢を指差して言った。
「何故、女が試合に出てるんです?」
 小川が疑問を口にした。
「何でもLGBTとかで、高野連も了解しているとか言うんです。俺が茶々入れたら、それは習志野野球部としての総意かとかなんとか言われて・・・・・。試合に出さないと言ったら、高野連から差別的行為とか言われて処分されるのは勘弁なので。何も言えず・・・・・。」
「その女に2安打されていると?」
「・・・・・・・。はい。」
 その時、グラウンドで歓声が響き渡った。中沢が今日、3安打目を放ったのだ。その様を目の当たりにした久里は1軍エースの小川に訊ねる。
「今の打席をどう見る?」
「バットコントロールが卓越してます。当たりは鋭くないですが、上手く野手の居ない所を狙い打ってますね。」
「お前なら抑えられるか?」
「さあ、どうだか。やってみない事には。」
 小川は口ぶりとは逆に自信ありげである。久里の判断は早かった。
「林、一軍のレギュラーを全員呼んで来い。」
「えっ、試合を観戦させるんですか?」
「ミカエルとの練習試合にレギュラー総出で当たる。」
「ほ、本気ですか?」
「当たり前だ。2軍相手にここまでやれる相手だぞ。やっておいて損はない。それに無名の高校に練習試合とはいえ、ボロ負けしたとあれば習志野の名に傷が付く。」
 それを聞いて小川が口を挟んだ。
「と、云う事はこの試合、勝ちに行くという事ですね。」
「無論だ。試合を引っ繰り返して勝ちに行くぞ。」
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